43=〈時空の旅の恐怖〉
前回の続きです。
映画やテレビの中だけではなく、小説の世界でもそのような話しは書かれていたから、お城の王子様を助けて英雄になることは、十分考えられる話しではあるけど、それがほんとうに現実になるのだろうか。
「私はシンシア様にお返しすることしか考えていませんでしたが、この城ではそのようなことになるのですか」
私の方から質問をしてしまう。
「私に返す返さないよりも……この南の城の王子様なのよ。次の王になるかもしれない立場なのよ。リリアは深く考えたことがないでしょう? そのような話しはあなたの口から聞いたことがないものね」
彼女からそう言われたけど、今の私は城の内情が分からなくて、剣の勝ち抜き戦で戦い抜いて、彼を城の中の王子の立場として認めてもらえるように、そして、シンシア様にお返しすることしか考えてない。そこまで私が言える立場ではないことを十分に理解している、と彼女の言葉を聞いてそう思う。
「申しわけありません。明日から彼と話すときには緊張するかもしれませんね」
「今まで通りでいいから、急に変わったら彼も驚くわよ。彼はそのことは理解していると思うからね。ここでも十五歳になれば本格的に王になるための教育が始まるのよ。バルソンがバミスに話しをさせていると言っていたから、リリアは何も心配しなくていいからね。彼の心に安らぎを与えてくれ、リリアがずっとそばにいて彼の気持ちを豊にしてくれた、と私は思います。彼がずっとここにいても私は自分の子供として話すことができないのよ。そう思うと……リリアのそばにいた彼は幸せだったと思います」
彼女はまたそのような話しもしてくれ、私たちが出会った時にも、彼はそのことに気付いていたのだと思い、バルソン様からその話しを聞いていた、と考えられる。
「ありがとうございます。私もうかつでした。私はその決まり事をまったく知りませんでした。まして考えたこともなかったし、もっと早くにお話しを聞いておけばよかったです。立場的にバミスが遠回しに話しをする意味も理解できました」
「彼が何か言ったの?」
「私の話し方は何でもズバッと言ってきついみたいです」
「……そう。でも彼にはそれがよかったのよ。ここで周りの者が気づかって優しくしていると、言われたことしか分からないのよ。自分で色んな事を考えるようになれば、今まで聞いたことの中からしか考えられないと思うか。今では普通の立場で物事を考えられるようになったと思う。これは素晴らしいことです。この城以外の場所で色んな事を体験することは、今までの王子様にはあり得ないことです。今後はこの南の城も少しは変わっていくと思います。そうなれば……そのことはリリアの不思議だと思います。マーリストン様の王子たちがその考えを受け継いでくれれば……それも素晴らしいことね」
一瞬間を置き、彼女から発せられたそのような言葉を聞いて、私は彼女の生い立ちを何も知らないけど、子供の頃はどこで何をして育ったのだろうか。
「そのように並外れた考えを持たれるシンシア様も素晴らしいと思います。私はシンシア様に一つだけお願いがあります。彼は私の不思議を身近で感じて理解しているとは思いますが、バミスにはどうしても話せませんでした。私に突然何かあれば、バミスに私の不思議を説明していただけませんか。今の私はそれがいちばん気がかりです」
私はバミスのことを思い、そうお願いしてしまう。私がこの世界から消えてしまう……バミスのそばから消えてしまう……ケルトンのそばから消えてしまう……今後はどうなるのか私にも分からない、と思っているからだ。
「バミスは何も知らないのね。その不思議の話しは分かるけど、突然何かある意味が私には分からない。リリアに何かが起こるということなの?」
「えっ、少しお待ちください」と、私はおもむろに立ち上がり後ろを振り向く。
『ソーシャル、なんて言えばいいの?』
『何も言わない方がいいと思います』
『分かった』
「……理由が何であれ、私がバミスの前からいなくなればの話しです。それこそ私の不思議だと理解してもらい、シンシア様からバミスに説明していただけますか」
私は彼女の正面に向き直ってそう話してしまう。
「……なるほど……もしそのようなことが起これば私も話すけど、バルソンに話させた方がいいのかもね。私が責任を持ってバルソンに伝えるから心配しなくていい。バミスのことは私からリリアへの恩返しです」
彼女が恩返しの言葉を使ったのには驚いたけど、そう言ってくれて安心する。
「……ありがとうございます。よろしくお願いします」
「マーリストン様はリリアの不思議をすべて知っているだろうけど、彼にもそのことは話したということね。それを理由に離れて行くことを説明したのでしょう?」
「はい、申しわけありません」
「……分かりました。私は誰にも話さないと約束するから、いつの日か彼の口から私の知らないリリアの不思議を聞いてもいいのかしら?」
「……はい。お互いの共通の話題として、私のことをお忘れにならないためにも聞いください」
「今からそのような日が来ることを覚えておけばいいのね」
「……はい。私がマーリストン様のそばからいなくなることを前もって彼に伝えました。その方がお互いにいいと判断したからです。彼も気づくと思います」
「……分かりました。リリアがこの城の『根深い因習』を内面からくつがえして助けてくれるのね。私はそう信じますよ」
彼女がそのような言葉を使ったから、私はビックリする。
「私にはその意味が理解できません」
「今はそのことは気にしなくていいから、マーリストン様のことをよろしくお願いします」
私はシンシア様の言葉の意味が理解できない。この城は何か問題があるのだろうか。永く続いた内部が崩壊しているのだろうか。何かしらの危機感があるのだろうか。私の生きた時代から考えても歴史上においても、過去の出来事は崩壊と再生の繰り返しだ。
その意味を知るには、私が城の内部に入らないと答えは得られないのだろうか。中に入るということは、私が彼の正室か側室になるということなのだろうか。
過去をいじくれば未来が変わってくるし、今後の歴史が変わってくる。私はそのようなことに肩入れをしてしまったのだろうか。
☆ ★ ☆
『ソーシャル、彼女の言葉はどういう意味なの?』
『私も理解できません。王族が引き継いでいる歴史のことを言っているのでしょうか』
『そのことをシンシア様に聞いてもいいのかな?』
『彼女が話してくれるのを待っていた方がいいと思います』
『……なるほどね。今後は少しずつ変わって行くということなの?』
『その可能性はあります。いいと思う人もよくないという人もいると思います』
『……私が関与したことで、この時代の未来が変わるのかしら?』
『少しは変わるかもしれませんが、マーリストン様が独りでは急には変わらないと思います』
『……なるほどね。一つ聞いてもいいの?』
『はい』
『……私は自分の生まれた時代に戻れるの?』
『戻ろうと思えば戻れます』
『時間の設定が決まれば行けるということね』
『それも大事ですが、飛び降りる前に戻っても飛び降ります』
『剣道の試合の前に戻れば、試合に出ないようにすることもできるの?』
『その時間には、もうひとりのリリアがいるので、今のリリアはいる場所はないですよ』
『……私が二人いることになるのね』
『はい。自分の過去を思い出しましたか』
『自殺した理由を思い出した。でもソーシャルに助けてもらったからね』
『やはり自殺でしたか』
『でもその理由が分かっただけでもよかった……私は突然この時代から消えたりはしないよね。そのことをいちばん懸念しているのよ』
『それはないと思います。過去にそのようなことをしたことがないような気がします。リリアと出会い五年以上の時が過ぎています。過去のご主人様の記憶はほとんどありません』
『……なるほどね。戻っても私の居場所はないということね』
『はい』
『あそこから飛び降りたら完全に死亡よね』
『はい。その時代の前後に戻れたとしても、逆にこの時代には百パーセント戻れません』
そう言ったソーシャルの言葉は、私に取っては厳しい選択であり、向こうでは私の存在感が『死亡』という事実で発生し、こちらに戻ってきても時間は普通に流れていき、彼らと出会う機会が発生せずに、私の記憶の中にあっても赤の他人に見られるかもしれない。
彼らに私の記憶が残っていても、ここに来たときのように私が忘れているかもしれない。時空の旅の恐怖が初めて沸き上がる。
『……なるほどね。ここには百パーセント戻れないのね。私が突然消えたりしないことが分かったから安心した』
『リリアが戻りたいなら言ってください。他に何か質問はありますか』
『私はこの時代にずっといた方がいいということね』
『はい』
『でも、戻ろうと思えば戻れるのね』
『はい』
『……よく分かりました。私はこの時代に自分の子供を育ててもいいの?』
『それはリリアが考えることですから、私は答えられません』
『自分で考えろということね』
『はい。バミスのことを言っているのですか』
『そうです。気づいていのるでしょう』
『はい』
『……会話することを消しても分かるよね』
『はい』
『これから先はどうなるか分からないけど……先に聞けてよかった。ケルトンも自分のことを考えていると思うので、私も自分のことも考えなくちゃね』
『シンシア様の言葉はお互いの将来を考えなさいと指摘したのですね』
『さすがですね。すべてにおいて私を目覚めさせてくれたのね』
『そのようですね。シンシア様の方がリリアよりも大人でしたね』
『私もそのことは実感した。これからは遠い未来のことを考えるのではなく、近い未来のことを考えるようにするね』
『ケルトンも成長しましたから、リリアは自分のことを考えた方がいいですね。私のご主人様は正しい心とすごい力を持っています』
彼女から『正しい心』と言われても、自分ではよく分からなくて、ソードから感じるパワーが『すごい力』なのだろうか。剣として使うよりも、魔法のように空中を駆け巡る方がすごいと思ったのにね。
『ありがとうございます。ソーシャルにこんなことを言われると思ってなかったよ』
『私もこのことを話すつもりはありませんでしたが、リリアがそう言わせたのですよ。私もどうしたのでしょうか。これは私の不思議なのでしょうか』
『……これはお互いの不思議なのね。私はこの時代でバンバン使っちゃおうかしら?』
『それは止めてください』
『冗談よ。肝心なときに小出しにするからさ』
『そのようにお願いします。リリアが何かしようとしても、私は言葉だけの静止しかできません。私はソードです』
『分かっているわよ。私の大事な友達は裏切らないからね』
『ありがとうございます』
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




