8=〈滝の言い伝え〉 (2)
☆ ★ ☆ (13)
ここでは大雑把な時間の概念しか感じられない。夜暗くなるのは八時ごろだ。私も考える時間がたくさんあり色んな言葉を思い出した。でも、ゴードンにはすべて秘密にしなくてはいけないと思う。
ゴードンもリズもケルトンの過去や未来には関心を示しているが、私の過去には触れないから助かる。リズは風の音で判断しているようだけど、ソーシャルは何を基準として判断しているのだろうか。ケルトンを最初に見つけたときに走っている彼に私が気づくように右側に移動したようだ。視覚があるのだろうか。
リズの風の音のように特別な判断基準があると思う。動く物に反応できるかもしれない。ソーシャルには何を聞いていいのか悪いのか、今の私には判断ができない。ひょっとして、ソーシャルはリズと会話ができるかもしれない。さっきは気づかなかったから明日確認してみよう。私は色んなことを考えながらも、ソーシャルはゆっくりと進んでくれる。
「ケルトン、さっきみたいにライトを消して」
「はい」
彼がそう言って消したから私も消して、今度は紫外線ライトをつけてみる。
「見て、壁の色が薄い青色に変わったね」
「さっきとは違いますね。今度は左側に曲がりますよ」
「ほんとうだ」
私は紫外線ライトのせいで壁の色に見とれていたから驚く。
「ちょっと危なかったですね!」
そう言った彼の声の響きはいつもよりも少し大きくて、私は二度も驚いてしまう。
私たちが左に曲がってしばらく進むと、その先の狭い通路の中が薄くて白っぽい色に変わり、私は紫外線ライトを消すと、今度は『可視光線』の言葉が頭に浮かび、これは太陽の光なのだと思い、この先には地上とつながっている場所があるのだ。
私たちは両足が地面に届かないように移動をして、私は地面には関心がなくて壁ばかりを気にしているが、この道が上っているのか下っているのかが分からない。懐中時計で時間を確認しておけばよかった。
私はケルトンに隠している物が一つある。いつだか、今は何時だろうかとふと思い『時計』という言葉が閃き、それで『ミーバ』にお願いして、ステンレス製のレトロな丸い懐中時計を出してもらい、首から紐で提げるようにして懐の奧深くに隠し持っていた。
徐々に白っぽい色が濃くなってくる。前方にごつごつとした地面も私の肉眼でぼんやり見え、そのまま進んでいくと開けた空間が前面に現れる。
「見てください。天井に穴がある。少し空が見える」
彼がそう言ったから、『まだ降りないで』と私はそう言って注意を促す。
ここから空気が流れているのだ。私は呼吸ができなくなることは考えもせずに、辺りを見回したけど外みたいに明るくはないが、周りの側面には大小の石があちこちに存在し、その周りを背の低い草や木と呼ぶには枝振りが貧弱で、低木と呼べるような木があり、真ん中辺りに空とつながった穴があるけど、何だか財宝がある雰囲気ではないと一瞬思い、右に行ったのは失敗だったのかな?
「この穴の大きさではこのままの状態では外に出られないわね。両手で柄の部分を持って縦にぶら下がるから、下には降りずにソードを消して自分のに乗り換えて」
「分かりました」
彼がそう言ってから、自分のソードを出してから乗り移ったのを確認する。
「私が先に出て様子を見てくるからちょっと待っていてね。この場所から動かないでよ」
「分かりました。気をつけてください」
私はそのまま柄を持ってゆっくり縦の状態にしてもらい、滝の水の音だと思うけど、穴の出口に近くなるにつれて左側から大きく聞こえ、私はぶら下がって穴から足元まで出てからもう少し上昇してもらった。
この状態では長い時間はぶら下がっていられない。ソーシャルに横向きにしてもらい上に座り直し、一回転してもらい辺りを見回す。ここは岩山のてっぺんと表現した方が早そうで、下を見ると入り口の周辺には背の高い草なのか木なのかたくさん生えて、この入り口を隠すような雰囲気である。
滝の音が聞こえる側面には岩がおもむろに飛び出し、枝が崖の途中から飛び出したりして、この岩肌に登れるような雰囲気ではない。逆の方はなだらかになっているような草木の生え方をしているが、この穴から出て滝を目指せば洞窟には帰れると思い、それだけを確認をしてざっと辺りをもう一度見回してから、そのまますぐ足の方から穴に戻る。
「ケルトン、何かあれば今みたいに飛び出してね。トントンにそう伝えて」
「分かりました」
「このソードも色んな場面で使い方が違うのね。勉強になったよ」
「私もそう思います」
「上からこの場所を確認すると、ここのどこかに財宝があるような気がしてきたのよ。どこか気になる場所はない? ここは少し明るいから隠す方も時間的に余裕があると思うのよ」
私はそう言ったけど、この地形を考えると何となくそう思うのである。
財宝がないと思って探すよりもあると思って探した方がいいし、ここになければあそこから左側に行ってもいいし、でも、私たちには時間がないのよね。
「……なぜですか」
「昔の人間が考えたことは分からないけど、隠す方もどこに隠すかを考えたでしょう? 真っ暗でたいまつだけの明かりでは不安だと思うよ。ひょっとして、上の穴からここに入ったのかもしれないしね。ひとりだか二人だか分からないけど、隠し場所は複雑ではないような気がするけどね。いつごろの時代かも分からないし、ここの自然が隠してくれたような気がしするのよ。ここではないかもしれないけどね」
私はなぜだかそういう気がして、頭の中に言葉としてそう閃き説明する。
「私はリリアのことを信じているのでここにありますよ。探しましょう!」
ケルトンがそう言ったので、私たちは下には降りずに、さっきよりも念入りに石や壁や床を自分たちの視線で調べるけど、私は何も閃かないのよね。
「リリア、下に降りてもいいですか」
「そうね……ちょっと待って」
『お願い、小さめのダイビングナイフを二つ』
私は『ミーバ』にお願いしてから取りだす。
「ケルトン、さっきのライトは返してくれる。今度からはこれを肌身離さず持っていて、こうやってベルトに提げてね。それからここを外すと中身が取り出せるからね」
私はそう言いながら、『ミーバ』を入れてある袋の肩紐に取りつけて、ケースからナイフの取りだし方を教える。
「短剣ですか。ありがとうございます。これも不思議ですね」
彼は嬉しそうに短剣を見つめながらそういうので、不思議な言葉はよけいだけど、気に入ってもらえたようだ。
「そうよ。ほんとうはナイフというけど短剣でいいからね」
「分かりました」
「今度は南の城の近くに行くから護身用として私も持ち歩くからね。日中ではソードは出せないと思うよ。でも、上着で隠しておいてね。ケルトンのズボンはベルトが付いているでしょう。このベルトは革でできているから色んな物がぶら提げられるのよ。このベルトも上着で隠しておいてね。紐の存在はあるとは思うけど、今の時代にはベルトはないと思うからね。意味が分かるでしょう?」
「……はい。ありがとうございます。この靴も履きやすいです」
「靴もいつもの不思議だと思ってね。私はほかの子供たちの服を見てからケルトンの服を考えるからね。最初に着ていた服は王子様の服だったのでしょう?」
「はい。寝るときに着ていた服です」
「えっ? あの服は寝るときに着ていた服なの? 知らなかった」
私は驚いて少し大きな声でそう言ってしまい、これをヒントにして私たちの着る物を考えたつもりなのにね。
「夜中でも何かあるといけないからと、いつもバルソンに言われていたからです」
彼がそう言ったから、バルソンはすごい発想をしているのだ、と思ってしまう。
私の時代の言葉でいうと、パジャマの下に着るようなストレートのズボンに、甚平みたいな合わせの上着を着ているから、私は普段着かと思っていた。彼が王子様であることが抜けていた。もう過去の出来事だけどね。
「私はこの洞窟の探検で頭の中に色んな言葉が閃くのよ。ケルトンはこの時代に生まれたけど、私は違う時代に生まれたような気がするのね。でも……何でここにいるのかが……どう考えても理由が分からない。ケルトンに出会う前に、樹の根元で目覚めるとここにいたのね。この話しはしたくなかったけど、でも……ケルトンがこのナイフを手にするたびになぜなの? と疑問がわくと思うのよ。私にも理由がほんとうに分からない。そのことは信じてもらいたいのね。ゴードンには絶対に内緒だからね。頼んだわよ」
私は長々とそう説明してしまい、彼は理解できるのだろうか。
「……はい。分かりました」
「私たちはなぜだかもう出会ってしまったのね。昔のことよりもこれからのことを考えた方がいいと思って、そう思わない? これから宝探しね。もし、ここで見つかればケルトンの将来のために使うからね。頑張って探そうね!」
「……はい。ありがとうございます」
「この空間に絶対あると思う。石の下とか布袋とか……何かに入れてあるような気がするけどね。二人でその辺の石を動かしてみようか。ケルトンは力持ちなのでしょう?」
「えっ、はい、私は男ですから」
彼は今までになく力強く返事をしてくれる。
「とっても頼りにしているからね」
私は追加の言葉も喜ぶと思いそう伝える。
「ありがとうございます」
彼は嬉しそうに返事をしてくれる。
私は『ミーバ』の中に三個のライトを入れ、紐を閉じると『ミーバ』が軽くなるので、出した物は必ず消していた。
ケルトンは必要以上の質問はしないので、私はこの空間で思いきってさっきの話しをしてよかった。明日から南の城の近くに行くので、今日中に護身用のナイフも渡せてよかった。
ソードと違いこの大きさだと持っていても不思議ではないし、剣のある時代にナイフがあってもいいと思い、このナイフはここに存在しない物だから、人目に曝してはいけないことくらいは、彼も意味を理解していると思う。
私たちは地面に降りてからソードを消した。
「どっかの石を動かしてみようか。最初はどれにする?」
「これにしますか。この石の前に降りたからです」
彼の視線は最初に私に向けられているが、前面にある多角形みたいな丸みを帯びた、玄武岩のような少し黒っぽいまだら模様の石に視線を移してそう言うので、私は彼の意見を尊重する。
「……そうね。押すの引くの? 押した方がいいかもね」
私が見た目で判断してそう言うと、
「押しましょう!」
彼が歯切れよくそう言うので、壁の方に向かって二人で押す。
この石はゴロンと向こうに転がり、地面の表面にあり地中に埋まっておらず、こういう場所で石が埋まりきらずに、表面だけにあるのは変な気がした。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
『お金の価値観』は、現在の感覚で表現すると、
銅が十円、銀が千円、金貨が十万円ほどです。
銅百粒==銀一粒、銀百粒==金貨一枚の設定。
お金のことは、あまり考えなくていいかも?
設定はフィクションだしね (^_^;)