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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第三章 『出会いから、八年ほど過ぎて……』
71/165

71=〈王様との拝謁〉 (1)

    ☆ ★ ☆ (37)


『ソーシャル、セミル様の話しは信じてもいいのよね』

『それはご主人様が考えればいいと思います』

『前から思っていたけど、リリアとご主人様の使い分けはどういう意味なの?』

『えっ、そういうことを聞かれるとは、私も返事に困ります。気にしないでください』

『気になるから聞いているのでしょう?』

 私がやや強めに声を響かせてそう言うと、

『リリアはなぜだと思いますか』

『えっ、ソーシャルが考えても分からないときの返事だと思ったけどね』

『リリアがそう思えばそれが正しいです』

『それって逃げているの? 私が間違っていたときの自分のいいわけですか』

 さっきよりも強めの言葉でそう言ってしまう。


『そういうことをリリアから言われるとは、これも私の不思議ですね』

『その不思議のも意味が分からないけどね。ソーシャルが困ったときにいうの?』

『えっ、リリアがそう思えばそれが正しいです』

『要するに、すべて自分で考えろと言っているのね』


『……はい。リリアがそう思えばそれが正しいです』

『今度はこの言葉に代えないでね。私は前の言葉の方が好きですからね』

『分かりました。私もこの言葉は好きです。私を大いに利用してください』

『ありがとうございます。ソーシャルにも分からないことがあるのね。ソーシャルが分からなければ私も分からない。だから聞いているのにね。でも、こういう話しになったなんて信じられない。これから先はなるようにしかならないのね。私に何か閃きが起こるのかしら?』

『私を大いに利用してください。私もこの言葉しか閃きません』


 彼女のそう言った声の響きからして、この会話の流れから何かを考えているのだ、と思ってしまったけど、彼女にも理解できないことがあるのだ。


『この際だからもう一つ聞いてもいいの?』

『何でしょうか』

『子供たちの左足のブレスは何か意味があるの?』

『前に話しましたが、両手ではソードが突然に飛び出すと危険だからです』


『……なるほどね。私はそれだけの理由ではないと思うけどね』

『リリアはどんな理由があると思ったのですか』

『それが分からないから聞いているのに、ソーシャルは何でもできると思ったからよ』

『私は何もできません。リリアの方が何でもできます。私は人間ではないです。私はソードです』

『そのソードの意味も分からないけどね』

『えっ、リリアからそういうことを言われるとは、これも私の不思議ですね』

『まったくーっ、そうやって私の言葉から逃げているのね』

『違います。リリアは女性です。過去も未来も男と女しかいません。子供を産んで次の世代に引き継ぐのは女の仕事です。私はその手伝いをしているだけです。そう思うとリリアは何でもでもできると思います』


 セミル様の言葉もソーシャルとの会話も意味が理解できない。力を尽くして犠牲を払って折角ここまで来られたのに、やっと城の中にたどり着いたというのに、三人で何を話し合ったということなのだろうか。


 何か考えなくては、今の私は何も閃かない。行き詰まって困窮した状況が発生したと思うが、何を知らなくてはいけないのか。その根本的な意味すら分からない。どこまで知ることができるのか。その初歩的な段階すら不明だ。


 根っからの日本人的な思考の過程を外して考えているのだろうか。城の外と中では物の道理が違うのだとは理解できるが、また一からやり直しになったようで、私の考えが行方不明になってしまったのだ。


 防音壁みたいな秘密を外に漏らさない、隠し部屋的な存在があることだけは分かったけど、この城の内部情報が少ないことが原因なのだ。シンシア様の部屋へ戻る途中で、私の日本人としての哺乳類的な脳みそが色んな思考回路を検索していた。


     ☆ ★ ☆ (38)


 シンシア様の部屋へ戻ると、すでに王様からの使いの者が待っていて、そばの者は連れてこないようにと言われたので、ルーシーもマーヤも連れずに迎えの者と二人で王様の部屋へ行くことになる。検問所みたいなこの建物の外に出る場所から、二人の兵士が前後に歩くことになった。


 右手方面の空を見上げると、ほんのりと太陽の残骸が残っていて、まだ外はやや明るかったけど、シンシア様に確認することもなく、五人の男たちに見守られながら、今度は王様に謁見することになったのだ。


     ☆ ★ ☆


「ここでお待ちください」

 迎えの者はそう言って階段をあがり部屋の中に入っていく。


『リリア様をお連れしました』と彼がそう言った言葉が聞こえ、しばしの経過の後に、『王様から部屋へ入るように言われました』と、階段の上から迎えの者がそう言ったので、私はその階段を上あがり中に入る。


「私は今からリリアと奥に入る。皆の者は下がりなさい」

 王様がそう言うと、『かしこまりました』と、迎えの者が即座にそう言って、この部屋には王様と私だけになる。


「こちらへどうぞ」

 彼はそう言って私を奥の部屋へ導いたので、『ありがとうございます』と、私は返事をして彼の後に着いていく。


「ここに座ってください」

「ありがとうございます」


 私がそう返事をして、王様が座ったので私も椅子に腰かけたけど、私が椅子に座り彼を見ると、彼は私の瞳の奥底を確かめるかのような雰囲気で私を見つめている。


「私は剣の勝ち抜き戦後に初めてあなたを見たときに、私が想像していたよりも素敵女性だと思いました。シンシアみたいに剣客で、何ごとにもはっきりと自分の意見を話す女性は好きです」


 最初からこういう言葉を使われて驚いてしまい、『ありがとうございます』と、いう以外に言葉はない。


「私は南の城ではここがいちばん好きな場所です。この意味がリリアに分かりますか」

「いえ、分かりません」

「この部屋は眠ったり話しをしたり楽しんだりと、周りの人間に気兼ねせずに、ここに来る女性と自由に何でもできるからです。そう思いませんか」


「……分かりません」

「なるほど。私はやっと二人で話しをすることができました。マーリストンとリリアのことを知ってから今日まで長かったですね」

「申しわけありません。こちらも色んな事情がありましたから」

「そうですね。私があなたをここに呼び出すと断れないことは知っていますか」

「はい」

「セミルから私が話してほしいと言ったことを聞きましたか」

「はい」

「分かりました。この部屋ではお互いに二人だけになり、たまに朝まで二人でいることもありますが、私たちだけの秘密の話しもできます」

「そのように伺いました」

「私はシンシアからマーリストンがリリアを側室にしたいと言うと許可しないように頼まれました」

「私もその話しは聞きました」

「それでは……この私がリリアを側室にしたいと言えば、あなたはどうしますか」


 突然彼がそういう言葉を口にしたから、私はおったまげてしまう。


「……そういうことは考えたこともありませんでした」

「マーリストンも男ですが私も王である前に男です。そういうことは考えたことはありますか」


「……いえ、考えたことはありません。男である前に王様であると思っています」

 私の思考がぶっ飛んでからそう言ってしまう。


「なるほど。シンシアはあなたがマーリストンのことばかりを考えていると言っていました。リリアが私の側室になれば、マーリストンを次の王に必ず即位させましょう」


 彼は条件付きみたいにそう言ったので、私の頭がカチンときたね。


「私はマーリストン様をこの城に戻すことばかりを考えていましたが、このような言葉を聞くとは……王様は少し考え違いをしています」

 先ほどよりも理性が取り戻せたような気がしてそう言ってしまう。


「この城にマーリストンはもう戻ったので、私を男として考えてください」

 彼がそう言ったので信じられないと思い、この会話はどういう意味合いを含んでいるのだろうか。


「それは考えられないし分かりません」

「それは答えられないということですか」

「答えられないというよりも、分からないということです」


「……なるほど。私がなぜこういうことを話したか考えられますか」

「考えられません」

 私ははっきりと強めの声の響きで言ったつもりだ。


「それでは、次回会うまでに考えておいてください」


「……私はさっきその言葉を聞いて驚きました。この言葉は後からゆっくり考えようと思いましたが、一瞬私の頭の中で閃いた言葉を伝えてもよろしいですか」

「私も聞いてみたいです」


「……側室にはなれない……と閃きました」

 私は一瞬ためらったけどそう言ってしまう。


「そうはっきり言わないで考えてみてください。しかし、私がそれを望めばリリアは拒否できません。私はシンシアからリリアことを聞いて色んなことを考えました。男として当然のことだと思いますが」


 彼はとんでもない発言をしているのだけど、自分で気付いているのだろうか。一気に好感度のランクが下がったんですけど。


「私は王様とセミル様のことはほとんど聞いていませんでした。それでお会いしたいと思っていましたが、この側室の言葉は聞かなかったことにしてもよろしいですか」

 私は冷静を保ちながらそう言うと、

「しかし、男とはそういう人間だと理解してもらえますか」

「この言葉は以前に違う人からも言われたことがあります。だから私は理解しているつもりです。まさか王様からこのような言葉を聞くとは意外でした」

「なるほど。お互いに二人だけの秘密なのですね」

「はい。この部屋と同じだと思います」

「私は王として、その相手の名前を聞きたいと命令すれば教えてもらえますか」

「王様でも男でもそれは無理です。ここでは何でも話せるのですよね」


 私は強めの言葉でそう言い返してしまったが、彼は会話の持って行き方がうまいと納得してしまう。会話のテンポに負けてしまいそうだ。


「なるほど。セミルやシンシアと同じであなたを好きになりました。側室の話しはあなたのこと確認するために話しました。私の質問に上手に逃げ切ったのですね」


 彼がそう説明したから、逃げ切ったってどういうことよ、と思ってしまう。


『ソーシャル、どうなったの?』

『分かりません』


 こういう質問をするなんて考えられないと思い、マーリストン様は実力で王の力を勝ち取ると思いながらも、マーリストン様に対する私の気持ちを確認したかったのだろうか。


「……今日はこのような流れで話しをすることを考えていたのですか」

 私は少しためらったがそう聞いてしまう。


「あなたを側室にする話しですか」

「はい」

「違います。私がリリアを側室にする話しをすれば、私はシンシアに首を切られてしまいます。彼女が怒ると怖いです。この話しは秘密というよりも聞かなかったことにしてください」


 彼はやや笑みを含めた表情で、私を見つめながらそう言うのだ。


「……分かりました。お約束します」

「シンシアはリリアのことを心から尊敬しているし信じています。私はそのように受け止めています。私はその意味を理解しようと思い、今夜はあなたに会うことにしました」


「……ありがとうございます」

「あなたがマーリストンのことばかりを考えていると聞いたので、私はあなたに難問を投げかけてみました。この話しを断る勇気があるのですね」

「えっ、難問を投げかけて私を試したのですか」


 私はまた強めにそう言い、何なのよこの人は、と思ってしまう。


「そういうことです。私は自分の命は大事ですからね」


「……私は一戦目を勝ち抜いたということですね」

 これは戦いの場面だと思い、少し考えそう言ってしまう。


「おもしろい表現ですね。その通りです。話しは変わりますが、今までこの部屋でセミルとシンシアと二人で話したり、三人で話したことがあります。私たちが話すことはこの城の行く末です」


 彼がそう言ったから、今度の会話はまともな言葉になったと思うが、城の行く末とは城の未来のことなのだろうか。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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