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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第二章 『出会いから、五年ほど過ぎて……』
55/165

55=『リリアとバルソン様』・〈根深い因習〉

少し長文です。

      ☆ ★ ☆ (31)


 今回はバイク用のゴーグルを『ミーバ』にお願いした。

 この前と同じようにソーシャルに急いでもらう。


「バルソン様、バルソン様、リリアです」

 この前と同じようにそっと部屋に入り、彼の寝ているベッドの脇で小声をかける。


「えっ、リリア様?」

「はい、リリアです。また遅くにすみません」

「さっき布団に入ったばかりですが、気づくのが遅くなりました」


 彼はそう言いながら、すぐ布団の中から上体を起こして枕の方に体をずらす。


「そのままで結構ですから、私の話しを聞いてください」

「向こうに椅子がありますから座ってください」


 彼がそう言ったので、私は椅子をベッドの脇まで持ってきて腰かける。


「今日はシンシア様から話しを伺いましたが、彼女たちとトントン屋敷に向かわれたのでしょう?」

「はい。今はアートクの市場でこの前と同じ宿に泊まっています。三人とも『湯桶』に行った後に、突然ラデンが部屋に挨拶に来ました。ここに来たらまた同じ宿に泊まると思い、宿の者に連絡をお願いしていたそうです」

「なるほど。ラデンが何か言いましたか」

「はい。バルソン様が王様は左手を使うと話したと、この前彼がその話しをラデンに話しました。だからそのことを聞いて二つの意味を考えたと言いました。バルソン様がそのことは口に出すなとおっしゃったので、彼は話せませんと言いました」


「……なるほど」

「今度の剣の勝ち抜き戦が終われば、自分を南の城に戻してくれるとも言いました。だから、彼が考えたことは両方ともに合っていると思うと言って、彼に内緒で金貨を二枚渡しました」

「それはありがとうございました。ラデンは彼の存在に気づいたということですか」

「私はそう思います。彼が何を考えたのかは聞いていませんが、ブレスのことを含めて私の言葉は信じたいとも言いました。だから、今夜のうちにお知らせした方がいいと思いました。向こうに行けば遠くなりますので、ここまでは来られません」


 私たちは小声で話すために、ランタンを灯して彼のそばで話しをしている。


「分かりました」 と、彼は私の顔をじっと見ながらそう言う。


「それと、今日はコーミンと彼が荷台に座ってずっと話しをして、彼はコーミンの言葉の意味が理解できなかったそうです。コーミンはミーネが話した言葉の意味を自分に確認しているみたいだというので、その言葉を聞いて私は気づきました。彼もコーミンも生まれ育った環境で知らないことが多いのではないかと思います。そのこともお話ししようと思いました。だから、アートクの市場を何度も訪れ彼らに普通の生活をさせた方がいいと思います。トントン屋敷を起点にして、私たちはアートクの市場で残りの時間を過ごしたいと思います」


 私はそう説明する。彼は布団の中で私の言葉を聞き、ランタンがその中心に置かれ、倒れることもなく存在している。


「……なるほど、確かに考えられます。城の中にいる人間は市場の生活を考えたりしないような気がします。コーミンも竹の里のことしか知らないのでしょう」

「はい。でもゴードン様がミーネに話したことを彼女に伝えたと思います」

「確かにそれも考えられます。彼も同じ状態なのでしょう。リリア様やバミスが話したことしか知らないということですね」

「はい。バミスが馬で連れだしていましたが、ほかの人と話す状況だったかどうかは分かりません。城の外にいても私と話しているだけでは周りのことを知らないと思います」


「……なるほど。リリア様には大変お手数をおかけしました」

「いえ。それとシューマンのことですが、彼女たちがトントン屋敷に慣れるまでは来させないでもらえますか」


「……なるほど」

「ゴードン様に話しを聞いても彼女たちはすべてが初めてだと思います。バミスと一緒にゴードン様をこちらに向かわせてほしいですが、あれから竹の里ではどうなったのかも知りたいと思いました」

「今日は動きがないようですが、ゴードン様の屋敷にバミスを戻しました。何かあれば連絡が入ると思います」

「ありがとうございます。しばらくして、バミスにゴードン様を連れて来てもらいたいです。そうすれば……私たちが入れ替わってここに戻ってきます。向こうは手狭になり部屋数も少ないです」

「分かりました。こちらが落ち着けばバミスに行くように話しましょう」

「ありがとうございます。それから……彼はシンシア様と私の存在の違いに気づき、私のことが好きだと言いました」

「えっ、そのようなことを言ったのですか」


 彼がそう言った声の響きは、部屋が暗くて近くにいてもはっきりとは分からないが、驚いていたことは確かだ。言葉遣いが変わっている。


「はい。だから……その言葉は聞かなかったことにするので、二度と言わないでほしいとお願いしました。その気持ちはずっと前から理解しているので、これからも理解し続けるからと私は言いました。それから……リリアはバミスのことが好きなのですよね。俺も理解していますから、とはっきり言われました」

「えっ、そのようなことまで言ったのですか」


 彼はさっきよりも驚いているようだ。

 

「はい。私がいつも物事をはっきりと話すので、リリアは何でもはっきりいうから俺も理解していますからとも言われ、最後にどうしようもないのですね、とはっきり言いました。彼の考えはこの前のアートクの市場でほんとうに変移したと思います」


「……シンシア様も含めて私たちは……リリア様の存在に感化されているのですね」


「……私には分かりません。自分は城に入ったらマーリストンですからとも言われ、自分の立場を完全に認識されたと確信しました」

「そこまで彼を導いてくれたリリア様には、感謝以外の言葉はありません」


 彼はそう言うが、私が導いたことよりもケルトンの思考が大人になったと言ってほしい。


「それと、バミスがコーミンは私の話し方に似ていると言ったので、彼の近くにいさせようと思います。たくさん話してお互いに何かしら感じるものがあればいいです。ゴードン様が彼を尊敬しているとコーミンに説明し、大事な友だちを作る必要性を話しました。そのことを彼に伝えると、私たちは大事な友だちですね、とはっきり言いました。シューマンとコーミンが近くにいれば、彼はそれなりに意味を理解してくれると思います」

「分かりました。リリア様の考えを彼女に伝えます。彼女はリリア様が彼の側室になってもいいような気がするとおっしゃいました。私は今の王様の考えが彼女ほど理解してないような気がします。王様と彼女は周りの人間が気づかないほどに色んな話しをしています。城の根深い因習を取り除きたいようです」


「……先祖代々から続いてきた決まり事ですか」


「……はい。そう思っていただいてもいいと思います。リリア様と彼が少しずつでも取り除いてくれることを期待しているようです。私もリリア様の不思議で可能なような気がしてきました」


 彼の意外な言葉に私は驚く。この王族には外部からの力を必要といているのだろうか。シンシア様もバルソン様も私に彼の側室になれと言っているみたいだ。ソーシャルもそう考えているのだろうか。


「……それには、この私が側室になるということですか」

「彼がいつ王になるかも分かりません。リリア様の年齢のことも言われました。彼女のそばにいれば誰もリリア様に手出しはできません。王様も理解してくれると思います」


「……なるほど。話しの流れが彼の存在で変わっていくということですね。私の城での位置づけがそのようなことになるなんて、今まで気づきませんでした。私も考えを改めなくてはいけないのですね。バルソン様にお話しを聞けてよかったです」


「……今日はシンシア様にお会いして、彼女の思いもよらぬ言葉を聞いて驚きました」

「えっ、何をですか」

「バルソンはリリアのことを男として気にならないの、どんな場合でもお互いに二人だけが理解してればいいと思うと言われました。自分は別に構わないと、そのような意味合いで話したと思います。自分は外の世界とは無縁なのでまた外で会いたいとも言われました。それで……リリア様に話しますと言いました」

「そのようなことをおっしゃったのですか」


 私はその言葉を聞いて、心臓に氷水を注がれたような気がして、彼女は私たちのことを疑っているかもしれない。


「私はどれが正しいとか正しくないかというよりも、お互いに二人でいられることが正しいと思います。私たちがお互いにその意味を理解していればいいと思います。望みがかなわなければ苦しみに耐えなくてはいけません。マーリストン様の場合は耐えきれるかどうかが心配です。私はリリア様を目の前にして、このようなことを話す自分が情けないです」


「……そのようなことはないです。私たちはお互いの立場が交差して、お互いに感じている思いが違った現状で出会ってしまったのですね」


「……そのような考え方もあるのですね。私はまたお会いしたいと思いました……リリア様はいかがですか」


 彼からそのような言葉を言われ、私は一瞬返事に困る。


「……よく考えてみます」


 私はこの言葉しか思いつかないけど、自分の体が熱くなるのを感じソードをすぐ切る。 ここで話題を変えなくてはいけない。 少々焦っている自分の心を落ち着かせなくてはいけない。彼にも私の心が伝わったみたいな気がする。


「……よろしくお願いします」


 彼はそう言いながら、突然彼は左手を伸ばして私の右手首を握って自分の方に引き寄せたので、私は椅子から立ち上がる。


 一瞬の出来事で、彼は左手で私の右手首を強く握ったままで、彼の右手が私の頭の後ろを手前に押して、私の顔が彼の顔面に近づくと唇を重ねてくる。


 私は驚いて目を開けたままで、彼の瞳の中を覗き込む。彼も私の瞳の中をじっと見据えいる。私が見ていたので、彼はすぐに左手を緩めて右手を外す。右手で布団をめくってから今度は私を抱きしめてくる。私は抵抗することもなく、しばらく彼に抱きしめられていた。


「……申し訳ありませんでした」


 彼はそう言って、私を両手で押し戻すように立たせ、私は黙ってそこにあった椅子に座わり、自分の体の中にこの前の記憶が再起し、一瞬、二人の時間が向こうに飛んでしまったみたいだと思う。


「……この前はほんとうにありがとうございました」


「……こちらこそ」


 私はそう言ったものの、さっきも一瞬どうなってしまったのだろうか、と自分の気持ちがよく分からない。このような時間に訪れた自分がいけないとも思う。この前も後からよく考えたけど、彼のことは嫌いではない。バミスはすべてにおいて控えめだが、彼は強引なところがある。そのような彼に私の心が引かれているのだろうか。


「この前はどうしてあんなことになったのか、自分の気持ちを抑えきれませんでした。ほんとうに申しわけありませんでした」


「……いえ。私の心の奥深くに何かが存在していたと思います。この前バルソン様の突然の言葉で気持ちが浮き上がったように思います」


「……私は……バミスの話しを聞いたときから、リリア様に対しての自分の位置づけがどうなっているのかをずっと確かめたいと思っていました。だから……あのような言葉を口にしたと思います。王様も含めて私たちは男ですから、シンシア様を含めて女性の考え方とは違うように思います。自分のことを考えると見栄や意地も強いと思います。バミスよりも自分の位置づけが高いと思っていたのに、リリア様からバミスのことを好きだと聞き、私の正直な気持ちですが、うらやましいと思いました」


 彼がこのような言葉を使う。今の行為はこの前のことを確認しているのだろうか。バミスもたまに確認していたのだろうか。

 

「……分かりました。男の見栄と意地ですね。バルソン様はシンシア様に対しても実直な方なのですね。そのようなことは話さなくてもいいと思います」


「……確かに。でも、リリア様でしたら私の気持ちを理解していただけるかと思いました。そして……彼も同じ男である事実を理解していただきたい……このようなことをリリア様本人に話すとは、自分で情けないと思います。男とはそういう人間だと思います」


「……彼女も私も女ですから、この世には過去も未来も男と女しか存在しませんね」

「過去と未来という言葉はリリア様の不思議ですか」

「昔も今もこれから先も……ずっとだという意味です」


「……なるほど、私はリリア様が考えているような正直な男ではないです。私はひとりの女性を守ろうと思い、自分の見栄と意地のためにここまで必死に頑張ってきただけです。今夜は遅くなりましたから……もう戻られた方がいいと思います。またお会いしたいですね」


「……私でよろしければ……お願いします」


 私はこのような言葉を使ってしまい、私の感情はどうなってしまったのだろうか。バルソン様はそのようなことを考えていたのだ……ケルトンが男やマーリストンと表現したことを嬉しいと言った……男尊女卑であるだろうと考えられるこの時代では男は特にその気持ちが強いのだ……でも……シンシア様と私は女である。


 シンシア様が私をそばに置きたい理由が分かった。この城ではそのようなことになっていたのだ。ソーシャルが自分のことを考えてと何度も言った。その意味が自分自身ではっきり理解できたようだ。そのようなことが、この私に変えられるのだろうか。ケルトンに話しをしても、今の段階では理解できないと思う。だから、二人は私に話すのだろうか。


 南の城の伝説は、マーリストン様と私のことを意味しているのだろうか……城での根深い因習か……ソーシャルはそのことに気づいていたから、私に自分の立場を利用しなさい、と話したのだ。


 ソーシャルとは何も話さずに、スピードを速めて宿に戻った。


      ☆ ★ ☆ (32)


「今夜はリリアのことが心配で眠れませんでした」

「ありがとう。私はソードの上で一瞬眠ってしまい、彼女に注意されたのよ」

「危ないですよ。落ちたら大変です」

「そうよね。彼女は私の体勢で分かったと言われたのね。ふらっとしたのでしょうね。今度ケルトンは彼女と二人でゆっくり話しなさい。私がいなければ母親として、子供としての会話ができると思うからね。その間に私はカーラと話しているから、話しが終われば迎えに行くから連絡してね。今まで自分が聞きたかったことを……私みたいにはっきり聞いてみなさい。そうしたら……今までの色んな思いに納得がいくと思う」


 私はそう説明してしまう。今までそのようなことをさせたことがなかった。今であれば、自分の言葉として色んなこと彼女に伝えられると思う。


「……分かりました。質問を考えます。すぐには思いつかないです」


「……そうね。ゆっくり考える時間はまだあると思うので、今度の剣の勝ち抜き戦が終われば一気に城に入るつもりだからね。そのこともよく考えてね」


「……分かりました。今度の名前はマーリストンで申し込んでもいいのですか」

「そのことは彼女とバルソン様にも確認を取ります。名前のことは今まで考えてもなかったけど、ケルトンがそう考えたならそうしなさい。私は反対しません。その代わり……最後まで勝ち抜くことを約束してください」


「……分かりました。私はリリア様と約束します。私はマーリストンですから、俺はケルトンではありません」

「あなたはマーリストン様なのよ。その違いにはっきり気づいたと確信しました」

「ありがとうございます。私はリリア様が導いてくれたと思い感謝します」

「どういたしまして、南の城に入るまで二人で一緒に頑張ろうね」

「えっ、二人で一緒に頑張るのですか」

「そうよ。私はそう考えられるようになった」

「ありがとうございます。嬉しいです」

「今はまだケルトンだから……私は疲れたからもう寝ます。ケルトンも眠ってください」

「はい。もう寝ます。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、ケルトンはトントンに何か話したの? ケルトンの話し方はいつもと違っていたからね。王子様としてはっきり目覚めたのね。マーリストン様は必ず王になれるわね。バルソン様みたいに彼の意志は強いのよね。そのことを私は信じるからね』

『私もそう思います。二人で南の城を変えてください。リリアも私の言ったことが理解できましたね。よかったです』


『……でも……未来のことは誰にも理解できない』

『そのようですね。私にも分かりません。いつかは滅びるかもしれないけど、二人で変えられたら……この城は生き延びます』


『……ソーシャルは最初からそのことを知っていたから、私をこの時代に連れてきたのね』

『それは違います。これは偶然です。今まで私が話したことは間違いありません。リリアがこの時代の人々の心を変えたのです』

『ここの言い伝えは過去に戻り、ソーシャルが作ったと信じています』

『リリアがケルトンに言った言葉と同じです。リリア考えたことが正しいと思えばそれが正しい。私が何を言っても信じられないと思います』


『……分かりました。私がそう考えたからそれが正しいのよ』


『……分かりました』

『古くから深く根付いた人間の心は何十倍もの年月がないと変えられない。マーリストン様の子供たちが、彼の心を引き継いでくれることを願います』

『それにはリリアの新しい考え方が必要だと思います』


 ソーシャルがそう言い切る。


『……私もそのことに気づいたよ。自分のことをよく考えたからね。でも……なるようにしかならないことにも気づいた』

『百パーセントと考えなくても、何もないよりは一パーセントの望みがあれば、私はそれでいいと思います』


『……なるほどね。子供は一パーセントの確率でも産まれるからね』

『リリアとマーリストン様の子供であることがいちばん望ましいです。リリアの子供であれば誰も気づきません。気づいても彼らは何も言わないと思います』


『……なるほど、確かにそうね。お互いに何も話せないと思う。そうするとバミスがいちばん気の毒ね。ソーシャルだから話すけど、私は三人の中ではバミスがいちばん好きなのよ』


 私は初めて面と向かってそのことを話す。


『私がトントンに話して、いつの日かマーリストン様に伝えてもらいます。リリアの本心だと彼からバミスに話してもらいます。そうすると彼の心は救われると思います。リリアの存在が消えてしまえば、バルソン様が彼に話すのでしょう?』

『そうよ、よろしくお願いします。バミスとはしばらく会わないことにする』


『……分かりました。バルソン様とは会うのですか』


『……今度の剣の勝ち抜き戦に私はすべてをかけるから、それまでは誰とも会わない』

『分かりました。もう遅いですから寝てください』

『ありがとう。後はよろしくお願いします。おやすみなさい』

『おやすみなさい』


 偶然だとは言え、私のことを見つけてソーシャルはこの時代に連れてきたのだろうか。私が自分の過去を思い出したから、それは間違いないような気がした。


 彼女は私がマーリストン様を導いている間に、この時代の未来に行ったのだ……この時代の将来を見たのだ……彼女は時空を移動できる。私が帰ろうと思えば、自分の世界に戻れるのだと思う。でも、そのことに気づくのが遅すぎた。


 私の意識は時間が短かったけど、この時代に根付いてしまった。ここの根深い因習と同じようになってしまった。今の私はここから抜け出すことはできない。自分でそうしてしまったのだろうか。私がマーリストン様を導いたように、私が気づかない間にソーシャルから導かれたのだろうか。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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