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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第二章 『出会いから、五年ほど過ぎて……』
48/165

48=〈不思議な手合わせ〉

やや長文です。

     ☆ ★ ☆ (21)


 朝になった。私はぐっすり眠り込んでいた。ケルトンの方が先に起きて話し始める。


「リリア、起きましたか」

「えっ、ケルトン、何でそこにいるの?」

「えっ、俺が眠れないと言ったらリリアがこっちに布団ごと来なさいって……」


「……昨日は疲れちゃって、私はそういうことは覚えてないけど、二人で寝ぼけてたんじゃないの?」

「俺もよく覚えてないから聞いたのですが」と、彼はそう言ってくれる。


「この布団はゴードン様の部屋の布団よりもぐっすり眠れたわね」

「はい。城の布団が懐かしいです」

「シンシア様の布団は広くてふかふかだったよ」

「すごいですね。俺は蚊屋の中には入ったことがありません。あの部屋自体に入ったのは、リリアが最初に連れてってくれたのが初めてですから……」


「……そうなんだ。誰も入れないと言っていたから、暖かくて夢のようだったわよ」

「王様は入れるのでしょうか」

「えっ、誰も入れないと言ったから、シンシア様が王様の蚊屋に入るのでは」


「……なるほど……」


「……シンシア様がケルトンの部屋はあると言ったのでよかったと思ったのよ」


「……俺がこんなに大きくなったから、あの部屋は狭く感じるでしょうね」

「でもないよりはましでしょう? さてと、この布団を向こうの部屋に持ってこうか」

「俺が運びますからリリアはいいです」

「ありがとう。ケルトンは男だし力持ちだからね。力仕事は男がしなくてはね」

「はい。任せてください!」


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、こんな会話になってよかった』

『そうですね。ケルトンも理解していると思います』

『バミスは何も教えなかったのかしら? 今度は言わなきゃね』

『バミスが傷つかないように優しくお願いします』

『えっ、それってトントンから聞いたの?』

『えっ、私は何も聞いていません』

『私はこんな話し方しかできないし、今さら変えても変でしょう?』

『そのようですね。リリアは今のままでいいです』

『ありがとう。今日も二人で市場を見学するからよろしくお願いします』


     ☆ ★ ☆


 私たちは朝食後に少しのんびりしてから出かけた。

 昨日はこの部屋に近い中心部分を見学した。

 今日は違う場所にしようと思った。

 今日もケルトンの後ろを歩こうと思っていた。

 どこに行ってもいいと話した。

 何か買う目的で歩き回るといいとも話した。

 今日は自分の欲しいものを買いなさいとも言った。

 男女の違いで買い物でも考え方が違うような気がした。

 色んな物を見ることは社会勉強になると思った。

 市場の人々に興味が持てた今のケルトンには大事ことだ。

 彼は偉大な王様にならなくてはいけないのだ。


     ☆ ★ ☆ (22)


 私たちが色んな物を見ていると、ソーシャルが後を付けられていると話す。


「物取りか手合わせか。そちらが先に剣を抜けば切る」


 私は鞘を左手で握り、柄を右手で抜けるように押さえ、構えている三人の男を見回しこの言葉を力強く発した。

 私は左で剣のを握りしめながら右手で剣の柄を握った。

 左足を後ろに下げ両方の膝をやや曲げて構えたのだ。

 ケルトンは私の右隣にいた。


「リリア」

「抜かないで」

「でも……」


「抜かないで」

「はい」と、ケルトンはやや大きな声で返事をする。


「このまま引け。そちらが抜けば切る」

 私は真ん中の男を見て、もう一度力強く発する。


「……」


「戦う気がなければ立ち去れ、こちらは戦う気がない」

 私は腹の底から力を込め、真ん中の男を見てそう言い放つ。


「……」


「ケイブ」


「……はい」と、ケルトンは大きな声で返事をしてくれる。


「ソー」

「えっ?」

「消えてしまえば終わりよ」

 三人の男に目配せをしながら、私は落ち着いた声の響きで告げる。


「はい! お前たちが剣を抜けば……俺が……切る」

 ケルトンの言葉はドスの効いた声の響きに変化している。


「……引け」 


 真ん中の男が言葉を発すると、二人の男は剣を抜かずに左右に別々に立ち去る。そうすると、真ん中の男は一礼して右側に立ち去ってしまう。


 一瞬のできごとだったが何が起こったのだろうか。

 私は自分が傍観者のような気がした。

 もうひとりの自分がその場いたみたいだ。

 ソードを使ったわけではないのに、私はどうなってしまったの?


「リリア、すごい気迫でした。俺はあいつらよりもリリアの言動に驚きました」

 ケルトンは彼らがいなくなってから私に声をかけてくる。


「えっ、そうなの? 気合いが入って疲れた……もう行こう」


「……部屋に戻りましょうか」

 ケルトンがそう言ったので、私は『そうね』と、しか言えない。


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、どうなったの?』

『リリアの意気込みを感じて言葉をかけられませんでした。その後三人はバラバラに移動したので分かりません。物取りではなくてこれは手合わせですね。ラデンが差し向けたのでしょうか』

『私たちを試したわけね。ケルトンも男なのね。彼の声は逞しかったわね』

『あの声は勇ましかったです。気合いが感じられました』

『私の言葉に触発したのね。いざとなればソードを使ってもいいと思ったのよ。あいつらが土色としても戦えば怪我をする。このような時は気力で対応しなくてはいけないと一瞬閃いたのよ』

『向こうも何か感じ取れたと思います。リリアのこのような声は聞いたことがありません。私も驚きました』

『自分でもよく分からなかった。実際にソードを持ったら性格が変わりそうね』

『持つ状況にならないことを祈ります』

『自分で抑制がきかないかもね。ケルトンも同じなのかしら?』

『私がいうのも変ですが……分かりません』

『二人で抑制しあえば話しにならないわね。そのためにソーシャルがほかのブレスを考えたの?』


『……そういうことです』

『バルソン様に抑えてもらった方がよさそうね』

『それはリリアが考えてください』

『バルソン様の方がラデンより精神力が強そうな気がする。お互いに二対一で抑えなくてはいけないような気がしたのよ。自分でもよく分からないけどね』

『リリアは使ってもいないのに……その意味が理解できましたか』

『そういう感じがしただけよ。さっきの気迫だったらバミスにも勝ちそうね』

『リリアの基本は剣道なのです。それが今の剣にも現れているのですね』

『自分では考えられない。ケルトンの気力もすごいのね。シンシア様と私を守ろうとしているのよ。それだけを考えると言っていたからね。これは本気なのね』

『そのようですね。彼の本心ですね。ラデンが来ましたよ』


「リリア、ラデンが来ました」

「えっ、今はソーシャルと話していたのよ」

「俺もトントンと話していました」

「ケルトンはすごかったわね」

「いえ、リリアほどではありません。トントンもそう言っていました」

「ありがとう。また後でね」

「はい」


「リリア様、先ほどは大変失礼しました。私の手の者ですがフィードと申します」

「二度目ですけど、初めまして、リリアです」

「フィードです。先ほどは大変失礼しました。私はリリア様の声の響きに驚きました」

「なるほど、私たちを試せと言われたのですか」

「大変申しわけありません。特別色の紫の編み紐の意味が理解できました」


 ラデンはそう言ったけど、その意味とは何なのよ、と私は言いたい。


「私は紫の編み紐の意味を理解していませんけど、バルソン様からこの剣はいただきましたからね。編み紐の横のつながりもご存じなのですか」

「どういう意味でしょうか」

「例えば赤の編み紐を持っている人を知っているとか」

「えっ、バミス様のことをおっしゃっているのですか」

「バミスのことを知っているのですか」

「えっ、バミス様をご存じなのですか」


 ラデンが驚いたように、反復するかようにそう言う。


「バミスはリリアのことを尊敬していますよ。俺も尊敬しているけどね」


 ケルトンがそう言ったから驚いてしまい、彼は私が話しているときは、今まで口を開いたことはない。


「えっ、弟様は礼儀正しいですね」

「もう一つ言わせてもらうけど……バルソンもリリアのことは尊敬していますよ」

「えっ、バルソン様もバミス様も呼び捨てにするのですか」

「俺は今まで考えたことがなかったけど、リリア、いけないの?」


 ケルトンは今までの声の響きとは違い、声のトーンがダウンしている。


「いいのよ。何も考えなくていいのよ」

「はい」

「どうなっているのですか。私には意味が理解できません」

「だから……俺もバルソンもバミスもリリアを尊敬しているのです」


 先ほどの声の響きの勢いよりも力強さが下がっていたけど、彼はそう言うのだ。


「……なるほど」

「ほんとうのことです。俺のことが信じられないならバルソンに聞いてみたら? リリアの凄さを教えてくれるかもしれません。俺が本気で怒られてもさっきみたいな声の響きは聞いたことがありません。先に剣を抜いていたら切られていますよ」


 そう言い切ってしまった彼の言葉を聞いてまた驚いたけど、彼にも自分の感情を外に出すことができるのだ、と思ってしまうほどの勢いだ。


「ケルトン、それは言い過ぎじゃないの?」

「でも……俺はほんとうにそう思いました」 

「分かった。もう話さないで」

「すみません」

「このようなことをするとは、彼も私も驚いたということです」


 私は少し怒ったような口調でそう言ってしまう。


「大変申しわけありませんでした。私は意味が分からないのでバルソン様に確認します」

「よろしくお願いします。私たちはもう部屋に戻ります」


 私はそう言って歩き始めようとしていると、『分かりました。失礼します』と、彼がそう言うのだ。


     ☆ ★ ☆

 

「ケルトン、どうしちゃったの?」と、私はラデンから離れてしばらくしてからそう尋ねると、

「言い過ぎました。申しわけありません」


 彼がそう言いながら軽く頭を下げたけど、いい過ぎるとかそういうことではなく、今までの彼の態度からして自分の感情を表したことが、私にはどうなってしまったのか、と疑問に思ったからそう尋ねてしまったのだ。


「今回のことはラデンが悪いのだから、気にしなくていいからね」


 私にはその言葉しか出ない。


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、ケルトンはどうしちゃったの?』

『少々興奮気味だったみたいです。男として気合いが入ったみたいですね』

『なるほどね。珍しく男として怒ったのかしら?』

『そういう感じだとトントンが言っていました』

『ケルトンにもそういう感情があったのね。いいことだわ。いつも私の話しを聞くばかりだから、今度からは彼の意見も聞かなきゃね』

『はい。そうした方がいいと思います』

『分かりました』


「ケルトン、さっきの言葉で『俺が切る』という言葉は勇ましかった。とって嬉しかったのよ」

「えっ、ありがとうございます。リリアを守ろうと思いました。リリアもすごかったです。別人みたいで驚きました。ソーとはソードのことですよね」

「理解できるようにケイブのことを先に言ったでしょう?」

「はい。いざとなったら使ってもいいと言ったのですよね」

「そういうことよ。でも私が先に使うまでケルトンは絶対に出さないでよ。最後の最後まで隠さなきゃね。二人で同じ場所では使わない方がいいと思う。一つは素早く移動するために残した方がいい。前にも説明したかもしれないけど、剣にするとお互いに話せなくなるのよ」

「分かりました。剣にすれば話せないのですね」

「そうよ、覚えておいてね。今度から剣を出すことはケイブということにするわね。ソードに乗ることは何の合い言葉にしようか。ケルトンが考えてよ」

「えっ、俺が考えるのですか」

「そうよ。二人だけしか知らない言葉がいいけどね」 


 私がそう言うと、ケルトンは真剣に考えているみたいだ。


「……滝の近くにある樹の名前の『フォール』はどうですか」

「それいいわね。私たちしか知らない言葉だからそうしようね」

「ありがとうございます」

「ラデンは今日中に早馬で南の城に行くような気がするけど、どう思う?」

「はい。俺もそう思います」

「私は暗くなるとバルソン様の屋敷にひとりで行ってもいいの?」

「えっ、ラデンよりも先に行くのですか」

「ケルトンはここにいてトントンと話してなさい。誰か来れば私は疲れて寝てしまったと誤魔化して、二人でいなくなる困るよ」

「バルソンはフォールのことを知っているのですか」

「もうその言葉を使っているのね。すごいわね」

「いえ」

「何も言わなくても分かると思うよ。私の不思議だと思うからね」


 私はこの言葉しか使えなくてそう言うと、『分かりました』と、彼はそう返事をする。


「夜中にこっそり帰って来るから、ケルトンは眠くなったら寝てなさい」

「はい」

「何かあったらトントンに相談して後は自分で考えてね」

「はい」

「今からソーシャルからトントンに話すようにいうからね」

「はい」

「何もないと思うけど、何かあることも考えなきゃだめよ」

「はい。リリアは俺のことが心配なのですか」

「もちろんよ。ケルトンも私が独りで行くことが心配でしょう?」

「えっ、はい、心配です」

「私たちはいつも一緒にいるのよ。あまり離れたことはないのよ」

「はい」

「でも、これからはこういう状況もあると思わなくてはね」

「はい」

「そうだ、忘れてた。今夜は何か食べて戻らなきゃね。何を食べてみたいの?」


「……そうですね。リリアは何が食べたいですか」

「今日はずっとケルトンの後を歩くつもりだったから任せた」

「えっ、俺は困りますよ」

「何か私に食べさせて、日頃の感謝をここで発揮して、そう思うと何か選べるでしょう?」

「まったく、リリアははっきり言い過ぎますよ。感謝は俺が感じていることです」

「そうしたら何か食べさせて、それくらいのことを言わないと考えないでしょう?」

「分かりました。俺は鹿肉の店を探します。これがバミスとの出会いですからね」


 彼がそう言ったので、何だかその言葉に感動してしまう。この鹿肉はケルトンが言ったように、私たちがバミスと出会ったキーポイントの言葉として、ずっと私の心の中に潜んでいた。彼がその言葉を使ってくれてとても嬉しい。


「私は何でもいいから自分で探してね。自分で何でもしなきゃね」

「はい。これがリリアのやり方なのですね」

「気づくのが遅いわよ。私も気づくのが遅かったけど、今まで私のいうことをずっと聞いていたからね。これからは何でも自分から進んでやらなきゃね」


 私はそう言い切ってしまう。


「今まで何でも言ってくれたから……俺はそれでよかったです」

「今度からは何でも自分でしてね。私がケルトンの後を歩くから、そうすると立場が逆になり、ほかの人のことを考えられるようになる。すべての人がケルトンの後に付いていくのよ。シンシア様もバルソン様もバミスもね。私もゴードン様もよ」


 私は彼の立場のことを強調して話したつもりだ。


「そのようなことになるのですか」

「そうです。ケルトンの立場がそうするのよ。ちょっと遅かったけど、私も初めてそのことに気づいた。ここに来てケルトンが市場の人に目を向けられるようなったから、私もやっと気づいたのね。色んな人間がいるでしょう? ここでは自由にしていいからね」

「はい。鹿肉の店を探します。人に聞いてもいいのですか」

「いいわよ。分からなかったら人に聞くのがいちばんね」

「分かりました」


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、これでいいのよね』

『そのようですね。突き放すようですがこれでいいと思います』

『そうよね。独りで何でもしなきゃね』

『リリアの子離れですか』

『寂しいけどケルトンの親離れよ』

『逆に考えるとそうですね』

『お互いに辛い立場ね。でも……彼にはトントンがいるから安心しているのよ』

『ありがとうございます』


「リリア、ありましたよ。ここに入りましょう」

「いいわよ。ケルトンが私の分も頼んで代金も支払ってね」

「分かりました」


 私たちは鹿肉専門のような店に入ったけど、私はゴードン様に頼んで鹿の干し肉を非常食用に作らせていて、鹿の角を加工させて(やじり)の先に使おうと思い、こちらは加工する技術が問題であり、手作りで数も多いので干し肉のようには進んでいないようだった。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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