29=〈竹の笛〉・〈証拠の短剣〉
☆ ★ ☆ (49)
今朝はホーリーの食事の連絡までぐっすり寝ていたけど、食事中にシンシア様と会うことができたと話したが、内容までは詳しく話さずに、二人には別々に話した方がいいと思い、自分の部屋に戻りケルトンと話しをする。
「昨日はシンシア様に会ってケルトンにいただき物をしたのね。赤い実のお返しにこの竹の笛をもらってきたのよ。ケルトンは覚えているの?」
私はそう言いながら、リュックから取りだして渡す。
「はい、覚えていいます。俺の布団の横にあるかごの中に竹の笛が入っていますよ。捨てようかと思ったけど捨てきれませんでした」
彼はそう言って、右手で受け取った笛を見ているようだ。彼の持っている笛とは似てないとは思うけど、何か思い出しているのだろうか。
「だから『ミーバ』からそれを取りだして、今まで色んな物を取りだして生きてきましたと説明したのよ。このことは事実だからね。私のことを信じてもらいたいから、バルソンとは説明の仕方を変えたのよ。男と女では考えかたが違うと思うからね。シンシア様にはどうやって生活をしていたかをお話ししなくてはね」
私がそう説明すると、
「俺が会ったときに少し話します。そうしたら信じてくれますよ」
「そうよね。聞かれても答えようがない。でも『ミーバ』のお陰で私たちは生きて来られたのだから、命より二番目に大事な物よね」
またそう説明すると、頷くように首を立てに振ってくれる。
「……ほんとうですね。リリアが色んな物を出してくれたから」
「ほんとうにそうよね。それからこの指輪を見て、お母様から譲り受けたと言われました。これをケルトンに渡すから大事にしてね。この紐は私が出したけど、金貨と同じ材料で作られていると思ってね。首から提げておきなさい。何かあればこの指輪を握りしめれば心が落ち着くと思うからね」
私はほんとうにそう思い手渡す。
「はい。ありがとうございます」
「助けたお礼に私ももらったのよ。これは買った物だと話されたけど、私はもうぶら下げているから見て、この指輪よ。この薄い緑色が素敵ね。ケルトンのは濃い色ね」
私はそう言いながら、胸元のネックレスを引っ張り出して見せる。
「同じ紐ですね」
「そうよ。これは水に濡れても切れないから丈夫なのよ」
「この指輪と紐を一緒に握りしめれば、二人が俺を守ってくれるのですね」
彼がそう言って右手で指輪の部分を握りしめると、ゴールドのチェーンは下に垂れている。
「素敵な言葉ね。ありがとう」と、私はそう言ってしまう。
「今の俺にとっては……二人は同じ存在ですよ」
彼が手を開いてこの指輪を見ながらそう言ってくれるから、私は何だか嬉しく感じてしまう。
「……ありがとうございます。これがいちばん大事な物だと思うけど、ケルトンがいなくなってから彼女の気持ちを慰めるために、王様から彼女に渡された物だそう思うよ。この『短剣』は王様と会うときに見せなさいと言われたから、これは……王様がマーリストン様と理解することができる大事な証拠になるのね。その日が来るまで私が預かっておくからね。彼女にも許可を取ってあるから自分で中身を確認して」
私がそう説明してから木箱を出して渡す。彼はその木箱を開けると、私も暗くてはっきりとは見ていないが、それは白い布の中に収まっていた。
持ち手の部分が五センチほどで、刃渡りが十センチほどの短剣であり、なめし革のような物が持ち手の部分に巻いてあり、薄い緑色と薄い茶色の紐が交互に巻いてあり、持ち手の先端に小さな紫色の紐が付けられて、皮でできたケースの先端は彫金されたような金属で覆われ、上の方にも彫金された金属で周りが囲まれて、その部分の裏と表には、絵柄の違う蝶のようなデザインが施されていた。
彼が鞘を外すと先端は尖っているが、片面だけが切れるような作りで、どちらかと言えば、実用的ではなく鑑賞するタイプだと思う。彼は柄の部分を右手で握りしめて何か考えているようだ。視線のすべてがこの短剣に向けられているようだ。今度は左手に持ち替えて、鞘をはめたり抜いたりとしている。私はその様子をしばらく見ていた。
「素敵な短剣ね。大事に預かっておくからね」
「はい。よろしくお願いします」
彼はそう言って木箱の中に収め、白い布を被せてふたをして、私に渡してくれたから、その時までは私が必ず守り通すと心の中で誓い、『ミーバ』と一緒に肌身離さず身につけいるつもりだ。
「シンシア様が剣の勝ち抜き戦があって十六歳以上と話したけど、ケルトンが十六歳になると二人で出てみようね。それまでは体力作りと練習に励もうね」
「はい。俺も出たいと思っていました。王様とシンシア様と一緒に見ていましたよ。俺も強くなりたいと思っていたから楽しみです」
彼がそう言ったから、自分の意思表示ができるのだと改めて思い、いつも私の言葉を聞いているばかりだし、城の話しはほとんどしなかった。
今まで話さないようにと言われていたのだろうな。今度から城の話しも聞きたいな。彼も話したいのかな。私が言葉をかけると話してくれるのかな?
「ケルトンは十歳だと言ったけど、もう十一歳になっていたのね。ケルトンがいなかったから彼女のそばの人たちとお祝いしたそうよ」
「そうですね。俺はすっかり忘れていました。俺がいなかった間に生まれた日が来たのですね。この指輪と紐はお祝いの品だと思って大事にします」
彼がそう言ったから、誕生日のプレゼントみたいに祝いの品を今までもらっていたのだと思うけど、来年は私も何かプレゼントしようと思う。
「ありがとう。私の誕生の日はいつだか覚えてないけど、ケルトンと出会った日にする。六月一日にいなくなったと彼女が言ったから、出会ったのは次の日だと思うけど一日の日にするね。ケルトンは十月の一日だってね」
「はい。同じ日にちでいいですね。リリアは何歳なのですか」
彼からそう尋ねられたけど、私の歳が気になっているのだろうか。
「覚えてないからそのことを彼女に話すとね、十八歳にしなさいと言われたのよ。だからそうすることにしたのよ。自分の思い出しすと……二つの誕生の日と二つの歳があるようで不思議ね」
「リリアは不思議だらけですね」
彼はそう言って、少し口元を緩めて笑ってくれる。
「ケルトンは理解してくれているとは思うけど、私はこの時代には生まれてないような気がするのよ。ほかの人には言えないでしょう? でも……彼女には少し話したからね。私を信じてもらわなくてはいけないのよ。バルソンには何も話してない。でも剣の存在だけ見せた。この時代では剣の存在がいちばん大事だと思ったからね」
私が二人に話した経緯をそう説明すると、
「俺がリリアのことを信じているから大丈夫です。俺が城に戻れたら、今度は俺がリリアを助けますから心配しないでください」
彼がそう言ってくれたけど、この事実をどれほどの現実のものとして、彼が理解しているのか分からない。
「王子様は頼もしいのね。城に戻れると私を守ってくださいね」
私はそう言ったけど、この私も一緒に城の中に入れるのだろうか。
「はい。彼女の庭も見せたいから約束します」
「ありがとうございます。そうだ、言うのを忘れていた。ソードに乗ることができると最後に彼女に見せたのよ。でもね、ケルトンは自分のには乗れないと言ったのね。大人になれば乗れるようになるかもしれないと話したけど、そのことも覚えておいてね」
「はい。分かりました」
「だってさ、どうやってここまで来られたかを聞かれると困るでしょう。隠すことばかりでは済まされないことよ。ケルトンはすべてを知っていると話したからね」
と、私がそう強調して話すと、
「そうですね。俺もそう思います。彼女は驚きましたよね」
「度肝を抜かれて凍りついたと言われた。この意味が分かる?」
「えっ、あまりよく分かりません」
と、彼が小首を傾げながらそう言ったから、
「もの凄く驚いた表現の言葉です。いつも冷静な彼女でもとても驚いたのよ。立場的に冷静でなくてはいけないとは思うけど、私にこういう言葉を使ったから、彼女のことが一段と身近に感じられるようになっのよね。普通は隠すでしょう?」と、私が優しく諭すようにそう言うと、
「やはり驚きましたよね。バルソンは剣を見て何と言ったのですか」
「彼は信じられないと言ったけど、それ以外の言葉はないとも言いました」
「バルソンの方が冷静なのですか」
彼がそう質問したので、いつも自分に言われていることを確認しているのだろうか。それともどちらが冷静なのかと聞きたかったのだろうか。私はバルソンの方が少し冷静だと思うのだ。
「そうは思わないけど驚いたことには間違いないわね。立って見ていたけど座り込んだからね。でもね、彼は割りと早く立ち直ったみたいなのよ。日頃の行いがいいのでしょうね。ケルトンもこうならなくてはいけないわね。日頃の気持ちの持ち方ね。考え方といってもいいと思うけどね」
「分かりました。バルソンの言葉は正しいのですね」
「そうよ。ケルトンが偉大な王様になるための心得を教えたのね」
「難しい言葉ですね」
「色んな場面での判断力や考え方や、気持ちの持ち方を教えていたと思うよ。素晴らしいことです。私が今からそのことを教えることができるのかしらね?」
そう言ったけど、普通の子供だと教えられそうな気がするけど、ケルトンの場合は特別な存在なので、大きくなれば自分で考えられるようになるのかしら?
「ここは城とは違うから、俺はここのことを教えてもらった方がいいです」
「城のことはバミスに聞いてね。ここのことはゴードンに聞くといいから、私の教えることはなさそうだね。でも……二人で学ぶことはたくさんあると思う。剣も一緒ね。彼女が最初は安定感を身につけることが大事だから、励むように伝えてほしいと言ったのよ」
「分かりました。彼女はいつもそばにいないけど、俺のそばにはリリアがいるから嬉しいです」
彼がそう言った言葉を聞くと、彼女のそばにいつもいたかったのだろうな、と思いつつも、彼の立場が邪魔していると思い、フォローする言葉がないようなー。
これは悲しい生い立ちだと思い、彼のそばにいて色んなことを一緒に学ぼうと思いながらも、私の仕事はケルトンのそばにいることだと実感して、彼に『心の安らぎ』を与えようと考えたのだ。
☆ ★ ☆
私はゴードンにもシンシア様に会ったことを話し、彼女から金貨を十枚預かってきたと彼に渡したが、彼は何も言わずに受け取ってくれ、すでに私たちは彼にお世話になっているので、シンシア様の名前を使わせてもらって悪いと思うけど、これで私の気持ちも少し落ち着く。
私はゴードンに明日の夜に二人で会いに行くと説明すると、赤い実が少なくなっているから採りに行きたいと言われ、次の朝は早起きできないと思い、その次の日の早朝から行くことにした。
行程の半分ほど行けば人に見つからずに、明るくても森の中を移動できるそうで、森の中に馬車を隠してゴードンが留守番をして、私たちがソードでそこまで運ぶことにすれば赤い実がたくさん運べるし、その方が馬の負担にもならないと話しがまとまった。
ケルトンのソードは小さいけど二人乗れると言われている。最後は二人で一緒に出かけて私が留守番だ。ケルトンをひとりでそこに残すことはできない。ゴードンもリズと直接話しをすることができるし、そのことをマークに風の音で知らせてもらおうと思った。
私はケルトンの後からゴードンと話し込んで、鐘の音が聞こえたから私たちは慌てて出かけ、馬車の荷台にケルトンが座り、私はゴードンと話しの続きをしながら進んだ。
ルーシーのことをゴードンにも話して、馬車のそばには寄れないから、地面を二人で触れば話しができるかもしれないと話し、共通の物を触っていると確実に話せそうな気がする。お互いに離れてやってみなければ分からないことも説明をした。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
子供時代からの思いでの品は、今の私には何も残ってない。
私の娘もずっと使った、上部にガラス戸の付いた『ライティングデスク』は、
本箱と机として、40年以上も経った今でも顕在している (笑)




