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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第二章 『出会いから、五年ほど過ぎて……』
36/165

36=〈待ち伏せのバミス〉

     ☆ ★ ☆ (5)


 私は東の門を出てから、何だか晴れ晴れとした気持ちで馬置き場へ向かうと、馬車道から馬だけ通れる細い道にさしかかったときに、バミスが待ち受けていたので、すかさずソード切り、私たちは森の中に入り隣通しに馬を寄せ合って話しをする。


「少し心配になってここで待っていたけど、今日はどうでしたか?」

「ありがとう。驚いたけど三戦目にマーシーと戦ったのよ」


 私は彼の姿を見て嬉しくて、そのことを最初に話す。


「シンシア様の側にいるマーシーですか」

「そうなのよ。二人で真剣に戦ったのよ。バミスはどっちが勝ったと思う?」


「……あのマーシーでしょう?」

「あのマーシーだったのよ。信じられないけど私が勝ったのよ」


 私は少し有頂天になり嬉しくなって、バミスだから私の本心を話してもいいと思い、だんだんと実感が沸いてきた喜びの気持ちを先にそう伝えてしまう。


「俺は悪いけど信じられないな。リリアはそんなに強者になっていたの」

「私も分からないけど、三戦目の三組の中で最後まで戦っていたのよ。彼女は残念だったと言っていたけど、これは凄いことなのだと後から実感しちゃった。私も真剣だったけど彼女もそうだったみたいね。 戦いが終わると彼女から声をかけてきたのよ。最初の名前は違っていたけど、しつこく城での仕事を誘うから全部断った。そうしたらほんとうの名前を教えてくれたのね。彼女を守る人を捜していたみたいね。だから次回は勝ち残ると約束したけど、部屋に戻ればその意味が理解できると思う。そういう意味では、今回の参加は私にとっては有意義だっのよ」

 

 バミスからの否定の言葉を聞いて少し落ち込んだけど、それを隠すように長々と説明をしてしまい、彼がここで待っていてくれたことは、予想外の出来事で嬉しい。


「バルソン様に報告します。今度俺と真剣勝負で戦ってみませんか」

「えっ、そういうことをするとお互いに困るから……止めとくね」

「俺が負けても悔いは残りませんよ。よけいに尊敬して大好きになると思うけどね」


「……まったく、ここでその言葉は使わないでよ。そうだ、この試合が終わればケルトンと三人で西の森に出かけることにしたからね。黒い帝国の情報を仕入れに行くのよ。ケルトンはそのことを知らないから内緒にするようにね。頼んだわよ」


 私が真剣に戦ってもバミスに勝つわけがないのに、自分で私の力を確認したいのだろうか。バルソン様に確認しろと言われているかもしれないな。


「……分かりました。彼女には報告済みですよね」

「もちろんよ。バルソン様にも話すと言っていたからね。この情報が手に入れば彼の手柄になるし、ケルトンにもいい経験になると思わない? 私は今回のことで自信がついた。今からケルトンの話しを聞くのも楽しみなのよ」

「俺もです。俺がそばで二人を守ります」


 彼はそう言って、上体を伸ばして唇を重ねてくる。


「今日は待っていてくれてありがとう。今夜は屋敷に戻って来るの?」

「分かりません。俺は今からシーダラスに用事がありますから、でもここで待っていると会えるような気がしたから」

「忙しいのに待っていてくれてありがとう。今度はゆっくりと真面目な話しがしたいのよ」

「俺もです。リリアと真面目な話しがしたい」


 彼は何を考えたか分からないけど、同じ言葉を使っている。彼は忙しそうで屋敷にはまたにしか戻ってこないが、夕方戻ってきてはケルトンと私に遅くまで剣の指導をして、そのままいなくなることの方が多い。


「シンシア様にケルトンを会わせると出発したいからね。予定を考えておいてよね」

「バルソン様に聞いてみます。俺は城を辞退してもバルソン様の配下ですからね。何かと忙しいです」

「分かりました。出発前だから体調だけはしっかり管理してね。私たちはバミスを頼りにしているのよ。私たちを守ってもらわなくてはね。頼むわよ」

「リリアにそう言われると力が倍増しますよ。俺は遅くなったから今から馬を飛ばしますね」

「今日はありがとう。嬉しかった。 私ももう行くからね。気をつけてね」


 私がそう言うと、彼はにこやかに笑ってくれ、私も同じ方向だけれど先に離れたのでその後ろ姿を見てから、バミスは途中で木々の間を抜けるように道から外れていく。もう少しゆっくり話しかったけど、いつでも彼の笑顔は私を元気づけてくれ、彼と話すときはソードをいつも切っているが、ソーシャルもそれに関しては何も言わない。


     ☆ ★ ☆ (6)


 一方では、マーシーがシンシア様に連絡するために急いで部屋へ戻り、彼女は剣の勝ち抜き戦の最終場面を王様と観覧するために、奥の部屋で着替えをしているのだ。


「シンシア様、マーシーが戻りました」と、パーレットはそう言う。


「こっちに通して」

「かしこまりました」 と、パーレットは返事をする。


「お出かけの前にと思いましたが遅くなりました」

「まだ迎えに来ないからね。 どうだったの?」

「はい。私は三戦目に戦ったリリアに負けました」

「えっ、もう一度名前を言って?」


「……リリアです」


「……そう。マーシーがその人に負けたのね。それでその人は勝ち進んでいるの?」

「いえ。私と戦った後に足が痛いと自ら辞退しました」


「……分かりました。もう少しで服が着られるから、その話しはもう少し待って。ルーシーはどうしたの? 今日は一緒ではないのね」

「はい、急いでここに来たので声をかけませんでした」

「パーレット、ルーシーをここに呼んできて」

「はい」

「着替えが済んだら座って詳しく聞くから、今回は何人ほど参加者がいたの?」


 彼女はそう言いながらも髪を上の方に結い上げてもらい、最後の飾り付けが終わろうとしている。


「男は三百人ほどですが女は百人ほどいると聞きました。今回の男は多いそうです」

「今回は多いわね。来年も多くなりそうね。分かりました」

「彼女は動きもよくて、私を真剣に戦わせる気持ちにさせました。でも一瞬の隙をつかれてここに棒を受けました」

 マーシーは右側の肋骨辺りを手で押さえている。


「マーシーを本気にさせたのね。分かりました」

「私がしつこく城での仕事を誘ったにもかかわらず、彼女はすべて断りました」

「その話しはルーシーと一緒に聞くから少し待って」

「はい」 と、マーシーはそう言いながら、彼女の着替えを待っている。


     ☆ ★ ☆


「ありがとう。ご苦労さまでした」


 シンシア様が服を着せていた者たちにそう言うと、彼女たちは下がっていく。


「マーシーもここに座って」

「ありがとうございます。シンシア様はリリアの名前をご存じなのですか」

「今までマーシーには隠して悪かったけど、彼女の説明は一、二年待ってくれる。そうしたら詳しく話すからね。それよりも、彼女と話してどうだったの?」

「最初は異名を使って話しましたが、自分の名前に言い直すと、ルーシーの名前とシンシア様の名前を言ったから驚きました」

「なるほど。彼女の名前を教えてなくて悪かったわね」

「いえ」

「リリアはそれほどに手強かったのね。戦いが終わる前にマーシーと出会えてよかった。あなたと戦い彼女も自信がついたわね。こういう機会があるかもしれないと思い、城の人間とは別口に参加してもらったのよ。早い段階でリリアと手合わせできてよかった」と、シンシア様がそう説明していると、

「シンシア様、ルーシーが来ました」と、パーレットがそう伝えにくる。


「こっちに通して」

「かしこまりました」


 パーレットそう言うと、彼女はマーシーには内緒にしていたので、どう話しを切り出そうかと少し考えてしまうのだ。


「……マーシーは覚えているかしら、五年ほど前にルーシーとは友だちになったのよ」

「えっ、ルーシーから何も聞いていませんが友だちですか」


 そう言った彼女の驚いた顔を見て、友達という言葉しか思い浮かばす説明しようがないと思ってしまう。


「ルーシーもここに座って」

「はい」

「今日はマーシーがリリアと対戦したそうよ」

「えっ?」


 そう言ったルーシーはその名前に驚いているようで、彼女の視線はシンシア様からマーシーへと移る。


「リリアはルーシーの友だちなの?」

「えっ?」


 そう言ったルーシーは友達の言葉に驚き、シンシア様の顔を見たのである。


「ルーシーはリリアのことを話せなかったのよ。私が話さないように言ったからね。このことは複雑で私も理解してないから、マーシーが聞いても分からないと思うからね」

「シンシア様もリリアのことが分からないのですか?」

「リリアのことは知っているけど、彼女の説明が難しいのよね。でもそれでいいのよ。五年ほど前に私の屋敷に赤い実を届けたことを覚えている? あの時に西の門に回ったでしょう?」


 シンシア様がそう言ったから、マーシーの視線は宙を見つめている。


「……シンシア様からいただいておいしかった、あの赤い実のことですか」


 マーシーはそう言いながらも、彼女の頭の中は思い出すことで格闘しているようだ。


「そうよ、あの時からなのよ。内緒にしていて悪かったわね」


「……五年も前からですか?」

「もうしばらく待っていてくれる。そうしたらすべてを話せるから」

「いえ。リリアは次回の参加で勝ち抜くと約束しましたが、その意味のことですか」

「そうよ。それまで待っていてくれる」

「分かりました。ルーシー、気にしなくていいからね。リリアはルーシーのことを信じていると話したのよ。私がリリアの名前を知っていれば、彼女はその言葉は使わなかったと思うから」


「……はい」と、ルーシーは申し訳なさそうな顔をしてそう言う。


「彼女がマーシーを打ち負かすとはね。この五年の間に努力したのね。彼女のことは何も心配いらない。今度はカーラにそのことを伝えね。疑ってはなかったけど、私のいちばんの不安が解消されたとお願いね」

「はい」


 ルーシーはそう返事をしたけど、今度は嬉しそうに笑みを浮かべている。


「シンシア様、私は前から不思議に思っていましたが、その……カーラとは何ですか」

「マーシーには悪いけど、そのカーラの意味が私にも理解できないのよ。でもね、私たちには大事な言葉なのよね。その意味だけを理解してくれない?」


〈ルーシーがリリアのことを知り、マーシーには話せないことが私には辛かった。二人は十六歳のときからずっと私のそばにいて、二人の間に隠しごとが存在していたのだと思うと、ルーシーの気持ちを考えると申し訳ないと思っていたのだ〉


「五年ほど前と言えば、私たちがあそこの大きな樹の下で練習を始めましたね。あの場所にも何か関係があるのですか?」


「……あるのよ。あの樹は大きくて葉が茂っているからね。練習するにはもってこいの場所でしょう。あそこはたまにしか人が来ないからね。王様が来られたときにいい場所だと褒めてくれたのよ。ルーシーがこの場所を見つけましたとお話ししたのね」

「ルーシーにはその意味が分かるのですね」

「これはリリアとルーシーの不思議なのよ。私たちには意味が分からない。それ以外に説明ができない。悪いわね」


 シンシア様はそう言葉を濁している。


〈もちろん、私はシンシア様の言葉の意味が理解できているが、マーシーに隠しごとがありずっと申し訳ないと思っていた自分の気持ちが、彼女も同様にそう感じていたという事実が、私は今回のことでしっかり理解できた〉


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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