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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第二章 『出会いから、五年ほど過ぎて……』
42/165

42=〈ケルトンの言葉〉

やや長文です。

     ☆ ★ ☆ (14)


 私が朝食後にケルトンに話しがあるとい言うと、彼も私に話しがあるそうで、私の部屋でケルトンの話しを先に聞くことにした。


「昨日のシンシア様の話しですが、俺を男だと言ってくれて嬉しかったです」

 彼が最初からそう言ったので、

「ほんとうによかったね。私よりも背が高くなったと話したから、実際に見て驚いたと思うよ。子供ではなくて大人になったと実感したのよ。だからその言葉を使ったと思うよ。歳を言わなかったら分からないものね。シンシア様の背が高いからケルトンも伸びたのね。もっと大きくなるといいわね」

 私が一気にそう話すと、

「今まで聞いたことがない言葉ですが、側室とは何ですか」

「えっ、その言葉の意味を知らなかったの?」


 私は自分の感情を押し隠すように、そのような言葉を使ってしまう。


「はい。リリアを側室にする意味がはっきり分かりません」

「シンシア様も言っていたけど、もう少し大人になれば理解できると思う。私は彼女の立場が側室だから……彼女に失礼になるかもしれないから説明はできないからね」


 私は彼の言葉にビックリしたけど、平静を装ってこんな言葉を使ってしまう。


「……そうですか、分かりました」

「バミスから城の話しは聞いてないの?」

「十五になってから少しずつ聞いてます。バミスが一気に覚えなくていいからとたまに話してくれます。でもこれは内緒ですよ。バミスがリリアは何も知らなくてもいい、と俺に話しました」


 彼がそう言ったから、十五歳で城の教育が始まるのだ、と私は始めて知ることになる。


 確かに私には関係のないことである、と同時にその内容を知らないから、私には考えることさえもできない。彼はすべてにおいて知らなくてはいけないのだ。


「バルソン様も城の中のことを話すことは禁止されていると言っていたのよ。決まり事たくさんがあるんだろうね。ケルトンも私に話さなくていいからね。ケルトンはバミスにたくさん教えてもらいなさい。私はシンシア様に教えてもらう。お互いの立場で内容が違ってくると思う。私もたくさん聞いても覚えられないと思う。ケルトンは城の中で生活していたから少しは覚えているでしょう?」


「……十歳の子供でしたから……知らないことの方が多いと思います」

「私もちっとも分からない。でもケルトンよりは色んなことが考えられるとは思うけどね。それがほんとうかどうかは問題よね。何事にも自分で考えることがいちばんだと思うよ」

「俺は考えることもできません。バミスの話しに驚くばかりです」

「そうなの? でもそれが事実なのでしょうね。私もシンシア様に聞くと驚くのかもね。でも……王様はすべてを知ってなくてはいけないのよ。頑張ってね」

「はい。そう思うと大変ですね」

「今までの私たちは大変の連続だったからね」

「俺はリリアのそばにいたから楽しかったです。ずっとそばにいてください」


「……でもね、今はそばにいるけど、城に入ったらそばにいられないのよ。王子様と私の立場がはっきりするからね。私はシンシア様のそばにいたい。そうしないと私のいる場所がないでしょう? そのことも王様の許可が必要だと思うよ。それを可能にしてくれるために、シンシア様とバルソン様が働きかけてくれると思うけどな」

「なるほど。それがだめだったらリリアはどうするのですか」

「その時にもよく考えるけど、私は城の外に出ると思うよ。シンシア様はそのことを昨日は話されたのよ。意味が理解できていたの?」

「なるほど。リリアの立場ですか」

「そうよ。今のシンシア様の立場を考えて、彼女にほんとうの自由を手に入れてあげたいと思うなら、ケルトンが王様にならなくてはいけないと思う。ケルトンにそのことだけを考えて目指してもらいたい。向こうが王様になればシンシア様の立場は今よりも厳しくなる。よく考えてね。どんなに試練があっても必ず乗り越えてよ。手に入れることのできる人間になってください。これは私からの命令です」


 つい命令の言葉が出てしまい、一瞬しまったと思ったけど自分の気持ちが熱くなり、自分でもその言葉を発したことに驚いてしまう。


「……リリアの初めての命令ですね」


「……そうよ。もうここまで来てしまったから、私はシンシア様とバルソン様とバミスと出会ってしまったのよ。すべてはマーリストン様にかかっているのよ」


 少し強く言い過ぎたとは思ったけど、彼のプレッシャーにならなければいいけどな。


「分かりました。私が王になれば皆が幸せになるのですね。そのことをいちばんに考えます。そうすれば……リリアは私のそばにいてくれるのですね」

 彼がなぜそのようなこと言ったのか、私はまた驚いてしまう。


「……悪いけどそれは分からない。私はこの時代に生まれてないからね。私のいちばんの不安はケルトンが王になるならないよりも、いつまで私がこの時代にいることができるのか分からないということよ。ケルトンもそのことを覚えておいてね」


 私はケルトンのことよりも、自分の存在のことを強調して言ったつもりだけど、私がそう説明した言葉の意味が彼には理解できたのだろうか。彼に対してまたきつい言葉だったのかもしれない。


「……確かに考えられますね。それは……俺のそばからいなくなると言っているのですね」


「……悪いけど、そういうことです。でも……ケルトンは南の城を守らなくてはいけないのよ。今の王様のようにね。市場の人たちも守らなくてはいけない。そのこともよく考えてね。だから……すべてにおいてよく考えてと言っているのよ。意味が理解できるでしょう?」


 また彼に対して厳しい言葉を使ってしまう。


「向こうの洞窟にいたときも意味が理解できるでしょう、と何度か言いましたね。意味が理解できても……どうしようもないこともあるのですね」


 彼がそのような言葉を覚えていたから、私はさっきよりも驚く。やはり子供のときから色んなことを考えていたのだと思い、私がいつも一方的に話しをしていたから、普段から口数の少ない彼の感情的な言葉を、私は聞いたことがなかったような気がする。


「いつもの私の不思議だと思ってね。それ以外の言葉はありません」


「……分かりました。私はシンシア様とリリアのことだけを考えて、必ず王になってみせますから、私はリリアのその命令に従います」と、彼からそう言われてしまう。


 俺ではなくて自分のことを『私』と言う。

 彼はマーリストン様になっていたと思う。


「ありがとうございます。シンシア様の命令されたことも守ってくださいね」

「分かりました。今はよく意味が分からないけど、そのこともよく覚えておきます。話しは変わりますが、西の森にはいつ出かけるのですか」


「……そうね。バミスの予定がいちばん大事よね。いつにしようか」

「馬にずっと乗ることも大変ですね。バミスがいるからソードにも乗れないし使えないし、俺も剣を持っていくのですか」


 今度は剣の話しをしたので、彼はソードとは別に自分の剣を持ちたいのだろうか。


「持っていきます。バルソン様からバミスに渡されて、ゴードン様に預かってもらっているのよ。内緒にしていたけどそれを持っていこうと思います。私たちの剣は普通の半分ほどの長さなのよ」

「えっ、半分? 知りませんでした」

「邪魔にならないように半分ね。特別に作ったそうよ。だって私たちにはソードがあるのよ。お二人はそのことを知っているのよ。そうでしょう? バミスはバルソン様から命をかけて私たちを守れと言われていると思うよ。今回の旅では自分のことは自分で守らなくてはね。ケルトンが自分の身は自分で守れると思ったので、それでシンシア様に許可を出してもらったのよ。それを彼女が分かってくれたから許可が出たのよ」


 ケルトンの日頃の努力の成果を二人で認めたことを強調して伝えたつもりだ。


「ありがとうございます。俺はリリアのことも守りますよ」

 そう言ってくれた彼の気持ちはとても嬉しいけど、

「命はかけなくていいからね。ケルトンがいなくなったらこの城が大変になるからね」


 彼からプロポーズめいた言葉のお返しの言葉として、さりげなくお断りをしている私の感情に、彼は気付いてくれただろうか。


「リリアの言い方はいつも率直ですね。バミスの言い方は遠回しに言っているみたいです」


「……なるほどね。バミスは私と立場が違うからね。城という存在がなければ話し方も違うと思う。そう思ってくれない?」


「……分かりました。リリアとバミスが話すときには、その立場がなくなるのですね」

「それは違います。私とゴードン様が話すときでも、会話の中心にはケルトンの存在があるのよ。リズの樹の前で出会ってから、私たちはこうなる運命だったのよ」


 私は運命の言葉を強調して話したつもりだ。私たちのこの会話の流れは今までにはなかったことで、彼も側室の意味を少しは理解していたのかもしれないと思う。私はケルトンの『ずっとそばにいてほしい』という言葉を聞いて、バミスも『ずっとリリアのそばにいたい』と言ったことを思い出す。


 ケルトンがもう少し成長して、私のことを女として考えると、彼はその言葉は使わないだろうな……それが言えないことが内にこもり、彼の態度が変わってくるのかな……頭の中で考えていることは分からない。


 そのことを見過ごさないようにしなくてはいけない。今度の剣の勝ち抜き戦までに変化がなければいい。私がそのことを自ら断ったことを、彼は理解できたのだろうか。


     ☆ ★ ☆ (15)


 今朝はケルトンと昨夜の話しの続きをしたけど、今までこんなに重要な話しを二人でしたことがない。シンシア様の話しは私たちが城の中に入ることを自分の立場としてよく考えなさい、と直球に説明されたのだ。


 私はケルトンを外し、昨夜の続きをシンシア様と二人で話したいと思い、いつもより少し早い時間に訪れると、彼女は奥の蚊屋のある部屋の椅子に座り読書をしているようで、私の突然の来訪で驚かせてしまう。


「突然で申しわけありません。今お時間はよろしいですか」

「昨日話したばかりなのに、まだ大事な話しがあるの?」


 彼女からやや怪訝(けげん)そうな顔でそう言う。


「はい。昨日の話の続きですが、今夜は二人で話しがしたくてまた来ました」

 私は彼女の迷惑そうな顔を見てしまい、理由めいた言葉を使ってしまう。


「彼に何か聞かれたのね? 彼には側室の話しは考えられなかったと思うけどね」

「はい。リリアを側室にする意味が分かりませんと、ズバッと言われて困りました」

「そうだろうと思った。私たちが会う機会は少ないから早めに話したのよ。リリアには失礼な話しだったわね。でも……ずっと一緒にそばにいるから、男として微妙な年齢だと思ったのよ。今は尊敬して感謝していると思っても、その気持ちが変わっていくと考えたのよ」


 彼女は彼のことを理解しているような口ぶりで、私に対して気遣ってくれたのだ、と思ってしまう。


「分かりました。私はシンシア様の立場が側室だから、彼女に失礼になるかもしれないので説明はできないと話しました。シンシア様が覚えるのが大変だとおっしゃったから、会話の流れが城での決まり事の方に逸れました。彼はそちらの方に意識が強く、側室のことは深くは考えてはないようです。でも頭の中で考えていることは私にも分かりません。そのことを誰かに聞かれると困ります。私は次の剣の勝ち抜き戦までは知らなくてもいいと思います。その話しをバミスに説明させないように、バルソン様にお願いできますか」


 私はケルトンと話し終えてから、自分で考えたことを彼女にも伝えたつもりだけど、バミスには別の場所でバルソン様から話してもらわないと、私が直説バミスに話せないと思ったからだ。


「……そうね、分かりました。私も気が早すぎたかしらね。リリアのためにもバミスのためにも、私と同じ立場にはならない方がいいと思ったのよ。私は王様にも許可を出さないようにお願いするつもりだからね」


 シンシア様は私にそう説明してくれたけど、すべてにおいて王様の許可が必要なのだ、とつくづく思ってしまう。


「私たちのためにありがとうございます。バミスのことは口が裂けても言えませんが、私たちがここに来たらお互いの立場で、今までみたいにそばにはいられないと説明しました。私は以前から良く考えてねと言い続け、意味が理解できるでしょう、と私が言葉にすると、『意味が理解できても、どうしようもないこともあるのですね』と彼はそう言いました。彼なりにいろいろ考えていると思います」


 今度はケルトンの話した言葉を彼女に伝えたつもりだけど、確かにどうしようもない現実であり、世の中は成るようになる、どうにかなる、と前向きに言葉を変えてもいいような気がする。


「私が昨日話したことで、そのような話しに進展したのね」

「はい。今まで二人でこのような現実的な話しはしたことがありません。私たちは出会ってしまったから、すべてはケルトンにかかっていると言いました。私はシンシア様にほんとうの自由を手に入れてあげたいと思うなら、ケルトンが王にならなくてはいけないと思うと話し、そのことだけを考えて目指してもらいたいと伝え、どんなに試練があっても乗り越えて手に入れることのできる人間になってください、と言いました。私の気持ちが熱くなり、これは私からの命令です、と最後に言ってしまいました。申しわけありません」


 私は最後に(いさぎよ)くそう言って謝ったけど、命令の言葉はシンシア様には伝えなくてもよかったような気もしたが、そこまでケルトンがほかの人に話さないような気もするけど、そのことが後々に、王子様に向かって問題発言をしたとか言われても困るしな。


「……色んなことを話してくれたのね」

 シンシア様はぼそりと呟くようにそう言ったので、

「他にも色んな話しをしましたが言い過ぎました。申しわけありません」


「……リリアから言い過ぎるほどの話しを聞いたのなら、彼もいろいろと考えるわね。私が立場上言えなかったことをリリアが代弁してくれたのね。もう言ってしまったのだから、後は彼が考えて実行してくれることを待ちましょう」


 彼女は一瞬考えたようで、私の瞳を覗き込むようにそう言ってくれたから、私はその言葉を聞いて『よかった』と胸をなで下ろしたというよりも、『さすが母親だ』と思ってしまい、『ほんとうに申しわけありませんでした』とより小さな声で呟くように言ってしまう。


「リリアも城に入る入らないは自由に決めてください。私のそばにいなくてもリリアの立場は王子様を救った英雄になるのよ。まして剣客という話しになれば、私のそばにいなくてもこの城においてのリリアの立場は確定します。リリアの意見も王様は考慮して、誰も手出しはしないと思うけど、こちらも王様に先手を打たなくてはね。私の側近にすると前もって王様に話しておけば、私もバルソンも安心できるのよ。城での仕事はどこに割り当てられるか分からないからね」


 彼女は今までになく現実的な話しをしてくれる。城の中に入りどこに飛ばされるか分からない。会社での新入社員は最初から希望しているポストにつけないし、私の立場が英雄になるなんて、信じられない話しである。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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