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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第二章 『出会いから、五年ほど過ぎて……』
44/165

44=『バルソン様とバルミン』・『バルソン様とバミス』

やや長文です。

     ☆ ★ ☆ (16)


 一方では、バルソン様と息子であるバルミンの会話が進んでいた。


「バルミン、ここに座りなさい」

「はい」

「私は聞きたいことがあるのだが?」

「はい」

「私は何も聞いてなかったが、お前はこの前の剣の勝ち抜き戦に参加したのか」

「はい。お伝えしなくて申しわけありません。自分の腕を試そうと思いました」

「そうか。何戦目まで勝ち残ったのだ?」

「四戦目で負けました」

「そうか。何という男に負けたのだ」

「ケルトンと言っていました」


「……そうか、分かった。しかし、なぜ相手の名前を知っているのだ」

「えっ、申しわけありません。私がケルトンを蹴飛ばしたことでご迷惑をおかけしました。私が悪いと思ったので城の外で謝りました。私の言い分も聞いください」

「なるほど。自分の非を認めたわけだな」

「はい。申しわけありませんでした」

「なるほど。姉のリリアにも会ったそうだな」

「はい。リリアにも謝りました。ご迷惑をおかけして申しわけありません」

「そのようなことがあったとは知らなかった。よく分かった。お前は自分の非を認めて謝れるような男に育ったのだな。安心したぞ」

「えっ、そのことでご迷惑がかかったのではないのですか」

「違う。そのようなことを聞くとは思ってもみなかった」

「えっ、そのことではないのですか」

「そうだ。名前を隠してバルミンの名前ではなかったな?」

「はい。シューマンの名前で参加しました」


「……やはり……お前だったのか」

「えっ、どうしてその名前をご存じなのですか」

「そのシューマンの名前を確認したかった」

「どういう意味ですか」

「ある屋敷からシューマンと名乗る人物を捜してくれと頼まれた。私の配下の者がいろいろ調べたが、バルミンではないかということになったから聞いてみた」

「えっ、ケルトンの屋敷の者から頼まれたのですか」

「それは答えられない。そこではどんな会話をしたのだ?」

「はい。申しわけありません。私がケルトンに負けてしまい腹いせでつい蹴飛ばしました。彼は態勢を崩して転び左足を負傷しました。自ら足が痛いと退場したので、私は謝ろうと思い後を追って謝りました。そこに姉のリリアが迎えに来て、油断してはいけない、勉強になったのではと言ったので、私はリリアにも謝りました」


「……そうか。他に何か言ったのか」

「ケルトンがリリアは自分よりも剣が強くて教えてもらっていると話したので、女性が剣を使えるとは驚きました。私にも剣を教えてほしいと話すと、今度の試合までにもっと強くなっていると先生を教えますと言われました。それで、私は次の剣の勝ち抜き戦に勝ち残ると約束しました」


「……そうか。お前はリリアに教えてもらいたいのか」

「はい。ケルトンは私より強かったです。彼は手加減をしていたと思います」

「なるほど。お前にはそういうことも分かるのか」

「はい。ケルトンは前後左右に動いて打ち込んできましたが、私はそれを受けるのが精一杯で少ししか打ち込めませんでした。リリアが手よりも足が大事だと教えてくれたので、今度は自分の足を鍛えると言いました」


「……そうか。足の動きは大事だか動き回ると体力を使う。剣の勝ち抜き戦ではその方法はよくない。最後まで体力が持たない。覚えておきなさい」

「はい。ありがとうございます。短期戦には有効なのですね」

「そういうことだ。この剣の勝ち抜き戦では毎回短時間で終わらせないと、最後まで体力が持たない。勝ち残れば勝ち残るほど隙がなくなり対戦時間が長くなる。最後には強者揃いが残る。何事にも体力をつけるのがいちばん肝心だ。よく覚えておきなさい」

「はい。貴重なお話しをありがとうございます」

「バルミンは剣が強くなりたいのか」

「はい。私は剣が強くなりたいです」

「よく分かった。この屋敷は兄のバルマンが継ぐと思う。お前はいずれこの屋敷から外に出なくてはいけない。そのことは理解しているな?」

「はい。分かっております」

「この屋敷から外に出て、お前はそばで王様を守れ」


「……この私が王様のそばでお守りするのですか」

「そうだ。バルミンのことは信じているぞ。このことは忘れないようにしなさい」

「はい。ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」

「私に謝る必要はない。ある人がお前に剣を教えたいと言っている。その屋敷の者は私の存在は知らない。私はお前を信じているから私の名前は出すなよ。頼んだぞ」

「私はリリアとケルトンに次回の剣の勝ち抜き戦に勝ち残ると約束しました。それには出させてもらえますか」

「分かった。そのことは私が伝えよう。お前の名前は最後までシューマンで通せ」

「はい。分かりました。ありがとうございます」

「もう一度いうが私の名前は出すなよ。この話しは二人だけの秘密にする。その屋敷に行けば意味が分かる。男だったら死ぬ気になって強くなり王様を守れ。分かったな」

「はい。分かりました。お約束します。私を信じていただきありがとうございました」



     ☆ ★ ☆ (17)


 一方では、バルソン様とバミスの会話がなされていた。


「私はバミスと男同士の話しがあるのだが、私はこの城で二人の女性の命を守ると心に誓った。バミスも独りの男として私の話しを聞いてくれるか」

「はい」

「バミスはリリア様に感謝しているだろう。私も男として感謝している。それ以外に言葉はない。だから、リリア様ことをバミスは命をかけて守れ。約束してくれるか」

「はい」

「今からリリア様が城に入っても、城が窮屈だと感じて城を出るかもしれない。そうしたらバミスも一緒に城を出て彼女を守れ。約束してくれるか」

「はい」

「その場合はゴードン様の屋敷に住めるように彼に頼む。そうすると城に近くていい。トントン屋敷に住んでもいい。そこで市場や屋敷の周りの子供たちに剣を教えろ。その子供たちが王様や王子様の子供たちを守るようになる。私は一生この城からは動けない。バミスはどう考える?」

「はい。私はリリア様のお命は必ず守ります。私が剣を教えることも可能です」

「頼んだぞ。『黒い帝国』と戦いが始まれば皆でトントン屋敷に移動しろ」

「はい。分かりました」

「それから、彼にバルミンをつける。シューマンと名前は変えてつける。リリア様と三人で剣の勝ち抜き戦の後に偶然にも出会ってしまった。バルミンは私の配下の顔は知らない。自分の名前は隠すように言ったから頼んだぞ。お前は二人のことを偶然にも知ってしまったが、バルミンがシンシア様の子供であることは三人しか知らない。彼らはお互いに何も知らない。私はバミスにしかこのことは頼めない。シンシア様が知ればお互いに困る。頼んだぞ」


「……いつかはこうなる運命だったのですね。二人に剣を教えます」

「頼んだぞ。お互いにもう少し成長すれば、私はバルミンに彼を守らせるつもりだったが、すでに二人は出会ってしまった。リリア様が彼と出会ったことと同じだと思った。この機会を利用する。今後はリリア様とバミスとバルミンで彼を守れ。頼んだぞ」

「承知しました。リリア様が話しましたが、黒い帝国の情報を手に入れるために西の森に行きますが、その話しはご存じですか」

「この前彼女から聞いた。彼は黒い帝国の話しは知らないから頼んだぞ」

「はい。承知しています。リリア様に聞きました」

「私から一つだけ忠告する。この旅でリリア様の不思議を感じても気にするな。リリア様には間違いはない。お前は彼女を信じて彼女の意見をよく聞け。そして必ず二人の命を守れ。分かったな」

「はい。命をかけて必ず守ることをお約束します」

「バルミンはお前たちが戻ればトントン屋敷に独りで行かせるつもりだ。バルミンにも剣を教えてくれ。頼んだぞ」

「承知しました」


     ☆ ★ ☆ (18)


 シンシア様にもバミスのことをお願いできてよかった。私はケルトンに色んなことを一気に話してしまった。ケルトンのそばにはいられなくなる意味を、私の不思議に兼ね合わせたけど、二人にしっかり理解してもらえただろうか。


 シンシア様の子供であるマーリストン様の位置づけは、次の王になるかもしれない重要な人物なのだとは理解していたけど、今までそんなに深く考えたことがなく、彼の周りの人たちはその意味を最初から考えて行動していた。そういうことが現実味を帯び、私の心にひしひしと忍び寄った。


 私はその事実をはっきり知らなかったから逆によかったのかもしれない。この事実をはっきり知ってから、彼に対する私の内面が少し変わったようだ。


 彼のことを今までとは同じにすべてが考えられなくなり、お互いに今度の剣の勝ち抜き戦まで、今の気持ちを持続させなくてはいけない。ケルトンもそれだけ大人になってきたのだ。


     ☆ ★ ☆


 バルソン様に信頼されているバミスとクーリスが竹の里に行くことになり、竹の里は意外に奥まった場所で、山の中を移動しなくてはいけないらしく、馬車は奥まで入れないそうで、途中から自分の馬に乗り換えるみたいで、だから、馬車を引く馬は彼らの乗る馬になる。


 『あれ』をその馬車まで運ぶことは、竹の里から人を出してもらうか、それとも馬で何往復かしなければいけなくて、ここに戻って来るまでは最低三日ほどかかるらしい。


 私たちの西の城までの旅は少々延期になり、私たちはお試しの剣勝ち抜き戦があったから、冬が終わってもトントン屋敷には戻ってないので、その間に二人で自分の馬で戻ることにしたけど、ケルトンとは初めての二人旅になる。


     ☆ ★ ☆


 ケルトンはこの一連の話しから私たちが離れていくことに関して、夜も眠れないほどの不安を感じていることを初めて知ることになる。


 私が眠ろうとしたときに引き戸の前でそのことを話したのだ。私はそのような気持ちになっていたなんて考えてもみなかった。体は大きくても心の中はまだ子供の部分があるのだと思った。私は彼を部屋に招き入れ、お互いのソードを消して話しをした。


 シンシア様と最初に出会った女同士の秘密の話しすることから始まり、この前以上によく話し合いをして理解してもらった。私は彼の不安を取り除けたと思い、彼とは表面上は今までと変わりがないが、心の奥深くに結ばれた二人の絆も理解してくれたと思う。


     ☆ ★ ☆


 このトントン屋敷は南の城から南側に位置して、南の城と洞窟とここはいびつな三角形で表せ、南の城から南東に位置する竹の里と山の家は意外と近く、この四ヶ所を線で結ぶと南の城を頂点として、左右に開いた変形した菱形になることがわかった。


 私が知り得た情報では、黒い帝国は南の城から見ると北側に位置し、この辺りは南の城が最初に作られ、それから左右の城に別れたそうで、南の城の位置づけはこの辺りの中心部分なのだ。


 ここからトントン屋敷までは、日の出とともに馬を駆け足でずっと走らせると暗くなる前に到着する距離であり、私たちは長距離になるので途中で馬も自分のたちも休憩をするが、気分的に馬に乗らずに歩く場合もあり、この道中は周りを気にせず、何でも話せるので開放感があっていい、と思っていた。


 赤い実の時期にここに移動してくるときは、バミスもいつも途中までは一緒に行動をして、今回は初めてケルトンと二人だけになりソードで移動した方が早いけど、ここを出るのも向こうに着いてから先を考えても、私たちは馬で移動しなくてはいけないのだ。


 向こうに着くまでには途中で大きな市場がある。アートクの市場と呼ばれていて、今日は早めに到着してそこで宿泊をする予定だ。


     ☆ ★ ☆


 初めてトントン屋敷に移動したときは小さな馬車を買ったが、しばらくはケルトンの馬に二人で乗って練習をして、私が最初にリースと出会ったときの年齢は、三歳ほどの馬だと説明を受けた。


 バルソン様が選んでくれたリースは、その前のご主人様の躾がよかったのかとてもお利口さんで、私が馬に乗れないことをバミスが上手に説明をしてくれたみたいで、初心者の私に見合う馬を選んでくれ、私は彼に感謝をした。


 最初は馬の主人である私の方が慣れてなくて、馬は敏感だから乗り手の気持ちや乗ったときの姿勢を感じ取れるそうで、左右に曲がりたいときは自分の体を左右に動かすのではなくて、手綱と足を使って馬の肋骨辺りを軽く蹴って知らせれば、その方向を理解してくれると言われ、私は乗ることばかりでなくて馬の構造も勉強した。


 最初のころは、その以心伝心の技術を理解するのが難しくて、私が馬を走らせるときは、馬の頭の中心の先をいつも見ているといいのかもしれないけど、前後左右と周りの状況も判断しなくてはいけないので、リースは嫌がらずに私の下手な手綱と足さばきを理解してくれるようになり、私たちはだんだんと信頼関係が築かれたと思った。


 リースと私が一心同体になるには乗り手である私が未熟だから、私はバミスほど上手くは乗れないけど、それでも五年以上もリースのそばにいると、私たちは友だちのような感覚になり、日頃から暇を見つけてはリースと話をしていた。たまにリースが頭を動かしていると、リズみたいに私の話しを理解して返事をしているような錯覚に陥っていた。


 リースは離れていても私が笛を鳴らすと近くに来てくれるから、私はステンレス製の小さな笛を『ミーバ』から取りだして、シンシア様からいただいた指輪と一緒に長めのゴールドのチェーンで首から提げ、ケルトンも同じだが内緒にするように言ったけど、これはバミスは知らないことであり、バミスが出かける前に二人で会いたいと話したので、私はそれに応じることにした。


     ☆ ★ ☆


 私たちはゴードン様に預けてあった剣を持っていくことにして、私は上着の上にベルトみたいに腰紐を巻き、鞘に紐をきつく巻きつけ左側にぶら下げるようにした。


 柄の先端に短めの紫の紐があり、ゴードン様からこれは外さないようにと念を押され、確かバミスは赤色だったような気がした。


 私は知らなかったけど、剣を持ち歩くには許可がいるそうで、この紫の紐はその印になると言われ、市場で見ていても多くの人は剣を持たずに、このような紐が付いているとは今まで気づかなかった。


     ☆ ★ ☆


 私は自分の過去を思い出してから、より一層色んな言葉が脳裏に蘇り、最近は『ミーバ』から取り出す物も少なくなり、蘇った私の時代の言葉で応用ができるようになった。


 向こうに行っても着る物はあるし、バミスもそばにいないし『ミーバ』もある。二人だけだと色んな面で自由がきくし、何度も利用した道なので初めての二人旅もいいと思うけど、いちばん気がかりなのは、ケルトンとは姉弟だから同じ部屋で寝ることであり、それはバミスがいないと困る。


 今までどこに行くのも剣を持ち出したことはなく、西の森に持って行くために慣れた方がいいと思い持参したけど、使う機会がないことがいちばんだが、 私の時代のでは考えられないことであり、この時代では必要な物だと理解はしている。その剣が大きくても小さくても、持ち慣れることがいちばんだとも思う。


 バミスは自分の剣をいつも持ち歩いていたが、私はケルトンに持たせたことがない。剣を持つことで大人の男になれたと理解したらしい。自分も男だから剣を持ち歩くことが嬉しいと言った。ナイフのときと同じだと思った。


 私は左側が重くて邪魔だけどこの重さに慣れなくてはいけない。根元は蝶結びをして紐にゆとりをもたせた。左手で持つこともできるように長さを調整した。バミスは馬に乗るときは首から肩紐を付けて背中に背負った。


 この時代では剣を手で持ち歩く人が多いと聞いた。バミスが出かける日と同じに、私たちも朝いちばんで出かけたのだ。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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