9=〈滝の言い伝え〉 (3)
☆ ★ ☆ (14)
『お願い、小さなステンレス製の片手用スコップを二個』
私は『ミーバ』にお願いしてから取りだす。
「これも不思議だから気にしないでね」
「……分かりました」
「ここを掘ってみよう。石って年月が経つと結構地面の中に深くもぐっているものよ」
私は石を退かして茶色く黒ずんでいる地面を見ながらそう言うと、『知りませんでした』と彼そう言ったけど、私たちは退かした石の下を掘ると地面は思ったより固くて、こんなに固くはないと思うけどな。石の重力で土が圧迫されてしまったのかな。分からないな。
「……ここじゃないわね。ちょっと大きいけどこっちにしようか」
今度は壁際の方が下草に埋もれている石を見てそう言うと、『はい!』と彼の返事はトーンが高くて気合いが入っているように感じる。
「こっちは何だか石が大きくて深そうね。周りを少し掘ってみよう」
「はい。私はこっちの方から掘ります」
彼はそう言って自分の手前の方から掘り始めたので、両サイドの下草が石の三分の一ほど引っ付くように邪魔しているので抜きとると、青汁のような草の匂いが漂っているのを無視して、私も気合いを入れて掘り始めた。
この石は重そうで角度的に内側に押したけど動かなくて、もう少し二人で掘ってからもう一度強く押すと、ぐいっと石の底が盛り上がり、押方を変えて右側の方へ倒れ込ませる。
「さっきのよりは穴が深いですね」
彼が地面を見ながらそう言ったから、確かに石の半分ほどが地面に埋もれいるのだと理解できる。
「石ってこんな感じで地面の中にもぐっているのよ。こっちはもぐりすぎね」
私は一気に力を出し切って、横殴りになった石を呆れるように見てからそう言ったけど、石の表面はざらついて、石の底の部分は泥が付いているけど、意外に凹凸がないような気がする。
「……はい。よく覚えておきます」
彼はすんなりとそう言ったけど、場所によっては埋もれなくて地表に乗っかる程度や、隠れてしまっている石もあるんだけどな、とか思うけど、言葉には出さずにこの現状だけにしておこう、とかも思うのよね。
「それじゃー、掘ってみようか」
「はい」
「ここの土はさっきよりも軟らかいね」
私はそう言いながら、私たちは先ほどの続きのような状態で、しばらく別々の場所を掘り進む。
「ここは固いですよ。何かあります」
「えっ、もっと掘ってみて」
慌ててそう言ってケルトンの掘っている場所に、膝をついて移動してから二人で掘り進む。
ケルトンが最初に固いものに触れたのは木のふたの部分で、このふたの上は木の皮みたいなもので覆われて、全体的に土と覆われている物を急いで取り除くと、朽ちることもなく、隙間なくピッタリにはめ込まれている木のふたを、私はスコップの後ろの部分で数回たたく。
壊れたふたの隙間から中が見える。私は慌ててその破片を取り除き、その下は布みたいな物で覆われているからそれも取り除くと、その表面に金貨が見えるのだ。二人で顔を見合わせると彼の顔はとても驚いているが、私の顔もケルトンから見ると目の玉が飛び出しているような、かつて見せたことのないような驚きの表情をしているに違いない。
「すごい……金貨だよ。言い伝えはほんとうだったのよ」
「すごいです。たくさんありそうですね。これは壺ですか」
彼が周りの泥を手でどけながらそう言ったから、
「そうね、壺みたいね。掘り出そう」
私はそう言って、壺の周りの土を丁寧に取り除く。
私が最初に掘っている部分にも固いものがあり、この壺の横にもう一つ壺があるのだ。私はさっきと同じように木のふたをたたき割ると、こちらにも金貨が入っている。
この二つの土色をした壺を掘り出して、石とは反対側の大きな穴の横に置き、周りの土でこの穴を半分ほど埋めたが、私は掘っているときは無心状態で疲れを感じなくて、でも、壺を二人で取りだすとどっと疲れてしまい、この壺の前に座り込む。
「ケルトン、この金貨はどうしようか。ここから洞窟に持っていこうか」
私が半分放心状態でそう言うと、
「リリアの不思議で何か方法を考えてください」
彼がまじまじと私の顔を見つめてそう言う。
「そうなんだけど、これを見て驚いたし疲れちゃっからね。何も言葉が閃かなかないのよ」
私はどうしようかと迷いながら思いそう言うと、
「そういうこともあるのですね」
彼から意外な言葉を聞く。
今度はこれを運ぶ方法が問題だけど、私が何でもかんでもできると思っているのかしらね?
「私の閃きは、何か危険だと感じたときにすぐ起こるのかもね」
私が金貨の入った壺を見てながらそう言うと、
「そうすると、今は危険ではないのですね。穴の外が暗くなりそうですよ」
彼が天井の穴の方を見てそう言ったから、私も穴の外を確認し大変だと思ってしまう。
「何か閃きましたか」
彼がすかさずそう言ったのは無視して、『お願い、紐のある頑丈な袋を二つ』と私は『ミーバ』にお願いして膨らみを確認してしまった。
私たちは中身を別々の袋に入れ、お互いにソードの鍔に引っかけ、さっきみたいにぶら下がり穴の外に出ると、外は暗くなりかけているので、そのまま滝を目指して移動し、住み家である洞窟の天井の穴から戻ってきたのだ。
☆ ★ ☆ (15)
「ケルトン、お腹すいちゃったでしょう。今夜は遅くなったからこれを食べてね」
私が石の上に置いてある袋からビーフジャーキーを取りだしてそう言うと、
「干し肉ですか。これは大好きですよ。赤い実も食べてもいいですか」
彼は私から渡されたビーフジャーキーを受け取りそう聞かれたから、三個残っている赤い実を彼に二個手渡す。
「一緒に食べようね。ケルトン、この金貨はどうしようか。ここに置いとくわけにもいかないでしょう? 明日からしばらくここには来ないと思うからね。私は考えたのだけど、さっきはリズの太い枝の上にいたでしょう。下からでは見えないと思うよ。リズにお願いして太い枝の上に置こうと思うのね。紐でがっちり縛れば落ちないと思う。最高の隠し場所だと思わない?」
私は赤い実を右で持ち口の前まで持っていき、口に入れる前にそう説明する。
「ほんとうですね。今までこの洞窟の近くでほかの人には出会ってないです。いつここに戻れるかも分かりませんが、ここに隠すよりもリズが守ってくれますよ」
彼はビーフジャーキーの袋のジッパーを開け終わりそう言う。
「この洞窟にはお世話になったわね。『ケイヴ』という言葉はここを示すと覚えておいて、何かあればここに戻ってこよう。ここは私たちの隠れ家になるわね」
「分かりました。ケイヴですね。バルソンも何かあるかもしれないからと教えてくれました。シーダラスの屋敷はどこにあるか分からないけど、ここと同じなのですね」
「そうよ。この場所は私たちだけしか知らないのよ。この場所が分からなければ、どこにいてもリズの仲間が教えてくれそうね」
「はい。今日は自分のソードにも乗れて、自分の剣もずっと握っていたから、それにたくさんの金貨も見つけられ、洞窟探検はとても楽しかったです!」
彼はそう言いながら、目が生き生きと輝いているような気がして、今まで見たことのないような嬉しそうな顔の表情をしている。今日はほんとうに楽しかったのだと思うのだ。
「……ほんとうにそうね。この洞窟での最後の思い出になったわね」
私はつくづくそう思い、思い出の言葉が出てしまう。
明日からの不安もあるけどリズを知りゴードンに出会い、フォールと会話をして金貨を手に入れてと、すべてが信じられないような今日の出来事は、最後の思い出というよりも、明日からの未知への挑戦の金銭的な下準備ができた、と言っても過言ではないと思うし、どこに行ってもお金がないと話しにならないよね。
私が赤い実を食べ終わり彼が干し肉を食べている間に、『ミーバ』にお願いしてあった草色の布製の小さな袋を六つと、同じ色のもう少し大きな袋を一つ出し、小さな袋の中に金貨を十枚入れ、これを短剣と同じにケルトンに渡そう。これからの彼の御守りになると思う。
「何にも起こらなくてよかったね。この金貨はゴードンには内緒だからね。私は今からリズに会って金貨のお願いをしてくる。そうしたら明日の朝に持って行けるでしょう。それとこの金貨を十枚ケルトンに渡すから、この袋もベルトに縛っておいて、明日からナイフと一緒にずっと持ち歩いてね。しつこいようだけど隠してよ。今日は一日中何だか忙しかったわね。明日は早いからもうケルトンは寝なさい。歯みがき忘れないでね」
と、私はそう言いながらケルトンに金貨の入った袋を手渡すと、
「分かりました」
彼はそう言って右側のベルトに結びつけてから、自分のランタンを持って小川の方に歩き出す。
この金貨は何枚あるかは分からないけど、今は数えている時間もないし、南の城の近くに行き私たちがはぐれてしまっても、何かあればこの金貨が助けてくれると思う。
私は金貨を十枚ずつ取りだし残りの五つの小さな袋に入れた。こちらはナイフと一緒に私の御守りだ。ケルトンが横になりしばらくしてから、私はリズにお願いするために出かけた。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
この金貨は、今後大いに役に立ちます。