30=〈お台所事情〉・『ルーシー』との最初の出会い
やや長文です。
☆ ★ ☆ (50)
今日はホーリーが出かけるということで、私がお昼を作ることになり、ここで料理を作るという私なりの下準備ができていなくて、私は『ご飯』が無性に食べたかった。
今日はレトルトパックのご飯と中辛のカレーを『ミーバ』にお願いしようと思い、ケルトンは子供なのに、甘口よりも中辛の方がおいしいと言っていた。
心配なのはゴードンの口に合うかどうかで、私の不思議だと思い食べてもらいたいな。でも匂いが強いし心配だよな?
☆ ★ ☆
昨日の午後、ホーリーにその部屋を初めて見せてもらった。ここは台所と呼ぶべきかどうかは分からない。ここは横長の四畳半くらいの大きさだろうか。
右側の隅に石で囲まれた場所が井戸だそうで、紐の付いた桶が木のふたの上にふせて置いてあり、天井に滑車がないからそのまま自分で引き上げるのだろう。トーリスの家の外にあった井戸は木の枠組みで滑車付きだった。
井戸の右側に引き戸があり、この引き戸をはさんだ隣がお風呂場で、湯桶と呼ばれているらしく、その向こうがトイレである。(ポッチャントイレは割愛させてもらう)
私たちが湯桶に入る場合は裏庭に面した入り口から入るが、その中に水を入れる大きな桶と、熱い湯を入れる一回り小さい桶があり、湯を入れる方には木のふたが被せてあって、これを混ぜて使うのがとても面倒くさい。
この部屋の真ん中辺りに高さが一メートルもないような竈が二つあり、右側に大きい竈と左側に小さな竈だ。
大きな竈は平らに削られた大きな一枚石が左右と奥に置いてあり、空間部分は横幅よりも奥行きがある縦長の長方形のような形をしていて、その下には普通の石が置いてあり底上げしてあるみたいで、その中で薪をすでに燃やした残り火がある。
この上に金属で作られたような、直径が五十センチほどの深めの寸胴鍋が置いてあるが、この鍋は鍛冶屋で金貨を二枚出して、特別に作ってもらったそうだ。
朝起きるといちばんにこの竈に火を起こすとホーリーが言っているが、こちらは湯を沸かすだけの専用らしく、左奥には薪がたくさん重ねてある。
その横には竹で作られた台の上に、縦に置かれた布袋が二つあり、小麦が入っていると言われた。
直径が三十センチほどの石臼が二つあって、木で四角に作られた受け皿みたいな入れ物の上に、二本の平らな棒が置かれてこの臼を支え、片方の石臼は荒削りをして皮の部分を取り除くそうだ。
それをゴードンが竹で作った、四角い大きなザルのような物の上に広げ、細い竹を組み合わせて作った、太巻きを作る『すのこ』のような大きな物があって、これを両手に持ってあおいで小麦の皮を取り除くそうだ。
この作業を二回やるらしい。三回やったこともあると言っているが、それをもう一つの石臼を使って粉にしているそうで、豆を水に浸けてふやかし、すり潰すこともあるそうで、その横には壺みたいな大きな陶器が二つ置いてある。
その上に明かり取りの窓が外に押すようにあり、竈の奥の壁にも窓があって、引き戸を少し開けると三ヶ所で換気は大丈夫みたいだと思う。
小さい竈は同じような作りで正方形の形で、大きな土鍋が上に置いてあり、料理は小さい竈で作ると言われ、大・中・小の土鍋みたいな物が二組ずつあるそうだ。
入り口の左側に竹で作られた台の上に置いてあり、重ねてあって木の平らなふたがその上に乗っている。
その上に竹で作られた吊り棚があり、黄土色の壺があったが塩が入っているそうで、丸い木の器が大・中・小の大きさで五組ずつ並べてある。
後は竹のスプーンと刺す部分が二つしかないフォークみたいな物が五組ずつあり、それが竹筒の中に差してあり、竹のお玉のような物が大小二つ、これも竹筒に入れられて、竹で作られたコップみたいな物も整理整頓されて並べてある。
うーん、陶器の食器と鍋とフライパンを出してもいいのかな。それくらいの大きさの物だと『ミーバ』にお願いできるけどな。使い終わればそのつど消してしまえばいいのかな。どうしようかなーと考えたことをソーシャルに話すと『出さないでください』と速攻で言われてしまった。やっぱりね。
☆ ★ ☆
お昼にゴードンにカレーとご飯を食べてもらおうと思うど、いきなり真っ白な深めの陶器のお皿に入れるのも抵抗があったので、ここにある木の器に入れようと思う。
ご飯は二百グラム入った三個パックとカレーは中辛でお願いし、個々のゴミを捨てるために、二百枚入ったビニール袋は前からお願いしてあり、すべてそれに入れて『ミーバ』でゴミの存在を隠していた。
最初から驚かないように、白いご飯が黄色くなるように混ぜてから渡すと、お盆の上に置かれたこの器を見て、彼は『黄色だ』と呟く。
最初はじっと見ていたが匂いも確認しているようで、それからひと口食べて、今まで食べたことがないから比較する言葉がない、と言われ、食べている間はおいしいとかおいしくないとか何も言わなかったけど、全部食べ終わってから、お腹がいっぱいになった、とは言ってくれたけどね。
ケルトンはカレーが大好きだと言っていたので、彼はバクバクと竹のスプーンですくって食べ、私も久しぶりのお米が食べられて満足だった。
何度も食べればおいしく感じるのよね……私は大好きだけどな……洞窟とは違いここには食材がたくさんあるので、今度は市販のカレー粉を取りだして作ろうかな。
☆ ★ ☆ (51)
昨日はお台所事情を聞いた後に、ケルトンと馬屋の竹を使い、前後に動いたりそのままで座ってみたりと両足を縦にそろえてやっていたから、普段は使わない筋肉を使ったみたいで、今朝目覚めると体中があちこち痛かったけど、でも心地よい筋肉の痛みだと思った。
二人でそばにいて話しもしたし、休憩時間に荷台にある赤い実も一緒に食べることができて、辛い練習というよりも楽しかった。
剣の勝ち抜き戦は一年に一度しか開催されない。
彼が十六歳になるまで後五年ほどある。
その間に技を磨いて体力を付けなくてはいけない。
私たちはいつも西の門からしか入らない。
城に入るにはもう一つ西の門がある。
紛らわしいから名前を変えてほしいけどね。
逆側に東の門があるとゴードンが教えてくれた。
こちらも同じような市場があるのだ。
ここは東西の門が対照的に作られているそうだ。
北側と南側には門がないそうだ。
この城の中の様子は市場の人間には分からないと言われ、城の中の人間がかたくなにも口を閉ざすように教育されているのだろうか。門の中に入れても、その先は建物があり奥が見えなくて、市場の人間は中には入れないそうだ。
逆に城の中で仕事をする人間は、いったん中に入るとしばらく外には出られないらしいけど、そのことを知っていても、この勝ち抜き戦を目指す人が後を絶たないらしい、とそういうことをゴードンから聞いていたけど、この城に通いで仕事をしている人はいないのだろうか。
私はケルトンに子供として抱きしめてもらいなさい、と今度は逆の立場で説明したが、シンシア様の気持ちを考えると、ゴードンが話したように『夜も眠れないくらいに心配したと思うぞ』というこの言葉が、私の胸を深く突き刺した。
日頃から会って話す時間がなくても、マーリストン様はシンシア様の子供であり、私たちが洞窟にいた間に彼が何も話さないから、彼の家族の事を少ししか考えていなかったことが悔やまれて、直接お会いして話しをしてみて、今までの彼女の心情を思うと自分の心が痛んだ。
私は今までケルトンの立場だけを優先し、周りの人たちの心の叫びを少ししか考えてなく、それでルーシーに彼のことを話す気になり、彼女を信じてケルトンのことを話すつもりだが、秘密にすることを理解してくれると思い、これ以上の人間に話すつもりはない。
☆ ★ ☆
今日は早めに市場を見学に行くと話して馬車乗り場に戻り、しばらく荷台の上で体育座りをしてソーシャルと話していると、馬が二頭近づいてきたと話したので右側を向くと、二人の女性が別々の馬に乗っていたから彼女たちだと思い、私は荷台からいったん立ちあがって目立つようにしてから、馬車から降りて何気なく車輪を点検するような体勢で彼女たちをまた見たると、彼女たちも気づいて馬から降りて座ってくれたので、さり気なく地面を触って話しかけた。
『ルーシー、聞こえますか。私はリリアです。合い言葉はカーラよ』
『ほんとうに聞こえています。私はルーシーです。なぜカーラのことを知っているの?』
『地面を触っているから聞こえているのね。私は樹を触ってカーラと話しができました。私がなぜカーラと話しができるのかは次回に説明するからね。あまり時間がないから私の話しを聞いてください。私がカーラと話してあなたのことを知ったから、私はシンシア様に少し話しました。なぜ私がシンシア様を知っているかも次回に説明させてね』
私の視線は木で作られた馬車の車輪を撫で回すように向けて、そう説明する。
『……分かりました』
『あなたはとても驚いたと思うけど、王子様はほんとうに生きているから安心してね。そのことをあなたに話したかったのよ。シンシア様もそのことを知っているから安心してね』
『えっ、ほんとうに王子様は生きているのですか』
彼女の言葉の響きはとても驚いているように聞こえる。
『マーシーには王子様のことは話さないで、私たちが話せることも説明できないと思うからね。ルーシーが口から話すことが苦手たということも知っています。でも……あなたはカーラと話せるからよかったね。私にもあなたの心の言葉が聞こえると思い、私がシンシア様にお願いしたのよ。彼女は私のことは知っているから安心してね。知らなければあなたと会えなかったでしょう。今度からあなたの言葉をシンシア様はよく聞くと話してくれた』
彼女の気持ちも考えずに、私は一方的にそう説明する。
『シンシア様が……ほんとうですか。でも……私は口から言葉が出ません』
『一言ずつゆっくり話せばいいと思います。マーシーと練習してみれば? ゆっくりでいいのよ。そのことを今まで練習したことがないのでは?』
『したことがないです。いつもその場で話していました』と、彼女がそう言ったから、
『マーシーはあなたのことを知っているから、ゆっくり話しても聞いてくれると思います。そのことを私がシンシア様に話すから、マーシーに伝えてもらいます』
『……ありがとうございます』
『ルーシーは心の言葉でこんなにお話しができるのに、カーラがあなたと話しができることを喜んでいました。でもね、お互いに内緒にしていると言われたから、私のことは話さないでと言いました。あなたとお話しができることが分かったから、カーラにも私のことを話してもいいですよ。私のことを説明してくれるかもね。その方が早いかもしれない。でも……王子様のことをカーラにもマーシーにも話さないでよ。私が王子様を守っているからね。その意味が理解できるでしょう? シンシア様の哀しみを理解しているでしょう? 二度と繰り返してはいけないのよ。そのことを約束してほしいです』
『はい。分かりました。約束します』
『ありがとうございます。私は信じていますよ』 と、私は強調して言ったつもりだ。
『はい、話さないと約束します』と、彼女の声の響きは力強く聞こえる。
『今日はあまり時間がない。またシンシア様にお願いするからね。こういう格好を二人でしていると変だしね。私が思うには、お互いに同じ物を触っていれば話せると思う。それで座って地面を触ってもらったのよ。あなたもその意味を理解できるでしょう。どうしてカーラと話しができるようになったのか分からないけど、樹に触っているでしょう?』
私にもその意味か分からないけど、触媒のような物が間接的に存在すれば話しが通じると思っていたからだ。
『はい、触っています。私が樹の根元で少し休憩をしたときに突然声がして、お互いに話すようになりました。私から無意識に話したからだと思います』
彼女がそう言ったから、最初はそういうことから始まったのだと納得する。
『何であれ話しができて嬉しかったでしょう?』
『はい。自分のことが伝えられて、とても嬉しかったです』
『声に出せたらもっと嬉しくて楽しくなるよ。そのことも話そうと思ったのよ。今度は何か別の方法を考えておくからね。ゆっくり話す練習をしてね』
『はい、ありがとうございます』
『また今度ね。必ず内緒でお願いしますよ。それからシンシア様に『明日』と伝えてください。それだけで意味が理解できると思うからね。よろしくお願いします』
『はい、必ず伝えて守ります。シンシア様の哀しんでいる姿は見たくないです』
私はルーシーと話しができたので、地面を触ったことが引き金になっていると思われ、割合近くだからよかったのかもしれないけど、何か共通の物を触れば話せるのだ、と実感して馬車の荷台に戻りまた座り込んで、何気なく彼女たち方に視線を走らせると、彼女たちは馬に乗って西の門へ向かっていた。
少し離れていたからルーシーの顔を私はしっかり見られずにいたが、このまま一気にマークの樹まで歩いて行き、西の屋敷の奧の樹にカーラと名付けたことと、三日後にリズに会いに行くことを伝えると、彼はまた風の音を届けられると喜んでいた。
☆ ★ ☆ (52)
「シンシア様、マーシーとルーシーが戻ってきました」と、パーレットはそう言う。
「分かりました。こっちに入ってもらって」
そう言った彼女は奥の部屋にいたのだ。
「かしこまりました」と、パーレットは返事をしている。
「遅くなりました。お屋敷の方に赤い実を届けて来ました。久しぶりにお二人とお話しをして、シンシア様がお元気になられたと話してきました」
「ありがとう。ご苦労さまでした。二人とも変わりありませんでしたか?」
「はい。お元気そうでした」
「それはよかった。最近は自分の屋敷には戻ってないから行ってみたいわね」
「私たちがそばにいますので、王様に許可していただいて行かれたらどうですか」
「今度気晴らしに行ってみようかしら? そのことを二人に言われたのでしょう?」
「はい。内緒にしてほしいと言われました」
マーシーがしれっとそう言うと、シンシア様の顔付きがにやりと笑ったようである。
「あした……」と、ルーシーは突然そう言う。
「えっ、ルーシー、何が明日なの?」と、マーシーがそう言うと、
「分かりました。今度からルーシーの話しをよく聞くことにしたからね。マーシーもルーシーの言葉をたくさん聞くようにしてね」
シンシア様が二人の顔を交互に見ながらそう言うと、
「私は……今朝のシンシア様の話しの意味が理解できませんでした」
マーシーがそう言うと、
「ルーシーには理解できたのよ。ルーシーと彼女の不思議なのね」
「ひみつ……」
「えっ、ルーシー、何が秘密なの?」
「ルーシーは自分のことを言葉に伝えられないから、色んなことを見たり聞いたりしても今まではすべてが秘密で内緒だったのよね。そうでしょう?」
「はい」
「私はルーシーの閃きを信じているからね。マーシーもそう思っているのでしょう? 昨日の話しはしっかり頼んだわよ」
「分かりました」
マーシーがそう言うと、『はい』とルーシーが口から返事をしたのだ。
「私もまた会って話しがしたいから、その機会を作るから楽しみにしていてね」
「はい」
ルーシーはそう言ってにこやかな笑みを作り、頭を下にさげている。
「後からまた体を動かしたいから庭で相手をお願いできるかしら? その時に呼びに行かせるからお願いね。今日は二人で訓練に行くのでしょう? 少しずつ部屋で体を動かしているから……二人に心配をかけたわね」
「はい、お待ちしています」
「はい」と、ルーシーはにこやかに返事をしている。
「ルーシーの笑顔も素敵ね。彼女と色んな話しができたのね」
「はい!」 と、ルーシーの顔は喜色満面で返事をしている。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
ゴードンの仕事は竹細工販売から、自分で作るようになりました。
そこを強調して、お台所事情を考えました。
でも、その前の仕事もあったけど、それがポイントかな?




