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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第一章 『色んな人との出会い』
23/165

23=〈バルソンの西の屋敷で〉

やや長文です。

     ☆ ★ ☆ (41)


 薄暗くなりバミスが二人乗りのような小さな馬車で迎えにきて、今からバルソン様の屋敷に行くと言われたけど、バミスは馬車の中では何も話さない。


 今はひとりで案内された部屋で待っているが、この部屋は三畳ほどの広さで、真ん中に長方形のテーブルが置かれ、背もたれのある椅子が四脚備わり、部屋の中は向こうのような電気の設備がない。


 テーブルの真ん中に、時代劇に出てくるような灯心を浸した灯りがあり、高さが十五センチほどの太めの竹筒の中心に、鉄なのか金属で灯心を縦に持ち上げているかのような形で灯心が太くて、入り口とは反対側の左右の隅の台の上にも同じように置いてあるけど、その三つで意外に部屋の中は明るい。


     ☆ ★ ☆


「旦那様、お客さまがいらっしゃいました。部屋の方へお通ししました」

「分かった。すぐ行く」


     ☆ ★ ☆


「バルソン様、リリア様をお連れしました」

「バミスは馬車で待っていてくれるか」

「承知しました」

「悪いな、帰りもよろしく頼む」

「かしこまりました」


 外で二人の会話が聞こえて、引き戸が開いてバルソンが中に入ってきて、私の正面の椅子に座る。


「お待たせしました。初めまして、バルソンです。昨日はお騒がせしました」

 彼が椅子に座り先にそう言ったから、

「初めまして、リリアです。赤い実を買ったのも驚きましたが、お二人でいらっしゃるとはもっと驚きました。彼から彼女の話しを聞いて、私なりに納得できたと思います」

 私は彼を正面にしてそう言うと、

「納得していただけましたか。ありがとうございます。私たちは感謝以外の言葉はありません。ほんとうにありがとうございました。最初に自分で彼を確認して、彼女にも会っていただきたいと思いました。自分の目で確認できたと彼女はとても喜んでいました。私たちにとっては信じられないことです」

 彼はそう言いながらも、彼の眼差しは私のことをチェックしているかのごとく、私の瞳の中をまじまじと見ている。


 昨日と今日では顔の作りも雰囲気も違っているような気がして、二重まぶたの彼の目は私好みのであり、昨日は長い剣を持って顔も引き締まっていたと思い、あの顔は仕事をしている顔なのだろうか、と思いながらも彼の顔つきからすると、歳は四十前後のような気がする。


「私の話しを先に聞いてください。私たちは偶然に出会ってしまったのです。そして、成り行きでゴードンの孫になりました。残念ながら今の段階ではその状況を詳しくお話しできません。でも……彼はすべて知っています。二人で知っていることと、ゴードンと三人で知っていることがあることを理解してください。彼はとても礼儀正しくそばで話しを聞いても、自分の立場を彼なりに理解していると実感しました。私たちはもう出会ってしまったので、私はお二人に協力しようと思いました。でも……彼の立場がはっきり分かりません」

 私は彼の城での立ち位置が分からないからそう説明する。


「分かりました。この城には正室の王子様と側室である王子様がいらっしゃいます。側室の彼女は西の屋敷に住んでおられます。少々立場が違います」

 彼がそう説明してくれたから、正室と側室の子供の争いなのか、と向こうの考えでそう思うが、ケルトンの状況が少し分かってホッとする。


「分かりました。どちらかが次の王になるのですね。それで命を狙われたと」

「はっきりとは言えませんが、その可能性が高いと思います。ご理解いただきありがとうございます。今度は私がお聞きしてもよろしいですか」


「……はい。答えられないかもしれませんがよろしいでしょうか」

 私は彼が話し出す前にそう言ってしまう。


「昨日はどうしてシンシア様のことが分かったのですか。そのことを聞いてほしいと頼まれました」


「……申しわけありません。そのこともお話しできません。しかし……彼とゴードンはその意味を理解しています。二人に彼女に会ったことを話しました」


「……なるほど、その理由は二人とも知っているということですね」

 彼は納得したのかどうか分からないけど、私の目から視線を外すこともなく、お互いにずっと見つめ合っている。


「はい。この袋に金貨が十枚入っています。これで彼の仲間を作ってください。よろしくお願いします」

 私はそう言いながら、膝の上に置いたリュックの上に取りだしてあった袋をテーブルの上に置き、彼の正面にずらす。


「私の方が助けていただいたお礼として、差し上げなくてはいけないと思っていました」

「この金貨は彼も意味を理解していますがゴードンは知りません。内緒でお願いします。ゴードンは金貨を持っているから生活には困らないと言いました」

 私はゴードンの話しと屋敷を見て感じた彼の経済力を信じて、バルソンの不安を取り除こうと思い金貨の言葉を伝えるけど、何かの機会に生活費としてゴードンに金貨を渡そうと思っている。


「……私はあなたの話された今の状況が……頭の中で理解できてないようです」

 彼は私にそう言ったけど、身のほど知らずの私に対して卑下することもなく、ずっと言葉遣いがとても丁寧だと思う。


「私が彼を助ける運命だったと理解していただけますか。今の彼は仲間と金貨を手に入れました。彼は三人の男に追われていました。私が彼の言葉を聞いた限りでは、彼を連れだした者たちだと思います。彼らの隙をついて走って逃げたと言いました。私はあなたの教え方がよかったと思います」

 私はずっとケルトンの素行や振る舞いを見て、そうするように言われたのか、自分で考えたのかは分からないけど、もちろん年相応の子供らしさも持ち合わせていたが、彼の教育論が見事だと思っている。


「その三人の男から助けていただいたのですね」

「はい。ここが肝心なことですが、彼を三人の男から隠しました」


「……なるほど、隠した状況を話せないということですね。少し意味が理解できました」

「ありがとうございます」

「そのことは二人とも理解しているということですね」

 彼が追加するようにそう言ったから、

「はい。間違いありません。このことも知っておいてください。ゴードンと出会ったのはバミスに会った前日です。その前まで洞窟で生活をしていました」

「えっ、それなのに彼の孫になり一緒に生活をするようになったのですか」

 バルソンはそう言ったけど、今までと少し違い少し目を見開き驚いているようだ。


「はい。その意味も彼は知っています」

「ますます不思議です。ますます私には意味が理解できません」

 彼がそう言ったから、私はその状況を詳しく話せないことに苛立ちを感じつつ、どう説明していいのか困ってしまう。


「申し訳ありません。私たちもその不思議という言葉を使っています。彼と私が出会ったこと自体が不思議なのです。私たちがゴードンに出会ったこともです。私自身では偶然と表現することもできます。彼が城に戻れるとその金貨を彼のために使いたいと思います。それでケルトンとバミスの馬を用意していただけませんか」


「……彼の口から違う力を手に入れたとバミスが話しましたが、バミスの言葉に間違いないのですね。バミスは自分の馬があるので、彼の馬はこちらで用意しましょう」

「ありがとうございます。何と言うのか……その違う力を私も持っています」

「えっ、リリア様もですか」


 私のことを様付けで呼んだから驚いてしまい、彼の前では様付けで話した方がいい、と咄嗟に思ったけど、彼は違う力を金貨と思っているのだろうか。


「……同じ力ですが、ゴードンの孫としても私の方が姉ですから」

 意味不明な発言をしたけど、言わなきゃよかったかな?


「またまた困りました。意味が理解できなくて、彼女に説明しようがありません」

「大変申しわけありません。姉である私の力が少し強いと理解してください」

「あなたが彼を助けて、その違う力を二人で持っているということですね」

 彼は念を押すように、そう言ったように聞こえてしまう。


「はい。別々ですが持っているということです」

「私があなたに聞いた話しを彼女にしても、理解していただけるのかどうか心配です」

「私もそう思います。彼女の部屋は西の屋敷のどの辺りになるのですか。私が会いに行きます。西の屋敷だけでいいですから略図を教えていただけませんか」

「会いには行けないと思います。厳重に警備されています」

「今……この部屋の周りには人の気配がありません。お話しされても誰も聞いてないと思います」

「なぜそのようなことが分かるのですか」


「……それも説明はできません。西の門から入って右側か左側かだけでもいいです」

「それは言えない。城壁内の位置関係は話してはいけないと禁止されている」

 彼の言葉の響きは今までの話し方と少し違い、少し本心が出たような口ぶりになるけど、彼は私に対して軽く左手を挙げてくれる。


「……分かりました」

「あなたが私たちと同じ考えを持っていることは、今の私も少しは理解できました。そのことは彼女に報告ができます」

 バルソンが彼女に報告するとのは分かるけど、私は詳しく話せないしケルトンが生きていることだけを受け止めてほしいと思う。


「ありがとうございます。過去のことよりも将来のことを考えて、私がこの命をかけて彼のことは守ります。最初にそのことを彼女に伝えてください」

 私は最後の言葉を力強くそう言うと、

「分かりました。私も彼女のことをこの命をかけて守るつもりです」

 彼がそう言ったからおったまげてしまう。


「……分かりました。お互いに同じことなのですね。少しお話しを待っていただけますか。私は頭の中で考えをまとめます」

「私もまとめましょう。困りましたね」と、バルソンからそう言われてしまう。


「申しわけありません」

 私はそう言って立ち上がり、後ろを向いて彼の視線を外す。


 彼はずっと私の目を見て話しているので、こういう風に見つめられるとは思っていなくて、彼からしてみれば私と視線を外さないことで、私のすべてを見極めているかのようである。


     ☆ ★ ☆


『ソーシャル、彼にブレスを渡してもいいの?』

『リリアはどう思うのですか』

『二人の出会いは知らないけど、バルソンは彼女のことが好きなのかもね。一瞬そんな気がしたのよ。ソーシャルには見えないけど、彼女の声の響きで理解できたでしょう? 彼女は冷静だし素敵な女性だから、それに剣の達人みたいよ。浮揚しないからソードだけ見せてもいいの? そうすると私の言葉を信じてくれると思う。彼が説明しなくても、私が彼女に説明すればいいと思う。お互いに説明の仕方が違うと思うけどね』

『そのようですね。私はご主人様の意見に賛成です』

『ありがとうございます』


     ☆ ★ ☆


「私は考えが少しまとまりましたが……バルソン様はいかがですか」

 私は椅子に座り直してそう言う。


「私はまだまとまりません。時間が必要だと思います」

 彼がそう言ったから、私が逆の立場であれば当然のことだと思う。


「最後に一つ聞いてもいいですか。私は彼女と少し話しただけですが、彼女はとても冷静でほんとうに素敵な女性だと思いました。ケルトンも彼女のように、自分の身は自分で守りたいと言いました。大変失礼ですが、その……彼女のことがお好きなのですか」

「えっ、そのようなことを聞かれるとは夢にも思ってなかったです。リリア様は率直なお人柄ですね。私も自分の気持ちを正直に話しましょう。その通りです。間違いありません」

 彼はしっかりとした口調でそう言うのだ。


 本人の口からそういうことを聞くとは思ってもなくて、王の側室である彼女のことを好きだったのだ、と思いながらも、そういうことが許されるのだろうか。どうなっているのだろうか。


「……このような意味の分からない話しをしているのに、正直な気持ちをありがとうございます。その正直な気持ちを聞いたので、今から私の不思議を一度だけお見せします。驚かないようにしてください」

 私はそう言って椅子から立ち上がり、少し後ずさりをする。


 対面に座っていたバルソンを正面にして、目の前でブレスを三回合わせると、ソードが縦に現れたので(つか)の部分を初めて握る。


 左手で(さや)を持ち右手で剣を抜いて鞘をテーブルの上に置き、彼に対して横向きに構えて、右手を上にして柄の部分を両手でぐっと握ると、刃の先端から両腕を通して、体の中に何かが入ってきたような感覚がして、これがソードのパワーなのかと頭の中に自分の声として響き渡り、その凄さに驚いて、一瞬私の心臓が停止したみたいな気がするけど、その気持ちを振り切り昼間に練習したように、五回ほど彼の目の前で振ったような気がする。


 私の心臓はどくんどくんと脈拍が早く、何ごともなかったように鞘にしまい、後ろを振り向きブレスを一度合わせてソードを消す。私が振り向くと椅子に座り込もうとしていた彼を見ると、このソードのパワーに気を取られていたらしく、彼がいつ立ち上がったのか気づかない。


「……信じられん」と、彼は椅子に座り少し落ち着いたのかそう言う。


「……これが私の不思議です。夢ではなくこれは現実です。だからすべてにおいて詳しく説明ができません。このことはお互いに秘密にしなくてはいけません。お分かりいただけましたか」


「……信じられん。王子様もその剣をお持ちなのか。信じられない」

 彼は同じ言葉を最初と最後に使うほどに驚いているようだ。


「……はい。同じものではありませんが持っています。バルソン様の秘密を聞きましたので、私も自分の秘密を教えました。私のことは信じていただけますか」


「……分かった……それ以外に言葉が考えられない」

 彼はテーブルの上に手を置き、私が見せた剣のことを頭に描いているようで、ほんとうに狼狽しているかのようだ。


「ありがとうございます。私も彼も両手にブレス付けています。私はここに新しいブレス一つ持っています。これをバルソン様の左手につけたいと思いますがいかがでしょうか」


「……それをつけるとその剣が出てくるのか」

 そう言った彼の心の中は剣に意識が集中しているみたいだ。


「一つでは出てきませんが理由は聞かないでください。彼も最初は左手に一つだけでした。私はバルソン様であればこのブレスをお渡ししてもいいと思います。大変失礼な言葉ですが、彼の仲間として証です。もしも……このブレスをバルソン様がつけた場合は彼女には秘密にしてください。一度つけると自分では外せません。そのことも承知してください。私はバルソン様を信じてこの話しをしています。今日でなくてもいいです。私を信じてよく考えてください。よろしくお願いします」


 私がそう説明をし終わると、彼の表情は先ほどよりは少し落ち着いたみたいで、彼は冷静に対応しているとは思うけど、自分で気付かない些細な驚きの表情は隠し切れていない。これを見て驚かない方が不思議だ。


「今夜のリリア様のお話しは、私の人生の中でいちばんの不思議だと思います。私の頭の中で意味が理解できてないようです。ゆっくり時間をかけて考えさせてもらいたい」

 彼は真剣そうな顔付きでそう言ったけど、ゆっくり考えても理解できないよね、と私は思ってしまう。


「分かりました。言い忘れましたが、彼に金貨を十枚渡して短剣を隠し持たせています。今の彼は自由に好きなことができると喜んでいます。明日赤い実を三十個、この屋敷にお届けします」


「……今の彼は金貨と短剣と自由があるのだな。そしてその剣をお持ちなのだな。私はその心遣いにも感謝する。それをシンシア様に必ず伝えてその赤い実を渡そう」

 彼ははっきりとした口調でそう話してくれたようだけど、彼の表情はここに来たときと違い、昨日感じたような厳しい顔つきになっている。


「ありがとうございます。私が思うには、ケルトンも彼女に会いたいような気がします。部屋の確認が取れると必ず私が連れていきます。そのこともお伝えください」


「……分かりました」と、彼はその一言しか使わない。


 彼の隠された顔つきから判断して、私の言動を頭の中で最大限に苦心して活動させ、反復をしているのだろうと思ってしまうけど、これは考えても理解できないとも思った。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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