24=『シンシア様とバルソン』
☆ ★ ☆ (42)
私はバルソンと話し終えて、ソーシャルに彼の屋敷の位置を確認してもらい、バミスに馬車でゴードンの屋敷まで送り返してもらった。
私は部屋に入って聞き耳を立てたが、ケルトンは眠っているようなので、市場で買った上着を上から羽織り、引き戸を開けると音がするので、ソードに乗り部屋の明かり取りの窓をそっと奥に押し、ソーシャルに屋敷の上空に垂直に浮揚してもらう。
『リリア、これ以上は風が強くて上空には行けない』と、ソーシャルにそう言われる。
今夜はとても寒い。今度は寒さ対策もしなくてはいけないと思う。少し厚手の上着を考えなくてはいけないな……『ダウン』という言葉が閃く。
上空から見ると城の中ではたいまつが焚かれているようだ。かがり火として侵入者を防いでいるみたいだ。全体的にうっすら明るい。私は西の門を目指して進んでもらう。
バミスと帰りの馬車の中で話して、シンシア様の部屋の前は庭になっていると聞き出し、そこで話しをしたことがあると言われたから、西の門から左に向かいその庭を探せばいいと思った。
上空のソードの上では、顔にいちばん風が強く当たり寒くて、またいで座っていても前かがみになっていても、私は左右に伸びた短い鍔の部分を両手でしっかりと握り、『手袋』という言葉が閃く。
いつも低空飛行だから、上空に行くと暗いし不安もあり恐怖心も出てきて、精神的な負担になることに気づき、精神的な安定感がなくなり、何かあっても片手しか使えないことが分かり、それにスピードが加えられたことも考慮しなくてはいけない。
ここでは向こうと違った乗り方になる。その練習もしなくてはいけないと思う。低空飛行では自転車のようだが馬に乗るような気もする。それでケルトンは安定感がいいのだろうか。私も馬に乗ったことがあったのだろうか。ケルトンの前か後ろに乗れるのだろうか。
☆ ★ ☆ (43)
バルソンは翌朝一番に、昨夜の話しを彼女に報告に行く。
「シンシア様、バルソン様がお話しがあるといらっしゃいました」
パーレットはそう言う。
「分かりました。庭の方で待っていてもらって、すぐに行くからね」
「かしこまりました」
「二人で話すので、あなたたちは下がっていなさい」
「かしこまりました」 と、彼女のそばの者が下がっていく。
「お待たせしました。こちらに座ってください。こんなに早い時間に来るとは思いませんでした」
「私も用事が立て込んでいまして、申しわけありません」
「忙しいのに悪かったですね。それで理由は聞けましたか」
「何からお話ししていいのか困りますが、彼女の不思議ですか」
「えっ、リリアの不思議とはどういうことなの?」
「それも説明が難いです。どう考えても彼女の話しが半分ほどしか理解できませんでした。彼女の不思議な力と言葉を変えられます」
「……バルソンからそういう言葉を聞くとは信じられない」
「バミスが彼の口から聞いた違う力をお二人ともお持ちのようです」
「えっ、王様とは違う力を手に入れた話しですか」
「はい。リリア様は自分の命をかけて王子様はお守りすると言われました。この言葉は信じていいと思います」
「……半分しか意味が分からなくても、その言葉は信じられるのですか」
「はい。間違いないと思います。彼女がシンシア様にお会いすると話しました」
「えっ、バルソンが連れて来るのですか」
「いえ、ひとりで来るそうです」
「どういうこと? その意味が分からないけど」
「私も意味が分かりません。彼女の不思議な力だと思います。私の意味が理解できたことは、彼は三人の男に連れ去られ、彼らから走って逃げたときにリリア様が彼と出会い隠したということです。そして洞窟で生活していたことです。バミスに出会う前日にゴードン様と出会って彼の孫になり、そして屋敷に住むようになったことです」
「……それが事実だということですか」
「はい。リリア様が王子様を助けたということです。そのことは二人で意味を理解しているらしく、ゴードン様と三人で意味を理解していることもあるそうです。残念ながらすべてを話せないそうです。何をシンシア様にお話しをしていいのか困ります。どう説明していいのか分かりません。一つだけ彼女の不思議を見せてもらいました。自分には信じられないの言葉しか思いつかず、意味が理解できないので説明もできません」
「えっ、バルソンが何か見たの?」
「……私の目の前で、彼女の目の前に突然剣が現れ……彼女は鞘を抜いて構えました。そして……私の目の前で、彼女が後ろを向くとその剣が消えました」
「えっ、バルソンの目の前で剣が現れて消えたのですか」
「……はい。私の目の前ですから間違いありません。彼女も剣が使えるかと思います」
「私の目の前でそんなことが起これば……確かにこの言葉しか思いつかないわね」
「……それで半分しか理解できませんでした。シンシア様からいただいた金貨も渡せませんでした。ここにお返しします。これは彼女からいただいた金貨です。十枚入っていました。これで仲間を作ってほしいそうです。彼にも十枚渡し短剣も持たせたと言われました」
「えっ、どういうことなの?」
「……私も理由は分かりません。今の彼は仲間と金貨と自由、そして剣を手に入れたのです。自分が彼を助ける運命だと理解してくださいと言われ、彼が城に戻ればその金貨を彼のために使いますとも言われました。だから……私はリリア様を信じていいと思います」
「……意味がよく分からないけど、彼女はそういう話しをしたのね。バルソンが彼女を信じているなら私も信じましょう。彼を助ける運命か……それでいつ会いに来ると言ったの?」
「そこまでは聞いていません。申しわけありません。今までにこのような不思議を感じたことはありません。昨夜もずっと考えていましたが……心の余裕が少し欠けていました」
「……バルソンにもそういうことが起こるの? 私は王様がご心配になるから少ししか話してないけど、王子様がいなくなったときには驚きと哀しみが一度に襲ってきて、あんな苦しみを過去に味わったことがありません。二度と味わいたくはないです」
「……私はシンシア様の苦しみを理解するだけで、何もしてあげられず大変心苦しく思っていました。あなたを見ているのが辛かった。彼が生きていてほんとうによかったです。今の私にはその言葉しかありません」
「……私は自分のことしか考えられなくて、バルソンには迷惑をかけましたね」
「いえ、だから危険を承知で会っていただきました。今回のお忍びは前から決まっていたことで、おとといの夜に彼らは屋敷に到着しています。誰が調べても疑われないと思いました。彼らもそのことは十分に承知していると考えました」
「……私もそう思う。彼に会わせてもらい、バルソンには感謝しているのよ」
「ありがとうございます。彼らが来るのがお忍びの日に間に合ってよかったです」
「ほんとうにそうね。私はあそこでの彼女の言葉を聞いてとても驚きました。最初にバルソンといい、後から周りを確認して彼の名前を二回も言ったのよ。彼が生きていることを一刻も早く知らせた方がいいと思ったのでしょうね。私のことが分かったなんて……もうどうでもいいことね。自分のこの目で確認できたから、これも彼女の不思議なのね」
「……はい。そのように考えていただけるとよろしいかと思います」
「分かりました。私も彼女に会って彼の話しを聞きたい。彼女も剣が使えるかどうかも確認してみましょう。私もバルソンの見た剣を見たいわね」
「彼はシンシア様みたいに自分の身は自分で守りたい。今は自由に好きなことができるとお話しされたそうです。少し背が高くなっておられましたね」
「……そうね。私たちに見せるために立ち上がり、片付けの真似などされて立派になりました。私は必ず生きていると信じていました。ほんとうによく見つけ出してくれました。彼女に渡すように頼んだ金貨はバルソンに渡すから、バミスに半分渡して、私はバミスにも感謝しています。そのことも彼に伝え、彼女からの金貨は彼女の言葉通りに使ってください」
「ありがとうございます。私がお役に立てて光栄に思います。バミスは王子様を見つけられなかったという理由で城の仕事を辞退し、単独で王子様を捜す旅に出ることにしました。そして彼に剣を教えることにします」
「……そう。すでにそういう話しにもなったのね」
「はい。近いうちに連れてきますので会っていただけますか。その時にその話しをして私は引き止めます。二人で話しの流れを作りました」
「分かりました。バミスに会いましょう。彼によろしく伝えてください」
「かしこまりました」
☆ ★ ☆ (44)
一方ゴードンの屋敷では、昨日と同じで赤い実を六十個運んですべて売れたので、昼食が終わり三人で話しをしている。
「ケルトン、私は考えたけど、今夜は少し様子を見に行こうと思う。バルソンに西の門から左右のどちらか場所を聞いたけど教えてくれなくて、禁止されていると言われたのよ。でも……バミスに馬車の上で聞くと部屋の前に庭があるそうね。それは間違いないよね」
私はそう言って確認してみたけど、昨日は寒さのせいで早めに切り上げて、シンシア様の部屋を探しきれなかった。
「間違いありません。庭は彼女のお気に入りですよ」
「素敵なお庭なのね。明るいときに見たいわね」
「俺が必ず見せると約束します」
「楽しみにしているからね」
「俺も見たいぞ。親は子供のことがいちばん大切だ。リリア、早く行った方がいいな」
「分かりました」
「俺が二人に必ず見せると約束します」
ケルトンはめずらしく力強くそう言う。
「彼女に会うと、ご心配をおかけしましたと挨拶をした方がいいわね」
「ケルトンが悪いわけじゃないが、夜も眠れないくらいに心配したと思うぞ」
ゴードンもそう言ってくれる。
「私は考えたけど、しっかり彼女を抱きしめてあげなさい。この機会を逃せばもう二度とそういうことはできないと思う。自分でよく考えてね。親は子供のことがいちばん心配なのよ。いくら話しをしなくてもケルトンのことは陰で見ていたと思うからね。バルソンが直接ケルトンのことを話したかどうかは分からないけど、ほかの人に内緒で頼んでケルトンの様子を聞いていたと思うよ。私であればそうするからね。シンシア様も同じだと思うけどね」
「はい。今日はあそこで見ているとバルソンに言われたことがあります」
「直接会えなくてもバルソンがいつも連絡して知っているのよ」
「……はい、俺も分かっています」
「昨日の彼は意味が理解できないと言ったけど、私が彼女に会いに行くことは話したからね。そのことを彼女に伝えると思う。私も直接彼女と話しをしたい。バルソンにはすべてを話してないけど、私のことを信じてもらうために……ソーシャルと相談してあれだけは出して見せたけど、信じられないと言われたのよ。ケルトンも何かするときはトントンとよく相談してね。そのことだけは頼んだわよ。その場の話しの流れもあるでしょう。私もどうしていいのか悩んだのよね」
私は昨夜の話しをそう説明する。
彼にはトントンとたくさん話してほしい。心の中で考えていることは分からない。私はここのことは知らないけど何とか考えられる。向こうの言葉を使ってソーシャルと会話ができるのだ。
「分かりました」
「俺も中身を見たいものだな? 今度見せてくれるか」
「ゴードン、私も初めてで今まで触ったこともありませんでした」
「俺も昨日は初めて馬屋で使ってみました。感じるものがありました」
「ケルトンもなの? 私も感じるものがあったから今話そうと思ったのよ」
「二人とも今まで使ったことはなかったのか」
「はい。剣のことは知らなかったですから、その必要性がなかったと思います」
「……そうか、知らなかったのか」
「はい。ここに来ることになりソーシャルが教えてくれたと思います。向こうにいれば未だに知らなかったと思います。私たちの生活する環境が変わったからだと思います。ケルトン、どんな感じがしたの?」
「はい。何でも切れそうな気がして力強さを感じました」
「私もよ。同じなのね。体にみなぎる力強さを感じたのよね」
普通の剣は使えなくてもこのソードは使いこなすことができそうな気するが、そのことはゴードンには詳しく話せない。私は別人になったような力強いパワーを感じていた。言葉では言い表すことのできないほどのパワーを感じたのだ。バルソンも私の構えを見て何か感じたに違いないと思う。シンシア様もバルソンも剣客なのだ。
☆ ★ ☆
馬屋の中にゴードンからもらった竹を二箇所に埋め込み、足踏み竹と称してケルトンにやり方を教え、ここから新天地に移動するまでに、彼には安定感を身につけてもらいたいと思う。それからバミスに剣を本格的に教えてもらえれば、彼を相手にしても動きが違うような気がした。
私も暇を見つけて体を動かしたいし、この竹を対面にして四箇所埋め込めば、ひとりで二つずつ左右に動き上下で四箇所使うことができる。バミスと一対二でも戦うことができると思い、シンシア様の言葉は今の段階では伝えることができない。
バミスに出会ってバルソンと話しをして、シンシア様のことも少し話しをすることができたので、リズとゴードンに出会ってから、私たちの未来は次の段階に入ったと思い、マークがリズに連絡すれば、彼を指導した人に出会ったことが理解できると思う。
☆ ★ ☆
ケルトンは馬屋でソードの練習をしたいと言ったから一緒ではないけど、トントンに彼のことを頼んでソーシャルに案内してもらい、私とゴードンは彼の屋敷に赤い実を三十個届けに行った。
彼の屋敷はゴードンの屋敷みたいに広そうだ。門構えも外壁の作りも頑丈そうで立派だ。外壁の土台部分が石で作られ二メートルほどの高さだろうか。その上に丸い木を半分に切ったような丸みを帯びた板がずっと並べられ、この門は長さの短いひさしの付いた屋根があり、こちらは平らな板が使われ、この辺りも土台部分の石の高さが違うだけで、外壁はゴードンの屋敷も同じような造りであった。
昨日バミスは裏門から私を中に通したから私たちもそちらへ周り、屋敷の者にはこの実ことを話していたらしく、代金の銀の粒を三つしっかりもらったが、ここで代金をもらわなくては後から調べられると困る。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




