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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第一章 『色んな人との出会い』
21/165

21=〈剣道の素振りもどき〉

少し長文です。

     ☆ ★ ☆ (37)


 私たちは屋敷に戻り食事をしたけど、お昼は朝と同じものでも、その中にお団子のようなものが入り、一口で食べられる大きさで味が染み込んでいておいしくて、ゴードンから明日からは鴨の肉が入ったスープになると説明を受けたので、こちらも楽しみになる。


 この時代の食事は野菜を煮込んだスープとパンを食べるみたいだけど、このお団子みたいなものは何だろうか。豆の粉を混ぜたのかもしれない。色んな豆は確かにさっき売っていた。


 小麦の類はなかったような気がしたけどな。どこまでゴードンに聞いていいのか分からない。明日も市場の見学をしてみよう。


 ホーリーとの話しの切っ掛けに聞いてみようかと思う。味噌はあるのだ。ここでの名前が分からないが確かに味噌味だと思う。フィーサスの鹿肉の店でも味噌味だった。何か別のもので栄養を取らなくてはいけないかな。


 私は『カロリー』という言葉を思い出す。ケルトンは城では色んなものを食べていたと思う。私もいろいろ考えて洞窟での食事はさせていたつもりだ。この質素な食事ではカロリーが少ないと思う。何か別のものを出して食べさせなくてはいけない。


 今日は私たちの記念日になった。そう思うと自分の部屋があるから助かる。午後から『チョコレート』を二箱出し、徳用袋のシンプルな『あめ玉』も一袋お願いした。『ミーバ』には言葉の固有名詞を伝えている。どんなものが出てくるかも楽しみである。


 ゴードンが屋敷に赤い実を届けに行くと言ったので、私たちはかごの中に赤い実を百個移し替え、その時に先ほどのバルソンの話しを少し聞き、明日はバミスが迎えに来るのだ。


 ゴードンは一度帰ってきてから違う屋敷にまた届けに行くと言って、それまでは好きにしていいと言われ、また入れ替えを手伝ってほしいと頼まれ、ゴードンが出かけている間は、ケルトンと二人で部屋の模様替えをすることにする。


「ケルトン、私の布団をケルトンの布団の上に置いてもいいの。下の台を動かしたいのよ」

「はい。俺が持っていきます」

「ありがとう。この台をここに縦に置きたいけど、その前に外に出して布団を太陽の光に当てたいわね。そうすると布団がよけいにふかふかになるのよ。入り口から出そうね」

 私はそう言って、二人で少し斜めにして私のベッドを先に出す。


 二人分の布団を先に外に出してケルトンのベッドも外に出し、これはシングルベッドよりも縦横ともに少し小さくて、二つ折りにした上下の布団を並べて、しばらく布団干しをしようと思った。

 

「ケルトンも同じ位置にしたいから、引き戸がこっちにあってよかったね」

「そうですね」

「あそこからソードで出られそうね。さっき外を見たけど屋敷の隅に木があってちょうどよかった。だからゴードンは私の部屋を奥にしたのね」

「リリア、さっきゴードンから木の棒を二本もらいました。何かあればこの棒を使いなさいと言われました。だからリリアに一つ渡します」

「えっ、ありがとう」

 私はそう言って、この薄い茶色の棒を右手に持ってしばらく見る。


「リリア、何か閃いたのですか」

「えっ?」

「この棒で何か閃いたのかなと思いました」

「少し閃いた。表に出よう」


 私は右手を上にしてこの棒を握りしめ、右足を前に出したり引いたりしながら何回か振ってみる。


 そうだ……剣道だ。私はずっと剣道を習っていたのだ。思い出した。そうだ……素振りだ。そうすると……この時代の剣も使いこなせるかもしれない。

 

「こうやってこの棒を何回も振って、右手が上で振るときに右足を前に出してね。私がやるのをよく見て、同じようにやってみてね。力を入れて振ってこういう感じで止めるのよ」

「はい。やってみます」と、彼はそう言って私の真似をする。


「棒の先が止まってない。私の手元をよく見て、両手でぐっと絞って」

「はい」

「暇なときにやるといいからね。体力作りには最高ね。ケルトンにはこの棒は少し重いかもね。でも……ソードは軽くないからいいのかもしれないね」

「はい」

「最初は二十回ほど振り、少し休んでその繰り返しでやってみてよ」

「はい」

「一気にやると疲れちゃうから自分で数えながらね」

「はい。今からやります」

 そう言ったケルトンは何だか喜んでいるようで、私はそのまま練習をするように促す。


 私はゴードンに衝立てを作ってもらおうかと思っているけど、今朝、広めの布を天井から紐でぶら下げようと思い直した。


 今度は『カーテン』の言葉を思い出した。そして、画鋲の存在が頭の中に閃く。昔からある金色の画鋲もお願いする。それで留めれば音もしなくて簡単に差し込める。


 糸で布の隅と真ん中に紐を縫いつけ、布をたくってからソードに乗り、その紐に画鋲を三個ずつ使って天井の隅から刺し、天井は少し暗いから画鋲を差し込むと同色みたいで目立たなくていい。


 引き戸を開けて外に出てから中を確認すると、布団の台と隣の引き戸と部屋の半分以上は隠蔽できそうなので、ケルトンの部屋も同じようにしようと思う。


「ケルトン、もうそろそろ止めた方がいいわよ。何回くらい繰り返したの?」

「覚えてないけどたくさんやりました」

「最初は二十回を五回ほど繰り返すと止めて休憩してね。体のあちこちが痛くなるかもよ」

「大丈夫です。動いていた方が気持ちいいです」と、彼はにこやかな顔をしてそう言う。


「私も少しやろうかしら?」

「見てもいいですか」

「いいわよ」と、私はそう言って素振りを始める。


「すごいですね。同じ場所で止まっています。俺も練習します」

「よく思い出せないけど昔にやっていたみたいね」

「リリアも剣が使えるのですか」

「分からない。バミスに教えてもらえば雰囲気がつかめそうな気がするけどね」

「ここでは出せませんね。馬屋だとホーリーにも隠せるから出してもいいですか」

 彼がそう尋ねたので、使いたいのかな……私も使ってみたいから許可しよう。


「……そうね、馬屋であればいいのかもね。今度赤い実をもらいに行って向こうで使ってみようか。あそこだと人に見つからないような気がするからね」

「そうですね。俺は少し剣を使えます。ここでも練習できて嬉しいです」

「バミスが来るまで二人でこれをやろう。明日の朝から屋敷の周りを少し走ろうか。体力をつけなきゃね。急にやるとあちこち痛くなりそうね。動きがいつもと違うから少しずつね」

「はい。俺も体を鍛えたいです。王様の家臣はいつも剣を練習しています」

 彼がそう言ったから、剣の訓練をするそういう機関があるのだと初めて知り得た。


 ケルトンそういう状況の中で生きていたのだと思い、今まで彼とは色んな話しをしたけど、城の中のことは聞いたことがなくて、バルソンに話してはいけないと言われていたのかな、とか勝手に想像してしまい、私に話せない秘密めいたことがたくさんありそうで、そのことが彼の負担にならなければいいけどな。


「もう布団の台を戻そう」

 ケルトンの布団を私のベッドの上に置き、ケルトンのベッドを二人で部屋に戻す。


 布団干しがなくても、ベッドごと移動できるから便利だな、とか思ってしまった。


     ☆ ★ ☆ (38)


 ホーリーは朝が早くて午前中に色んな仕事を終わらせ、お昼の食事が終われば自分の部屋で少し休むそうで、今までのゴードンは数日間この屋敷に泊まったことがあり、屋敷の下見がてらに山の家で作った、自作のかごなどや日常品を持ち込み売っていたそうで、今回みたいにひと冬をここで過ごすのは初めてらしい。


 ゴードンが馬車で戻ってきた。


「ケルトン、馬屋の中に桶があるから馬に水をやってくれ」

「はい」

「リリア、俺の仕事部屋を見ないか」

 ゴードンが私だけを誘うので、ケルトンには聞かれたくない話しがありそうな気がするから『はい』と返事をして、そのままゴードンの後ろを着いていく。

 

「バルソンのことはどう思った? 俺の耳元で自分の名前を言って感謝していると話したぞ。屋敷の場所は聞いてないが、明日はバミスが迎えに来るのだな」

 ゴードンは部屋に入るなりそう私に説明をしてくれる。


「私はシンシア様と少し話しをしましました。私が布を買った店でソーシャルがシンシア様の名前が聞こえたと教えてくれました。ケルトンが話しましたが、彼女は剣の使い手らしいですよ。だからあのような冷静な態度で私と接したのですね」

「そういうことがあったのか」

「はい。ゴードンがいないときにバルソンが赤い実を買いにきましたけど、シンシア様は私にバルソンに会わせたかったと思います。その店を一緒に出るとバルソンが通り過ぎて目が合いました」

「赤い実を買いにきたのはケルトンから耳元で少し聞いたぞ」

「思い切ったことをしましたね。そばにいる者は周りを見ているから自分には気づかないと言っていました」

「なるほど、バルソンがそばにいたからケルトンには気づかなかったのかな?」

「そのこともバルソンは考えて行動に出たと思います」


「……そうか。俺は耳元で感謝の言葉を聞くとは思わなかったな」

「その場の言動が素晴らしいですね。私も驚きました」


『リリア、ケルトンが馬屋でソードを出して練習しています』

『分かった。トントンにホーリーのことを注意するように伝えて』

『分かりました』


「ケルトンに少し話しを聞きましたが、あそこでは自由がなくて可哀想になりました。ここにいれば好きなことができると話して、この屋敷から出ないと言ったので、二人で夜に少し出ようと話しました」

「そうだな、その方がいいな。ケルトンは物の分かりのいい子だな」

「最初に出会ったときから礼儀正しい子でした。五歳までは彼女と一緒にいたけどその後はバルソンと一緒にいて、彼女と会うと何を話していいのか困ったと言っていましたよ」

「立場というものがある。それを自分なりに理解しているのだな」

 そう言った彼の視線は一瞬、空中を見ているような気がする。


「そうですね。ケルトンを見ていると立派な王様になりますね。彼女もバルソンもそうなってほしいと厳しく接したのでしょうね。それをケルトン自身も分かっているのですよ」

 私は城の中の現状は何も知らないけど、何となくケルトンを見ていると想像できるからそう言うけど、人間の考え方なんてひょんなことでコロリと変わってしまうからな。


「ここでは自由にさせてやりたいな」

 彼の声の響きがしみじみとそう言ったように聞こえるので、バミスと合流するまで好きにさせたいと思う。


「よろしくお願いします。明日も市場で買い物に行ってもいいですか」

「また馬車乗り場で待っていたらいい」

「ありがとうございます。ほんとうに竹がたくさんありますね」

 さっきから部屋の周りの壁に沿って立てかけてある竹や、奥に綺麗に並べてある割られた竹を見ながらそう言う。


 一メートルほどに切られた丸い竹や、半分に切り裂かれた半月状の竹が綺麗に立てかけてあり、部屋の方には紐状とまではいかないけどスライスされた竹が、今度は自分たちの番だと待ち望んでいるかのように塊となり置かれて、職人に対する考え方と本人の性格は違うかもしれないけど、ゴードンって結構細かい性格なのだなーとか勝手に思ってしまう。


「俺は若いころはあちこち旅してこの竹と出会ったからな。最初は火にあぶって油をぬくそうだ。それから油を拭き取って乾燥させる。そうすると作った物が長持ちするそうだ。少しずつここに持ってきて乾燥させる」

「手間がかかっているのですね」

「最初はあいつらが作ったかごや小物を安く買いとり売っていたが、今度は自分で作ってみようと思ってな。竹を割るのも同じ幅にそろわず手加減が難しい。最初よりはうまくなってかご作りも早くなったよ。あそこでは子供のころからずっと教えられているからな。そうやって子供は大きくなる。ケルトンの場合はまったく立場が違うから、これからも大変だと思うがな」

 ゴードンがそう説明したのを聞いて、安く買って転売して儲けていたのか、と思うけど、自分で作ろうと思った理由が今一つ分からない。


「バミスがあそこのことを教えてくれますよ。市場の子供たちもそうなのですね。子供のころからに大人の手伝いをして生きているわけですね」

「そうだな。だから銅が一粒でも大声で叫んでくれる。俺も助かるしな。それで赤い実が売れるなら大人も子供もお互いさまだ」

「そうですね。私はゴードンに物を乗せる台と椅子を作ってもらいたいのですが、お願いできますか」

「台は少し大きめにするかな。ケルトンの分と二つ作るよ」

「ありがとうございます。台は私の腰辺りで椅子は膝の高さでお願いします。ケルトンはすぐ背が伸びると思うので私の高さに合わせてください。木でも竹でも構いません」

「分かった。あとで竹に印をつける」

「私はさっき買ってきた布で部屋の中を隠しましたので、今から見ませんか」

「それを見たらもう一つの屋敷に行くとするかな」


『ソーシャル、ケルトンのソードを消すように伝えて』

『分かりました』


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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