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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第四章 『城の中は……』
90/165

90=〈ルーシーの気持ち〉

少し長文です。

     ☆ ★ ☆ (13)


『ルーシー、私はラデン様のことはマーシーには話せなかったよ。彼女に隠し事ができてしまったことは申し訳なかったけど、これからもブレスのことは話さないでほしい。彼女に説明するのは難しいけど、どうしたら二人の溝を埋めることができるかしら?』


 対面同士で椅子に座ってから、いの一番にそう聞いてみる。


『マーシーはドーラン様のことが好きになったと私に話してくれました。でも、私は彼のことは話せませんでした。ブレスのことは話せないし、説明する言葉が二人の間には存在しないような気がして、ドーラン様とリリア様の話しを聞けばお互いの立場で意味が理解できると思います。私たちはリリア様の不思議を少なからず他の人よりは理解しているつもりです。それを踏まえれば、リリア様の気持ちも私の気持ちも彼女には考えられます。それよりも私はとても嬉しいです。私がラデン様と話しができる以上に、彼女の想いを寄せている人が同じ気持ちだったなんて、今でも信じられないような……リリア様、ほんとうにありがとうございました』


 彼女は一気にそう説明してくれたけど、最後辺りにほろほろと涙が彼女の目の中から落ちこぼれていたので、私たちが話している間に、彼女がそういうことを考えていたと思うと、その時はグッと堪えていたのだ。


 口惜しい感情が過去に行く度もあったのだろうと思うと、私の方が申し訳なくてもらい泣きしてしまいそうで、私の体の中が熱くなり目頭から涙が目の中に充満してしまい、すーっと私の頬を流れてしまう。


 私がそのことをマーシーに必ず伝えるからね、心の言葉では饒舌に話しができるのに、私とラデン様しか聞こえないなんて、悲しいという言葉しかない。私は彼女の言葉をたくさん受け止めてあげたいと思う。


『マーシーのことはほんとうによかったと思ったのよ。ドーラン様はマーシーに好きな人がいたら諦めると言ったけど、マーシーも同じ気持ちでほんとうに安心した。ここで仕事をしている人たちがあなたたちのようにお互いに助け合っていければ、王様だけではなくて、たくさんの人がこの城を守ってくれるような気がします」


 私はそう言ったけど、ここでは『結婚』という言葉は聞いたことがない。冗談で話すこと以外に、男女間の人間関係はいちばん聞きづらいことで、身分のある人とない人、市場と城の中の人たちも考え方が違うような気がする。


『私たちはリリア様のお陰で、自分たちもこの城を守っているのだと思えるようになりました。ありがとうございました。私たちはシンシア様をお守りすることしか考えてなかったです』


 確かに王様から命令をされれば、家臣はそれを守護する義務があるので、会社人間が上からの命令には逆らえないということと同じなのだ。


『シンシア様を守ることがいちばん大事なことなのよ。そのことを踏まえて考えると、王様やマーリストン様を守っていることと同じ。そういうことが全部合わされば、この城を一緒に守るということだと思います。そこまで家臣の人たちが考えていたらいいけどね。ほとんどの人は自分のことや城での自分の立場のことしか考えてないような気がするからね。でも、それはそれでいいと思います。少しでもルーシーと同じことを思う人たちを増やしていきたい。私は女の立場として、正室と側室の人たちが仲よくすることを願っています。これは私の考えだけど、今までのマーリストン様のことを考えるとそうなってほしいと思ったのよ』


 私が今から目指さなくてはいけないことだから、彼女にも私の側近として手伝ってもらいたい気持ちも含まれ、ルーシーであれば私の考えを理解してくれると思いそう説明する。


『私もそう思います。マーシーにも伝えたいです。私が話せれば色んな人にも伝えたいですけど、そうできないことが悔しいですね』


 私は彼女の『悔しい』と発した言葉に衝撃を受け、今まで彼女の会話に対する細かな心情を聞いたことすらなく、シンシア様が話した『自分の落ち度』という言葉が蘇った。


 シンシア様の言葉は、お互いがうまくいけば解消される言葉だと思うけど、ルーシーの言葉はそれをどう乗り越えていくかは分からない。ルーシーが発した『悔しい』という言葉は一生涯続いて終わりがないと思う。ラデン様がそれに気付いてくれればいいけど、私が彼に話してもいいのだろうか。参ったな。


『……ルーシーが考えた方法で伝えてください。ラデン様に話すといいと思います。ラデン様から他の人に伝えてもらうこともできます。それがルーシーの考えられることではありませんか。他にもあるかもしれないけど、ラデン様と相談してみたらどうですか』


 私はこういう言葉しかかけられない。何ということなのか、後ろ髪を引かれるような思いがする。この言葉はシンシア様もマーシーも知らないような気がする。


『分かりました。私は小さいときから色んなことを我慢してきましたが、言葉でリリア様の手伝いができないことが悔しいですね』

 彼女がまたそう言ったから、

『ごめんなさいね。今までそういう風に悔しい気持ちだと思っていたなんて……私は考えたこともなかった。話してくれてありがとう。マーシーもこの言葉は知らないのよね』


 自分の気持ちが落ち込んでしまい、彼女にそう聞いてしまったけど、態度には出さないように顔色も変えないように気を付けたつもりだけど、彼女にも私の胸の内が分かったような気がする。


『……話したことはありません。傷つくといけないので話さないでください。でも言葉のことだけですよ、悔しいと思うのは、ほかのことでは恵まれていると思います』


 彼女は軽い笑みを浮かべてそう言ってくれたが、私も自分の不甲斐なさには大いに傷ついたけど、彼女は『恵まれている』とも言ってくれたから、嘘でもいいからその言葉を聞き、自分の感情が少し和らいだみたいだ。


 今までシンシア様の側にいたので恵まれていたのだと思い、これからは私の側にいるようになっても、この言葉を使ってもらえるように努力して頑張らなくてはいけないと強く思った。


 ほかの言葉も聞いてみたいと思ったけど、マーシーさえ知らない言葉だと思うと絶対に聞けないよな。私が考えていた以上に、言葉の問題はルーシーにプレッシャーがかかっていたのだ。



     ☆ ★ ☆ (14)


 一方では、シンシア様とマーシーが奥の部屋で話しをしている。


「マーシー、私はルーシーとラデンが話しができることはさっき初めて知ったのよ。ルーシーもそのことをとても喜んでいたし、リリアとルーシーが私たちに隠していたことは、お互いに同じ意味で説明できなかったと思うからね。二人の心の言葉の意味が私たちには理解できない。そう思わない?」

「私もそのことは理解しています。ルーシーにリリア様以外に話しができる人がいたなんて、ドーラン様の言葉にも驚きましたが、彼からルーシーの話しを聞いたことの方が衝撃的でした。でもほんとうによかったです。私はリリア様のことは信じています。私が理解できなくても本人同士が理解していればいいことだと思います」


〈私に対するドーラン様の言葉にも驚いたのだが、彼の前で自分ことを身繕いをすることもなく、ルーシーのことで頭がいっぱいになり、最後に両手を包み込まれるという余りにも衝撃的なことが同時に起こってしまい、私の頭の中がかつてないほどに混乱し、自分が何を話したのか、ということの意識が薄らいでいた〉


「私もそう思うからね。考えても私たちには分からない。最初からリリアは不思議の塊だからね。説明する必要もないと思うけど私たちだけの秘密よね。そう思わない?」


〈私はリリアのことに話題を変え、不思議の意味を自分自身に問いかけているかのようにマーシーに話してしまった〉


「……はい。私はシンシア様のそばにいましたから、リリア様の不思議を少しでもシンシア様と知ることができたことはとても嬉しいです。どう考えてもソードの意味は分からないし、リリア様がお話しになったように……そういう『物』なのですね」


〈私はカーラの意味もずっと理解できてないし、今度はソードのことを口にしたけど、どう考えても理解できない〉


「そういう『物』なのよね。リリア本人が説明できないのだから、でもふと色んなことを考えてしまうわね。何だかリリアのことは私にはよく分からないけど、やっていること自体は理解できるような気がする。自分でそう思えることが不思議なのよね。私だけだったら頭が変になっていたかもしれない。バルソンやあなたたちがいたから助かったのよ。これからもリリアの不思議は守らなくてはね。それ意外に言葉はないわよね」


〈私はソード乗ったことがあるけど、バルソンのことを考えると口が裂けてもその状況をマーシーに言えないので、相手によって隠し事をすることは必要だと割り切っていたけど、目の前にいる二人の従僕に話せないことは辛いと思っていた。でも、私の中にため込んでいた言葉を少しでもマーシーに伝えられたことで、私の心が軽やかになったような気がし、リリアに対する摩訶不思議な言動を、信頼のおけるマーシーに自分の考えとして話したのだ〉


「……私も同じ気持ちです」


〈リリア様のことは、私とルーシーが自分たちの部屋で話し合っていたので、今ではリリア様のことはルーシーがいちばん知っていると考えていた。どこにいても近くいれば心の言葉で、ほかの人に聞こえることもなく、私よりもたくさん話せる時間があるのだ。リリア様のことだから、ルーシーとは友達のように話しているだろうな、と思っていた〉


「リリアが切っ掛けを作ってくれて、マーシーもほんとうによかった。ドーラン様とたくさん話してあなたの気持ちを伝えなさい。お互いの気持ちや考え方を話し合うのがいちばん大事よ。昔から王様は話しをするのが得意いで、私たちも色んなことを話し合ったのよ。この城での位置づけが王様でもマーランド様は一人の男です。そう思うとドーラン様と同じことなのよ。この話しはここだけの話しね。二人だけの秘密よ。頼んだわよ」


〈私は念を押してしまったけど、マーシーがそういうことをほかの人に話すことはない、と信じて話したのだ〉


「シンシア様からこのような言葉をお聞きするとは信じられません。ひとりの男ですか。このことは口が裂けても他の人には言えません」


〈私が話す、話さないの問題ではなく、ひとりの男と言うシンシア様のその言葉が信じられない〉


「あなたたちに子供が産まれたら素敵ね。私やリリアみたいに励みになるわよ」


〈たくさん話してお互いの気持ちがより添えたら、いずれそういう風になるのかも、とは思うけど、自分の子供か……信じられない話しである。ルーシーはどう考えているのだろうか〉


「……私たちの子供ですか。それは考えたこともありませんでした」


〈私はシンシア様の言葉を聞いて、とても柔らかい羽のようなふわふわとした気持ちになってしまったけど、今まで考えたこともなかった〉


「ドーラン様がマーシーの思いを理解してくれる人だといいわね。女である以上は一人でも子供がいた方がいいと思うけどね」


〈シンシア様はセミル様のように根っからの城の人間ではない。産まれも育ちも違うので、ここの王族の人たちとは考え方が違うと思い、だから私にそう言ってくれるのだろうか〉


「ありがとうございます」〈私はこの言葉しか思いつかない〉


「マーリストン様はもう大きくなってしまったけど、生きていれば必ずそばに戻ってくると信じていたからね。リリアがそうさせてくれたのよ」


〈そう言ったシンシア様の言葉を聞いて、今まで王子様の言葉を忘れていたように生きていた彼女が、今では正々堂々とその言葉を使えるようにしてくれ、リリア様のことをよく分からないとは言いながらも、感謝している気持ちが伝わってくるような声の響きだ、と私はそう受け止める〉


「私は王様のことは話しませんが、ルーシーにもシンシア様の言葉を伝えます」

「いいわよ。あなたたちに子供が産まれたら、私はとても嬉しいと思う」

「そう言っていただきありがとうございます」


〈彼女が王様やリリア様や子供のことを私に話した言葉に驚き、今までこういう言葉は聞いたことがなかったし、三人で話したときにもこういう話しになったのだろうか。リリア様本人の目の前で言う言葉ではないが、なぜ私に話したのだろうか。ルーシーには個人的に話したことがあったのだろうか。私はどこまでルーシーに伝えたらいいのだろうか。今までルーシーの言葉をしっかり聞いたことはないような気がした。言葉一つで私が想像してその続きを話していたので、ルーシーも色んなことを考えていたと思う。シンシア様の言葉を聞いて今さらとは思うけど、ルーシーの話しをきっちりと聞きたい。彼女の考えた言葉を繰り返してもらうことを、リリア様にお願いしてみようと思う〉



     ☆ ★ ☆ (15)


「シンシア様、今度は奥で話しをしたいのですがよろしいですか」

「今日は特別に用事がないけど、ドーラン様とルーシーと今度は私の番なのね」

「三番目で申し訳ありません。ルーシーとマーシーの二人をシンシア様の庭で話しをさせてもよろしいですか」

「いいわよ。庭でゆっくり話しなさい」

「ありがとうございます」

 マーシーがそう言うと、ルーシーは首を下げる。


     ☆ ★ ☆


「ルーシー、さっきはごめんね。皆の前でルーシーから先に一言聞きたかったと言って、考えたらうまく説明できないよね。リリア様の不思議と言葉の問題があるからね」


「ごめん」


「でも嬉しかった。ラデン様とたくさん話したのでしょう?」

「はい」


「私もドーラン様と話しができるようになって嬉しいのよ。でも……ルーシーがラデン様と話せることの方がもっと嬉しいかな。ほんとうによかったね」

「はい」


「シンシア様の部屋から見えないように、向こうの奥に行って座って話そうね」

「はい」


「シンシア様も喜んでいたよ」

「はい」


「シンシア様はリリア様の不思議を守っていこうと言われたのよ」

「はい」


「それとね、女である以上は一人でも子供がいた方がいいと思う、と言われたのよ。それに私たちに子供が産まれると嬉しい、とも言ってくれたのよ」

「子供……」


「シンシア様やリリア様のことを見ていると分かるでしょう?」

「分かる……」


「子供の存在であんなにも力が出でるのよね。自分のことよりもすべて子供のためだと考えているのでしょうね。かわいいしね」

「かわい……」


「でも、私たちには城から出て子供を産む場所がないのよね」

「シンシ……」


「シンシア様の屋敷に戻るの?」

「話す」


「私がシンシア様に前もって話すこと?」

「そう」


「リリア様がこの城に入ってから私たちは別々になったけど、もしどちらかに子供が産まれるようになれば、シンシア様の屋敷で産むということね」

「そう」


「でもここには戻って来られないよ。子供を置いては来られないよ。お屋敷に迷惑がかかるからね。それに私たちは二人を守れなくなる」

「守る」


「えっ、どういうこと?」

「ゴード……」


「えっ、今度はゴードン様、意味が分からないけど?」

「屋敷」


「えっ、ゴードン様の屋敷なの?」

「産む」


「リリア様はゴードン様の屋敷でお産みになったけど、私たちもそうすることなの?」

「近い」


「確かに屋敷は近いけど、そういうことができるかしら?」

「頼む」


「リリア様に頼むの?」

「そう」


「なるほど、ルーシーの考えることはすごいね。そうよね。近いからいいわよね。シンシア様の屋敷は遠い。二人でリリア様に頼んでゴードン様に話してもらおうかな?」

「はい」


「それはいつになるか分からないし、二人で話しができてよかったね」

「リリア……」


「えっ、今度はどういうこと?」

「話す」


「リリア様に話しをするの?」

「話す」


「リリア様にこの考えを話すの?」

「そう」


「そのことは分かったから、これからどうなるか分からないのに変じゃないの?」

「好き」


「えっ、ラデン様のことが好きなの?」

「そう」


「そう思えるようになってよかったね」

「子供……」


「えっ、子供って?」

「好き」


「ラデン様の子供がほしいと思っているの?」

「そう」


「ほんとうに?」

「はい」


「リリア様はそのことを知っているの?」

「ない」


「参ったわね。そんなにラデン様が好きになったの?」

「そう」


「参ったわね」

「優し……」


「参ったわね。ラデン様はすごく優しいのね」

「そう」


「ドーラン様も優しいといいな。シンシア様がたくさん話しなさいと言ったのよ」

「そう」


「ラデン様とたくさん話したのね」

「部屋」


「部屋ってどういうこと?」

「リリア……」


「リリア様が部屋にいたの?」

「頼む」


「リリア様が部屋を頼んだの?」

「そう」


「二人で会う部屋をリリア様が頼んでくれたの?」

「寝た」


「うっそーっ、ほんとうに」

「ごめん」


「参ったわね」

「ごめん」


「参ったわね」

「好き……」


「参ったわね。それしか言葉が思いつかないよ。そんなに好きになったの?」

「はい」


「信じられない……今度は最初に話してくれてありがとう」

「ごめん」


「謝らなくてもいいわよ。ルーシーが考えたことだからね」

「はい」


今回も読んでいただき、ありがとうございました。


次回は3月1日の金曜日になりますが、予約投稿時間を大幅に変更して、夜の9時にしたいと思います。

4月に入ると、夜の10時にしようかと考えています。

これからも、よろしくお願いいたします。

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