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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第二章 『出会いから、五年ほど過ぎて……』
54/165

54=〈シンシア様の意外な言葉〉

やや長文です。

      ☆ ★ ☆ (29)


 ケルトンが先に湯桶から戻ってきたから、私が出かけようとすると、彼女たちも戻ってくる。隠し温でもそうだったけど、ケルトンは意外に長湯である。ゴードン様は最短記録を更新するかのように、お風呂は嫌いだと言っていた。


 彼女たちは竹の里から出たことがない。現実的な市場の存在も知らないと思う。ゴードン様が話しているので、言葉だけの知識はあると思うが、最初は一緒に行動しようと思ったけど、私はミーネと歩き、彼はコーミンは一緒に歩かせようと思う。二人だけだと少し心配なので、内緒で後をつけることをミーネに話そうとも思った。


 ここで彼がコーミンを案内できると、彼はまた一歩市場の人間に近づくし、自信も持てるし色んなことが考えられると思い、お互いに普通の生活をさせたかった。


 彼に渡した金貨はコーミンを案内するために役立つと思う。彼女に何か買ってあげるようにいうつもりだ。後は自分で考えてくれればいい。


 今日の夕食はこの前の質素な食事と違い格段に見栄えがよく、ケルトンがこれは鶏の肉だと言ったけど、名も知らぬ魚もあり野菜もカラフルで、私とケルトンはもちろんのこと、彼女たちも驚いていた。


 聞いてみると、彼女たちは私たちよりも質素な食事だったらしく、昨日の夕食とホーリーが朝早くから作ってくれた朝食にも驚いていた。この食事は彼女たちの言葉以上に、心の中では仰天していると思う。

 

 バルソン様が私たちに出してくれた食事は、濁酒(どぶろく)みたいなお酒もついて、この特別食よりも格段に上だと思い、市場のレベルの差があるかもしれないが、相当な値の張った食事であっただろうと思う。私たちに感謝している意味が言葉ではなく現れていたとも思い、バルソン様の言葉は少なかったけど、私はバミスのことも含めてそのことがとても嬉しかった。

       

 私たちは廊下を対面にして別々の部屋が用意され、ミーネは昨夜も遅くて今朝も早くてとても疲れたと思う。食後はすぐ寝てもらうように話して、ソーシャルに向こうもチェックしてもらうように頼んだ。


     ☆ ★ ☆


「ケルトン、馬車の荷台でコーミンとたくさん話せたの?」

「リリアもよく話すけど、コーミンもおしゃべりですね」

「えっ、そんなに話したの?」

「次から次に質問しました。俺の知らないことばかりを質問するから参りました」

「えっ、そんなに知らないことばかりだったの?」

「全部ではないけど、ミーネから聞いたことがほんとうかどうか確認しているみたいでしたよ。俺も分からないし話せないこともあって……答えられなくて参りました」


 彼からそう言われたから、私はしまったと思い、せっかく彼の気持ちを前面的に出させようとしていた矢先なのに、これで落ち込まれては大変だ。


「それって、ゴードン様やミーネから聞いた話しをケルトンに再確認しているのかしらね。これから向かう先に対しても不安があると思うよ。それは私が聞いた方がよかったかもしれない。男女で考え方も違うからさ、気にしなくてもいいからね。彼女たちの考えは竹の里の状況と、ゴードン様が話した内容を想像することしかできないような気がする。これから自分の眼で確認すればいいことだからね。女は竹の里から出られないそうよ。そう思うと何だか悲しくなる。シンシア様も含めて城の中にいる人たちも同じような気がするけどね。ケルトンは市場の人たちが何を考えて生きているかを感じ取ってね。色んな人の話しをたくさん聞くようにして、トントン屋敷にいる間にここに何回も来ようね。四人で来れば楽しいと思う。毎回違った市場の表情が見られると思うよ」


 私は彼が落ち込まないように、長々と自分の意見を説明してしまう。


「俺もコーミンも同じなのですね。俺よりもコーミンの方がはっきりと意味が分からなくても、たくさん言葉を知っているような気がしました」

「ゴードン様は色んな市場に出かけたみたいだから、私よりもたくさんのことを知っていると思うからね。楽しい話しやおもしろい話しを混ぜ込んで色んな話しをしたのでしょうね。私たちは隠すことばかりで話しをするのが難しいよね。ここでほかの人の話しをこっそり聞いてみたら? コーミンに話すときの話題として、何か考えられるかもしれないでしょう」


「……そうですね。自分のことを話すのは難しいですね」

「トントンは何か言っていたの?」

「切っていました」

「分かりました。馬車の上だからいいいけど、市場では必ず話せる状態にしなさい」

「申しわけありません」


 彼は素直に謝ったけど、私は切った理由を聞こうとは思わない。


「謝らなくてもいいからね。自分で考えたことだから、自分なりに切る理由があると思う。私も切ったことがある。それは自由だから深く考えないで、でも明日は市場の中を歩くから切らないで、私とミーネは別行動するから二人で一緒に歩きなさい。近くにはいるつもりだけどその時は必ず切らないでね。私たちはこの市場に慣れてないのよ。ましてコーミンもそばにいれば、何かあっても対応が遅くなるからね」


 私はまた長々と説教じみたことを話してしまう。


「分かりました。この前みたいに俺がコーミンを色んな店に連れて行きます。俺の方が少しは知っていると思います」


 彼がそう言ってくれたから安心したけど、前回のことがここで役立つとは、彼の後ろをずっと歩いていてよかった……今の彼はすべてにおいて自信を持つことが大事だ。


「コーミンはケルトンよりも市場のことは知らないからね。話しで聞いたことと実際に自分の目で見たことは違うと思う。何でも経験しないと分からない。私だって同じことなのよ。色んな市場の雰囲気とかあるでしょう? ラデンみたいにずっとここに住んでいると、細かいことまで知っているとは思うけど、毎回色んな発見があると思うよ。コーミンにもいろいろ教えてあげてね。この前は楽しかったからね」

「はい。俺も楽しかったです」


 ケルトンはやや照れながら、嬉しそうにそう言ってくれる。 私は一通りケルトンと話し終わってから最後に、彼女たちがこちらの屋敷に慣れるまでは、シューマンは来ないようにお願いすることと、コーミンの言葉をあまりにも知らなかったことを説明するために、今からバルソン様の屋敷に行くと伝え、彼女たちは疲れてぐっすり眠るだろうから、今夜も先に寝ていいと話した。


      ☆ ★ ☆ (30)


 一方では、シンシア様の部屋での会話である。


「シンシア様、バルソン様がいらっしゃいました」と、パーレットがそう言う。


「私もすぐ行くから庭の方にお通しして」

「かしこまりました」


「バルソン、昨日はリリアが来たからちょうどよかった。ゴードン様の娘の話しを聞いたのね。今ごろは馬車の中ね。トントン屋敷に朝一番で行くと話していたからね」

「私に相談に来たのでいろいろ話しました。成功してよかったです」

「そうね。バミスがそのことに気づいたの?」

「はい。バミスはそのことを知って驚いたと言いました」

「ほんとうね。竹の里でそんな決まり事があるとは知らなかった。この城では色んな里での決まり事をすべて把握しているの?」

「すべて把握しているわけではありません。小さな里では無理です」

「なるほど。そこに住んでいる女性は不幸に思えるけど、バルソンは男だから考えられないでしょうね。リリアの行動はいいことだったと思う」

「私もそう思います。しかしゴードン様の家族だから寛容に考えましたが、ほかの者では許されません。その決まり事があるからこそ……その里は生き延びてきたのです」

「難しい問題ね。リリアがいなければ私は気づかなかった」

「私もです。ほんとうに彼女は不思議な存在ですね」

「彼女はこの城を救ってくれるのかしら?」

「分かりません。リリア様には彼が決まる前にこの城を出るように話しました。王様の一言はくつがえすことはできないと彼女は理解したと思います」


「……それはほんとうのことだからね。この前私も少し話したけど、私はリリアが彼の側室になってもいいと思うようになったのよ。それはお互いが決めることだからね。その場合はリリアの歳のことが問題ね。彼よりもずっと年上です。彼がいつ王になれるかも分からないし、子供が産まれる可能性も考えなければね」

「子供の可能性のことは私には分かりません」

「子供のいない側室も考えられると思う。それは彼が決めることだから、今の彼はリリアの言葉を信じているからね。リリアがここで自分の不思議を使えば……ここも変わっていくのかしら? 私はそれを期待してもいいと思うようになったのよ」

「私はシンシア様ほどに王様の考えが分かりません。私はシンシア様のおっしゃった言葉しか意味を理解できません。シンシア様がそう思うなら変わると思います」


 バルソンはそう言ったけど、二人の関係を事細かく知らないことに、彼は少々苛立ちを感じている。


「今の私は王様の気持ちを理解しているとは思うけど、話しを聞いても大変な現実なのよ。でも、私が内緒で彼に話さなければいけないことを、リリアが代弁してくれたと思います。後は彼がそのことが正しいか間違っているかを判断すればいいと思います」

「私はバミスに、リリア様が城から出た場合はバミスも出ろと言いました。そのことをこの前リリア様にも話しました。そして子供たちに剣を教えるように言いました」

「私もそれがいちばんいいとは思うけどね。ここに来たら彼女の考えも変わるかもしれない」

「今のリリア様は彼のことしか考えてないと思います。彼が城に入っても考えが変わるとは思いません。城から出ることを信じていいと思います」

「私もそう信じたいけどね。リリアはアートクの市場で彼の後ろを着いていくと思ったそうよ。彼の思いやりのある命令に従うと話したそうよ。彼を男にしてくれたのね。そこにすべての意味が含まれていると話したのよ」

「私も聞かれました。側室の話をしていいのかと、バミスに冗談でもいいから女性の話しをさせてくれと、だからバミスに禁止していると言いました。いちばん難しい問題だとも言われました」


「……確かに難しい。でも乗り越えられたみたいね」

「友達の話しもお聞ききになりましたか」

「勝ち抜き戦で四戦目に戦ったシューマンのことを聞きました。バルソンが探し出してくれたと言っていたわよ。それとゴードン様の孫のコーミンね。同年代の友達は必要よね。色んなことで励みになると思う。自分のことを考えると……私はバルソンがいたからよかった」

「私もシンシア様がいらっしゃいましたから、今の私が存在すると思います」

「ありがとうございます。考えると私たちの間には色んなことが起きましたね。私はバルソンには感謝しているのよ。私のために危うく城での地位を失いそうになったからね」

「いえ、シンシア様を救えたことは、自分が男としての底力が発揮できて、私の意地も通せてたくましくなったと思います。困難を乗り越えたからこそ、それ以上の自分の力が発揮できたと実感しました。あの時は感謝してもらえてとても嬉しかったです」

「私は彼が王になれば、そのことを私の口から二人に話そうとずっと思っていたけど、バルソンはどう考えているの?」

「彼の地位がしっかり確定するまでは、お話しにならない方がいいと思います」

「私は一度も顔は見たことがないのよ」


 彼女がそう言ったので、バルソンは会わせたい気持ちもあるけど、彼女の気持ちを考えるとどうしようもなくて、少々苦渋に満ちた心境だ。


「マーシーとルーシーみたいに顔の作りが違いますから、そのことはお二人にとってはよかったことだと思います。誰が見ても気づかないと思います」

「私はずっと会いたいと思っていたけど、考えてもどうしようもないことなのね。リリアが話した言葉通りだと思ったのよ」

「リリア様が何かおっしゃったのですか」

「意味が理解できても、どうしようもないこともあるのですねと……彼が言ったことよ」

「彼はそのようなことを言われたのですか」

「リリアが彼に物事の考え方も教えたのね。私も教えられたみたいよ」

「それは私にも当てはまります。そのようなことまで教えてもらえたとは、彼はもう大人になりましたね。私はリリア様にほんとうに感謝します」


 バルソン様はそう言ったけど、ほんとうにどうしようもないことだらけだと、ほんとうにそう思っている。


「彼はリリアの言葉を信じてそのようなことを言ったのだと思うのね。そのことは私にも当てはまるから、もう一つの言葉は引くことだそうよ。逃げ出すということよ」

「えっ、ここをあきらめるということですか」


 彼はその言葉を聞いて少し驚いた表情をしている。


「違います。自分に危険を感じたら逃げなさいと説明したみたいよ。男は見栄も意地も強いでしょう。女もたいして変わらないけど、すべてを捨てて逃げ出せと話したと思うけどね」

「彼はそのようなことをリリア様に教えてもらっているのですか」

「二人でずっとそばにいるから話す時間はたくさんあるでしょう。彼も自分でよく考えて意味が理解できていると思うから、自分で色んな判断ができると思います。リリアの話しを聞いていても彼のことしか考えてないのよね」

「私もそう思います」

「リリアの考えていることには反対はできないわね。私に必ず話してくれるから、いつも彼のことを考えているのよ。もう少し自分のことを考えればいいけどね」

「私もそう思います」

「バルソンはリリアのことを男として気にならないの?」

「えっ、どういう意味ですか」

「普通の男と女としてよ」

「シンシア様からそのような言葉を聞くとは驚きました」


 彼はそう言ったけど、この前のことが脳裏に蘇ってくる。


「でも……気になるでしょう?」

「確かに気になります。バミスことを知っているので……私からは何も言えません」

「リリアから言ってきたらバルソンはどうするの? 私たちみたいに隠しておけるのでは、お互いが理解していればいいことよ。私はそう思うけどね。私は別に構わないと話しているだけよ。お互いの気持ちの問題だからね」


 彼女はバルソンの本心を聞き出そうとしているかのごとく、そう話しているようだ。


「今日はそのようなことを言われるとは思いませんでした。しかし……その言葉はよく覚えておきます」


「……どんな場合でも、お互いに二人だけが理解していればいいと思う。彼とリリアのこともです。私には細かいことまでは理解できない」

「私もです。いつもそばにいるわけではないですから、二人を信じるしかありません」

「私は城の外とは無縁だから、私はここからは出られないのよ」

「リリア様に出られないことは話しておきます」


「……ありがとうございます。また外で会いたい」


 彼女は今すぐでも抱きしめられたいような目つきで、前屈みになり両手を伸ばすしてそう言うと、『私もそう思います。よろしくお願いします』と、彼も意味合いをくみ取ったような苦しげな顔つきで、彼女の両手をそっと握りながらそう言ったのだ。



今回も読んでいただき、ありがとうございました。


この庭は、シンシア様のお気に入りだ。

今後も色んな出来事が……この庭で会話されるかも……。

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