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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第三章 『出会いから、八年ほど過ぎて……』
82/165

82=〈シンシア様の屋敷〉

     ☆ ★ ☆ (52)


 今日はシンシア様の屋敷に訪れる日なので、いつもより早くに起きだし軽いストレッチだけは済ませたけど、方位磁針で考えると城にある東の門を出て方角的に東方へ行くそうで、こちらは私たちには未開拓の土地であり、あまり訪れたことがない領域だ。


 シンシア様の屋敷に行く手前に、名前がフィッシャーカーラントの市場と呼ばれている場所があるそうで、私が今まで聞いた市場ではいちばん長い名前であり、フィッシャーの市場とカーラントの市場が一緒になったと聞いたので、市町村が合併したようだと思う。近くに大きな河が流れているから、この辺では川魚がたくさん捕れるそうで、城の食材として一手に運んでいると聞いた。


 南の城と東の城とを分断したような河らしく、川幅は広いが水流は緩やかに流れる場所もあるそうで、河の流れは南の上流から北に流れているそうで、側面の山には湧き水が下にある砂を巻き上げ、夏でも清冷みたい場所をシンシア様は何ヶ所も知っているそうだ。子供時代によく遊びに行ったと話していた。


 このような話しを聞くと、私たちが半年間も住んでいた洞窟の中に存在していた小さな水の流れを思い出し、その川でも水浴びをしたけど、あの滝壺の下流でも二人で泳いだことを思い出した。


 あの南の森でケルトンに出会ってから、赤い実を見つけリズとも出会い、そしてゴードン様と会話をするようになり、私たちはあの洞窟からソードに乗り、この城を目指して二人で飛び出したのだ、とその話しをシンシア様から聞いた夜中に、ソーシャルとも話しをせずひとりで色んな思い出に慕った。


 ゴードン様の屋敷もシーダラスの屋敷に行くにも西の門から出て行くし、ゴードン様がホーリーと出会ったカーサンドラの市場も、鹿肉のお昼を食べたロッテリーの市場も、宿泊したアートクの市場も、コントールの里にあるトントン屋敷も、やや南西にある赤い実のリズの南の森も、すべては西の門から出発していた。


 シンシア様は城を出るときから、甚平みたいな前が深く折り合わせた普段着のような服を着て、馬に乗るのでたぼっとしたズボンタイプの気軽な服装で、市場の人たちはこのような服装をしているから、シンシア様と私は薄い紫色の上下で、彼女はいつもとは違って見え、変装するためにこの服を着ることをとても喜んでいた。


 私はシンシア様からこの服はいただいたけど、もう一枚は薄いベージュ色をして、今日のために新しく作ったと言われ、マーシーとルーシーは私の好きな草色の上下を着ていた。


 シンシア様と私は紫の編み紐のついた短めの剣を腰に下げて持参し、マーシーとルーシーは二倍ほどある普通の剣を、右肩から斜め目後ろの背中に背負っていた。


 着替えも最小限で、鞍に座った前面に左右対称にぶら下げ、ここにも馬に乗せる旅行用のバックがあったわけだが、私の背中にはリュックとしていつもの袋を背負い、もちろんその中に『ミーバ』も入っていた。

 

 西の屋敷の裏側にあるカーラの近くの馬屋から、シンシア様は黒みががった茶色い彼女専用の馬に乗馬し、私は『リース』に乗り、二人は濃い茶系統の馬で、城の外に出かけるときは、城の外壁にあたる側面の内側を通る規則になっているから、私たちは朝一番の鐘の音とともに市場の人間になりすまし、東の門から四人で颯爽と出かけた。


     ☆ ★ ☆


 フィッシャーカーラントの市場に到着した。

 

 シンシア様が私にこの市場を見せたいということで、最初にここを観光することになり、西の門の市場みたいにとても賑わったいたけど、そこそこの市場で雰囲気が違うような気がした。


 早朝は特に人の出入りが多いと聞いて、ここにもバルソン様の配下の者がいると話され、私たちは最初にその屋敷に出かけて馬を預けた。


 バルソン様からその配下の者を警護として一緒に見物した方がいいと言われたそうで、その人はラデン様やフィードみたいな立場だと思い、青の編み紐になると、しばらくは市場の管理者みたいな仕事に回されるそうで、名前をハーウィンと言った。


 ハーウィンと手の者は三人で私たちのそばに付き、午前中はずっとフィッシャーカーラントの市場を見物していると、彼女はこの市場を訪れるのは久しぶりだと話し、以前よりも活気があると教えてくれた。


 バルソン様から話しが通してあったみたいで、ハーウィンは昼食に河魚料理の店に案内してくれ、私の時代の言葉でいうと、刺身から焼き魚や煮魚と魚料理が次々に運び込まれた。


 煮魚は生臭さを消してあるのかハーブのみたいな薬草が入り香りがよく、刺身は白身魚で透明感もあり泥臭くもなくコリコリとして、日本人として微生物の細菌が心配ではあるが、誰しも平気で食べているようで、健康維持には肉を食べることも大事だが、魚をたくさん食べた方がいいと話し、マーランド様には肉よりも魚をたくさん食べてほしいと思った。


 この時代でも調理の仕方でこんなに変化があるのかとつくづく思い、向こうにいても自分で料理を作っていたわけではないが、この時代の魚料理は私の時代と変わらないとも思い、久々の贅沢な食事だった。


 私はバルソン様が前もって予約をしてくれたのかと思っていると、後から話しを聞いてみれば、この広くて落ち着きのある店はシガール様の経営している店であり、店の名前がラントークと呼ばれていると教えてもらった。


 いずれシンシア様の店になると話しを聞いたから、トントン屋敷を手に入れる資金はここから出ていたのだと思う。私はシンシア様の屋敷のことは聞いたことがなく、だから周りの人のことも考えなくてはいけない、と言われたのだ。


 シンシア様の屋敷とシガール様の本宅の屋敷は別にあると初めて気づき、いちばん近くにいるシンシア様のことも何も知らない間抜けな私だった。だからシンシア様が私の屋敷というのだ。バミス様の家族の話しは聞いたことがないが、どこの屋敷の者だろうか。

 

 そう思うと、シューマンはシンシア様の実子だから、自分の屋敷の跡取りになるということになり、シガール様の屋敷の跡取りではない、ということに気付いた。


 ゴードン様の話しを聞いていても、私は社会意識がよく理解できなくて、私の時代の言葉でいうと『流通経済』のような、生産者がいて購入者があり、その生産物を仲介する流通組織があり消費されいくような、ある会社の取引で金銭が動くのと同じなのだろうか。経済学の勉強をしておけばよかった。


 私の先行は教育学部の社会科で、高校地歴と中学社会の単位取得を目指して、高校の世界史の先生になることを希望していたので、歴史が大好きではあるがこの時代は長い歴史上、どの位置に存在するのだろうか。


 実際にここで生活しているのに分からない。歴史上の全体像が南の城近辺だけでは理解できない。大昔の歴史上の言葉は、色な物が発見されたり科学的に調べたり、人間の進化と共に解明され世の中に出回っているのだ。でもこうやって実際に生活してひとりの人間として生きていると、どこまでが正しい歴史なのか分からない。


 私は食事中にバミス様の屋敷の話しを思い切って聞いてみると、シンシア様はバミス様のことは詳しくないので、バルソン様に聞くのがいちばんと教えてくれ、バミス様は小さな里で産まれ、兄が二人と妹が二人いて三男だと教えてくれたから、それで家を飛び出したのかしらと思い、それに私たちと出会ってから成り行き上、ゴードン様の屋敷に住み込んでいるのだ、とも考えられた。


 自分の努力で赤の編み紐まで勝ち取ったことはすごいことだと話されて、誠実であり思いやりもある、とバミス様に対する高評価みたいな話しをしてくれたから、言葉だけでもそう言ってくれたのが嬉しい。


 私の時代の言葉でいうと『くそ真面目な人間』であることは十分に承知しているので、お互いの過去は話さないし二人で話す時間も少ないけど、彼の一切合切を思い出しても、私はバミス様がいちばん大好きなのだ。


 私の視線は市場の中を放浪者のように見回していたが、思考回路は色んなことを考えながらも、私たちの少し後方から三人に見守らてあちこち歩き回った。


 シンシア様が何歳かは知らないけど、城の中にいつもいるにしては体力があると思い、若い頃はコーミンみたいに、運動神経がよくてはつらつとし、たまにマーシーやルーシーと剣の手合わせをしていたからだろうな、とか思ってしまった。


 私がラデン様に金貨を渡したのと同じで、彼女はハーウィンたちのお礼として金貨を渡しているのを見ても、その考え方は人それぞれだと思うので、私は嫌な気持ちになることもなく、すんなりと受け止めることができる。


 私はラデン様に今後のことをお願いしようと思い、何も語らず二枚の金貨を手渡したあの日のことが、……ケルトンとミーネ様とコーミンのことが……鮮明な意識として思い出された。


 それから、私たちは一気にシンシア様の屋敷へ向かった。


 シンシア様はこの屋敷で産まれ育ったそうで、ここでも裏話しがありそうな気がしたけど、この時代の家族構成が分からないし、城でいう側室みたいな妾とか呼ばれる女性の存在があるのだろうか。


 金持ちは一つの屋敷に子供と奥さんがいるのだろうか。何宅あるのかも知らないけど誰が本妻なのだろうか。その表現方法も私には分からない、と馬上でいろいろ考えてしまった。


     ☆ ★ ☆


 私たちが夕方屋敷に到着すると正門が開いていて、外観を見る限りではゴードン様の屋敷よりも広そうな気がするが、シガール様は親の代からここでの川魚の元締めみたいな仕事をし、他にも屋敷を持っていると聞いていたけど、さすがシンシア様の屋敷である、と私の想像を遙かに超えてりっぱだった。


 正門から入り馬屋まで乗ったままで移動し、馬を使用人に預ける前にリースに『今日はご苦労様でした』と話しかけながら、左の頬から首筋を何度も撫でてスキンシップをする。


 リースはすでに十歳以上になっているから、馬の年齢の四倍が人間の年齢に等しい。馬の寿命は雌よりも雄の方が短い、と本に書いてあったのを思い出したけど、それがこの時代の馬に適用されるだろうかと思いつつ、まだまだ私のそばで元気にいてほしいし長生きをしてほしいと思う。この馬屋はゴードン様の屋敷と同じような広さだとも思った。


 シガール様とシーナ様が屋敷の玄関らしき場所で出迎えてくれる。


「リリア様、今日はよくいらっしゃいました」

 シガール様は笑みを浮かべてそう言ってくれる。


「やっと来られました。お世話になります」

「今日はフィッシャーカーラントの市場に久々に寄って楽しんで来たのよ」

 シンシア様がにこやかにそう言う。


「たくさんの魚料理をありがとうございました。とてもおいしくて食べ過ぎました」

「食べ過ぎても魚は体にいいですから、今夜もたくさん用意させましたよ」

 シーナ様は穏やかな表情で言葉をかけてくれる。


「ありがとうございます」

「今日は私たちも一緒にありがとうございます」

 マーシーがそう言い、ルーシーが頭を軽く下げている。


「いつもシンシアを守ってもらっていますからね。ここでゆっくり骨休めをしてください」

「はい。いつもありがとうございます」

 マーシーが返事をしている。


「ピンキー、マーシーとルーシーを部屋に案内して」

 シンシア様がやや大声でそう叫ぶと、

「はい。かしこまりました」

 彼女は奥から方から出てきてそう返事をしている。


「リリア、早速だけど今から私の部屋を見せるからね。あなたに見せるのを楽しみにしていたのよ」

「はい。ありがとうございます。私も楽しみです」


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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