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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第三章 『出会いから、八年ほど過ぎて……』
70/165

70=〈セミル様の存在〉 (2)

前回の続きです。

少し長文です。


「私たちは内緒で会っていましたから調べても分からないと思います。バルソン様もそのことは理解していると思います」


 私はバルソン様とはほんとうに隠れながら、たまに会って相談をしていたが、シンシア様の部屋で話したことも、調べてばれるようなへまはしたつもりがない。


「よく今まで隠し通せましたね。だからあなたのことを二人が信じているのでしょうね」

「シンシア様とバルソン様のそばの者たちがお二人を心から尊敬して信じているので、数人の人しかこの事実は知りませんでした。私たちはお二人の周りの人たちに助けてもらい、私だけでは隠し通せなかったと思います」

 私は協力者がいることも含めてそう説明すると、

「なるほど。私も疑われましたが信じてもらえました。今の王様は寛大な心をお持ちです。だから、王様は話しを大げさにしなかったのですよ。バルソンをシンシアのそばから外すこともしなかったし、王様はこの城の行く末も考えています。バルソンはこの城では重要な存在だと私も理解しています。バルソンが王子様を見つけてシンシアに報告し、二人で王様に話したと聞きましたけどね」

「それは間違いありません。バルソン様の配下と私たちが出会いましたから、私はバルソン様ともお会いしました。マーリストン様は私と出会ったときから礼儀正しくて賢かったです。そのことは詳しくは話せません」


 そう言った私の言葉を彼女が信じてくれるか分からないけど、どこまで知っているのかも分からないし、何も伝えない方が賢明だと思う。


「なるほど。その話しを聞いけば何日もかかってしまいますね」

 セミル様は軽く笑みを浮かべた中に、私たちの状況を少しは理解しているかのごとく、そう言ってくれたような気がするけどな。


「はい」

 私はそう返事をしたけど、彼女の言葉をどこまで信じていいのか分からない。


「シンシアは王様と私が二人で話したことは全部知らないと思います。私も王様と彼女が話したことをすべて知っているわけではありません。今度は王様がリリアと直接話すとおっしゃいました。王様の寝室に入って話します。あの部屋はほかの人間は誰も入れないし秘密の話しができます。呼び出されても驚かないようにしてくださいね。そのことを私から伝えてほしいと言われました」

 セミル様はそう説明してくれたから、寝室が隠し部屋みたいになっているのだろうか。


「分かりました。私はセミル様の王子様の話しは聞いたことがありませんが、お聞きしてもよろしいですか」

「なるほど。シンシアもバルソンも何も話しませんでしたか」

 彼女はそう言ったけど、彼女の顔色は読めず、事実なんだけどな、信じてもらえたかな、少しでも色んな情報が欲しい。

 

「はい。ほんとうに何も聞いていません。信じていただけますか」

「分かりました。私は姫と王子と二人の子供がいます。シンシアはマーリストン様だけですが、彼が産まれるときは大変だったと聞きました。私も王子を産むときも大変でした。リリアも大変な思いをしたのですね。二人ですからね」

「はい。その後もとても大変でした」

 私がそう言った後に、ほんとうに大変だったことが思い出された。


 彼らがいなかったらどういう展開になっていたのだろうか。

 彼らがいたからこそ、私はここに存在することができた。

 子供たちにはほんとうに感謝をしていた。


「そうですね。私たちは共通の話題があってよかったですね」

 セミル様がにこやかにそう言ってくれたから、

「はい、ありがとうございます」

「セミールが私の姫の名前ですが、王子の名前はマージュンと言います。セミールが生まれて五年ほどでマージュン様が産まれました。私はマージュン様が産まれる前から体調が悪くて大変でした。何が原因だか分かないけど彼は体が弱いです。だから……私の周りの者たちがマーリストン様の命を狙ったと思います」

 セミル様がそう説明したので驚いてしまう。


「私はマージュン様が体が弱いことを初めて知りました。二人はほんとうに何も話しませんでした。そう思うと王様にも名前がありますね。私は聞いたことがありません」

 私はそう言ったけど、実はソーシャルから名前を聞いて知っていたけど、嘘も方便という言葉がある。


「リリアはマーリストン様のことばかりを考えているからいけないのよ。これから周りの人たちのことも知らなくてはいけませんね。王様の名前はマーランド様といいます」

「マーランド様、だからマーリストン様とマージュン様というのですね。リストンと名付けたことはいけなかったのでしょうか」

 私が名前続きでそう尋ねると、

「それは私が口出しすることではないです。マーリストン様とリリアが考えればいいことです。すでに名前があるので誰も反対はできません。安心してください」


 彼女がそう言ってくたからよかったと思い、この城に入ってから彼の名前が変るようなことになれば、彼の運命が変わっていきそうな気がする。


「ありがとうございます。私はバルソン様に二人の息子さんいらっしゃることもずっと知りませんでした。それを知ったときに自分でとても間抜けだと思いました」


 私はバルソン様やバミス様の家族のことを考えていなかったので、シンシア様からあの話しを聞いた後に落ち込んだのよね。


「私はリリアと直接話せてよかった。シンシアが自分で説明するよりも、直接話した方がいいと話した意味が少し理解できました。私は王様もその方がいいと思います」

 彼女がそう言ってくれから、『ありがとうございます』と私は返事をしてしまう。


「バルソンと城の外で会ったことは理解できますが、シンシアとどうして会ったのかが分かりません。シンシアが市場に出かけたときに会ったのですか」 

「はい。バルソン様が手はずをしてくれました」

「なるほど。私は市場には行ったことはないですけど、少しは話しを聞いたことがあります」

「市場は色んな人間がいますから楽しいです。そのような中でマーリストン様は過ごしてきました。王子様は市場の人間の考え方を学びました。これから城での考え方を学ばなくてはいけません。そして両方のことを考えなくてはいけません。私はマーリストン様にたくさんのことを考えてくださいと説明しました」

「なるほど。確かに色んなことを考えなくてはいけませんね」

「セミル様はマーリストン様が次の王になることを認めていただけるのですか」

「えっ、そういう言葉がリリアの口から飛び出すとは驚きました。リリアは何でもはっきりと話すとは聞きましたが……二人からそういう言葉は聞いたことがありません」


 彼女の表情は驚きであり、怒っているような気配は感じられない。


「申しわけありません。言い過ぎました」

 私がそう言って即座に謝ると、

「それは王様が決めることですから、私は答えられません。あなたたちがそう考えていることは理解しているつもりです。それはマージュン様も王子ですから同じことですからね」

「申しわけありません。私は出すぎた言葉を使いました」

「そういう言葉を聞くとは思いませんでしたが、南の城の行く末を考えると、そうなった方がいいと考えています。私はマージュン様がこの城に関して、今の王様のように導いていけるかどうか心配です。それよりも静かに好きなように過ごした方がいいとも考えました。それは王様が決めることですからね」


 彼女の声の響きは優しく私に問いただしているように聞こえ、自分の考えを私に説明してくれたようで、彼女の本心を少し垣間見たような気がする。


「分かりました。リストン様はマーリストン様の王子様と認めてもらえましたが、正室に王子様が産まれれば、リストン様は外からこの南の城を助けてもいいと思います。私は自由にさせたいと思います」

「なるほど。そういう先までのことを考えていたのですか」

「はい。私たちは外で自由に生活していましたので、私はここのことは詳しく知りません。リストン様が考えられるようになれば自分で決めればいいと思います」

「私もマージュン様の考えも聞いてみましょう。今まで一度も聞いたことがありません。リリアの考え方は飛び跳ねていますね。それをシンシアは自分で確認してと言っているのですね」

 セミル様はそういう言葉も使ってくれて、私はまた驚く。


「私はシンシア様の考えは分かりません。でもマーリストン様は王子様ですから、王様とシンシア様の子供です。私はリストン様の母親です。今後は彼のことだけを考えていきます。今の私はそのためにここにきたのですから、自分の子供を守るためです」

 私は自分の意見もはっきりと言ったつもりだ。


「よく分かりました。リリアだけではなくて私たちもリストン様はお守りしますよ」

「ありがとうございます」

「リリアの考えを直接聞けてよかった」

「ありがとうございます。私はマーリストン様と出合った最初のころは何も考えていませんでした。でも、色んな事実を少しでも知ってからいろいろ考えられるようになり、私がマーリストン様を助けたのは偶然ですが、子供を授かったのも偶然だと思います。意図はありません。そのことも信じていただきたいです」

 私はそう言って、自分の考えたこともしっかり彼女に伝えたつもりだ。


「……分かりました」

「ありがとうございます。私たちの子供のことをご存じなのは、王様とセミル様とシンシア様とバルソン様とバミス様とゴードン様の家族だけです。私がゴードン様の屋敷にいて、私の子供だとは知っていても、ほかの人は誰も二人の子供だとは気づいてないと思います。このままリストンが五歳になるまで隠し通しますので、今後ともよろしくお願いします」

 私が現状をそう説明すると、

「分かりました。シャーニンにも話さないようにしましょう」

 彼女はそう言ってくれるのだ。


「ありがとうございます。私は今からシンシア様のおっしゃった言葉の意味を説明しようと思いますが、驚かないでください」

「えっ、信じられないという言葉の意味ですか」

「はい。私は自分の子供が生きていく南の城の行く末を自分なりに考えています。マーリストン様もシンシア様もバルソン様にもお見せしました。それで三人は私を信じてくれています」


 私はそう言って立ちあがり、彼らに見せたようにセミル様にもソードを見せるのだ。


「……そ……それは何?」

「私のソードです」


「……信じられない。どこから出て来たの?」

 セミル様はすでに立ち上がっている。


「それは言えません。このソードは私にとっては不思議な存在です。私がマーリストン様と出逢い助けたのは偶然でしたが、すべてはこのソードのお陰です」


「……信じられない」

 彼女はそう言いながらも、このソードに視線が釘付けになっている。


 私は二人には構えて振って見せたけど、彼女には視覚の中に留めてもらおうと思い、両手で持ち替え鞘から半分ほど引き抜き、しばらく剣の部分をセミル様に見てもらい、全部抜き出すと、自分の意識が持ち去られるようになるのを防ぎたかった。


「マーリストン様が私のことはいちばんよくご存じです。バルソン様とも何度もお会いして話しをしましたので、私のことを理解していただけたと思います。そして、シンシア様にお話しになったと思います。セミル様も私のことを信じていただけますか」


 私は最後の駄目押して語気を強めてそう尋ねる。


「……リリアは南の城の言い伝えのことを知っていますか」

 そう言った彼女の視線は私を見ることもなく、ソードに張りついたようになっている。


「えっ?」

「私は『ソードを持った若者が南の城を救う』と聞きました。シンシアは知っているかどうかは分からないけど、この言葉は王様から聞きましたよ」


「……私はその言葉をバルソン様から聞きました。でも……それは私のことではありません」

「なぜ? 私はリリアの話しを直接聞き王様やシンシアの話したことを合わせると……今ふとそれはリリアのことだと思いましたよ」


 彼女の口からその言葉を聞くとこができたので、王様とシンシア様は少なからず、私のことを彼女に説明したのだ、と確信がもてたけど、確かに何かしら説明しないとな。


 その内容を知りたいと思ったけど、シンシア様がいちばん私のことを理解しているとは思う。彼女を悩ませてしまったようだな。


「それは違います。それは私ではありません。それは言い伝えですので、ここは南の城の王族の人たちが変えて行くと思います。それには正室や側室は関係がないと思います。私はそのように考えました。今の私はリストン様を守ることしか考えられません。リストン様はマーリストン様の子供として産まれましたから」


 一気にそう説明してしまったけど、何だかよく分からない。三人の共通の話題がいまいち分からない。言葉が難しい。


「分かりました。リリアも王様にそれを見せなさい。これは命令です」

 彼女が命令の言葉を使うほど、この言い伝えは浸透しているのだ。


「……私はその命令に従いたいと思います」

 私はそう言ってしまう。王様に見せるための口実にもいいような気がする。

 

 ソーシャルが私たちのことを考え、過去に遡りこの言葉を作り出したのだとそう思い、前にソーシャルにも話したけど、間違いないと確信がもてたので、王様にも見せようと思う。


 私は城で初めて食べた豪華な食事と、セミル様との白熱した会話に満足した、というよりも二人の会話が終り、緊張感が一気に抜けてしまい、肩の荷が降りたというのかどっと疲れが増してしまった。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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