7=〈滝の言い伝え〉 (1)
長文なので、三回にわけてあります。
☆ ★ ☆ (11)
「ケルトン、話しに参加させなくて悪かったわね。ケルトンの存在は必要以上に知られては困ると思ったのよ。自分の立場が理解できるでしょう? ちょっと待ってね。ソーシャルに聞きたいことがあるからね」
「分かりました」
『ソーシャル、私たちのソードはほんとうに剣として使うことができるの?』
『できます。ソードが立っている間に柄の部分を握ると変化します』
彼女がそう説明してくれたから驚き、今までそういうことはしたことがなくて、ソードが向こう側に倒れて少し幅が広くなり、座り心地としてのお尻の安定感がよくなって、自転車のハンドルほど長くはないが、鍔の部分が少し左右に伸びて両手でつかめるようになることしか知らなかった。要するに、ソードが変形するのだ。
『なるほどね。ケルトンのソードを見てね、あの大きさであれば剣として使いこなせると思ったのよ。今から滝の中に入るからね。危険が潜んでいるといけないので中に入ると剣にするからね』
『分かりました。トントンにも話します。できれば片方だけにしてください』
『何で?』
『リリアのソードに乗りケルトンは剣にしてください』
『分かった。すぐ逃げ出せるようにした方がいいのね』
『はい』
「ケルトン、お待たせ。今から二人で滝の中に入る。流れの少ない場所を確認して一気に入るからね。中に入ると私のそばから離れないで、ソードが立っている間に柄の部分を握ると剣に変化するそうだからからやってみて」
私はそう説明したけど、自分でやったことがないので彼女の言葉を信じるのみだ。
「ほんとうに剣になるのですか。だから私のソードはリリアのよりも小さいのですね。大きいと私が使うことができません」
彼の言葉はいつもと違い、感情が外に表れ喜んでいるみたいだ。
「ほんとうにそうね。滝の中はどれくらいの奥行きもあるか分からない。この言い伝えを信じて二人で見つけようね」
「はい。分かりました」
空中に浮くソードは柄の方が正面として進み、スピードはソーシャルが判断しているようで、私の体を右に傾けると右の方向に、時には言葉で表現して、その微妙な角度調節は最初に比べるととても上手になったと思う。
二人で乗るときには前に座る方がバランスを考えて進み、今度からケルトンも自分のソードがあるので、寂しくなるけど二人で乗ることも少なくなると思う。
☆ ★ ☆ (12)
私は滝の存在はもちろん知っているが、このソードに乗ってから上から流れ落ちる滝壺の水の存在をこんなにまじまじと見たのは初めてであり、水が流れ落ちている側面の数箇所に岩が飛び出した場所があるけど、水がその岩にあたり下に落ちようとする流れは、その岩の左右に少し分散され、下に流れ落ちる水の勢いがそこだけ弱いような気がして、左右の隅も確認したけど流れの側面が三日月のように曲面になり、滝の真ん中辺りの奥が空洞になっているような気がする。
「ケルトン、あそこの流れの弱い場所から一気に中に入るからね。降りるとすぐソードを出して剣にしてね。それからケルトンは後ろ向きに座って」
私はそう言いながら、滝の中ほどに飛び出した岩の下の方を右手で示す。
私たちはいったん地上に降りて、私は『ミーバ』の入った袋を前向きして腕に通したと同時に、ケルトンが背中合わせに座ったのを確認して、子供が遠足に行くときに使うような長方形のビニールシートを『ミーバ』から取りだす。
「この隅を左右の手でしっかり力を入れて持ってね。体が濡れないように真上に持ち上げるけど、水が落ちてくる力は強いから負けないようにね。行くわよ」
「はい」
私たちは一気に水の流れの中に入ったけど、水が真上から落ちてきたのは一瞬のことではあるが、その水圧に驚き手が一瞬水の重さで負けてしまいそうだった。
私よりケルトンの方が腕の長さが短いので、私が先に受けた水はケルトンの方に流れが変わり、私は何とか水圧をごまかすことができたけど、彼も驚いたと思い、私は両手を挙げたままで一瞬奥の方を見つめると、彼はすぐに飛び降りてソードを出し私の左側に来る。水を彼とは逆の方で振り払い、それを『ミーバ』の中に畳んで、少し右側を向いて彼に直接見えないように入れ、私は袋の口を縛る。
入り口の紐をしっかり縛ると、それを合図にしたかのように膨らみが消えて、いつもと同じ光景で見慣れてはいるが、この行為は不思議以外に言葉はない。
入り口付近は少し明るくて、場所によっては上から水滴が落ちてくるし、太陽の光が奥の方には届いていないようだ。
私は『ミーバ』にお願いした物を取りだし、一つは自分の首から提げる。
「ケルトン、これを首から提げて」
「はい」
「奥が暗そうだからこのままソードで入ろうかな」
「はい。足元が滑りますね」
「私の後ろに座ってね」
「はい」
「ケルトン、ソードの握り心地はどうなの?」
「バルソンが剣の柄を握ると感じるものがあると前に教えてくれました。この剣の力が私にも感じるようです」
彼がそう言ったから、そういう教えも受けているのかと驚いてしまったが、剣の力が感じるとはどういう意味なのだろうか。
「城では自分の剣を持っていたのでしょう?」
「はい。トントンの方が少し大きいです」
「ケルトンの成長に合わせてこれも大きくなると思うよ。バルソンには連絡が取れるの?」
私は連絡が取れる方法を聞いたつもりだけど、ほんとうに剣の大きさが大人になると変わったりするかしら?
「はい。城の外にシーダラスと呼ばれる屋敷があります。私は行ったことがありません。城の外で何かあればその屋敷を尋ねるように、とバルソンに言われています」
彼はそう説明してくれたけど、彼らの隠れ家みたいな存在の屋敷なのだろうか、と思ってしまう。
「分かりました。シーダラスの屋敷ね。私がそのお屋敷を調べてみるからね」
「はい……『けるとんとん』という合い言葉も覚えておいてください」
彼はそう言って合い言葉まで教えてくれるが、今まで何も城のことは話さなかったのに、私たちが城の近くに行くということが分かったので、それで話しをしてくれるのだろうか。
彼にも自分の立場があると思うから、彼なりに色んなことを考えているとは思うけど、彼の名前はその合い言葉から取ったような気がするが、それとも合い言葉を忘れないように、何かあればその言葉を名前にしなさい、と言われているのだろうか。
すべてバルソンの教えなのだ。こういう状況が起こることを予測し前もって彼に教えていたのだと思うと、バルソンを捜しだして会わなくてはいけない、と私は強く思ってしまう。
「今度はソーシャルにゆっくり進んでもらうからね」
「はい」
「そうだ、これはライトというのよ」
「はい」
「ここの所を少し強く押すと明かりがつくのね」
私はそう言いながら右手に持ち、自分の肩越しから彼に見えるように、光源とは反対の先端を一度押して電源の入れ方を教える。
「分かりました。リリア、一つ聞いてもいいですか」
「いいわよ」
「私はリリアと出会ってゴードンが話していたように、不思議なことばかりが起こります。そのことは考えない方がいいのですね」
彼の以外な言葉を聞いて、私は一瞬言葉に詰まってしまう。
「……そういうことね。私も理解してないからね。考えても分からないことがあるよ。私の頭の中に勝手にその言葉が閃くから……説明ができないのよね。ごめんね」
「分かりました。私はリリアと出会って色んなことが勉強になり楽しかったです。今までバルソンが教えてくれたこともです。私は二人に感謝しています」
彼からこういう言葉を聞くとは意外で、 短時間ではあったが城の近くに移動することで、新たな考えが起こったのだろうか。
「そう言ってくれてありがとう。彼には必ず連絡するからね」
「はい。よろしくお願いします」
「ケルトンが生きていることを知らせなくてはね。二人で会ってから今後のことを相談するからね。ケルトンがそのことで動いてはだめよ」
危ないからそう注意したつもりだけど、彼が勝手にソードに乗って行動されては、トントンがいるから安心はしているけど、その意味は彼も理解していると思う。
「分かりました。私は自分の存在は消します。今の私はケルトンです」
彼が力強くそう言ったように聞こえてしまう。
「バルソンの教え方が上手だったのね。今のケルトンを見ているとそう感じるのよ」
「ありがとうございます」
彼はそれ以外の言葉は使わないので、バルソンの情報が欲しいけど、ここで深入りはしない方がいいような気がする。
「それじゃ中に入ろうか。奥は暗そうだからケルトンは右手に持って右側を照らしてね。私は左側を照らすからね。こうやって持ってね」
私はライトを下から握りしめ、自分の左肩の前辺りから前面を照らす。
「はい」
「はい、以外に言葉はないよね」
「はい」
ケルトンは左手でソードを持っているので、私は右手でライトを持たせたけど、ソードを使う状況になれば、右手のライトは紐で首から提げてあるのですぐ使える。
私が前に座っているから、前面が見えるように少し右側に体を寄せて座っているような気がして、彼の声は右側から聞こえている。
今のケルトンは私の言葉を素直に聞いているが、ゴードンと一緒に住むようになると、年相応の子供たちとのつき合いも始まると思うし、自分の立場して学ぶべきことがたくさんあると思うが、私は何を教えてあげればいいのだろうか。
自分自信のことがよく理解できてない。私はなぜこの時代にいるのだろうか。今まで住んでいた時代が違うような気がしている。ゴードンは右手のブレスだけだ。私は両方の手首にブレスをしている。彼と同じで私が目覚めた時にも言葉が聞こえたのだ。
こんなに古い生活空間が信じられない。洞窟での生活は自然そのものである。私の持っている『ミーバ』がなければ生きていけなかった。この『ミーバ』の存在はソードと同じように信じられない。なぜ、私がこれ物を持っているのだろうか。
私が生きていた時代から比べると、私の思考ではゴードンの服と馬車を見る限りでは、生きること自体が古い時代の大自然なのだと実感する。ケルトンはこの時代に生まれたのだ。彼も子供ながらにいろいろ考えていると思うが、私たちはすでに出会ってしまったからもう後戻りはできない、と頭の中でいろいろな考えが浮かび上がる。
二人でライトを照らしながらでゆっくりと奥に入ると正面が左右に分かれて、私が後ろを振り返ると滝の裏側は少し明るく、この先は左右ともに真っ暗だ。
私は右だと閃くので、私の体を右側に少し倒してソーシャルに進んでもらい、右側と言えば私たちの洞窟の方角だと思うが、右側に曲がるとその先は真っ暗になり、何事も起こらずに私たちは進む。
どのくらい進んだのだろうか。ライトを当てると周りの壁がさっきよりもほのかに明るくなる。
「ケルトン、さっき教えた場所を押してライトを消してみて」
「はい」
彼がそう返事をして消すので、私も消すと一瞬真っ暗になってしまう。
「また押して」
「はい」
「さっきよりも壁全体が薄い緑色みたいだと思わない?」
「木の葉っぱと同じような色ですね」
『ソーシャル、この先の壁がライトをつけると薄い緑色なるけど分かる?』
『分かりません。ゆっくり進みます』
彼女はそう言って進んでくれる。
「壁がライトの光に反射しているのかしら?」
私がそう独り言のように呟くと、
「反射とは何ですか」
「ライトの光が壁に当たってはね返ってくることよ」
「壁がはね返しているのですか。これも不思議なのですね」
「えっ、これは普通のことだと思うけど、蛍石かもしれない」
「えっ、その蛍石とは何ですか」
「説明が難しいけど、光があたると壁の石が明るくなるのよ。満月の光みたいに周りが明るくなり目で見えるのよ」
「そういう石があるのですか。私は知りませんでした」
ふと私の頭の中で『紫外線ライト』という言葉が閃いた。なぜこの言葉を知っているのだろうか。私の『ミーバ』が少し重くなる。私は袋からライトを取りだして首に提げる。これは最初のライトよりも少し太くて握りやすい。前のライトを首から提げたままにして、その明かりでよく見ると前面にカバーがあるみたいだ。私はそれを外して袋の中にしまった。こういう物をケルトンには見せられない。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。