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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第三章 『出会いから、八年ほど過ぎて……』
68/165

68=〈王子様の復活〉 (2)


 王様が『下がりなさい』と言うと、彼は『はい』と返事をして自分の立ち位置に戻る。


「リリアはマーリストンを含めて剣客も育てられるのですか」

 王様は私を見てそう尋ねたから、

「いえ、本人の心構えがよかったと思います。自分で剣が強くなりたいと願わなくては、不屈の精神があったからだと思います」


 これはシューマンの本心だと思い、私はこの言葉を使ってしまう。


「なるほど……私はそう思わなかったから剣が苦手なのだな。そのことで迷惑をかけた人もいるが……リリアはシンシアのそばにいて彼女を守りなさい。私が命令します」

 王様がそう言ってくれたから、

「ありがとうございます。シンシア様をこの命をかけてお守りします」


 私はその言葉だけしか使えない。この言葉は在り来たりだけど、シューマンもルーシーもそう言っていたし、ワンパターン的な言葉だと思う。


「ローランとパージュはセミルのそばにいて彼女を守りなさい。私が命令します」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 最初にローランの声が後ろから響いたようだが、この場でセミル様の説明がなくても先ほどの王様の言葉からして、彼女の立ち位置を二人は理解できるのだろうか。


 それから、ほかの人たちの配属先も王様が順番に命令をし、その命令が終わるとバルソン様が少し前に進み出て、今日の剣の勝ち抜き戦の報告をする。私はその話しも聞きながらもソーシャルと話しをしていた。


『ソーシャル、シンシア様とバルソン様がお膳立てをしてくれたのね』

『そのようですね。マーリストン様を守るために、彼らはあらゆる手を尽くしたと思います。しかし、二人が王様のいちばん前に位置しなくては何も始まりません』

『それが可能になったからこうなったのね。パージュとローランもよかった』

『そのようですね。セミル様にご挨拶に行けば会えますね』

『彼女のことはよく知らないけど、シンシア様は彼女のことは悪く言わなかった。だから……彼女は南の城では存在不可欠な人物なのね』

『彼女は正室です。誰も彼女に文句は言えませんよ』


『……そうだよね。彼女の周りにもマーシーやルーシーと同じような剣客がそばにいるのでしょうね』

『たぶんそうでしょう。王様はセミル様を少しは疑ったとしても、話しを大ごとにしなかったと思います』

『そういう話しは聞いてないから分からないけど、王様の判断も的確なのね。セミル様も独自に彼を捜したのかしら?』

『それは考えられますね。今度お会いして直説聞いてみてはどうですか』

『二人だけなら話せるけど……そばに人がいると話せないわね』

『彼女が外してくれるかもしれませんよ。そのことも考えておいた方がいいですね』

『これから何が飛び出すか分からない。色んな状況を前もって考えておいた方がいいわね』

『リリアからは飛び出さないでくださいよ』

『分かりました』



     ☆ ★ ☆ (11)


 私たちが王様との謁見も無事に終了し、王様がバルソン様を従えて退席すると、セミル様がシンシア様の方へと移動し、彼女の前に立ちはだかっているような気がするが、彼女も立ちあがったのだ。これはまずいよ。一悶着あるのだろうか。


「シンシア、マーリストン様が生きていてよかったですね。私も嬉しいです」

 彼女の意外な言葉を聞いて驚く。


「ありがとうございます。私たちも隠し通せてよかったです」

「私はマーリストン様がいなくなり目が覚めました。たぶん、私の配下の者が連れ去ったと考えられるようになりました。私がその者を見つけたら即刻首を切ります」

 彼女は私がびっくりするような言葉を発する。


「えっ、そのような言葉を聞くとは驚きました」

 シンシア様は彼女の顔を見ながらそう言うと、セミル様は階段の下である中央に進み出る。


「皆はこの場で私が話すことをよく聞きなさい。今後子供たちを連れ去ったり殺したり危害を加えれば、その者の一族すべて、死をもって償わせます。私は東の屋敷の者にも話しています。よく覚えておきなさい」


 セミル様はやや大きな声で家臣を見回すようにそう言ったので、私はまた驚いてしまう。


「よく考えると西の屋敷の者かもしれません。私の話すこともよく覚えておきなさい。これからこういうことが発覚すれば、私自身が首を切ります。自分の子供のことを考えみなさい。どんな気持ちになると思いますか」


 シンシア様も中央に進み出てからそう言ったから、私は呆然として二人の会話を聞いていたが、シンシア様の言葉の方が力強くて声の響きがいつもの小声と違い、彼女の顔つきが一瞬豹変したような気がする。


 今までぐっと堪え耐え抜いていた言葉が外に出てしまったと思い、私は正面で二人の言葉を聞き、私だってリストン様のことを考えるとその言葉を言ってやりたいと思う。


「シンシア、今度リリアと二人で話しをしたいのですが、許可してもらえますか」

「もちろんです。今からでも構いません。話しの内容は二人だけの秘密にしてください。私もその言葉は聞きません。リリアも話さないと思います」

 シンシア様がセミル様の真正面に向いてそう言うと、

「ありがとうございます。早い方がいいですね。今から私の部屋で話しましょう」

「はい。ルーシーとマーヤを今日からリリアに付かせますので、よろしくお願いします」

「分かりました。私は今日からローランとパージュに付いてもらいましょう。今日から私の周りの人間を入れ替えます。王様にも許可を得ています。私の許可なしでは何事も許しません。もちろん王様の許可は取ります」


 セミル様はシンシア様に話しているようだけど、その言葉は私はもちろん周りの者たちにも言っているようだと思う。


「分かりました。今後ともよろしくお願いします」

 シンシア様は軽く頭を下に向ける。


「皆の者はよく覚えておきなさい。マーリストン様が私たちの目の前に戻られたのです。私はこの事実を踏まえて今までの態度を改めます。この南の城で悪事が働かないように、シンシアと協力していきます。よろしいですか」

 セミル様が周りを見回しながらそう言うと、 

「ありがとうございます。私も協力したいと思います」 

「こちらこそよろしくお願いします」


 セミル様はシンシア様を見ながらそう言ったが、頭を下げることはしない。皆はセミル様とシンシア様の話しを静かに聞いているようで、これで東西の人間が仲良くなるのだろうか。今までよりはこの南の城は変化をもたらすと思う。


『ソーシャル、どうなってしまったの?』

『王様とセミル様とシンシア様が裏で話し合ったのではないですか』

『シンシア様に話しを聞く前にセミル様と話すなんて困るわね』

『私はリリアの会話力を信じていますよ。乗り切ってください』


「リリア、二人を付けるからセミル様に着いて行きなさい」

「はい。シンシア様、ここにバルソン様の配下であるラデン様がいらっしゃいます。ご挨拶をしたいのですがよろしいでしょうか」


 長らく待たせてしまった彼の立場を挽回することができるように、二人に紹介しようと思う。


「分かりました。ラデンはいますか。この場に来なさい」

 シンシア様がやや大きな声でそう言うと、彼が歩いて来る。


「リリア様、お久しぶりです」

 彼は私たちのそばまて来てからそう言ったので、

「ラデン様、こちらがセミル様です。こちらがシンシア様です」

 私は二人のことをまずいちばんに説明する。


「初めまして、私はバルソン様配下のラデンと申します。私は緑の編み紐です」

「私はリリアからラデンの名前は聞いています。バルソンがマーリストン様のそばに付けると話したので、よろしくお願いします」

「ありがとうございます。王子様をこの命をかけてお守りします」

 彼がシンシア様に向かってそう言うと、

「リリアは城に入る前から色んな人を知っているのですね」

 セミル様がそう言ったので、

「私はマーリストン様の仲間を今までたくさん作ってきました。城の外にはたくさんの仲間が存在します。マーリストン様はひとりではありません」

「なるほど。仲間をたくさん作りこの城に戻って来たのですね」

「はい。マーリストン様は王子様ですから、信頼のできる仲間は必要です」


 私はためらいもなくその言葉を使い、実際にはゴードン様の知人であるが、彼の仲間作りをしてきたのだ。


「セミル様、リリアの話しを聞いたら驚きますよ。信じられないという言葉が飛び出すと思います」

 シンシア様がにこやかにそう言うと、

「私もリリア様と出会ったことが信じられません」

 ラデンもその言葉に追従したようにそう言う。


「皆の者も今の話しを聞いたでしょう。リリアは王子様の命を助けてここまで育てたのです。そしてマーリストン様の仲間もたくさん作りこの城に戻って来ました。その意味があなたたちに理解できますか」

 セミル様がそう言うと、

「セミル様、リリア様はすごいです。私がいちばんリリア様のことを知っています。私はリリア様を尊敬しているし感謝もしています」

 マーリストン様がそう説明している。


「私はその意味が理解できないので直接リリアに聞きます。信じられないか……その言葉の意味を自分で確認しましょう」

 彼女の最後の言葉は呟くようにそう言ったから、

「私はリリア様のことは心から信じています」


 マーリストン様は先ほどの言葉に上乗せするかのようにそう言ってくれる。


「私もリリアのことは信じています」

 シンシア様も先ほどのような大きな声ではなかったけど、同じようにそう言ってくれる。


「ありがとうございます」

 私は二人の方を順番に見ながらそう言ったけど、この会話の流れはどういうことなのだろうか。


「私は今からリリアに話しを聞きます。私もリリアのことが信じられるのかしら? それでは皆の者は自分の仕事に戻ってください」


 彼女は左右を見渡してそう言ったから、さすが正室だけのことがある会話運びだと思う。私たちが入ってきた入り口からわさわさと、椅子に座っていた人立ちが先に退場し、立っていた人たちが出でいくとのと同時に、セミル様は王様が退場した入り口に向かう。パージュとローランがその後ろに続き、シンシア様の後から私が出る。


 ルーシーとマーシーとマーヤが外で待ち受けていたので合流し、セミル様には三人の配下の者たちが待ち受けているようだ。


     ☆ ★ ☆


『リリア、マーリストン様がセミル様の発言に驚いたと言っています。子供の話しをしても理解してもらえるかもしれないと言っていますよ』

『分かりました。今は自分のことだけを考えて、何も心配しなくていいから私に任せなさいと伝えてね。最初から私がセミル様と話しをすることになっていたのね。そのことをマーリストン様が考えてないかもしれないから、そのことも一緒に伝えて』

『分かりました』

『皆で話し合ったどうかも分からないし、彼女が説明してくれてもシンシア様がどう思っているのかも分からない。彼女が何か説明してくれると思う。その状況で私が考えるから、ソーシャルの意見も聞くからよろしくね』

『はい。リンリンのことは知っているのですか』

『そうね、その話しは聞いたことがないわね。彼にシンシア様がセミル様に話したかどうか確認してもらえる?』

『分かりました。この時代では双子の存在は隠すような気がします。私は話してないような気がしますが』

『私もそう思う。私とソーシャルが考えている以上に裏では複雑なのね。今日はゴードン様の屋敷に帰れるのかしら?』

『それも分かりません。リリアの部屋があるかどうかも分かりませんね』

『先にそのことを確認しておけばよかった。彼も私も剣は置いてきたけど、私は『ミーバ』を持ってきたからよかった』

『私のご主人様はこの状況を乗り切れると信じていますよ』

『ありがとうございます』


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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