69=〈セミル様の存在〉 (1)
☆ ★ ☆ (36)
セミル様の二人の配下が先頭を歩き、後ろにも一人いてパージュとローランが続き、私は何も言わずに七番目ほどを歩き、私の後ろからルーシーとマーヤが隣同士で着いてきた。
この建物から外に出ると、私たちの前には六人の家臣が二列で追加されて歩くことになり、後ろにも家臣が続いているようで、二人の緑の編み紐と四人の黄色の編み紐、青の編み紐の人たちも確認できた。
『ソーシャル、私の歩いた位置を確認してね。こんな行列になるなんて驚きだね』
『分かりました』
しばらく歩くと検問所みたいな場所があり、土色の編み紐の男が二人立っていた。マーシーが迎えに来たときも検問所みたいな場所があり、二人の男が外にいたから、西の屋敷の入り口だと思っていた。
薄暗い空中から確認していた城の雰囲気とはずいぶん違い、周りの壁は石と赤黒いというのか茶色黒い煉瓦みたいな素材だと思うが、あちこちに人の頭ほどの四角い穴が開いている。
先頭の兵士が左右にずれると、そこには別の配下の者たちなのか五人の女性が控えて、セミル様が立ち止まると、彼女たちはセミル様を見て頭を下げる。
彼女が私のことを紹介すると、彼女たちの視線が一斉に私に注がれたので、私は少し頭を下げ、先頭集団はここで終わり、彼女たちが前を歩くことになる。
また検問所みたいな場所があり、ここには剣を持った女性が三人いて、先頭の者がまた変わるようだ。これは東の屋敷に入ったことを意味していると思う。
この通路は三メートルほどの幅があり、廊下の左右には引き戸が点々と存在し、左右に何本か引き込んだ通路も確認できて、横道もあり部屋があるみたいで、私たちは東の屋敷のメインロードを歩いているようだ。
「リリア、ここが私の部屋です。中に入ってください」
「ありがとうございます」
私はそう言ってから、彼女の後ろから中に入ると、ルーシーとマーヤも私の後ろから中に入り、その後から彼女の付き人であろうと思われる三人が中に入る。
シンシア様の部屋と違い横長で奥行きがなく、正面に同じような鳥の紋章みたいな物が飾られ、その下にはこの城の配置図みたいなタペストリーが天井から提げられている。
右側には大小様々な四季折々の花のような絵が描かれ、左側には新緑の森のようなイメージの中にこの城なのだろうか、漢字の『人』のような河の流れの中に、左右と真ん中に一ヶ所ずつ建物のような造形物が描かれている。
「リリアはここに座って、シンシアの部屋にはもう入ったのですか」
「はい。私たちの試合が終わりマーシーに案内してもらいました」
「シンシアの庭も見たのですね。彼女のお気に入りの場所ですよ」
「はい。素敵な庭を見せていただきました」
私がそう言いながらシンシア様の庭を思い出し、やや緊張していた気持ちが解れたようで、彼女は私の気持ちを察してそう言ってくれたのだろうか。
「では紹介します。私のそば仕えのシャーニンです」
セミル様がそう言うと、彼女が二歩前に進み出る。
「リリア様、私はシャーニンと申します。よろしくお願いします」
「私はここのことは何も知りませんから、こちらこそよろしくお願いします」
私は座ったままでそう言うと、彼女は元の位置に戻ったけど、彼女の大きな目が私をぐっと見つめいていたので、私も彼女の顔をよく見ると、一重まぶたで目つきが鋭いような気がして、何だか怖そうな気がする。
いかんいかん、最初から圧倒されているぞ。彼女はすっきりした顔つきで、右目の目尻の横にやや大きなほくろがあり、三人ともどことなく目付きだけは似ているのよね。
「シャーニンのそばにはシャイールとシャミールの姉妹がいます。東の屋敷ではこの三人が私を守っています。今度からシャイールの下にローラン、シャミールの下にパージュをつけましょう」
セミル様がそう説明してくれたから、何番目の付き人になるのか知らないが、自分の立場をわきまえ頑張ってほしいと思う。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。二人ともよかったですね」
彼女たちの後ろにいる二人に視線を動かしてそう言うと、
「リリア、私は何が何だか分からないですけど」
パージュがそう言うと『私もです』とローランもそう言ったが、確かに分からないよな、と思ってしまい、この部屋に来るまでの状況に私自身が驚いたよな、と思っているからだ。
「今からシャーニンが説明するからよく聞きなさい。リリアのことは今度からリリア様と言った方がいいですね。王子様の命の恩人ですよ」
セミル様がそう説明すると、
「はい。申しわけありません」
パージュはすぐそう言う。
「分かりました。私たちの落ち着き先が決まったということですね」
ローランは冷静に判断したようにそう言うと、
「そういうことです。これからはよろしくお願いします」
セミル様がそう言ったから、その言葉遣いに私は驚く。
「この場合は、この命をかけてお守りしますというのですか」
ローランがそう尋ねたから、
「そう思えると嬉しいですね。シャーニンが説明するからよく聞きなさい」
「はい、ありがとうございます」と、ローランは返事をする。
彼女たちはこの状況を少しは理解できたのかしら?
何の言葉をかけていいのか、何とも言えない状況である。
セミル様の紹介が終わり、私も二人の名前だけは伝えた。
「ルーシーの名前は知っていますが、マーヤの名前を聞くのは初めてです」
セミル様がそう言ったから、
「マーヤはルーシーの配下だと聞きました。私も初めて今日知りました」
「あなたたちは会話ができるそうね」
彼女の視線は私ではなくて、私の後ろに控えているルーシーの顔を見ているようだ。
「はい。それ以上は聞かないでください。よろしくお願いします」
「分かりました。シャーニン、奥に食事を運ばせて」
セミル様は後ろに控えている彼女の方に顔だけ向けてそう言う。
「承知しました。シャイール、お願いね」
「はい」 と、シャイールがそう言って、部屋の外へ出ていく。
今日は朝から体力も集中力もたくさん使っていたので、マーリストン様にも干し肉は持たせたけど、ここで食事ができるなんて、何とラッキーなのだろうか。
「私は向こうでリリアと食事をしながら話しをするので、あなたたちはここで食べなさい。シャーニン、頼みましたよ」
「はい。承知しました」
私はセミル様の奥の寝室の方へ二人で移動する。
シンシア様の部屋と同じで、男子禁制の場所だ。
普段は何と呼ばれているのだろうか。
この部屋はシンシア様と同じように引き戸で区切られ、シンシア様の部屋のように奥行きのある部屋ではなく横長になり、同じようなベッドが右側の壁に沿って、縦長にセットされているようで、その前に衝立のような物があり、部屋が区切られている。
シンシア様の部屋は夜バージョンで訪れていたので、それが退かしてあったような気がしたけど、新たな発見、見ーつけ。
「リリアはここに座りなさい」
「はい。ありがとうございます」
「何から話したらいいのかしらね。今日はほんとうにおめでとう」
彼女が最初にそう言ってくれたから、じわじわと感動が蘇り、少し彼女の顔を見つめてしまう。
「……ありがとうございます」
私がそう返事をすると、
「私は剣には興味がなくて、でも、最後の八人の試合にはシャーニンを見に行かせました。シャーニンは自分がリリアと手合わせをすると負けるかもしれない、と言いましたよ。リリアはそれほどの剣客だと改めて分かりました」
彼女がそう言いながら、私の顔をまじまじとやや奇っ怪そうな顔つきで見ている。
「いえ、私は自分自身のために気を張り詰めて頑張りました」
私がそう話していると、
「セミル様、お食事をお持ちしました」
シャーニンがそう言ったから、私の視線をセミル様からドアの方に移すと、シャミールと二人で四角い大きなお盆のような物を運んできて、シャーニンがセミル様の前に、シャミールが私の前にそれを置く。
「ありがとう。シャーニン、今度はリリアと手合わせをしてみたら、そうしたら自分に納得がいくのでは、リリアもどうですか」
「えっ、突然の話しで驚きました」
そう言いながら、私の視線は目の前の食事からセミル様へと移る。
「リリア様、私と真剣に手合わせをお願いできますか」
彼女がそう言ったから、私の視線は彼女の方へと向いてしまい、目の前の食事に移せない。
「すぐに返事はできません。シンシア様にもお聞きしてみます」
「はい。よろしくお願いします」
「私もシンシアに話してみましょう。楽しみですね」
彼女がそう言いながら、意味ありげに笑みを浮かべている。
「えっ、私は言葉がありません」
「気楽に考えてください。手合わせですよ」
「……はい」
私はそう言ったけど、最初からこういう話しになり参ってしまい、シャーニンの強さをルーシーに聞かなきゃいけないかな。
「よろしくお願いします」
シャーニンはそう言ってから、二人で部屋から出ていったが、この話しをこの場ですることを前もって考えていたのだろうか。
「この食事は私が用意させました。食べてください」
彼女からそう言われたけど、どうやって食べるのよ、と思っていると、彼女が平らな小さな二口サイズのパンの間に、そこにあった薄切り肉を挟んで半分に折り口の中に入れたので、このパンはクレープのような薄焼きにした、やや厚みのあるナンのような気もする。
なるほど、一皿ずつ挟んで食べるのね。パンの数と陶器の小皿の数が同じだ。今まで市場では見たことがないが、探せばあったのだ。木じゃなくて陶器だよ。
「ありがとうございます。私もお腹が空きました」
私はそう言ってから、先にスープを飲もうと思い銀色のスプーンに手を付けると、シルバーなのか、これも竹ではない。
「先ほどの話しですが、自分自身のためだけではなく、リストン様のために頑張ったのでしょうね。私もシンシアも子供のためなら何でもできますよ」
「えっ、ご存じだったのですか」
私はその言葉に驚いたけど、このスープにも驚く。
おいしい……何の出汁なのだろうか。
固形物も口の中に入ると、噛まなくても舌と上顎で潰せるような柔らかさで、スープの中身は野菜と肉のような物が入り、ジャガイモのような固形物も入っているから、ホーリーの作ったお汁とは違うようだな。
「私はシンシアとは周りの人間が噂しているようなことはありません。お互いの立場もあるので外見上では仲がいいとは言えないですけどね。でも私たちはお互いにこの城の行く末を考えていることでは協力しているので、仲がいいと思います。それは王様を中心に私たちが考えていることです。今後はその中にリリアの存在も入ります。シンシアもバルソンも間違いなく、リストン様はマーリストン様の王子だと認めています。最初は信じられなかったですけどね。王様と私はリンリンの存在を知りました」
彼女はそう一気に説明して、スープを飲み始めたというのか食べ始める。
「やはりご存じなのですね」
「リストン様はリリアに似て、リンリンはマーリストン様に似ているそうね。リンリンの存在があったからこそ、リストン様はマーリストン様の王子であると、私たちは認めざるを得ないです。しかし、リンリンの存在は隠した方がいいと思います」
最初からセミル様にそう言われてしまう。
「私もそうした方がいいと考えました」
「シンシアとバルソンはリリアのことを信じています。リリアはマーリストン様のことばかりを考え、自分のことは考えてないと話しました。リリアは自分の行く末をどのように考えているのですか。今日はそのことを直接聞きたいと思いました」
セミル様は私の真意を聞き出そうとして、リンリンのことも言葉で伝えたのか思い、自分の考えを正直に話そうと思う。
「私はここのことはよく分かりません。中に入らなくては理解できないと考えました。東西の権力争いがあるからこそ、マーリストン様の命が狙われたと思いました。その中にリストン様を置くわけにはいきません。私はマーリストン様と約束をしました。いずれ私がマーリストン様の側室になるので、ゴードン様の孫のコーミンを正室にすれば、東西の仲がいいことを、この城の人間に理解してもらえると考えました。そうすれば、少なからずリストン様に対して危険が少なくなると思いました。私は自分の子供を守りたいです。リストン様を王子だと認めていただけよかったです」
私は一気にそう説明する。
「なるほど。お互いに考えていることは同じですね。私とシンシアも表面で険悪だと皆の者は思っているようですが、そうではありません。だから今日はそのことを皆の前で知らせました。このことは三人で話し合ったのですよ」
「……私もそうだと思いました。でもこんなに早くにセミル様とお話しができるとは思っていませんでした。これもその話しの中に入っていたのですか」
私はその返事次第では、今後の自分の考えが変わっていきそうな気がするのでそう尋ねる。
「そうです。皆の前で私が話すことで、周りの人間も何か考えると思いました。シンシアとリリアが会ったことは皆の知らないことです。そのことは調べれば分かることです。バルソンがリリアと会ったことも調べると思います。周りの人間はそこまで馬鹿な連中ではないです。そのことも踏まえ私たちは最初から会うことにしました」
セミル様はそう説明したので、自分たちの存在と私のことを、ここにいた家臣にアピールしたのだろうか。




