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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第二章 『出会いから、五年ほど過ぎて……』
37/165

37=『シューマン』との最初の出会い

やや長文です。

     ☆ ★ ☆ (7)


 私はケルトンのことを待ちながら、マーシーとの対戦を思い出していた。出会い頭はお互いに様子見をしていた。彼女の足運びと視線は隙がない。動きも速かった。私の方が圧倒されていた。彼女の落ち着いた態度に最初からびびっていたみたいだ。今日は初めてで少しは緊張もしていた。一戦目に彼女と戦っていれば完全に負けていた。最初の二人との対戦で準備運動をしたみたいだ。


 これが命がけの戦いであれば基本なんてあってないようなもので、場慣れすることがいちばんだと思い、今回は周りの雰囲気もつかめたしいい体験だった、とそういうことを考えていた。


     ☆ ★ ☆


 ケルトンが四戦目を勝ち残り左足が痛いと退場することにしたと、ソーシャルから連絡がきたので、私は西の門の方へ歩き始めると、ケルトンが左足をかばうようにびっこを引きながら、右側の馬車乗り場の方へ歩いていくのに気付く。


『ソーシャル、ケルトンに何かあったの?』

『トントンが後をつけられていると言っています』

『分かった。私が確認するから真っ直ぐ行かせて』

『分かりました』


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、後をつけているのは大人ではないわよ。ケルトンくらいの子よ。ケルトンをどこかに座らせて足の様子を見させて』

『分かりました』


 ケルトンは座って、びっこを引いていたが左足を動かしている。


「ようお前、足は大丈夫か」

「えっ、少し痛いけど大丈夫です」


「……そうか、それはよかった。俺の名前はシューマンだ」

「俺はケルトンです」

「さっきは悪かったな。俺が負けていたのに腹いせで蹴飛ばしてしまった」


「……いや、それはいいよ。大したことではない」


「……横に座ってもいいか」

「どうぞ」

「俺は十六になって初めて試合に出たが、俺のせいで辞退したのか」

「そういう訳でもないから気にするな」

「そうか。お前は俺より強いな。戦ってみてよく分かった。お前は手加減をしていただろう」


「……そういうことではない。俺は真剣に戦った。勝ったと思ったときに……少し気を抜いたからな」

「気を抜いたのか……何が起こるか分からないからな。俺が言えた義理ではないけど悪かったな」

「気にしなくていいよ」

「そうか」

「あっ、リリア、今友だちと話しています。彼の名前はシューマンです。


 私がそばに行くとケルトンは立ちあがることもなく、私を見上げてそう言い、隣にいる彼を紹介してくれる。


「初めまして、ケルトンの姉のリリアです。今日は早いお帰りですね」

「参ったなー。これでも四戦目までは進みましたよ」

「えっ、そんなに勝ったの。すごいわね。私は一戦目で負けると思っていたけどね」


 ケルトンの言葉を崩さないように考えそう言ってしまうが、シューマンは私の顔を見ながら私たちの会話を聞いているようで、視線が私から離れていないが、上から見ていると睫毛が長いのよね。


「まったくー、リリアは俺よりも強いですよ。俺の先生だからね」

「えっ、信じられない? ケルトンよりも強いのか」


 シューマンそう言いながら立ち上がると、ケルトンよりも少し背が低そうな気がする。


 濃い紺色の腰紐を緩めにしめ、やや明るい薄目の紺色の生地の中で細目の白のストライプ模様の上着を(たる)ませて、小綺麗な身なりをしているようで、奧二重のような一重のような、ややくりっとしている目がすっきりして瞳は薄茶色であり、髪を後ろで縛り前髪は無造作にかき分けている。


「まあ、ケルトンよりも私の方が年上だからね」

「女性が剣を使えるなんて……知りませんでした」

「えっ、そうなの?」

「初めまして、私はシューマンと申します。彼は私よりも強かったです。私が負けたときに蹴飛ばしたので態勢を崩しました。申しわけありませんでした」


 彼は真面目そうな顔をしてそう謝る。


「ケルトン、勉強になったのでは……油断しちゃだめよね」

 私はシューマンの気持ちを考えて、柔らかくそのことに対して意見を述べる。


「私も今回初めて参加しましたが勉強になりました」

「シューマン、さっきと話し方が違うけど……」


 ケルトンはそう言いながら立ちあがり、やはり、ケルトンの背が少し高い。


「そうか……リリアの剣が強いと聞いたから……その……少し緊張しているみたいだ」

「えっ、そうなの?」


 私は驚いてそう言ったけど、歳上であるということに関しても意識をしているのかしら、話し方からしてなかなか好青年のように見える。


「私の周りでは女性は剣を習わないです。ケルトンが羨ましいです」

「えっ、そうなの?」

 ケルトンも私と同じ言葉を使っている。


「次回も対戦できるといいわね。一年もあればもっと強くなるわね。頑張りなさい」

「はい。私にも教えていただけませんか」

「えっ、それは困るわね。誰か先生に教えてもらってないの?」

「教えてもらっていますが、あいつは嫌いです」

「私にはその状況が分からないけど……」


 私は彼の生い立ちが分からないからそう言ったけど、話し方からして、どこかの名のあるお屋敷の子供だろうと思う。


「私には兄がいますが、私とは教え方が違うと思います。兄は優秀ですから」

「お兄さんが優秀だと思うのなら、そう思われるように頑張ればいいのにね」

「それは無理です。私が優秀であれば兄の立場がなくなります」

「えっ、そうなの? シューマンはどこかのお屋敷のご子息なの?」


 私は驚いて言葉としてそう聞いてしまう。


「ケルトンもどこかのお屋敷のご子息ですか」


「……そうだと言ったら……どうしますか」

「私も一緒に剣が習いたいです」

「分かりました。今度の試合までにもっと強くなっていると、私たちの先生を教えてあげましょう。ケルトンと二人で最終戦まで残りなさい。約束してくれますか」

「はい。分かりました。約束します」

「シューマン、リリアの教え方は上手ですよ。たまに先生がいなくなるからね」


 ケルトンがそういう言葉を使ったから驚いてしまい、確かにバミスはいなくなるけど、さっきからこういう会話の流れのできるとは、と思っているのに、彼の意外な側面を知り得たようだ。


「そうなの? ケルトンが羨ましいよ」


『ソーシャル、シューマンの屋敷を確認できるの?』

『分かりません。馬で帰るのなら方向だけは確認できます』

『分かった』


「シューマン、今日はここまで馬で来たの?」

「はい。リリアもですか」

「私も馬で来たけどケルトンと一緒に乗って帰るからね」

「そうですか。屋敷は教えてもらえませんよね」

「それは無理ね。シューマンも教えないでしょう?」

「申しわけありません」と、彼はそれしか言わない。


「ここで出会ったのも何かの縁よね。来年の剣の勝ち抜き戦までにもっと強くなってね。次回にまた会いましょう。一つだけ教えるけど……手よりも足使いの方が大事だと思う。それを自分で考えてから練習してね」


 よけいなことかもしれないけど、自分でそう思っていたのでそう言ってしまう。


「なるほど、手よりも足を鍛えろということですね」

「シューマンも優秀なのね。その意味が分かっていれば王様を守れるわね」

「ケルトンに負けるくらいですから……私では無理です」


 彼の言葉は謙遜的に聞こえてしまうけど、性格がよさそうな気がする。


「シューマンはおいくつなの?」

「十六歳になりました。それで、今回初めて参加してみました」

「ケルトンと同じじゃないの。これからお互いにどんどん強くなるわね」

「ありがとうございます。頑張ります。今度は足を鍛え直します」

「頑張ってね。また会えるのが楽しみですね」

「それでは私は失礼します。ケルトン、またな。今度は負けないからな」


 彼はそう言って馬乗り場の方へ歩き出しだす。


『ソーシャル、私のことはいいから馬の音を追ってね』

『分かりました』

『方向だけでもいいからよろしくね』


 彼は悔しい気持ちを持ち合わせている。人に謝ることも知っていた。彼は強くなるだろうな? 背も高いし歳の割にはきりっとした大人びた顔をしている。ここで出会ったのも何かの縁だ。近くに住んでいればいいけどな。ケルトンの友達になってくれないかな、とそう思う。


「ケルトンも話しを合わせるのが上手になったのね」

「ありがとうございます。リリアのお陰ですよ」

「足はほんとうに痛かったの?」

「少し痛かったです」

「まだ痛みがあるの?」

「転んだときは痛かったけど、もう痛みは取れました」


 彼がそう言ったから、何だか母親の気分になってしまい、彼が大きな怪我でもすると、私はどうなってしまうのだろうか。


「そう、よかったね。私がケルトンよりも上手だと分かると態度が変わったけど、彼のことはどう思う?」

「シューマンは悪いやつじゃないと思います。俺に謝ったから自分で悪いことをしたと自覚していますよ。追いかけてきて普通は謝りませんよね。俺も避けきれなくて悪かったです」

「そうなの? ほんとうに蹴飛ばしたのね」

「はい」

「何だか家庭の事情がありそうね。彼の屋敷では長男が家を継ぐのかしらね?」

「彼の方が優秀みたいですね。それを隠しているのでしょうね」

「私もそう思う。名前は嘘ではないようだから、屋敷の方向さえ分かればバルソン様に調べてもらえるわね。ケルトンの友だちになってくれないかしら?」


 私は彼の話しを聞きながら、思いきってそう言ってみる。


「俺には友達がいないから構いませんよ。何だかいい奴のような気がします。俺は何とも思わないけど、シューマンは女性が剣を使えることに驚いたのですね」

「ケルトンの周りでは女性でも剣が使えるからよ。彼みたいに考えたこともない人もたくさんいるのでしょうね。そう思うと……彼女のお父様の考えは素晴らしかったのね」

「俺が戻れたら二人に会ってもらいたいです」


 彼がそう言ってくれたから、何だか嬉しくなる。


「楽しみにしているからね。私たちも頑張ろうね。シューマンとは四戦目だったのは分かったけど、他に何か感じたことはあるの?」

「はい。腕に自信がある人ばかりのような気がしました。一回の対戦時間が長いですね。どんどん勝ち進めばもっと対戦時間が長くなるような気がします。そうすると体力が問題です。お互いに疲れてきますから、自分がやらないときは休憩した方がいいと思いました」


「……なるほど。ケルトンもそういうことが考えられるのね。すごい、見直したよ」

 私は最後の声の響き大きめに言ってしまう。


「ありがとうございます。今度は体力を保つために一発勝負で勝ち進みたいですね」

 ケルトンは生き生きとした顔つきになり、自分の抱負も話してくれるようだ。


 何だか……私が心配していたのが嘘のようである。私の弟というよりも自分の子供だと思っているのかしら? 自分の気持ちが過保護すぎたと反省する。彼は私のことをどう思っているのだろうか。


「……私も今度はそうするつもりよ。私の話しも聞いてもらえるの?」

 私はやっと話しを切り替えることができる。


「どうでしたか」 

「三戦目にマーシーと戦って……やっとこ勝ったのよ」

「彼女のそばにいるマーシーですか。二人のことはバミスから聞いてます。リリアが勝ったの、すごいですね」


 彼の最後の言葉も大きく叫んでいたが、彼は『リース』の前に乗り、私が後ろに乗っているのだ。


「そうなのよ。私も驚いたのね。あの竹がよかったみたいね」

「俺もあの竹がよかったと思いますよ」

「やはりね。腕立て伏せもよかったわね」

「はい。リリアの考えはすごいですね」

「でも基本的なことなのよ。説明が難しいけど続けることがいちばんね」

「はい。俺もそう思います。リリアも剣が強いのですね。俺は嬉しいです」


 彼がそう言ってくれたから、私も何だか嬉しくなる。バミスがいないくても二人でたくさん練習をしてきた。色んな場面が蘇り、楽しいことも辛いことも悲しいことも、思い出として過ぎ去っていくと思い、今日という日を目指して頑張ってきたのだ。今、ケルトンの成長を垣間見れてほんとうに嬉しい。


「私の場合は剣よりも棒の方がいいのよ。小さい時からそれを習っていたからね」

「なるほど。俺も今までありませんが、実際に人を切ったことはないですよね」

「あるわけないでしょう。今まで考えたこともなかったけど、どういう気持ちになるのかしらね?」

「たくさんの人間を相手にすると必死で考える時間はないと思うけど、一対一だったらどうなると思いますか」

「バミスに聞いてみたら、私には経験がないから分からない。棒ではあり得ないことだからね。私の時代では人間を傷つけたり殺したりすると……その状況を詳しく調べて罰せられるのよ」

「前に、ここでも調べるとバルソンが言っていましたよ」


 そう言った彼の言葉を聞いて、警察みたいな組織があるのだろうか、と思ってしまう。


「それよりも、相手の動きが止まるような戦い方をした方がいいわね。足の動きを止めれば勝つ可能性が高い。剣客はその場で動けなくても自分の身は守れると思うけど、剣がなくても体を動かして相手の剣を奪うこともできる。私は足運びがいちばん重要だと思うけどね。だからシューマンにそう言ったでしょう」

「分かりました。よく覚えておきます。自分が剣を持っていなければ、相手から奪い取るのですね。それと足を狙えば動きが止まるのですね」

「そうすると相手が驚いて逃げ出すかもよ。でも……逆の立場もあることも覚えておいてね。相手から剣を奪われることよ。自分の手の中に剣の存在がなくなった場合は逃げた方がいいのかもね。戦うことばかりを考えたらだめなのよ。逃げることも大事なのよ。特にケルトンは立場的に逃げるが勝ちなのよ。引くことも覚えておいてね。その状況判断はたくさん経験をしなくてわね。これから戦いが始まると人を動かし、戦況判断するのはケルトンの仕事です。その人たちにも家族がいることを忘れないでね」


 私は逃げるが勝ちの言葉を使いたくてそう説明する。周りの仲間は彼を逃がすことだけに専念するかもしれないが、向こうのテレビや映画の世界での状況判断でしか考えられないけど、そういう事態が起こらないのがいちばんなのだ。時代劇やドラマや映画をたくさん見ていて良かったと思う。


 私には戦いの場面は分からないので、テレビや映画で見たような雰囲気でしか考えられないけど、それを言葉として伝えることしかできない。今はそれでいいと思う。


「分かりました。引くこともよく覚えておきます」


 私が長々と話した言葉に対する彼の答えは、逃げ出すより引くという言葉を使うけど、立場的に逃げる言葉は相容れない考え方なのかしら?


「そうだ。これが終われば赤い実のボブに会いに行こうと思うのよ。結局一度も会いに行ってないからね。彼女には許可を取ってあるから、行く前に連れていくと言ったからね。今度は自分のソードを出して見せなさい。私のよりも大きくなったと話したからね」

「分かりました。ソードを見たら驚きますね。俺も会うのが楽しみです」


 彼の嬉しそうな声の響きが、前からから聞こえてくる。


「乗れることを聞かれたらどうしようか。私は乗れないことにした方がいいと思うけど、ケルトンの場合は最後まで隠し通した方がいいと思うよ。後からソーシャルと相談してみるからね。見せて後悔するよりも見せない方がいいような気がする。今までどおりでお互いに考えることがなくていいような気がするけどね。ケルトンはどう思う?」

「俺もリリアの意見に賛成です。知らせない方がいいと思います」

「分かりました」

 

 私たちは馬上で色んな会話をしながら屋敷を目指したけど、ケルトンは心身ともに大人になったのだ。私は『リース』の後ろに乗っていてつくづくそう感じる。


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、シューマンの屋敷はどうなった?』

『彼は西の門から行くと馬は右側に曲がりました。ゴードン様の屋敷とは反対方向に馬が進みました。その先までは確認できません』

『私たちが少し後を付ければよかったね。右に曲がったその先が特定できたのかもね。でも、彼も後を付けられることを考えたかもしれない。その方向だけでも分かればバルソン様に探してもらえるわね。私はケルトンの友だちにはいいと思ったのよ』

『そのようですね。リリアがいいと思えば私は賛成します』

『ありがとうございます。彼がソードに乗れることはどう思う?』

『話さない方がいいと思います。今まで何も問題が起こってないからです』

『彼女もよけいなことを考えなく済むからいいわよね』


今回も読んでいただき、ありがとうございました。


シューマンが、ケルトンの友達になるのだろうか?

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