表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第二章 『出会いから、五年ほど過ぎて……』
38/165

38=〈ケルトンの疑惑〉

やや長文です。

      ☆ ★ ☆ (8)


 私は屋敷に帰ってゴードン様に話そうと思うと、ホーリーが出かけたと言ったけど夕方には帰ってくると話したので、私たちは馬の世話をすることにした。


 私はリースのブラッシングをかけ、ケルトンはマースに話しかけながらブラッシングをしていたが、しばらくしてから布を被せて乗ってみると言った。


 マースは少し気性が激しいけどケルトンとは仲良しで、人間と同じで馬にも性格があると思うが、乗り手と気が合うか会わないがあると思うし、彼は馬に話しかけるのが上手みたいで、友だちに話しかけるようにしゃべっているのだ。


 私たちには友だちと呼べる人間がいないので、そう思うと馬であればほかの人には話せないし、何でも自分の気持ち自由に話せると思う。私はリースとはとても気が合うと思った。


     ☆ ★ ☆


 しばらくして、ケルトンは馬に布を被せたから屋敷の中を歩かせると言ったので、私はさっきよりもリースのブラッシングを丁寧にかけながら話すことにした。私たちの友だちは馬なのだ。


 ケルトンにもバミス以外に何でも話せる友だちを作ってあげたいので、シューマンのことをバルソン様に相談してみよう思った。彼は誠実な人柄のような気がする。彼はケルトンの立場を知らない。彼は私の立場も少し理解している。ケルトンだけではなくて私ともつき合えると思う。


 二人で立ち回りの練習をすればいい。バミスと違い本気で向かってくると思う。私も彼と手合わせをするようになるかもしれない。私はケルトンとバミスと本気で戦ってみなくはいけない。ういうことを考えながらフラッシングをしていた。


 ケルトンは何周したか分からないけど馬屋に戻ってきたので、屋敷の馬の糞は私が『ミーバ』から取りだした『ちりとり』ですくっていたから、ケルトンはそれを持ってまた外に出て、馬屋の裏門側に穴が掘ってあり、食材の残りかすや馬の糞はその中に捨てていた。


     ☆ ★ ☆


「今日はお利口さんに乗せてくれたの?」

「明日は分からないけど昨日よりはいいみたいです。ミースにも慣れさせないといけませんね。バミスは今夜帰って来るのですか」

「今夜も分からないわね。向こうにいる分には毎日帰って来たけど、ここにいると色んな用事があるみたいね」

「リリア、俺は気になることがあるのですが聞いてもいいですか」

「いいわよ」

「バミスのことですが、俺のことで何か喧嘩でもしたのですか」

「えっ、何もしてないけど、どうして?」

「ここに来る前から思っていたのですが、バミスがリリアの話しをしなくなりました」

「えっ、どういうこと、意味が分からないけど」


 私はそう言ったけど、こういう話しを聞くとは思いもよらなかった。


「バミスはリリアのことを尊敬していると以前はよく言っていたけど、最近は何も言わなくなりました。リリアの話しはよくしていてたのに話さなくなりました」


 彼がそう言ったから私は驚いたが、彼はそういう感情の違いを感じ取れる年齢になったのだ。これはまずいよ。


「それはケルトンが大きくなったから、私の話しではなくてほかの大事な話しに切り替えたのでは、それだけケルトンが成長したということじゃないの?」

 私はそう言って話しをごまかす。


「そうですか。俺のことで二人に何かあったと思いましたが気のせいですね」

「ケルトンはそういうことも考えられるようになったのね。バミスの言動はバルソン様からの指示であり、バルソン様の言動はシンシア様の指示でもあると思った方がいいわね。ケルトンの周りの者たちはあなたの成長を見守っているのよ。皆は城においての立場というものがある。私にはその立場がないのね。今度バミスに話してみるからね」

「話さなくていいですよ。バミスはリリアを尊敬していると言っているから、リリアが話すと落ち込むかもしれません」

「えっ、何でそうなるの?」

「リリアはズバッというからです。こういう言い方をしてすみません」 

「それは私の言い方がきついということね。優しく話すからね」

「俺はズバッといわれた方が好きですが、バミスは気にすると思いますよ」


 彼がそう言ったから驚いてしまい、私はそれほどきつい言葉を使っていたのだろうか。

 

「前にも何かあったのね。私は気づかなかったけど、二人で私のことをいろいろと話していたのね。その会話が少なくなって寂しくなったということなの?」

「いえ、リリアの存在は……二人の共通の話題ですからね」

「なるほどね。分かりました。私がバミスにバシッと優しく聞いとくからね」


 私はバシッという言葉を強調してそう言ったけど、何をバミスから聞くのよ。聞くよりもこのことを彼に伝えなくてはいけないのだ。


 私がケルトンの顔を見ると、ほんとうに困っているような表情をしているから、このことは内緒にしてくれと頼まれたのかもしれないな。


「参ったなーっ、話さなくていいですからね。話すなら優しくお願いします。たまにしか話さないからバミスはリリアの話し方に慣れてないです。それにあの性格ですからね」

「分かりました。私たちは喧嘩とかしてないから心配しないで、バミスと話す時間はあまりないのよ。向こうではずっとケルトンと一緒だし、ここに来ればほとんどいないしね」

「そうですね。バミスはいつも忙しそうですね」

「ケルトンとはいつも話せるけど、真面目な話しで今度バミスとは時間を作ってゆっくり話します。シンシア様とバルソン様とバミス自身の意見もあるかもしれないからね。私の意見もあるしね。お互いの意見の食い違いもあるかもしれない。尊敬しているだけでは済まされないと思うのよ。バミスの意見も聞きたいからね」


 私はバミスと話す理由を考え彼にそう伝えたつもりだ。以前と比べると、ケルトンに話しかける言葉が難しくなったと思っていたから、今回のようなことを言われては、私も考えて会話をしなくてはいけないと思う。


「俺のことでそういうことが起こるのですか」

「誰かに従っていると間違いないからね。ケルトンは深く考えなくてもいいから、私はケルトンには悪いけど、シンシア様よりもバルソン様の意見に従いたいからね」

「何も悪くないですよ。前から思っていましたが俺もバルソンの指示に従います。リリアと同じ考えてよかった。安心しました」

「ケルトンはそういうことまで考えていたのね。今までこういう話しはしたことがなかったものね。バルソン様は彼女の意見も十分に取り入れて考えてくれると思う。ゴードン様とも話し合っているみたいだからね。でも……皆はケルトンの存在がいちばん大事なのよ。そのことをよく覚えておいてね」

「はい、分かっています。今の俺はリリアの意見がいちばん大事ですからね」

「ありがとうございます。城に入れば色んな人の意見も聞いて自分でよく考えてね」

「分かりました」


 私は今までケルトンとこういう話しは少ししか話したことがなかったけど、ケルトンも色んなことを真剣に考えられるようになったのだと思い、バミスの態度が変わってしまったから、バミスは彼なりに考えてのことだと思うけど、ケルトンはそのことが理解できる年齢になり、そのことだけではなくて、彼とは個人的に話しをしなくてはいけないと思っていたのだ。


      ☆ ★ ☆ (9)


 ゴードン様が夕方に戻ってきたので、私は彼の仕事部屋に入り、ケルトンが身近にいると感じなかったが、今日は何だかとても大人になったと手短に話し、赤い実のボブに会いに行くことも話すと、私の話し終わったと思うと、今度は彼が話しを始める。


「今日は竹の里から使者が来てさっき会ってきたぞ」

「えっ、何か問題でも起こったのですか」

「たいしたことではないが『あれ』が多くなって、部屋の置き場所がなくなったそうだ。どこかに置かせてもらいたいと言ってきた。だから俺はシーダラスに置かせてもらえないかと思ってな。今夜バミスは帰って来るのか?」


 ゴードン様からそう尋ねられたけど、そういうことなのかと安心した。


 私たちがこの屋敷から外に出ることは少なく、バミスはいつもどこにいるのか私に報告をしてくれないし、彼はたまに夕暮れ時に戻ってきて練習を見てくれるが、ケルトンがいるから二人で話す機会はわずかで、シーダラスに戻ることはだけは教えてくれるので、裏門まで見送って少しだけ楽しい時間を過ごせたけど、バミスは人目に付かないようにしているのだ。


「分かりません。シーダラスだと近いからいいですね。運ぶのも便利だと思います」

「この屋敷にも少しは置いてもいい。ホーリーの隣の部屋にするかな。あの形でここに長くは置くわけにも行かないから、どうしたものかな?」

「今夜シンシア様に会って相談しましょうか。バルソン様は夜中に会えません」

「そうだな。シンシア様からバルソン様に伝えてもらうか」

「早い方がいいですね。いつまで滞在するのですか」

「明日も会うことにしたが、買うものがあると言っていたぞ」

「二、三日はいるのですね。金貨は足りていますか」

「それは大丈夫だと思う。さっき銀を二十粒渡しておいた」

「足りなければ言ってください。鹿の方は足りていますか」

「それも問題はない。角も問題はない」

「お手数をかけます。ゴードン様も足りていますか」

「心配はいらない」

「私はケルトンのそばにいるから動けません。よろしくお願いします」

「バミスもここに来ると忙しいな。バミスは赤い実のボブのことは知らないのだろう? ケルトンにはそのことで連れ出すのか」

「はい。二人とも目的が違いますから、バミスも使えるようになったのかしら?」

「分からんな。最近は話しもしないからな。まぁお互いにいいことだと思うよ。ミントの屋敷には先に知らせておくからケルトンを会わせるといい。きっと喜ぶと思うぞ」

 

 ゴードン様がどんなことを話しているかは知らないが、彼の知り合いたちと当たり障りのない会話をするとしても、少しでもお互いに見識ができれば、今後色んなことが考えられると思っていた。


「ありがとうございます。いつ行くのかまだ決まっていませんが、彼女にケルトンを会わせると話しました。まったくバミスはいつ戻って来ることやら……」


 私は愚痴っぽくそう言ってしまい、戻ってきてもゆっくり話す時間がないな、ともうぼやきの言葉しか頭には浮かばない、とか思ってしまう。


「そうだな。リリアも忙しいな。俺は自分で歳を取ったと思うから、そろそろここに移動してこようと思う。山の家に人が住まなくなると俺も寂しくなるな」

「歳だなんてそのようなことはないですよ。私たちがたまには行きますから、動くなら荷物は私たちが運びますから言ってください」

「リリアが戻ってくるまでには考えておくよ」

「分かりました。次回に城に入れるとトントン屋敷も空くわけですね」

「もう少しですべてが城に集まる。早いものだな。あっという間の五年間だった。そう思うとやはり俺もここに移動しようと思う。今年の冬から移動した方がいいかな」


 彼はそう言ったけど、一瞬視線が空中を見ているごとく、遠くを見ているような気がする。


 それだけ山の家には思い入れがあるのだろう。だいたいゴードン様の年齢を知らない。何歳ころから住んでいたのかも知らない。彼の過去を少ししか知らないのだ。同じく私の過去はまったく知らないと思い、でも……私たちが出会ってからさっきまでが二人の過去と言えるし、私はそれだけで十分だと思う。


「分かりました。そうすると私たちはすぐ話せますからそうしてください。私たちが帰ってきたらトントン屋敷は何か別の利用方法を考えます」

「両方とも遠くの隠れ家としても使えると思うぞ。話しは変わるが、俺も『あれ』作ってみたけど今から見ないか。ケルトンにもここで少し練習させるか。少し距離が短いが馬屋の中で使わせてみるとどうだ?」

「ゴードン様も作ったのですか。私は見てみたいです」

「いろいろ工夫をしたから向こうよりはいいような気がする。俺の部屋に隠してあるから今から持ってくる。でもまだ試作だからな」

「なるほど。私も使ってみたいです」

「今から持ってくるから待ってなさい」

「はい。楽しみです」


 彼がいない間に私はこの部屋をまたよく見ると、左右の壁には長さが同じような丸い竹がきれいに並べてあり太さが微妙に違っていた。


 緑色の竹と言うよりも薄いベージュ色をしていたり、少し黒っぽい竹もあり、色のバリエーションが豊富というのか同じ色はないような気がし、部屋の奥には縦に割られた竹が束ねて置いてあった。


 そのまま丸い状態で置いてあったり、その割り方も半分や四分の一や、細かく割られた物などが並んで、使う目的で別けてあるようだと思い、それを組み合わせて色んな物を作るのだとも思った。


 私が竹細工の本で商品知識が増えたのはいいけど、私の時代の言葉は教えてはいけないと思うし、でも、ゴードン様であれば少しくらいは先取り商品を開発してもいいのかな。竹で作れる便利な道具なんかはいいかもしれないが、作りかけや出来上がった商品に対してのコメントが難しいのだ。


     ☆ ★ ☆


「どうだ、こんな感じにしてみた」

「あの真っ直ぐな竹がこのように変化するのですか」

「俺は竹をよく乾燥させているから周りも削って整えてある。この曲がり具合もいいだろう? 火であぶって何回も曲げてみた。幅が狭いよりもこのくらいの幅の方がとてもいい。竹の中心部分に左手の持ち手を作ったからこれはケルトンに渡そうと思う。リリアにはもう少し短めに作るよ」

「すごいです。ありがとうございます。よろしくお願いします」

「かごや日常品を作るのは最近飽きてきてな、今度はこれに切り替えることにした。何回も作れば要領が良くなると思うがなかなか難しい。乾燥した竹はたくさんあるから失敗しても何回も作り直せる。その中でもいちばん気に入った物をケルトンに渡したいな」

「ゴードン様、紐が切れると自分で取り替えられますか」

「切れ込みが入っているからそこに巻きつければいい。何回も使っていると必ず切れるぞ」

「分かりました。私が切れにくい紐を渡すと何も言わずに使ってくれますか」

「分かった。何も考えずにリリアの不思議だと思って使うよ」


  ゴードン様はそう言ってくれる。いつも思うけど何も聞かれないことはとても助かるし、聞かれても応えられないけど、彼が何を考えたのかがとても気になる。

 

「ありがとうございます。いつもご迷惑をおかけします」

 私はそう言ったけど、もうこの言葉しかない。

 

「どんな紐でもケルトンやリリアが使えば誰も分からないからな」

 彼はそう言ってくれたけど、確かにこの言葉は正解だ。


 私だってほかの人には渡すつもりはない。

 でも、バルソン様は少なからず私の不思議を知っている。

 彼には渡すかもしれないけど、バミスは何も知らない。


「バミスにも作ってもらえますか」


 私はそう聞いてみる。彼にもゴードン様が作った特別な物を渡したいと思い、私にはこれくらいしか、彼のために何もしてあげられない。


 ケルトンと同じような物を手に入れられると、彼はとても喜んでくれると思う。そう考えただけで彼に対する自分の感情の中に『(ラブ)』という言葉が浮かび上がってきたようだ。


「分かった。リリアの次に作ろう。ケルトンと同じ大きさにしようかな」

「ありがとうございます。バミスに私から話します。きっと喜ぶと思います!」


 私は嬉しくて最後の言葉に力を入れてしまい、彼の喜ぶ顔が想像でき、そう思うだけでも元気が出てきたけど、早くゆっくり話しがしたい。


「これは西の城に行くときに持っていきたいです」

「分かった。相方も作ってあるからそれは三人で分散して持っていけばいい」

「ありがとうございます」


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ