33=〈一気に駆け抜けた過去〉 (2)
☆ ★ ☆
この五年間の間に、南の城では徐々に暗雲が漂い始めてきたらしく、 最初は小競り合いだったそうだが、北にある『黒い帝国』が西の森の一部で戦いを開始したと聞く。西の城の兵士が多数犠牲になったと聞き、赤い実のボブが存在する西の森で起こったことだった。黒い帝国との小競り合いは以前から各所で起こっていたそうだが、今までこんなに犠牲者が出るほどの戦いはなかったそうだ。
彼らはずっとその機会を観望していたみたいだ、とシンシア様が私に話してくれ、私は大ざっぱな話しは聞くことができたが、二人はこの城に関する細かい話しはしてくれない。
私はバルソン様からもこの話しを聞いて、すぐマークから風の音で伝えてもらい、リズにその状況を確認すると、西の森の一部が戦場となり燃えてしまったそうだ。マークから赤い実のボブは健在だと言われ安心した。この時代でも『戦争』という言葉が存在することが理解できた。
ケルトンはこの状況を何も知らない。今の彼にはまだ力が足りない。あと数年ほどの時間がほしいと思い、彼にはこの話しを内緒にするようにバルソン様にお願いした。
南の城の存在は黒い帝国側からすると、二本の大きな河にはさまれていて、西の城は奥行きのある西の森に阻まれているだけだそうだ。
私は東の城の存在も知ることができ、南の城にはやはり書庫がありこの近辺の地図もあると聞いたけど、東西の城が協力してこの城を攻撃することもあるのだろうか。
バルソン様は相変わらず、私に城の内部は開かそうとはしないけど、シンシア様はバルソン様ほどにこの城の内部は知らないそうで、彼はこの五年間で王様の側近として、自分の地位向上をはかったそうだ。
シンシア様の王子様がいなくなったことで、必然的に東の屋敷である正室の王子様が後継者になるらしく、バルソン様の存在は彼らの意中にないようだと聞いて、彼はそのことを逆手にとり、彼が戻ってくるまで自分の地位固めに専念しているのだろうか。
そういう話しを聞いたとしてもどこまでが正しいのか判断に苦しむけど、城の中に入って自分の目で確認しなければ、私には意味が理解できないと思ったのだ。
私はシンシア様から驚くべき事実を聞き、バルソン様が王様から聞いた話しを彼女に伝えたことで、この城には『ソードを持った若者が南の城を救う』という古い言い伝えがあるそうだ。
代々受け継がれているらしく、バルソン様が王様と二人だけで話しているときに、彼にこそっと話してくれたそうで、私は剣の腕がないから自分ではない、と断言されたそうだ。
バルソン様がその話しを聞いたときに、マーリストン様ではなく私のことが頭に浮かんだ、とシンシア様は私に教えてくれたけど、バルソン様はそれだけ王様には信用されているとも話してくれ、バルソン様はなぜ私のことが頭に浮かんだのだろうか。
☆ ★ ☆
ゴードン様とホーリーの出会いも意外な関係で、ゴードン様が川の近くで怪我をして動けなかった彼を助けたそうで、それから二年ほどしてカーサンドラの市場でばったり出会い、彼はゴードン様の屋敷で使用人として働くようになったそうだ。
それまでの深い経緯は話してもらえなかったが、ホーリーもまた剣客だそうで、屋敷にゴードン様がいなくても彼に屋敷を任せておけば心配はないと言われ、二人の出会いはほんとうかどうか分からないが、彼はゴードン様を尊敬しているみたいな気がしていた。
☆ ★ ☆
ゴードン様は色んな場所を放浪していて知り合いが多くて、いずれケルトンが王になることができると、彼の仲間は城の中だけではなく、城の外にも財力のある仲間が存在することになる。
ゴードン様のお陰でケルトンの仲間作りは着々と進んでいるようで、彼の仲間を増やすために、あの金貨の存在は多いに役立った。
ゴードン様がフィーサスの店で話してくれた、鹿肉のジャーキーというのか、私はそれを食べてとてもおいしくて、ケルトンが大好きだったビーフジャーキーが忘れられなくて、 私は鹿一頭を買い付けてそれを作ってもらうことにした。
ゴードン様が話すには『鹿の里』と呼ばれる場所があるそうで、それに『竹の里』・『岩塩の里』にも知り合いがいると話していた。
最初はかたまり肉のジャーキーを頼み、それ以外の肉も存在するということで、余った部分で細かい干し肉も作ってもらい、私は『鹿肉ジャーキー』と名付けた。
バルソン様にお願いして、そのかたまり肉を試食みたいに、この城の食材として食べてもらうことにすると好評なので、今度はそれを販売することにした。
販売ルートは私には分からないのでゴードン様にお願いしたけど、資本金は私が出し彼らの人脈で商売が成り立ち、今では減っていた金貨が増えつつある。
この五年間で、ゴードン様とバルソン様のつながりは深くなったそうで、そのことはこの城において、マーリストン様の存在を優位に立たせてくれると思い、ゴードン様の仲間は私が考えていた以上にすごいパワーをもたらしてくれそうだ。
彼のほんとうの姿は数人しか知らないし、マーリストン様のおごることのない礼儀正しさが、ゴードン様の仲間にいちばんの好感をもたらしたと思うけど、彼の内面から溢れ出るオーラなのだろうか。
☆ ★ ☆
私たちがゴードン様の屋敷に戻ってくると、ルーシーが二日に一度は私の言葉をカーラに確認をすることに決めたので、この樹の木陰は彼女たちの剣の練習をする場所にもなり、たまにシンシア様もこの樹の下で彼女たちを相手に体を動かしているそうで、彼女が部屋を出るときには必ずほかの護衛がつくそうだ。
☆ ★ ☆
私は自分の過去を思い出したが誰にも話せずに、剣道の試合中に事故が発生して、そのことが大々的にニュースで取り上げられ、色んな人に迷惑がかかり、私はいたたまれなくなり崖から飛び降りたのだ。
自分で自分の命を絶ったと同時にソーシャルに助けられて、この時代に今の私が存在しているが、向こうの人間は誰も知らないことで、それにこんなに時が過ぎてしまえば、今さら帰っても私の居場所はないと思った。
私は二十一歳で大学三年生であり、誕生日は六月八日、父と母と三人暮らしで、シンシア様が感じた母親としての状況が目に浮かび、私たちの両親も哀しんだに違いない。私が生きていることを知るとどうなるのだろうか。私は向こうではすでに『死亡』となっていると思う。ケルトンと私の状況は同じだと思った。
☆ ★ ☆
ケルトンが昨年の十月一日で十六歳になり、今年は冬が終わっても私たちはここに滞在して、四月一日の剣の勝ち抜き戦に試しに出ることにしたけど、今回は様子見だけで目立たないように参加しようと話し合い、男女は別口の場所で、男は西の門から入り女は東の門から入るそうで、私たちの足腰の鍛え方と安定感は、バミスから驚くほどの効果が現れていると言われたけど、自分でも瞬発力は意外にあると思った。
☆ ★ ☆
私は小さいころから剣道を習っていたことを思い出したけど、馬には乗ったことがなくて、この五年間でとても上手になったと思う。
バミスは自分の馬を持っていたので、ケルトンはもちろんだが後から私にもバルソン様から馬をいただいて、名前を『リース』と名付け、ケルトンの馬は『マース』で、バミスの馬は『ミース』と呼び、三頭とも雄の馬で、 私は自分の馬を手に入れたときに、馬の手入れ方法の本を『ミーバ』にお願いした。
ゴードン様に頼んで竹を細く裂いて隅を紐で縛りブラシとして使い、リースの顔の白斑は、おでこから中心部分に半分ほど白くなり、私の馬の色は濃い茶色だった。
私たちの髪や馬の鬣やしっぽの毛を切るのに、私はそれ用のハサミを取りだして内緒で使っていたが、鬣を編み込みした方がいいと本に書いてあったので、私は左側に寄せて三つ編みにして垂らした。
最初は鬣がからまり粗いくしを入れて整え、試行錯誤しながら完成させると、首筋がスッキリしてとても素敵な馬になり、たまにその三つ編みを束ねて一つのお団子にしたりして、マースとミースも編み込みだけは私の仕事となった。
蹄の手入れ用品は、柔らかいブラシが付いたテッピと書かれた道具を出し、蹄の清掃は大事だと書かれていたから、馬の頭とは反対方向に向いて胴体の横に立ち、足を後ろ向きに上げさせ、中を覗きこんで清掃をしていた。
本には色んなことが書いてあったが、最初は二人でバミスに教えてもらい、本に裏堀りすると書いてあり、蹄は水分に弱いから水などで洗い終われば、タオルで押さえるようによく拭いて乾燥させた方がいいと書いてあり、馬屋の掃除も小まめにするようにとも書いてあったから、自分の部屋のように掃除を小まめにしていた。
私たちの馬には蹄鉄が付いていたが、たまにバミスがリースに乗り、鍛冶屋みたいな店に連れていき、私はその場所は知っているけど、極力この里の人たちと触れ合うことをしなかった。
バミスに聞くと、城の中の馬に蹄鉄は付いておらず、城から外に遠征として出かける馬には取りつけているそうで、この時代の馬の鞍は一応は革だが単純な作りで、鐙があるだけなので、私はその下に長めに厚い布を垂らし、お腹の下で二ヶ所を紐で結ぶようにした。
道で出会う上流階級だと思われる人たちの馬には、洋服みたいに馬の背中はきらびやかなカバーかけてあり、今度は西の森へ出かけると長時間座ることになると、馬も汗をかくと思い鞍の下に置く布を手作りして、リースとマースにも慣れるように、早めにこの布を上に置いて様子をみていたりしたけど、バミスはなかなかゴードン様の屋敷に帰ってこない。
リースは違和感がないので、他の馬にもその様子を見せるようにもしていたけど、馬の視覚と感情は理解できないし、私はこの本だけではなく馬の構造もたくさん勉強して、リースは気性が穏やかだからとてもかわいいと思う。
竹の存在で私たちの安定感と瞬発力はよくなり、私たちは腕立て伏せと腹筋にも力を入れ、ここでは鐙があっても彼らはジャンプして馬に乗るから、左手で鬣と紐を同時に持ち、飛び上がるのと同時に腕力でよじ登り、ケルトンとバミスは鞍を使わず素乗り状態が多かった。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
リリアとケルトンが出会ってから、大雑把ではありますが時が駆け巡り、ケルトンは成長しています。
次回から、第二章が始まります。今後ともよろしくお願いいたします。




