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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第三章 『出会いから、八年ほど過ぎて……』
72/165

72=〈王様との拝謁〉 (2)

前回の続きです。


「私はセミル様の話しを伺って少し納得しました」

「リリアはマーリストンの側室になることは考えたことがありますか」

「考えたことがあります。これは二戦目ですか」

「こうはっきりと言われると……私の方が話しにくいですね」

「申しわけありません」

「リストンの立場もあるので、私たちはリリアがマーリストンの側室になりこの城での立場をしっかり作り、リストンを守った方がいいと考えました」


「……ありがとうございます。私はマーリストン様と話して、側室のことは彼に理解していただけました。マーリストン様よりもリストン様のために今回の剣の勝ち抜き戦は頑張ったつもりです。マーリストン様はもう大人ですから、リストン様は私が守らなくてはいけません。シンシア様と同じ立場になったようだと考えました」


 やっと自分の意見を長々と説明する機会を得た。


「私たちもそう考えました。マーリストンの正室には違う女性を選びます」

「分かりました。これは三戦目ですね。私たちはその話しもしました。マーリストン様はゴードン様の孫であるコーミンが好きなことをご存じですか」


 私は彼のためにここではっきりとした事実を教えた方がいいと思いそう言ったけど、コーミンの名前だけでも王様にインパクトを持たせたかったのだ。


「私はマーリストンの口から聞いてないので分からない。しかし、シンシアもバルソンからもそういう気がすると聞いたが……やはりそうなのですね」

「はい。私はマーリストン様と約束したことがあるので、彼の口からそのことを話すまでお待ちいただけますか。私が話したことは秘密にしてください」

「分かりました。私もまだまだ精気があるので王位を譲ることは考えていないが」


「……私は何度も王様と話していると、好きになれるかもしれません。今、ふとそういう気がしました。これは私の正直な気持ちです」

「そういうことを私に話すと、もっと気力が出て譲る時期が遅くなりますよ」


 彼からそういうことまで言われてしまう。


「それでは聞かなかったことにしてください」

「分かりました。私は父として王として、マーリストンを助けたリリアに感謝しています。ましてマーリストンの王子を産んでくれました。私はマーリストンよりもリストンの身の安全を考えました。マーリストンがいなくなり、あの気丈なシンシアの哀しみは耐え難かったです。この部屋に何度も呼んで泣くだけ泣かせました」


 彼から意外な話しを聞いて、私はまた驚いてしまう。


「そういうことがあったなんて……私は考えてもみませんでした」


 私はほんとうに驚いてそう言ったけど、彼女の心はそんなにも傷ついていたのだと思ってしまい、私が今まで考えていた以上に、彼女の心の中には悲しみと怒りと憤りが渦巻いていたのだということに、彼の言葉でより気付かされる。


「だから、私はこの部屋が好きなのです。これは内緒の話しです。セミルは何も知りません」

「分かりました。王様はシンシア様がお好きなのですね」

「私はセミルもシンシアも好きですが、リリアも好きになりましたよ」

「そういうことを私に話されても困ります」


 私はそう言い切ってしまったが、まったく何を考えているのか参ってしまう。


「この部屋では内緒話しができるので、二人だけの秘密でお願いします」

 彼はそう言って口止めするようだ。


「……分かりました。私はこのような話しを王様の口から聞くとは信じられません」

「それで、私はこの部屋が好きなのです。お互いに自由に話しができますからね」

「私はなぜそういうことを話されるのか、その意味も理解できません」

「そうはっきり言わないでください。この意味を理解してください」

「今夜の話しの意味も理解できなくなりました」


 私はもう一度はっきり意思表示をしてしまう。


「それでは話しを戻しましょう。マーリストンを連れ出すように頼んだ人間は、城の中の人間すべてを疑っていいと思いました。東西の問題だけではない。城の外の人間も考えられます。それで、私は原因の追及を皆の者の前ではしませんでした。そうすれば関係ない人間も疑われます。そうなればバルソンが責任を取り、シンシアのそばから外さなくてはいけません。バルソンだけではなく私の直属の者にも捜させました。セミルにも内密に捜させました」


「……そういうことになっていたなんて……私には言葉がありません」


 そう言った彼の話しを聞き、自分の気持ちが浮きのように一気に下がってしまい、深海のような深い状態の中で彼が城からいなくなったことを考えていたとは、私は人間が素潜りできる程度の上辺の海水のような部分でしか物事を考えていなかったようだ。

 

「セミルとシンシアは周りで噂されるほど仲が悪くはない。今回のことは王である私の最大の窮地です。それをリリアが救ってくれたのです。お礼が大変遅くなりましたが、ほんとうにありがとうございました。私は最初にこの言葉を言おうと考えましたが、リリアの顔を間近に見てつい側室の話しの方が口から飛び出し申しわけない」


 感謝の言葉を使ってくれた彼の気持ちは理解できたけど、王たるものがそういう言葉を私に使うとは、下がっていた私の評価が断然と向上してしまう。


「王様からこのような話しが聞けるとは信じられません。私たちが洞窟で生活していた間でも、ここでも同じ時間が過ぎていたのですね。バミスに出会ってバルソン様に会い、そしてシンシア様に会ってからそのことに気づきました。そして、自分の子供が産まれ自分が守らなくてはいけないと、今まで以上に考えられました」


 自分の心情を彼に隠すことなく伝えたつもりだ。


「リストンはリリアの子供ですが、マーリストンの子供である以上はこの南の城の王族の産まれになります。リリアは今まで通りにこの事実を隠し通せますか」


 彼からそう尋ねられて驚いたけど、私の判断に任せてもらえるのだろうか、とも思ってしまい、私にそうやって声がけをしてくれる気持ちに感謝したいと思う。


「この四戦目は難しいです。リストン様を今すぐ城に入れろとおっしゃるのですか」


「……その方がいいと思います」


「……五歳からだと聞きましたが……シンシア様もそのことをご存じなのですね」

「私が直接話すとシンシアには伝えてあります」

「分かりました。この四戦目はマーリストン様と相談してみます」


「……リリアは剣客なのですね。四戦目は難しいですか」


「……はい。五戦目もあるのですか」


 またこういう話しの続きがあるのかと思うが、話す彼も気遣っているような気もして、強硬手段でリストンを奪い取るような行動に出るわけでもなく、次期・王、次期・王子になりそうな彼らを庇護している私たちの存在を温厚に見守り、私の意見を取り入れてくれそうな……少し信じられないような気もする。


「……今のところは四戦目までですよ」

「分かりました。よく考えてみます」

「私はセミルとシンシアとは心が通い合って気が合うと思いますが、リリアとも共感する部分があると思います。私はそう思えてよかった。この南の城は私たちが守っていかなくてはいけません。南の城の王族は不滅でなくてはいけません。リリアもその王族の中に入ったのです。この意味が分かりますか」


「……よく分かりません……深く考えたことはありませんので」


「……そうですか。シンシアもそう言っていましたが、今からよく考えてください」


「……分かりました」

 私はそう言ったけど、ほんとうによく考えなくては、この意外な話しも考えなくてはいけないと思う。


 シンシア様にマーリストン様を王子の立場としてお返しすることが、リストンが生まれことでこの城に多大の影響を与えたことは自覚するが、王族としての子供たちは今後も生まれることが期待できるのに、何かあるのだろうか。子供の成長を(そば)める何かがあるのだろうか。


「今度またゆっくり話したいのだが、私はいつ呼び出すか分からない。私の呼び出しは断れないことも覚えておいてください」


 彼から念を押すように言われたけど、彼女たちもいつ呼び出しがくるのか分からないのだ。


「……分かりました」

「今夜はリリアと話せて楽しかったです。シンシアの部屋に送り届けてもらいます」

「ありがとうございます。今夜はこの部屋から出られるのですね。よかったです」

「リリアは力ずくでも出て行くと思いますが、違いますか」


 彼から笑みを浮かべてそう言われてしまい、確かにその考えは間違いではないが、自分の口元が少し上がりにやけたような気がする。


「その通りです。最後に王様にお見せしたい物がありますが見ていただけますか」

「えっ、何でしょうか」

「マーリストン様とシンシア様とバルソン様もご存じです。セミル様にもお見せしました。セミル様から王様に見せるようにと命令されました」


 ゴードン様の家族は省き、この城に関係している名前しか出さないけど、彼女の命令の言葉をここで使ってしまう。


「それを……セミルが命令したのですか」


 彼は私の瞳の中をずっと見ていたがその命令の言葉聞くと、彼のまぶたが一瞬大きくなったようだ。


「……はい」


 私はそう言ってから立ちあがり、背にしていた入り口の方を向き彼とは直角になるように、しっかり真横から見てもらえるような体勢をとり、ブレスを三度触れ合わせ、私の目の前に現れたソードの鞘を左で持ち、柄を右手で持ち引き抜き、左手を下にして中段の構えで剣先をぴたりと静止させ、私の視線が剣先を見つめ、この城に関わる人たちに見せたのが四回目にして、最高権威者であるこの南の城の王に見せることができ、しばし自分の感情を殺してから、私は鞘に戻し消してから椅子に座り直す。


「……信じられない。この南の城の言い伝えはリリア様でしたか」


 突然私のことを様付けで彼がそう呼んだので、それほどまでにこのソードの言い伝えは、この南の城には根付いていたのかと思う。


「セミル様にも話しましたが、それは私ではありません。ここは南の城の王族の人たちが変えていくと思います。代々の王様が守り抜くと信じています」


 私はマーリストン様のことを言いたかったけど、今の段階では話すことができないので、王族の言葉を使って説明する。


「……分かりました。私もよく考えますがリストンの立場も考慮して、マーリストンを次の王にしましょう。このことは二人だけの、ここだけの話しにしてください」


 彼の真剣そうな眼差しの中に、ソードを見たという彼の現実感が脳内細胞を視覚探査として焼き付けられたような気がする。


「……ありがとうございます。マーリストン様は南の城のことを学ばなくてはいけません。私も同じことです。私はリストン様のことだけを考えます」


「……分かった……昼間は忙しくて考えられない。今夜は眠られそうにもないな」


 彼は自分の殻に一瞬閉じこもったように、ぼそりと呟いたような雰囲気の声の響きである。私にはそう聞こえてしまう。


「今日はシンシア様の側近として、そばに置いていただけたことに感謝します」


 私はこの言葉を言うのを忘れていたので、彼の意識を彼女に惹き付けよう思いそう話してしまったけど、私の視線は彼を捕らえていたが、彼の意識はやや呆然としているよな、消えてしまったソードに位置に視点が合っているような雰囲気で、私を見ているようだが視線の矛先が、ソードが消えてしまったドアの方にも移動しているようだ。


「……今夜はリリアと話せてよかった。シンシアの部屋に送りましょう」


 先ほどと違い彼の意識が現実に戻ったみたいでそう言ったから、少し安心する。


「ありがとうございます。マーランド様とお話しができて嬉しかったです」

「近いうちにまた話しを聞きたいですね」

「はい。ありがとうございました」


 私がそう返事をすると、彼は椅子から立ち上がり隣の部屋へ行く。


「ドーラン、シンシアの部屋にリリアを送り届けてくれ」

「かしこまりました」


先ほど迎えにきた彼のような声の響きが小さいながらも聞こえるので、彼の名前はドーランということが分かった。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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