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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第一章 『色んな人との出会い』
25/165

25=『リリアとシンシア様』 (1)

やや長文です。

     ☆ ★ ☆ (45)


 昨夜は見つけられなかったので、私は夜中にシンシア様の部屋をもう一度探しに行き、ついに庭を見つける。


『ソーシャル、庭があったからここだと思うけど、どうやって中に入ろうか』

『この時代に窓はないと思います。リリアの部屋には明かり取りの窓があるから同じ物があると思います。上の方でそれを探してください』

『分かった。ライトあるから光が分散しないように手で隠すね』


 私はそう言ってから、ソーシャルに壁と平行にしてもらい、屋根のひさしの下の方を集中してつなぎ目を探すと見つける。よく調べると、二メートルほど長さで、縦が五十センチほどの大きさであり、その明かり取りの下の中心部分にナイフを差し込んで、右足で踏ん張って手で持ち上げると、少し重たかいが何とか外側にこじ開ける。


 ソードを先に入れるよりも、私の上半身をその中に突っ込んで両手で持ち上げ、私の言葉で誘導してソードの先端を中にして入れてもらい、何とか足の方まで中に入ることができる。今度からつっかえ棒を持参し斜めに入った方がよさそうで、中から外に押すようになっているのだろう。


 私は天井すれすれに留まってよく見回すと、大きなテーブルの上に灯心が置いてありうっすらと明るく、この部屋には誰もいないようで、ソーシャルも人の気配はないと言う。左奥にドアがあり、下に降りてソードを消し、二度触れ合わせて話せる状態にする間も、私の心臓はドキドキしている。


 その引き戸をそっと、そっと静かに私が通れるほどの広さに開け、中を見ると衝立みたいのがあり中は見えないので、そろりと左側に移動して中を見ると、部屋の中はほんのり明るくて、奥の左側の小さい台の上に同じような灯心がある。


『リリア、一番奥を見て、少し寝息が聞こえるから』

 ソーシャルがそう言ったので一番奥に視線を向けると、そこには黒っぽい垂れ幕がかかっている。


 蚊屋がベッドを囲っているみたいだ。さっきから暗闇でしっかり見ようとしているので、その明るさに目が少し慣れて、前より見えるようになる。


 そっと近づくと、そこに寝ている人は庭の方を頭にしている。足元から蚊屋をたくって中には入ると、この蚊屋とベッドの左右はゆとりがあり、そばで顔をよく見ると彼女が眠っている。よかった。


「シンシア様、リリアです。シンシア様、リリアです」

 私は腰をかがめて、枕元で彼女に小声でそう言いながら、布団の上から少し彼女を揺り動かす。


「えっ?」


「リリアです。布を買った店で会ったリリアです」


「えっ、リリア?」


「はい。このような遅くに申しわけありません」


「えっ……私は夢を見ているの?」と、彼女の顔は真上に向いてそう言ったから、

「現実です。夢ではありません。私はリリアです」


「えっ、私に会いに来たの?」

 彼女はそう言って、声の聞こえた私の方に首を動かしたのを見ると、彼女は目をしっかり開けているようだ。


「……はい」


「……ちょっと意味が分からなかった。目が覚めた」

 彼女はそう言って上体を起こして、立っている私の姿をしっかり捕らえたようだ。


「起こしてしまい申しわけありません」

「……こういう場所であなたに会うとは……この蚊屋の中には誰も入って来られないのよ」

「……知りませんでした。申しわけありません」

「……外から来たの?」

「はい」

「……こういう時間だと外は寒かったでしょう」

「寒かったです」


「……この布団の中に入りなさい。暖かいからね」

「えっ、このままで……ですか」

「いいわよ、そのままで」

「えっ、そのようなことはできません」

「この中には誰も入れないから、隠れるには最高の場所なのよ」

「えっ……でも」

「いいから入りなさい……命令します」

 彼女は小声でも強調して言ったのでビックリして、

「はい。失礼します」


 私はとっさにそう言って、靴を脱いで昨日と同じ上着も素早く脱いで中に入る。私は声をかける前に、寒さ対策のダウンコートは足元に置いていたが、こういう状況になるとは考えてもなかった。


 私たちは布団の中で、彼女は枕と呼ばれる物を背中に置いて、彼女は上着のガウンみたいな物が布団の上に広げてあるのを手にしては羽織る。


 私はベッドの上から左手を伸ばし、黒のダウンコートを素早く取ってから肩からかけるようにして、隣通しで座った状態で、二人の距離は三十センチほど隙間があり座っているようだ。


「どう、暖かいでしょう?」

 彼女はそう言いながら上体を私の方に向けて、左手で私の右腕を触った。


「……はい。暖かいです」

「体が冷えているわね。私は完全に目覚めたわよ」


「……早く……お話しがしたくて来ました」

 私はそう言ったけど、私の羽織っている黒いダウンには意識がいってないようだ。よかった。


「どうしてここに来たかを聞く前に、マーリストン様を助けていただきありがとうございました。感謝以外の言葉はありません」

 彼女はこちらに向いたままで、最初にこの言葉を使ってくれる。


「いえ、ここに来た理由は後で話します。彼にもゴードンにも偶然に出会いました」

 私も彼女の方に上体だけ少し斜めに向け視線は彼女の顔を見ている。


「出会った状況が偶然でも、彼を助けたことに変わりはないのよ」

 そう言った彼女の言葉の響きは先ほどの雰囲気とは違い、しっかりとした口調で迷いがないような気がする。


「……ここでお話しをしてもよろしいのですか」

「あなたには失礼かもしれないけど……女同士でいいじゃないの? 外は冷えているからね」


「……はい。ありがとうございます。私も暖かくて助かります」

「今朝バルソンがここに来て、あなたの話しは半分しか理解できないと言ったのよ。私も今からあなたの話しを聞けばそういう状況になるのでしょうね」


 そう話した彼女の言葉を聞いて、私が逆の立場であれば焦ってしまうのに、とか思うが彼女は何ごとにも場慣れしているのか、バルソンの話しが浸透しているのか、案外落ち着いているようだ。


「シンシア様にはもう少し深くて、現実的なお話しをしようと思いました」

「それでは……もっと分からない話しになるのね?」

「話してみないことには……その前に、ここに赤い実を二つ持ってきました。彼が馬車の荷台から選んでくれました。受け取ってください」

 私は布団の上に置いたリュックから取りだす。


「マーリストン様からなの? ありがとう」

 彼女は赤い実を一つずつ手に持ち、少しの間眺めている。


「……これはここに置きましょう。これが朝ここにあれば、あなたと話したことが夢ではないと証明してくれますね」

 彼女はそう言って、私の頭の後ろにある台の上に置いたようだ。


「……はい。私の話しを先に聞いてもらえますか」


「……分かりました。私に理解できるかしら?」


「……それは……分かりません。今の私たちはゴードンの孫ですが、ゴードンの屋敷には長く住めないと思います。暖かくなればどこかへ移動しなくていけません。だから私は考えました。この城から朝一番に馬で移動して夕方には着きそうな離れた場所に、小さな屋敷を見つけてそこに移り住もうと思います。この考えはどう思われますか」


 私はゴードンの屋敷にはずっといられないと思い、これから先のことを考えて近くではない方がいいと思いつつも、あまり遠くては不便だと思いそう説明する。


「確かに孫と言え長くは住めませんね。そういう先のことまで考えているの?」

「はい。その屋敷も直ぐには見つからないと思います。今から早めに探した方がいいと思います。シンシア様はどのようにお考えですか」


 私がここのことを知っているのなら、すぐ見つけられそうだけど、何をするにもあまりにも知らないし、早めに行動を起こした方がいいと思いそう説明する。


「彼のためにはいい話しですね。屋敷の費用は私が用意しましょう」


「……分かりました。ありがとうございます。それ以外は私が用意します。彼にもそのことを伝えます。バミスは少し暖かくなり移動をしてから、剣の先生としてお願いした方がいいと思います。バミスがしばらく身を隠す話しはお聞きになりましたか」

 私がバミスから聞いた情報を彼女にそう伝える。


「バルソンに聞きました。近いうちにバミスが私に会いに来るから、お互いに話しの流れを考えてあると言われたのよ」

「分かりました。その間にバミスに屋敷を探してもらってよろしいですか」


 この話しはまだバルソンとバミスには話してないけど、私がすぐ動けるわけでもないので、バミスに探してもらいたいと思うのだ。


「その方がいいわね。直ぐには見つからないだろうからね。もし早く見つかれれば、バミスはそこに住んでもらった方がいいでしょう。屋敷近辺の情報を前もって知っていれば、あなたたちが移動すれば住みやすくなると思います。バルソンが連れてきたときに私が説明しましょう」

「はい。私もそう思います。よろしくお願いします」


「……リリアの考えは素晴らしいわね。私に屋敷の費用を出させてくれてありがとう」

「いえ、シンシア様の立場を考えました。こちらこそありがとうございます」

 私が全部費用を出しては、彼女が不愉快な思いをするかもしれないし、ケルトンは彼女の子供だから生活費とか言われても、その金額が私には理解できないので、彼女に言われる前に先手を打つ。


「リリアがどうして私のことが分かったかをバルソンに聞いてほしいとお願いしたけど、もうそのことはどうでもいいですね。マーリストン様もリリアもすでに私の目の前に存在しています。私はバルソンの話しを聞いてそう考えました。リリアに彼の将来を託そうと思います」

 彼女がはっきりとそう言ったから、意外な展開になったと思う。


「そう言っていただきありがとうございます。二人で成長していきたいです」

「リリアの話しにバルソンも悩んだみたいね。私にもその剣を見せてくれない?」

 彼女からそう言われけど、すぐ見せればバルソンみたいに驚かせてしまうので、帰り際に見せた方がいい。


「……はい。帰るときにお見せします。約束します」

「そう……ありがとう。リリアも剣が使えるの?」

「えっ、分かりません」

「どういうことなの? バルソンは使えると言っていたわよ」

「覚えてないです。今からそのことを話しますが、バルソン様には話してないことです。内緒でお願いします。この話しは理解できないかもしれません」


「……分かりました。バルソンには話さないと約束しましょう」

 私は前置きみたいな言葉を使ってしまったが、シンシア様はそう言ってくれる。


「私がゴードンの屋敷の自分の部屋で眠ったとします。朝目覚めるとこの布団の中にいました。シンシア様はどう思いますか」

「えっ、意味が分からないわよ」

「では……シンシア様がこの布団の中で眠っていたのに、朝目覚めるとゴードンの屋敷にある私の布団の中で目覚めることは……どう思いますか」

「考えられない話しだけど……それは驚くわね」


 彼女は考えられない話しだと言ったから、私もまったくそうだと思うけど、例える言葉の表現が難しく、どうしたらよいものかと悩んだ末にそう説明している。


「私はその考えられない状態で……私が突然目覚めると南の森ににいました。それからすぐ彼と出会い、何かを考える状態ではなく彼を助けました」


 私は彼女に謎めいた言葉で例えを説明し、今度はその事実を話したつもりだけど、彼女は理解できるのだろうか。


「私もバルソンと同じで意味が分からないわね」


「……そうですよね。私も自分で意味が理解できないし説明できないのです。でも……彼と出会ったので二人で生きていかなくては……その意味は理解できますか」


 私がこの時代に来た理由は理解してもらえなかったけど、二人で生活して生きて来られた現実感であれば、女性である彼女はその意味が理解できると思いそう話す。


「彼と出会った後でも二人は生きていたからね。その意味は理解できるわよ」

「そうなのです。二人で洞窟の中で生活していました。だから……彼はすべてを知っているのです。その意味は理解していただけますか」


「……そうよね。その意味は分かります。でもどうやって暮らしていたかが分からないわね」

 彼女は衣食住に食いついてきたので、この話しの説明は難しいけど、何か例えで説明しなくてはいけないと思う。


「そのことも彼は知っています。お話しできなくて申しわけありません」

「私がその内容を聞いても理解できないのでしょうね」


 彼女がそう言ってくれたから、確かに理解できないと思うけど、少しでもその意味が理解できるような話しを彼女にしなくてはいけないと思う。


「……そうだと思います。今からそのことを少しだけ説明します。私は彼から赤い実を預かってきました。シンシア様は彼に何かお返しを考えていただけますか」


「……そうね。お返しを考えなくてはね」

 彼女は私の話しを冷静に聞いてくれているようで、会話としても反応はいいので助かる。


「その前に、小さいころにいつも持っていたり使っていたりした物はありますすか。もし何かあればその言葉を教えてください」

「えっ、その言葉でいいの?」 

「はい。小さな物でお願いします」


 私がそう言うと、彼女は考えているみたいで、私はその言葉を聞いくと『ミーバ』から取りだして彼女に見せようと思う。彼女は五歳から彼と会う機会が制限されていたので、彼から聞いていたのでしばらく待っていた。


     ☆ ★ ☆


「そう言えばうるさいくらいに竹の笛を鳴らしていました。怒ったこともあったわね」

 彼女が竹の笛と言ったから、これくらいだと『ミーバ』から取り出せそうだと思う。


「分かりました。竹の笛ですね」

 私は『ミーバ』に小さなシンプルな竹の笛をお願いし、それを袋の中から取りだす。


「……見てください。このような竹の笛でよろしいでしょうか」


 私はそう言ってから、直径が二センチほどで長さが十五センチほどの穴が三つあいている、昔ながらにあるような竹の笛を彼女に手渡す。彼女の視線はこの竹の笛に向けられて、しばらくの間見つめていたけど、当時の様子を回想しているのだろうか。それとも今までの私の言動を考えているのだろうか。


「……なぜ……竹の笛がその袋の中に入っていたの?」

 彼女がそう尋ねたから、その不思議を今から説明することにする。


「私はこうやって色んな物をこの袋の中から出して、彼と二人で洞窟の中で生活していました。そのことを理解していただこうと思い、竹の笛を取り出しました」

「えっ、信じられない。食べる物とか着る物を……そこから……出していたの?」

 彼女は何を考えてその言葉を使ったのか分からないけど、すばり、私がいまから話そうと思っている言葉である。


「全部ではありません。周りに石を置いて火も使って料理もしていました」


「……バルソンと同じね。このことは聞かったことにして……考えないことにする」

 彼女から私の言動を拒否されてしまったけど、ほんとうに考えない方がいいですよ、とか言えないし、彼女が頭の中で考えていることは分からない。


「分かりました。私は説明がうまくできないので、この行為は忘れてください」

 私がそう言うと『信じられない』と彼女はぼそっと呟く。


 彼女は考えないと言いながらも、現実に竹の笛が出てきた理由をしっかりと捉えているようで、その言葉が飛び出したのだ、と考えてしまう。


「この竹の笛は彼に渡してもよろしいですか」

 ケルトンに説明すれば、彼はその意味が理解できそうでそう言ったけど、覚えているのだろうか。


「彼が竹の笛のことを覚えてればいいけどね」

 彼女がそう言ったから、当時と同じ物ではないだろうけど、当時の竹の笛は二人にとっては意味深い物だろうと察しがつく。


「……彼が何か大事にしている物とかあるのですか。あれば渡してあげたいです」

 私は彼のことを思い、体一つでこの城を飛び出したような状態であることを思いそう尋ねて、先にケルトンに聞いておけばよかったと思ってしまう。


「バルソンに聞いてみます。彼とはあまり会って話さなかったからね。彼の部屋にもあまり入ったことがないし、いなくなってからはよけいに入れなかったのよ」


 彼女は彼の部屋があると言ったから、私は彼の部屋のことまで頭が回らなくて、大切にしていた物を渡してあげたい、とそのことしか考えてなかった。


「今も彼の部屋はあるのですか」

「もちろんあるわよ」

「彼がここに戻っても自分の部屋はあるのですね。安心しました」


 私はそう言ったけど、半年間も行方不明な状態で、死んでしまったと思われてもいい時間経過の中、普通あれば撤去されてもおかしくない、彼の部屋が存在していたので嬉しい。


「私がその日まで守っておきます。マーリストン様のことを命をかけて守るとバルソンに話したそうね。私もバルソンもリリアのことは信じます。ありがとうございます」

 彼女からそういう言葉を受け取り、ほんとうに嬉しい。


「こちらこそありがとうございます。バルソン様はシンシア様の命をかけて守るとおっしゃいました。私は彼の言葉に偽りはないと思います」

 私はバルソンが正直に話してくれた言葉を、ここで伝えることができて、何となく肩の荷が降りたような気がする。


「えっ、バルソンがそういうことを言ったの?」

「はい」 と、私はひと言しか返事ができなかった。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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