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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第二章 『出会いから、五年ほど過ぎて……』
56/165

56=〈普通の会話〉・〈変幻自在〉

      ☆ ★ ☆ (33)


 短時間ではあったがぐっすり眠ったので目覚めはよかった。ケルトンは私がいない間に色んなことを考えたのだ。彼は今まで以上に王子であることを自己認識したようだ。


 アートクの市場は私たちの未来に救いの手を差し伸べてくれ、私たちの将来の方向性を示してくれたようで、今度の剣の勝ち抜き戦でいかに上位の強者たちを蹴散らせるのかを私たちに意識づけてくれたようだ。


 二人で男女のトップに躍り出なくてはいけない。今からその準備に入ろう。彼の考えた二人で一緒に頑張るとは意味が少し違うかもしれないが、そのようなことは勝ち残って考えればいいことだ。


 彼が城に入って王子様と皆に認めてもらい次の手を考えればいい。私もこの城に入りその地位を確立しなくては話しにならない。マーリストン様が覚醒したのと同時に、私もこの現実にはっきり目覚めたのだ。


 シンシア様とバルソン様が造り上げてくれる軌道に乗せればいい。その方向に舵を向ければいい。そのためにはマーリストン様だけではなくこの私も必要なのだ、とそのようなことを布団の中で考えていた。


     ☆ ★ ☆


 私たちは朝食後もしばらく話しをしている。


「二人で一緒に市場を見学していいからね。私たちはコーミンとケルトンの後を着いていけばいい。自分の欲しい物を何でもいいから買ってもらいなさい」

「えっ、ケルトン、私の欲しい物を買ってくれるの?」

「はい。何でも言ってください。一緒に探しましょう。俺は探すのが上手ですよ。分からなかったら人に聞いてあげます」

「ほんとうにいいの?」

「はい」

「ほんとうによろしいのですか」


 ミーネは申し訳なさそうな顔つきで、ケルトンを見てから私に視線を移しながらそう言う。


「市場の人を見ていると欲しい物が分かるからね。今まで自分が欲しかった物を探してもいい。何でもいいから買ってもらいなさい」と、私が二人の顔を交互に見てそう言うと、

「俺に任せてください。俺は銀の粒も持っていますから心配いりません。この前来たときはリリアに髪飾りを買いましたよ」と、彼が私の顔を見てそう言ったから、

「見て、素敵でしょう? 彼に選んでもらったのよ」


 私はそう言って、後ろを振り向き彼女たちに見せる。


「コーミンも髪飾りを買いますか」

「あっ……はい、ありがとうございます」


 彼女はケルトンを見てから、嬉しそうな声の響きでそう言う。


「私たちは近くにいるけどあまり離れないでね」

「分かりました」

「私たちは着る物を買わないと少ししかありません」と、ミーネ。


「荷物にならない程度に買ってください。必要だったらまたここに来ればいいですから、何度でもここに来ようと思います」

「はい。ありがとうございます。ゴードン様から銀の粒をいただいてきましたので、この市場に慣れなくてはいけませんね」


 彼女はそう言ったけど、私たちだって二日ほど滞在しただけで、夜中までてんこ盛りの状況ではあったが、市場自体に慣れたわけではない。


 彼女の話し方はいつでも控えめで、自分のことを卑下しているように感じ、その点コーミンはゴードン様の性格を引き継いだかのように、すべてにおいて興味津津のような気がする。


「それは使わずに大事に仕舞っておいてください。私たちがいなくなれば必要になります。向こうが落ちつけばバミスと一緒にゴードン様が来ますので、今回は私がすべて出しますので心配しなくてもいいです」

「俺も持っていますから心配はいりません」

「ありがとうございます。ゴードン様がそのようにいうと思うので、お願いしなさいと言われました」

「さすがゴードン、話しが早いですね」


 ケルトンはミーネを見てそう言う。


「ちょっとケルトン、話しが上手じゃないの?」

「えっ、俺はリリアの話し方を見習っていますからね」

「そうなの?」 

「はい。会話は質問と答えなのでしょう?」


「……そうなんだけど……コーミンはケルトンに何でもいいから買ってもらいなさい」

「はい。お願いします。その……一つ聞いてもいいですか」

「俺ですか」

「はい。その剣は小さいですね」

「えっ、小さいと邪魔にならなくていいですよ」


「……なるほど」

「リリア様の剣も小さいですね」

「ほんとうに邪魔にならなくていいのよ」


「……私も剣が持てるのですか」


 彼女は私たちの持っている剣にも興味を示す。


「それは無理だと思います。剣を持つには許可がいります」


「……なるほど」

「むやみに振り回したら危ないですから、抜かないのがいちばんです」


「……なるほど」

「コーミンもそのうちに持てると思いますよ」


 私が説明しようと思っていたことをケルトンに先に言われてしまい、この調子で頑張ってほしいとか思ってしまう。


「すごいね。これほど上手に会話ができるとは思わなかった」

「俺のことを言っているのですか」

「そうよ」

「俺はリリアを真似して話しているつもりです」


 彼はまた同じようなことを言う。


「真似しているとかしないではなくて、その……ビックリしたのよ」

「えっ、普通の会話ですよ」

「私も普通の会話ですけど……」と、コーミン。


「……そうよね。普通の会話よね。変なこと言ってごめんね」

「別に変ではないですけど、これも普通の会話ですね」


「……そうね」


 私の方が考えすぎて、普通の会話ではなかったようだ。参ったな。


「ケルトンは首に何を提げているの?」


 今度はそのようなことを言ったから、ケルトンのことをよく観察していたのだなー、とか思ってしまう。


「リリア、見せてもいいの?」

「自分で考えてね」と、私は優しくそう言ったつもりだ。


「悪いけどこれは見せられません」

「そうなの?」

「私も提げているのよ。でも私も見せられないわね」


 私はケルトンの言葉をフォローしたつもりだ。


「……分かりました」と、コーミンが見たそうな雰囲気でそう言ったから、

「ケルトン、コーミンに首から提げる物を買ってあげなさい。意味が分かるでしょう? 私たちと同じになるのよ」

「そうですね。俺が何か探して買いますから、今度からそれを提げたら一緒になりますね」

「えっ、ほんとうによろしいのですか」


 そう言ったコーミンの言葉を聞いて、いつも通りの彼女のはつらつとした顔の表情に変わったから、私はよかったと思い、さっきは少し気落ちしていた感情が顔に出ていたのよね。


「俺が買った物を首に提げると、離れても俺がそばにいると思いますよ。俺はいつもそう思っているからコーミンも同じだと思います」

「ケルトン、そんな会話ができるの?」

「えっ、何か変ですか」

「いや……変じゃないよ……普通よね。ミーネもそう思うでしょう?」


 私はミーネに言葉を促してしまったけど、私はシンシア様のことを言っているのだと思うけど、彼女たちには意味が理解できてないので、何だか言葉の意味を履き違えないように感じるのは、私だけなのよね。


「……はい。普通です」


 ミーネは私の顔を見てからそう言ってくれたから、あくまでも話しの流れとしてそう言ってくれたのだろうか。


「そろそろ出かけましょうか」と、私。


「……そうですね」


 そう言ったミーネは、私の気持ちを少し汲みとってくれたようで、何だか朝から疲れてしまった。


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、トントンと話せるの?』

『お待ちください』


『ケルトンの会話には驚いた。そう思わない?』

『トントンとは話せます。私もこんなに話せるとは、完璧に王子様の立場を理解していますね。その気持ちが大事です。別に何も言ってないようです』

『無理をしているとは思わないけど、あれだけ話せればいいことだわ。コーミンに尊敬してもらわなくてはね』

『そうですね。リリアもそれでいいのですよね』

『もちろんよ。言われなくても自分のことは考えているからね』

『分かりました。もうその言葉は使いませんから、今度は別の言葉を考えます』

『楽しみね。これからはトントンと四人で頑張ろうね』

『そうですね。トントンにも話しておきます』

『今日はよろしくお願いします』

『分かりました……今度は何の言葉にするのかまだ閃きませんね』

『えっ、そんなに真剣に考えているの?』


『……はい』

『ソーシャルも大変ね』

『私も頑張ります。まだ閃きません。何かいい言葉が思いつかないだろうか』


 彼女がそのような言葉を使うとは、ほんとうにくそまじめに考えているみたいだと思う。


『ソーシャルも私と同じなのね』

『えっ?』

『私がケルトンのことばかりを考えていたけど、ソーシャルは私のことばかりを考えていたのでしょう? そんな気がする。私がケルトンを大人に導いていたときに、ソーシャルは私をこの時代に導いてくれたのね』


『……そのようなことはありません。リリアがこの時代のことを自分で考えたのです』

『私はそう思っているから、私の考えが正しいのよ』


 私ははっきりとそう言い切ってしまう。


『……分かりました。そのようですね』

『私の考えは悪いことではないと思っているから、悪い考えだったらはっきり言ってね』

『分かりました。正しい心の持ち主であるリリアの考えは、間違ったことはしないと思います。私はそう信じています』

『ありがとうございます。これから城に入ったら性格が変わるかもね』

『そのようなことはないです。どこにいてもリリアの性格は変わりません』

『自分の性格に押しつぶされないようにする』

『そのために私の存在があるのです。私を大いに利用してください』

『分かりました。ありがとうございます』


『……閃きました! 今度は『私を大いに利用してください』にします!』


 突然彼女がやや大きな声の響きでそう言ったから驚く。


『なるほど。この言葉を使われると大いに閃きが発揮できそうね』

『自分でも感動する言葉です。自分のことを言っているわけですからね』

『ソーシャルもおもしろい人ね』

『えっ、私は人ではありません。私はソードです』

『私にはどちらでもいいのよ。これからも私のそばから離れないでね』

『分かりました。リリアの子供も守りますから安心してください!』と、突然このような言葉を使われたので、

『えっ、そんなことがブレスもなくてできるの?』


 私は早口でそう言ってしまう。


『あの二つのブレスは私が飛ばしたのですよ。前に飛ばした理由をリリアに話しましたけど、あのブレスと『ミーバ』は私が存在させたのです。子供用のブレスも作れます。大きさは変幻自在です』

『えっ、信じられない』

『私を大いに利用してください』

『うっそーっ、信じられなーい』


 私はそう叫んでしまったけど、ほんとうにそのようなことかできるのだろうか。


『バルソン様と同じ言葉を使っていますね。彼の気持ちが理解できましたね』

『はい。私に大いに利用させてください。よろしくお願いします』

『分かりました。私の今度の言葉は百パーセント完璧ですね』

『完璧すぎると思います』と、私はまた言い切ってしまう。


 ソーシャルが私の子供にブレスを付けてくれると言った。私はバミスとの子供がほしい。彼女はそのことも考えてくれたのだ。私のブレスが外れてもいいので、私はそのことを選択する。私が少しでもそばにいなくても彼女が子供の面倒はみてくれると思ったのだ。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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