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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第三章 『出会いから、八年ほど過ぎて……』
81/165

81=〈各々の会話〉 (5)

やや長文です。

 ☆★☆『リリアと王様』(50)


 剣の勝ち抜き戦が終わり半月ほどして、ドーラン様が迎えにきて王様の部屋へ行くことになる。ここでは夜の七時半頃から夕暮れが訪れ、八時頃に暗くなる。


「リリア様をお連れしました」

 階段を登りドーラン様が部屋へ入り声がけをする音声が聞こえ、私は入り口の外で待っている。


「私は今からリリアと寝室に入る。皆の者は下がりなさい」

「かしこまりました」


 ドーラン様がそう言ってから、他の二人の家臣は怪訝そうな顔付きで、私をちらりと一瞥していそいそと一緒に階段を下がっていく。


「こちらへどうぞ」

 私が中に入るのと同時に彼が左手で手招きしてそう言うので、『ありがとうございます』と返事をし、仕事部屋らしき部屋を通り越し二人で奥へ入る。


 ここは外の世界から切り離された特別な場所なのだ、と勝手に想像していたけど、この前は初めてで緊張していて部屋の中を確認せず、十畳ほどの広さなのかテーブルがあり椅子が三脚置かれ、四隅に燭台が灯されている。天上からも燭台が垂れ下がり、意外と部屋の中は明るい。


 入り口の正面の奥に衝立みたいのがあり、刺繍されているような布で覆われ、河の流れのような流水系の絵柄が描かれ、王様の広間で見たのと似ているような気がするけど、右側の壁に視線を向ければ、机があり椅子が一つ奥に入りきちんと片付けられているようで、その机の上には書物のような何かが置かれているようだ。

 

「そこに座りなさい」

 王様は自分の座るべき椅子の背もたれを後ろに引くと、正面にある場所を私に指定する。この前と同じ椅子だ。


「ありがとうございます」

 私はそう返事をして、王様が腰かけたので入り口を背にして座る。


「……この前は大変驚いた。朝方までいろいろ考えて眠れなかった」


 彼は少し考えたように開口一番にそう言ったので、私は『申し訳ありませんでした』とそう謝ってしまう。


 あれからセミル様とシンシア様とバルソン様の三人に会い、ソードのことで彼らの意見を聞いたような気がする。自分たちの時代に言い伝えのソードが出現したことに対して、私も色んなことを考えたけど、彼らもまた思考を巡らせていたのだと思う。


「私が尋ねるとシンシアは何も反論しなかったが、セミルはとても驚いたと言っていたぞ……その……今夜も見せてもらえるのか」


 最後の言葉は威圧感がなく許可を求めるような声の響きで話すような気もするが、どう答えていいのか判断に困る。


「……はい。見せようと思えば見せられますが一度だけにしてください」

「いや、私はもう一度見たい。そしてしっかりと確認したい」


 彼がそう言ったので、何を確認するのか分からないけど、三人の意見を聞いた結果なのだろうか。


「……分かりました。もう一度だけお見せしますが最後にしてください。約束していただけますか」


「……分かった。約束しよう」


「……必ず王として約束してください」


「……分かった。必ず王として……男として約束しよう」


 王様は私の瞳の中を覗き込むようにそう言ったけど、王という立場と男として二言はないという言葉を使いそこまで言うのだから、もう二度と言わないでよね、とそう思ってしまう。


 彼の顔を見ていると、真剣な表情からにまりと笑みを浮かべたように思えるが、彼の心の声は分からないが、見せてもらえないという感情と、もしかして……と考える気持ちが交差しているのだろうか。それとも……私の返事に喜びを感じているのだろうか。


 私は椅子から立ちあがりながら、左右のリストバンドを上にずらし、閉じ込められていた地下牢獄から地上に出てきた歓喜の例えのように、そのブレスの存在を顕著して、彼の目の前で許しを請うかのようにブレスを三回触れ合わせ、そこにソードが縦に現れ柄の部分を握って真横を向き、鞘を抜いて台の上に置き、その剣を両手で握ってしばらく見せた。


 私の視線は柄を握った自分の両手から刃の先端に移ったが、最初にバルソン様に見せたときは、このソードの中に何かが吸い込まれて取りこまれたような気がする。あの時も少し見せてから軽く振ったのだ。


 またもや、このソードに私のすべてが同期するかのごとく、その根源たるパワーを感じることができたが、シンシア様とバルソン様に見せたときは、このソードから何かが吸収されたような気がしたが、セミル様に見せたときは全部抜き出さず、今回は何かが放出されたような気がしたけど、何だろうか。気のせいなのだろうか。それから、鞘にしまい後ろを振り向きそのソードを消し、私は自分の椅子に座る。


「……やはり信じられない」


 彼は前回みたいに驚いてはいたけど、私が見ると今回は立ち上がらず椅子の中に埋もれたように、背筋をやや曲げたように座っているが、私ですらソードの存在は理解できてないので、彼には現実の見た目で顕著に表れたソードを視覚として理解できただけで、それは代々王に伝えられてきた『言い伝え』が根本的にあるからだと思う。


 私の視線はテーブルの上に置いてあった自分の両手に運ばれたけど、手のひらを上に向けた自分両手を見ると、微妙に小刻みに震えていたので、その手をさり気なく自分の膝の上に戻す。


「……また今夜も眠れなくなると思います。約束通りにこれを最後にしてください」


「……分かりました。リリア様はやはり言い伝えの若者なのですね。今回は確実にそのことが理解できました。私はその若者は男だと思っていました……マーリストンを次の王にすることをリリア様に約束しましょう」


 今夜の王様はまた何かを考えたようにしばらくしてから、自分の意識がはっきり理解できたかのような話しぶりだ。 彼はあの言い伝えに洗脳されているのだろうか。それともこの城が危機存亡の時期を迎えているのだろうか。私にはこの城のことが分からない。


「……ありがとうございます。マーリストン様はまだこの城のことは何も理解してないと思います。王様やバルソン様やこの城の人たちに色んな話しを聞いて教えを請い、自分で考えられるようになるまでは、そしてこの城を守っていける状態になるまでお待ちいただけますか」


 私は王様の気持ちを察してこのような言葉を使ってしまう。マーリストン様が自分のソードを王様に見せれば、彼はよりいっそう確実に彼であると知見できるのだろうか。私には分からない。この城を維持する……民の生活を豊にする……平社員であり新参者の一国民の私が考えることではないよな。


「……私の判断で王の座を譲りましょう。その次の王はリストンにすることをマーリストンに命令します。マーリストンの王子でありリリア様の子供です」


 彼がはっきりとそう言ったので、この言葉には何か裏があるのだろうか、と疑ってしまう。


「いえ、リストン様は自由にさせたいと思います。私はそこまで彼を拘束するつもりはありません。すべては彼が自由に自分で考えればいいと思います」


 そう言ってしまった疑い深い自分に嫌気がさすけど、セミル様にもシンシア様にもそう伝えてあるし、自分では間違ったことではないと思う。流れ的にはそう話した私の信念は正しいと思う。子供たちには色んな可能性の幅を広げたいとも思う。


「……私はそのことが理解できない。リリア様の子供がこの南の城の王になるのですよ。私はそれを約束すると話している」


 そう言った私に対する彼の視線と声の響きは、心の奥底から考えてくれている言葉のようだが、もう一度ソードを見ることを前提として、私に伝える言葉として用意されていたのだろうか。その奥深くで考えられた状況まで見抜けない。


「……その言葉に感謝はしていますが、大人になったリストン様の考え方次第だと思います」


「……分かった。頑固な考え方のリリア様をよけいに好きになった」

 王様からやや笑みを含めてこのように言われてしまう。


 頑固な考え……好きになった……それが今の状況とどうつながるのよ。


「この場合はありがとうございますというべきか、私は判断に困ります」

 私の思考はやや困ってしまいそう言ってしまう。


「……今夜は朝までご一緒しませんか」

 王様は突然このような言葉を使ったから、私はおったまげてしまう。


 彼は私の瞳の中を見据えるように、正面からまっすぐ私を見ているようで、どうしてそのような言葉につながるのか。何を考えているのだ、と私は一瞬そう思い言葉に詰まってしまう。


「……大変申しわけありませんがお断りします」

 私はとても驚いたけどそう言い、自分の意思表示はしたつもりだが、彼の心情が分からない。


「……分かりました。次回によろしくお願いします。少しは城に慣れましたか」


「……まだ慣れません」


「……確かに日が浅いが……」と、そう彼は言うのだ。


 先ほどの顔つきから比べるとやや緩やかに、どことなく違うんだよね。彼の心模様が分からない。


「ソードを見る意外に、何かほかにご用があるのでしょうか」

 私はこの場を早く去りたくてそう尋ねてしまう。


「……今夜はリリアの顔が見たいと思った」

 今度はこのような言葉を使われたのでまた驚く。


 彼の瞳の中は鏡のようであり燭台の光源が少し反射して、私の顔が小さくその瞳の中に充満しているように写っているようだ。彼の思いが分からない。


「……私はマーリストン様と話し、リストン様は隠し通すことにしました」


 私は何か話さなくてはいけないと思いそう言ったけど、王様の顔をまじまじと見つめていると、マーリストン様の顔とだぶってしまう。


「あれからマーリストンとリリアが会った報告を受けてないが、どこで話したのですか」

「私はこの前自分のソードを見せた人を言いましたが、シンシア様にもお見せしました。いつどこで見せたと思いますか」

「私は報告を受けてないから知らない」

「誰にも分かりません」


「……なるほど。リリアの不思議なのか」


 今度は不思議の言葉を使ったけど、ややきつめの声の響きなんですけど、私ですら未だに魔法のような飛行器具なのだから、現代科学でもなし得ないような状況を話せるわけがない。また眠れなくなりますよ、と声に出したいくらいだ。


「お互いに二人の不思議です。王様にもその不思議があると思います。人間である以上は必ずあります。それを自分で気づくか気づかないかの違いだと思います」


 自分でそう言葉を発して、自分自身で意味が飲み込めてないような言葉を使ってしまい、私には説明ができないのよね。


「……なるほど。リリアは話しが上手なのだな……ゴードン様の屋敷の前のことも知っていますね」


 彼の言葉は属にいう、尊敬語と謙遜語でころころ変わっているような気がするけど、頭の中で次に話そうとしている言葉がその状況を作り出しているのだろうか。上から目線で私を卑下することもなく、この部屋に蓄積されたような英気がそうしているのだろうか。彼の意中が分からない。


「誰だか分かりませんでしたが気付きました。だから隠し通せると思います」


 私はそう言う以外に言葉はないけど、向こうから話しかけたことなので、知っていることを正直に伝えてしまう。


「……私は最大の窮地を回避しなくてはいけない。二度と起こってはいけない。私の王としての立場が消えてしまう」


「……私も自分の立場が消えてしまわないように今まで努力しました。私はマーリストン様と同じで自分の子供は守り通します」

「お互いに意見が合うな。よかった。今夜は朝までご一緒しませんか」

 彼はまたそう言うのだ。


「いえ、大変申しわけありませんがお断りします」


「……分かりました。次回によろしくお願いします」

 彼はそう言いながらも、私の目を逸らすことなくずっと見ている。


「……次回までによく考えておきます」


 私は彼の真剣そうな真面目そうな顔を見ているとそう言ってしまい、彼の視線がそう言わせてしまったようだ。何でこのような言葉を使ったのだろうか。


「……ありがとうございます」

 彼は間を置いてそう言ったけど、私はこの部屋に取り憑かれそうで、自分の思考も彼の思惑も分からなくなる。

 

「……私はシンシア様と話して、マーランド様はマーリストン様の父親ですから、私の父親でもあると気づきました。シンシア様は母親になります。そのことに気づいていらっしゃいますか」


 私は話題を変えなくてはいけないと思い、家族の成り立ちを説明したつもりだけど、その言葉の変化に気付いてくれるのだろうか。


「剣は弱いが考えることは好きだから気付いている。リリアのことも好きになった」


 彼はそう言ったのである。話題を変えなきゃ、私は彼の視線と言葉に翻弄されているようだ。


「シンシア様は三人の子供のおばあ様になったとおっしゃいました。マーランド様も三人の子供のおじい様になったことに気付いていらっしゃいますか」

「えっ、二人ではなかったのか」


 彼は驚いたようにそう言ったから、コーリンのことを今まで気付いてなかったのだ、と思いながらも、シンシア様もバルソン様も知っていたのに、そのことを話してなかったのだ。どういう意味合いがあるのだろうか。

 

「やはり、私たちは隠し通せますね」

「マーリストンの子供が他にもいるのか」

「はい。マーリストン様が好きになったコーミンとの子供です。五月十五日で一歳になります。名前はコーリンと言います」

「信じられない。マーリストンは三人の父親なのか。子供が三人いることは知っていたがその報告は受けてない」


 彼の声の響きは報告の言葉を強調していたが、彼にも独自のシーカーみたいな情報提供者がいるのだ。そういう組織はバルソン様が管理しているような気がするけど、彼以外にもいるのだろうか。


「そのことはシンシア様がご存じですがセミル様は知りません。そのような話しにはなりませんでした。セミル様には内緒にしていただけますか」


 私はバルソン様の立場が悪くなるといけないので、彼の名前を言うのは止めてセミル様の名前だけを言ってお願いしたけど、彼らが話さない理由があったかもしれない。


「……あのシンシアが私に何も話してない……よく分かった」


 彼は呟くようにそう言いながら、その視線が一瞬ふぬけてぼやけたように感じたけど、彼の視線は私の存在を関知するかのような輝きがすぐ戻り、脳内に幻想したシンシア様から、現実に目の前にいる私に意識を取り戻したようだ。


「よろしくお願いします。シンシア様に許可をいただきゴードン様の屋敷で子供たちと会ってきました。その許可に対して王様に感謝しています。ほんとうにありがとうございました」


 軽く頭を下げてやっとお礼を言えたからよかった。


「それくらいは話し合いをしなくても、私の一存で許可が出せるからな」

 彼がそう言ったから、話し合い? ここは民主主義なの? と私の頭の中でその言葉が閃く。


 歴史的な概念として、王とは君主主義だと思っていたが、私には関係ない話しだけど、この城を治める柔らかめの君主様なのだろうか。それとも……法律的な決まり事が存在するのだろうか。


「ほんとうにありがとうございます。ゴードン様に城のことを報告してきました。コーミンのことで王様にお話しがあるそうで、祝賀会に行くと話されました。二人だけで会っていただけますか」


 彼と二人で話した内容を思い出しながら、そのこともお願いしなくてはいけない、と思い伝えてしまう。


「シンシアとバルソンからもその話しを聞いて、一度会いたいと思っていたからな。いい機会だからそうしようと思い、二人にはそう伝えた」


 彼がそう説明してくれたから、シンシア様の両親と話したときにも感じたけど、案外話しの分かる人なのね。よかった。

 

「バルソン様がこの城の財政を立て直している、とゴードン様から聞きましたが、私はそのようなことは知りませんでした。その話しを聞きましたので、何かお手伝いできることがあれば協力しようと思います」


 私は何を手伝えるのかは分からないけど、そう考えていたので言葉として伝えてしまう。


「よろしく頼む。バルソンから鹿の干し肉の話しを聞いたが……感謝している」

 そう言われて驚いたけど、これはバルソン様から報告済みなのだ。


「そのことが役に立っているなんて、私は今まで知りませんでした」

「バルソンはこの城にはなくてはならない存在だ。セミルとシンシアも同じ考えだと聞いたぞ。リリアも……その中に入ると思っているが」


「……ありがとうございます。ゴードン様は人との出会いは偶然ですが、マーリストン様と出合ったことは自分の運命だと言いました。私もそう思っていました」


 ゴードン様の言葉が私の頭の中に蘇りそう伝えたけど、この城の人たちとの出会いは私の運命なのだと思っている。

 

「……私たちの出会いもその運命だと思わないか」


 彼がそう言った声の響きに、私の潜在していた心がまた動いてしまい、私の感情が彼の視線の中に流されているようだ。


「……私には分かりません」


「……今夜は朝までご一緒しませんか」


「……これで三戦目ですね。私はこの三戦目に負けそうです」


 私は何を考えてそう言ったのだろうか。自分でもよく分からない。彼の心に呑み込まれそうだ。


「……今夜は朝までご一緒しませんか」


 彼はそう言いながらも、彼の視線は私の瞳だけではなく、体の中もずっと見据えているようだ。


『ソーシャル、切ります』


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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