39=〈バルソン様の感謝の言葉〉
やや長文です。
☆ ★ ☆ (10)
今夜はゴードン様からの竹の里の話しとケルトンのことを話しするために、私はシンシア様の部屋へ訪れることにして、暗くなって早めに行けば、彼女の眠る時間を邪魔することはないだろうと思い、マーシーのことも話すつもりだ。
「シンシア様、リリアです」
私は蚊屋の足元から入り小声で話しかける。
「えっ、来たのは気づかなかった。さっきここに入ったばかりだけど、一瞬眠ってしまったみたいね」
「申しわけありません。急用ができたので来ました」
「そういうこともあると思ってね。寝る前に椅子をここに用意することにしたからね」
「ありがとうございます。座らせていただきます」
「急用とは何なの?」
シンシア様は意外にしっかりした口調で言ってくれたのでホッとした。
「はい。竹の里からゴードン様に使者が来て、『あれ』がたくさん増えたので、部屋に収まりきれなくなりどこかへ移動したいと言ってきました。彼はシーダラスに運びたいと言いましたが、早めにバルソン様に連絡してもらえないでしょうか」
「たくさんできあがったのね。内緒だけど王様もきっとお喜びになると思う。私がバルソンに話すから少し待つように伝えてね。ゴードン様にもよろしく伝えてください」
「分かりました」
「今日はもう少し話してもいいの?」
「はい」
「今日はマーシーと対戦したそうね」
「はい」
「マーシーは何も知らなかったから、今度は勝ち残ると約束したと言っていたわよ。だからそれから詳しく説明するからと話したのよ」
「お手数をかけました。まさかマーシーだと知りませんでしたから、最初の名前は違っているし、城でのお誘いをことごとくお断りしたから、彼女は気分を害したと思います」
「大丈夫よ。名前のことはそれくらいの気を利かせないとね。リリアを誘ったことはマーシーの本心だと思うわよ。私はそこまで言ってないし、私のことを思って誘ってくれるのね。リリアと出会えてよかった。私はそのために参加させたのだからね」
シンシア様はマーシーのことを説明してくれたけど、私のことをとても気にしているのだと思い、これからも剣の道に励もうと思う。
「ありがとうございます。彼女と戦ってやっと勝つことができたので、私も自分の力に何となく自信がもてました。最後にリリアは不思議な人なのね、と言われてドキッとしました」
「冷静なリリアでも驚くことがあるのね。あなたが勝ったそうね。動きもよくて自分を本気にさせたと話したから、私も安心しました。失礼だけど、驚いたと言った方がいいのかもしれない。彼がここに戻ってくると、私があなたのことを必ず王様に伝えるからね。バルソンも個人的に話すと思うよ」
シンシア様はそう説明してくれたけど、すべては王様が許可しなくてはいけないことなのだ。マーシーに勝ったことでそういう気持ちにさせてしまったのだろか。
「ありがとうございます。今回は二人で参加して得るものがありました。彼は体力温存のために、次回からは一発勝負で試合に臨むと頼もしい言葉を聞きました。いつも私たちがそばにいますが、今回の個人的な挑戦で心身ともに成長したとつくづく実感しました」
「これもバルソンに話すからね。リリアがずっとそばにいて暖かく見守ってくれたからよ。心の安らぎを得て心が豊かに成長したのね。私は感謝以外に言葉はないです。彼が城に入ればリリアは私のそばにおくからね。リリアはいつも先のことまで考えているから、私も先に話しておこうと思ったのよ」
シンシア様がそう言ってくれたので、やはり私もこの城の中に入ることを望んでいるのだ、と確信が持てた言葉を聞いたと思う。
「そう言っていただきありがとうございます。私もそうしたいと思いました。まだ先のことだからどうなるのか約束はできません」
「でも私が王様にそのことを伝えるからね。バルソンと二人で協力してリリアを王様に会わせます。今は何も知らないけど、私の両親にも会ってくださいね」
「えっ、私が王様とシンシア様のご両親に会えるなんて、ほんとうにありがとうございます」
私は突然発した彼女の言葉に驚いて、この私が王様と両親に会えるなんて、どんな人たちだろうか。テレビや映画の世界でのイメージが頭の中を過ぎり、何となく悪者のイメージしかわかないのよね。
「話しは変わるけど、前から聞こうと思っていたけど……バミスのことはどうするつもりなの?」
「えっ、バミスですか」
「そうよ。その話しも聞きたかったのよ」
「何も考えていません。私たちはどうなるのでしょうか」
「彼のことばかりではなくて、自分自身のこともよく考えてね。私たちはそのことも話題にしたのよ。バルソンがバミスに何気なく聞くと言っていたけど、でもどうなったのかしらね」
シンシア様そう言ったけど、ほんとうにバミスとはどうなるのかしら?
「大切な時間だったのに申しわけありませんでした」
「私たちみたいにならないようにしなさい。これは命令ですよ」
そう言ってくれた彼女の言葉で気づいたけど、命令か、それだけ私たちのことを気遣ってくれているのだ。
「はい。ありがとうございます。二人でよく考えます」
私はそう言ったけど、バミスはいつも飛び回って話す時間がない。今度はバシッと捕まえて話さなくてはいけない。
「バルソンは驚いていたけど、とても喜んでいた。バミスのことはよく知っているからね。そういう度胸があったのか褒めていたわよ。私たちにはその勇気がなかったのね。でも……リリアのお陰で成し遂げられたのよ。ほんとうに感謝しています」
バミスとのことはこの城の存在が邪魔しているような気がする。まずはマーリストン様をこの城に戻すことが先決だと思いながらも、それからでもゆっくり考えられると思った。
☆ ★ ☆ (11)
私は朝になってゴードン様に昨夜のことを話したけど、バルソン様に連絡がつけば、必ずバミスが伝えに来る思い、そこをバシッと捕まえて話しをしなくてはいけないと思っていると、夕方バミスが戻ってきた。一瞬彼の顔を見られて嬉しかった。
私にバルソン様から話しがあるので出かけることになり、その前にゴードン様に話しがあるとバミスは仕事部屋に入ったがすぐに出てきたので、私はリースに乗りバミスはミースに乗り、私たちは自分の馬で出かけた。
☆ ★ ☆
「リリア様をお連れしました」
バミスから連れていかれた部屋は、私たちが話し合いのために隠れ潜んで会っているような雰囲気の部屋ではあったが、いつもと違って高級感があるのよね。
「急に呼び出して申しわけありません。どうぞこちらへお座りください」
「お招きありがとうございます」
「バミスも隣に座りなさい」
「えっ、私もですか」
バミスはそう言って、彼は私の顔を見て隣の椅子に座る。
「私も早く時間を作りたかったのだが、今夜は二人に話しがあってここに来てもらった。私はバミスに聞きたいことがある。バミスはリリア様のことをどう思っている?」
「えっ、どういう意味ですか」
「こういう話しをするのは苦手なのだが、要するに好きかどうかを知りたい」
「えっ?」と、バミスはまた私の顔を見る。
「……私はバミスのことが好きです」
私の方が先に言ってしまう。
「私もリリア様のことが好きです。このような大事なときに申しわけありません」
バミスがバルソン様の顔を見ながら謝罪の言葉を使う。
「そうか……それはよかった。二人の口から直接聞いて安心した」
彼がそう言ったので、私は『ありがとうございます』と、そう返事をしてしまう。
「男と女の関係は難しい。お互いに好きならそれでいい。どうもこの手の話しは苦手だ。私は何を話していいのか分からない。食事を頼んだから二人で食べなさい」
「二人で食事ですか。ありがとうございます」
バミスはそう言った後に私の顔を見る。
「ゴードン様には二人に仕事を頼んだから、今夜は屋敷に戻れないと伝える」
「えっ、ほんとうですか。ありがとうございます」
バミスはそう言った後にまた私の顔を見たので、先ほどバミスがゴードン様の部屋に行って話した内容は、この話しではなかったのだと思う。
「五年もの長い間……大変だったと思うが……私は上手く言えないが、シンシア様と私からの感謝の気持ちだ」
彼はそう言ったけど、顔の表情には少し陰りがあるような気がする。
「私もリリア様に感謝しています。ありがとうございます」
バミスがそう言ったので、『ありがとうございます』と私も同じ言葉を伝える。
「バミスはしっかりしろよ。私たちの周りでは女性が強い。バミスもそう思わないか」
バルソン様はから意外な言葉を聞いて驚いたけど、これが男同士の会話なのかしら、とか思ってしまう。
「はい、私もそう思います。剣も強いです」
「確かに、シンシア様の周りの女性も剣が強いな」
「リリア様はマーシーと三戦目に戦って勝ったそうです」
私が言おうと思ったことを彼に先を越されてしまう。
「リリア様がマーシーに勝ったのか」
「はい」
「リリア様はそんなに強者でしたか」
「いえ。今まで真剣勝負はしたことがなかったですから、偶然にも勝ってしまいました」
「偶然では勝たないと思います。シンシア様はご存じですか」
「はい。マーシーがしつこく城での仕事を誘ったから断りました。最初は違う名前でしたが、自分の名前を言い直したから驚いて、私の名前も言ったのでご存じだと思います」
「分かりました。リリア様には悪いですが、信じられないという言葉しかありませんね。私の中ではこの言葉はリリア様のためにあるみたいです」
彼がそういう言葉を使ったからまた驚いてしまう。
「ありがとうございます。私には返す言葉がありません」
「私も言葉を選んで話さなくてはいけませんが、とても感謝しています。私はバミスにも感謝しているぞ」
「えっ、私にもですか」
バミスの声が驚いているようだけど、バルソン様から感謝の言葉を聞けるとは思っていなかったのだろうか。
「もう一度しか言わないが、私はバミスに感謝している」
バルソン様ははっきりとした口調でそう言い直す。彼の視線は最初にバミスに向けられていたけど、私にゆるやかに移動したみたいで、でも、その顔は淡々としているようだ。
「ありがとうございます。バルソン様からそのような言葉をいただいて恐縮します」
「私たち四人のことは彼が理解していれば、ほかの人間は知らなくてもいいことです」
「リリア様はいいことをおっしゃる。ほかの人間が知っては困ります。そのために私たちは努力しているのです。今夜のことは私からシンシア様に報告しましょう」
バルソン様はそう言ったけど、言葉の裏に秘められた現実があるから、三人で話しをすることの難しさを実感する。バミスに隠しごとがあることは辛い現実ではあるが、でも仕方がないことであり、私だけが理解していればすべてが丸く収まる。
「私もその一人として手伝えたことに誇りが持てます」と、バミスはそう言う。
「私もです。話しは変わりますが、私はバルソン様にお話しがあります。竹の里から使者が来て『あれ』が部屋に入りきれなくて、ゴードン様がシーダラスに持っていけないかと言われました。よろしいでしょうか」
「分かりました。私が責任を持って竹の里に出向かわせます。ゴードン様に伝えて下さい。合い言葉はいつもの言葉でお願いします。もっと増えそうですね。半分は彼のために取っておきましょう」
この時代では馬の数や剣や武器をストックすることは大事なことだと思い、映画やテレビではそういう設定になっているものね、と思いながらも、歴史上の王様は宮殿やピラミッドや古墳を造っていたり、自分の権力をアピールするために後世に残していたけど、私はこの城の歴史を知りたいと思う。
「その分はゴードン様の屋敷に置けるかどうか聞いてみます。ゴードン様が試しに作ったのを昨日見せてもらいました。今日は二人で馬屋の中で少し練習しました。彼も上手に使えていました。でも癖がありそうで、それに慣れなくてはいけませんね。ゴードン様が私とバミスにも作ってくれると言いました」
「……分かりました。私にも作ってもらえるのでしょうか。私も作ってもらいたいですね」
バルソン様は少し間を開けてそういう風に言ったけど、彼もほしいのだろうか。私たちに作ってもらえれば当然そう思うかもしれない。ゴードン様であれば必ず作ってくれると思う。
「私がバルソン様にも作っていただけるように伝えます。彼は今まではかごや日常品を作っていましたが、もう飽きてしまったそうです。だからいちばん気に入った物を彼に渡すと話しました。竹はたくさんあるからとも言っていましたよ」
私はゴードン様の話したことをそう伝えたけど、彼が作っている現状も説明して、作ってもらうことに対してバルソン様の負担にならないように話したつもりだけど、私の気持ちを彼は理解してくれたかな。
「よろしくお伝えください。それでは私は帰りましょう」
「えっ、もう少しお話ししていても……こんなに話しが盛り上がっています。そうだ忘れていました。もう一つ大事なお話しがあります。彼の四戦目の対戦相手の名前はシューマンと言います。西の門からゴードン様の屋敷は左に曲がりますが、右に曲がったどこかのお屋敷のご子息だと思います。調べていただけますか。少し話しましたがとても誠実な青年だと思いました。兄がいると言っていましたが彼と同じ歳なので、私は彼の友だちになってもらいたいと思いました。今の彼には友だちがいません。いかがでしょうか」
「……名前はほんとうにシューマンと言ったのですね。分かりました。こちらで調べてみましょう」
「ありがとうございます。兄は優秀だと話していました。彼は兄のことを考え自分のことを隠していると思います。どこのお屋敷でも長男がその家の跡継ぎになるのですか」
「そういう訳でありませんが、長男は長男なりに育てられます。だからほかの子供たちよりは優れるようになります。シューマンもそのことを理解しているのでしょうね」
「分かりました。彼のことは内緒でそばにいさせてもいいと思います。友達でも剣を立ち合わせると本気でかかってくると思います。お互いに励みになると思います」
「リリア様の見立てに間違いはないとは思いますが、私が直に調べてみましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「結果次第では、私がシンシア様にも報告しましょう」
バルソン様はそう言ったので、彼女に話す言葉と私では内容が違うのかもしれないし、どういう報告が聞けるのか楽しみになる。
「分かりました。よろしくお願いします。バミスにケルトンとシューマンに剣を教えてもらいたいです」
私はバミスの存在を強調して話したつもりだ。
「分かりました。ここの支払いは済ませてあります。食事を運ばせるので後は二人でゆっくり話しなさい」
バルソン様がそう言って立ち上がり部屋を後にしたけど、私たちを気遣ってこういう設定を考えてくれ、私は感謝の気持ちでいっぱいだった。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




