57=『サガート』との最初の出会い
少し長文です。
☆ ★ ☆ (34)
「ケルトン、この店に入りたいです」
「いいですよ。入ってください。何でも買いますからね」
「ありがとうございます」
「俺も何か探しますからゆっくり見てください」
「はい。ゴードン様は首から二つも提げているでしょう。私は一つほしい言ったけどくれなかったのよ。ミーネが言ってもくれなかったって」
「あれはゴードンのお守りだからです。俺たちと一緒ですよ」
「お守りですか……バミス様は何もつけてなかったですよ」
「バミスのことは知りません。リリアに聞いたら?」
☆ ★ ☆
「ミーネ、私たちもこの店に入りましょう。それでね、私の名前に『様』はいらないから、ほかの人が聞いていると変に思います。ミーネの方が年上だからね」
「ゴードン様も自分に『様』はいらないと言われましたが、私にはそのようなことはできません。コーミンにもそう話してあります。リリア様にはいいですけどケルトンには付けないでほしいと念を押されました。だから、ケルトンには付けないことにしました。ゴードン様もそれでいいと納得してもらえました」
「分かりました。私もケルトンには付けない方がいいと思います」
「はい」と、彼女はその言葉しか使わない。
「ケルトン、私が紐は用意するからぶら下げる物だけにしてね」
「はい。ミーネも一緒に下げるようにしたらどうですか」
ケルトンが彼女に向かってそう言ったので、お揃いで同じ物を持っていれば、自分のように感じると想ったのだろうか。
「えっ?」と、彼女は一瞬歩くのを止め、彼の顔を見つめたようだ。
「ケルトン、ミーネとコーミンは同じ物を買ってあげてね」
「分かりました。色違いがいいですね。コーミンはどの色が好きですか」
「私は赤が好きです」
「分かりました。ミーネは何色がいいですか」
「えっ?」
「ミーネの好きな色を言ってください」
私はミーネを軽く肘でこづいてそう言う。
「は、はい。私は緑です。竹の緑色が好きです」と、ミーネは私の考えを理解してくれたようにそう言うと、
「分かりました。リリアと同じですね。リリアは緑と紫が好きですよ」
「私も紫は好きです。コーミンは赤が大好きよね」
ミーネはコーミンの好きな色を強調しているかのようにそう言う。
「向こうでは赤色の物は何も持ってなかったのよ。ゴードン様に一度お願いしたけど忘れられたみたい」
コーミンは当時のことを思い出したようにそう言う。
「男は買い物とかしないでしょう。何でもいいからケルトンに買ってもらいなさい。ミーネ、ゴードンが忘れちゃったの?」
「あっ、はい。コーミンは毎日とても楽しみに待っていたようですが、次に来たときにはその話しにもならなくて、私もゴードン様には言えませんでした」
彼女がそう言ったから、まったくゴードン様は何を考えていたのかしら、話す機会があったら聞いてみようと思ってしまう。
「何を頼んだの?」
「私がいつもご迷惑をかけてはいけないと言っていましたから、コーミンは何も言わないので分かりませんが、友だちが持っていた赤い布のような気がします」
「そのようなことがあったの?」
「ゴードン様は突然に来ますから、私もいつ来るか分かりませんでした」
彼女がそう言ったので、私たちが出会ってからはこちらサイドの予定ができてしまい、竹の里に行く回数が減ったかもしれない。
「これでいいのかしら?」
私はそう言って、彼が買ってくれた腰紐に提げてある布を見せる。
「かわいいですね。さっき提げている人を見ました。ケルトンも持っていますね」
「この前ケルトンに買ってもらったのよ。私がケルトンに買うように話すからね」
「私が買ってあげようと思いました。お手数かけてすみません」
彼女がそう言ったので、彼女の話し方はほんとうにどこかのお金持ちの奥様みたいに品がよくとても優しそうな、そんな感じがする女性だと思うが、遠慮という言葉を考えているのだろうか。
「これは俺の持っている色と似ているけど翡翠ですか」
「はい。よく名前をご存じですね。これは値がいいです」
「これの赤い色はないのですか?」
「翡翠では赤い色はないです。私も見たことがありません」
店の者がそう言った声が少し離れていた私には聞こえる。
「私は見たことがあるけど、ほんとうにないのですか」と、私はケルトンに近づきやや大きな声でそう言うと、
「えっ、はい……少しお待ちください」
彼はそう言ってから奥の方へ引っ込んだから、翡翠を買う客としてはケルトンとコーミンでは場違いな客と思われたようで、私とミーネが近寄り私がバシッと言ったので、その店員は私の顔を一瞬見て少し慌てたみたいな気がするが、彼は眼が細くて肩幅があり太っているのかしらね?
「お待たせしました。赤い翡翠をお探しの方ですか」
奥から違う年配の男性が一緒に出てきてそう言うが、この店は彼がオーナーなのかと思ってしまう。
「はい。あるのですか」と、ケルトンがそう尋ねると、
「あることにはありますが、指輪一つで金貨が一枚になりますがよろしいですか」
彼はそう説明する。
「コーミンが気に入れば俺はいいですけどね」と、彼がさりげなくそう言ったので、
「えっ、そんなに高いの?」と、コーミンがケルトンの方を見て驚いている。
「私も見てみたいです。お願いできますか」と、私がその人を見ながらそう言うと、
「分かりました。こちらへどうぞ」
その男性は私たちを奥へ招き入れたけど、市場に出回っていない物を見せてくれるのだろうか。
「こちらの部屋で少しお待ちください」
その男性がそう言ってからいなくなったので、四畳ほどの部屋の真ん中にテーブルと椅子が置かれて、そこにある椅子に四人で座る。
私は見えないようにぶら下げている、シンシア様からもらった翡翠に意識が飛び、彼女からもらった翡翠はこれ以上の値段がしそうな気がして驚く。
しばらくして、その年配の男性は木箱を抱えて現れ、テーブルの上にその箱を置いてから、私たちの前でふたを開けて中身を見せてくれる。
その木箱の中には、二十個ほどのカラーバリエーションの翡翠だと思うがきれいに並べて入れてあり、私はその指輪に釘付けになる。椅子は四脚しかなくその人と先ほどの店員は立っている。
「ミーネの好きな色もありますよ。コーミンはこの色はどうですか」
「えっ、こんなに値がいい物はいらないです」
そう言った彼女の視線はその指輪を見ている。
「これを三つで金貨が二つで買えますか」
ケルトンがその年配の男性を見上げてそう言ったから、私が考えてもない言葉を使ったので驚いて、ケルトンがそういうことを言うとは、今まで私が値切ったことはなかったような気がしたけどな。
「……三つですと……銀をもう五十粒つけてください」
その年配の男性は一瞬考えたみたいでそう言う。
「俺は金貨が二枚しか持ってないので、三つ買えなかったらほかの店に行きます。ゴードンはいつもおまけしとくからと言っていましたよ」
ケルトンがそう言うと、一瞬その男性は『?』マークが付いたような顔をしている。
「ゴードン様はそのようなことをおっしゃるのですか。初めて知りました」
ミーネはケルトンの言葉に驚いているようではあったが、彼女の視線は箱の中身を見ているようだ。
「リリア、ゴードンは市場でよく言っていましたよね」と、彼が私の方を見てそう言ったから、
「確かに、ケルトンがそう思うならほかの店で探しなさい」
私がそう言うと『はい』と彼は返事をする。
「……大変失礼ですが、ラデン様をご存じですか」
「えっ、ラデンですか」と、私が驚いて彼を見上げてそう言うと、
「その紫の編み紐とお名前を聞いてそう思いました」
「……ケルトンは少し話さないでね。三人で好きな色を選びなさい」
私がそう言うと『はい』とケルトンはまた返事をする。
「ラデン様から私たちの話しを聞いたのですか」
「はい。初めまして、サガートと申します。ここは私の店です」
「初めまして、私はリリアです。弟のケルトンです。こちらは知り合いの親子です」
私はそう説明したけど、さっきは驚いてラデンと呼び捨てにしたので、言葉遣いには気を付けようと思う。
「それでは……二枚の金貨で『大おまけ』しましょう。好きな色を三つお取りください」
彼はケルトンの方を見ながら、突然このような言葉を使う。
「えっ、ほんとうによろしいのですか。ありがとうございます。コーミンの好きな色を選んでください。ミーネもお願いします」
彼は嬉しそうに二人を見ながらそう言う。
「ほんとうに私もよろしいのですか」と、ミーネが私とケルトンを交互に見ながらそう尋ねたから、
「はい。リリアが紐を持っていますから後からもらいます」
ケルトンは私の顔を見てにこやかにそう答えている。
「ケルトン、これは指輪ですよ。指にするものでしょう?」
「コーミンがこんなに値のするものを指にしていたら、指ごと盗まれてしまいますよ」
「えっ、それは困ります」
「そうなれば俺も困ります。リリアや俺のように隠しておくのがいちばんです」
「……なるほど」
コーミンは納得したかのような表情で、私たちの指輪はほかの人に見せる物ではないので、自分だけの世界に落ち込んだときに、触って、見て、想いを馳せればいい物だ。
「ほんとうに素敵です。ありがとうございます」
ミーネはケルトンの方を見てそう言う。
「選んでいる間にこちらで話しをしましょう」
彼がそう言ったので、私たちは部屋を出てから廊下みたいな場所に二人で立ち止まる。
「ほんとうに金貨二枚でよろしいのですか」
「今後とも、このサエーリスの店をよろしくお願いします」
彼からそう言われ『分かりました』と私は返事をする。
「この市場にも表と裏の顔があります。ラデン様の仕事は裏の仕事も多いです。私たちもいろいろお願いしています。お分かりいただけますか」
「なるほど。どこも同じなのですね」
「私たちはラデン様にこの市場を守っていただいています」
「分かりました。私たちの名前と紫の編み紐の存在を知っている人は、何人ほどいらっしゃるのですか」
私は翡翠のことよりも、自分たちのことを知られてはまずいと考え、そことを聞く方が肝心なことだと思いそう尋ねる。
「二人だけだと思います」
サガートはそう答えたけど、彼の話し振りから間違いないような気がする。
「分かりました。私たちはこの編み紐を隠した方がいいですね」
「それはご自分で考えてください。今日はお会いできてよかったですよ」
彼が私の瞳の中を見つめながら笑みを浮かべてそう言う。
「何を聞かれたかは分かりませんが、私たちのことは内密にお願いします」
「もちろんです。お互いに命は大事ですからね」
「えっ?」
「あなたの剣使いの話しは聞きました。このようなお若い方だとは思いませんでした」
「いえ、今後ともよろしくお願いします。指輪のことはありがとうございました」
私はそれ以外の言葉は使えない。顔の表情からしても、彼の態度は物腰が柔らかくて悪い人には見えず、猫かぶりの人間が世の中にはたくさんいることは理解しているけど、ラデンはこの人に何を話したのだろうか。
☆ ★ ☆
「この三つを選びました」
私たちが部屋に戻るとケルトンがそう言って、彼はサガートに金貨二枚を差し出す。
「こちらこそ、私の店でお買い上げいただきありがとうございました」
彼は商売人らしく快活にそのような言葉を使っている。
「リリアのはこれです。俺が選びました」
「私の分もあるの、ありがとう。この薄い紫は素敵な色ね。大事にするからね」
「ありがとうございます。紐に提げるまでリリアが預かってください」
ケルトンがそう言って三個の翡翠を私に渡してくれる。私は背中に背負っているリュックにしまう。
「私の分までありがとうございます」
ミーネは申し訳なさそうな表情でそう言ったが、彼女は薄い緑色が混ざったような色合いの指輪を選び、コーミンの選んだ指輪は薄い赤色が強調されている。
「三人で同じ物を提げるとリリアみたいに元気いっぱいになりますよ」
彼がそう言ったから、そういう意味なのね、とか思ってしまう。
「ゴードン様がいつもリリア様は忙しく、飛び跳ねているとおっしゃっていました」
「えっ?……何かとやることが多いような気がするけどね」
私は嬉しいような気恥ずかしいような気持ちになりそう言うと、
「コーミンもリリア様を見習ってね」
ミーネが子供を諭すような雰囲気でそう言う。
「ゴードン様はケルトンを見習うようにと言いましたよ」
「俺はリリアを見習っているから同じことです。リリアは何でもはっきりというから慣れた方がいいですよ。バミスはずっと慣れてなくてたまに落ち込んでいました」
「バミス様とは長く一緒にいるのですか」
コーミンがそう尋ねたから、たまに飛び出す彼女の言葉からすると、意外にバミスのことを気に入っているのかしら、と思えるのよね。
「バミスは私たちの剣の先生ですからね」
「俺といつも一緒にいて剣を教えてくれます。リリアとは話す機会が少ないから、話し方が慣れてないです。だから、リリアからバシッと言われると落ちむみたいですよ」
「えっ、バミスはそうだったの? 一回や二回ではないということなのね」
「えっ、知らなかったのですか。参ったなー、俺もはっきり言い過ぎました」
彼は照れ笑いをしながらそう言うから、私はバミスを何度も傷つけていたのか、と自分のことを反省し、ミーネみたいにレディーにならなくてはいけないのね、と思ってしまう。
「分かりました。今夜からこれを使うようにしましょうね」
「はい。紐をよろしくお願いします」
ケルトンは嬉しそうにそう言う。紐に対しての突っ込みは二人から何も出ないことに安堵する。
そのようなことを話しながらも、私はほかの商品を横目で見ながら立ち止まったりもしていたけど、私たちがこの店を出ていこうとすると、後ろから『ありがとうございました』とサガートの声が聞こえたから、私たちを見ていたのかと思い驚いてしまう。
「ケルトン、コーミンにこれと同じ物も買ってあげてよ。ここで提げている人を私も見たからね。これは髪飾りにもいいと思うけど、私にも違う色を何枚か買ってよ」
腰紐の左側にワンポイントみたいに結んである布のことを話し、今度は彼にこれを探させようと思う。このサエーリスの店にもそれらしき物は売っているが、私は早くこの場を立ち去りたい。他の店に移動して色んな店を覗いて見たいと思った。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




