2=『リズ』との最初の出会い
☆ ★ ☆ (4)
私たちが出会ってから暑い夏の季節が過ぎ去り、ここも寒さが徐々に増してきて、いつもは低空飛行の練習しかしてなかったが、私は漠然にこの森の広さを知りたいと思い、この森を全体的に見たくなり、ソーシャルに話してケルトンと一緒に上空に連れていってもらったが、近場は見渡す限り木々のオンパレードで、視界が悪いが四方が高い山に囲まれたような深い森の中にいるようだ。
彼女からこれ以上は風が強くて上に行けないと言われ、確かに森の中では風の存在はあまり気にしなくてよかったが、今では少し強風みたいな気がして危険だと思い、垂直飛行で下に降りてもらい前方に少し進むと、緑の木の葉の合間に赤い色が転々と見えてきたので近づいてもらうと、赤い実がたくさん実った樹を見つける。
名も知らぬ鳥がその赤い実を食べているので、私たちも食べられると思い食べてみると甘くてとてもおいしくて、この握り拳ほどの赤い実を十個もぎ取り洞窟に持ち帰った。
☆ ★ ☆
私たちの洞窟からこの樹の方角はソーシャルには理解できているそうで、数日後にもう一度出かけ、上空からこの樹の根元に降り立つと、上を見上げても葉が生い茂り下からでは赤い実はまったく見えず、樹の周りを一周すると想像以上にとても太く、胸高直径が十メートルほどありそうな、私の記憶では例える言葉が見つからないほどの、過去に見たことがないような大きな樹だ。
しばらくすると異様な音が近づいてきたので、その音に驚き樹の茂みの中に急いで浮揚して隠れたが、大きな空っぽの荷台を引っ張っている馬車がやってきて、年配の男性が馬車から降りてきたのが生い茂る葉の合間から見え、自分の体をずらしながら彼の行動を見ていると、その男はこの太い樹に近寄り最初に両手で触ってから、この樹の根本で馬車の方を向いて座り込んだ。
「こんにちは赤い実のリズ、ゴードンです。今日も聞こえているのかな? 今年もまたやってきたぞ。また赤い実の季節になったからな。今年もたくさん実っているのかな? 下からでは相変わらず確認ができないしな」
突然話し出した彼の言葉が私に聞こえたと思う。
『お久しぶりね、ゴードン。今年もたくさん実をつけたからね』
女性の声が私の頭の中で響く。
すると赤い実が一つ、この男の目の前に落ちたのが葉の合間から私には見えるのだ。
「俺たちが出会ってから今年で十年目になる。俺はこの赤い実のお陰で南の城の近くに屋敷を構えることができた。しばらく人が住んでなくてな、あちこち手を加えたから屋敷が完成する日が遅くなった。今年の冬はそこで過ごすから楽しみだな」
『それはよかったですね。毎年私の赤い実が役に立っていますね』
その女性の言葉が私の頭の中に確かに響いている。
また赤い実が一つ下に落ちたのが見えたので、ゴードンの言葉は私の耳から聞こえるけど、この樹が返事をしたのだと思う。
「俺にもお得意様ができたからな。この赤い実を高く買ってくれるようになった。今年も二つの屋敷に届けようと思う。もちろん毎年市場でもこの実は評判がいいけどな。そのまま食べても甘くておいしいが煮詰めてとろみをつけると長持ちする。夜明けと共に拾い始めるから最初は葉の方をよろしくな」
『この葉も長持ちするでしょう? 明日の朝はたくさん下に落としますね』
彼女がそう言うと、また赤い実が一つ落ちたのが見える。
この樹が下にいる男と話しをしているのだと思い、ケルトンにそのことを聞くと、女性の声は何も聞こえないと言ったので、ゴードンにも樹の言葉が聞こえてないようだ。
どうして赤い実を落とせるのかは分からないが、赤い実を下に落として返事をしているのだと思い、私には二人の会話が聞こえるけど……どうしてなの?
私たちは彼から身を隠すために太い枝の上に足を置いているけど、ソードの上に二人で一緒に座わっている。彼女に話しかけるためにもう少し上の方に移動してから、彼が樹を触って話しかけたので、私も両手で触ってから話しかけようと思う。
風が吹いて葉のこすれる音が心地よい響きとして私たちの周りに充満しているので、この音が邪魔してゴードンには私の声は聞こえないと思う。
「突然ですが、あなたは赤い実のリズというのですか」
私は両手のひらを幹に当て、最初からそう話しかけてみる。
『えっ?』
彼女が驚いたような声の響きでそう言ったように聞こえる。
「……私の名前はリリアです。弟はあなたの言葉が聞こえないけど私には聞こえました」
『えっ、私の言葉がほんとうに聞こえたの?』
彼女の声は少し大きく響き、また驚いているようだ。
「ほんとうに聞こえています」
『人間に私の言葉が聞こえるなんて信じられない』
彼女の声の響きは少し低音気味で、先ほどよりも驚いているような気がする。
「でも……私には聞こえています」
『ほんとうに聞こえているのね』
彼女の声の響きを聞いて、その言葉が念を押したように私には聞こえるので、私のことが理解できたと思い、最初は会話の糸口を作るのが難しい。私が二人の会話が聞こえていると説明するのが妥当な線だよね。
「……でも、ゴードンには聞こえてないような気がします」
私は次の言葉としてはっきりとそう言ってしまう。
『私もずっとそう思っていたのよ。彼は毎年ここに来て私に話しかけてくれるのよ。それで、私に話しかけてから彼の話しがいったん止まると、赤い実を一つ落とすことにしているのよ』
彼女がそう説明したから、やはり、彼女はゴードンが聞こえていないことを理解しているのだ。
「……私も二人の会話を聞いてそう思いました」
『あなたの名前は……リリアというの?』
「はい。弟の名前はケルトンと言います」
『私の名前はゴードンが名付けてくれて、赤い実のリズというのよ』
彼女ははっきりとした口調でそう話す。
「リズ、初めまして。数日前に上空からこの赤い実を見つけて食べました。とても甘くておいしかったです。それで……今日は下から見ようと思い地面に降りました」
自分たちの今の状況をそう説明したけど、彼女に理解できるのだろうか。
『初めまして、リリア。下からでは見えないそうよ。下にゴードンがいるけど今はどこにいるの?』
彼女は私たちの居場所を尋ねたようなので、どうやって説明しようかと悩んでしまう。
「……ゴードンに見つからないように、二人でこの樹の中程の太い枝の上にいます」
『そういう場所にいるの? あなたは鳥みたいに空を飛べるの?』
彼女がまたそう尋ねたので、鳥の存在は知っているのだと思ったけど、私たちは人間なんだよね。どう説明しようか。
「……私自身が飛ぶのではなくて、説明が難しいですがソードに乗り空中を移動します」
と、私はそう説明したのはいいけど、これは事実なんだけど理解できないよなーとか思い、私自身が移動できる意味が分からないものね。
『……ソードとは何ですか』
「これも説明が難しいです。リズは声が聞こえるみたいですが見えるのですか」
『私はすべて風の音で判断します』
私にはその言葉の意味が理解できない。彼女の言葉が聞こえる意味も理解できない。リズには私たちのことが分かっていないようだが、どうすればいいのかな。
「その……風の音の意味が私には分かりませんが、魔法使いがほうきに乗って移動する昔話を知っていますか」
私は例える言葉が思いつかずに、魔法使いのほうきが閃きそう質問をする。
『分からないわね。リリアは魔法使いなの?』
逆に彼女から聞かれたけど、彼女は魔法使いの言葉を知っているのだろうか。
「まさか違いますよ。普通の人間です」
『あなたが人間で私の声が聞こえるなら、今から私の言葉を聞いてゴードンに話しかけてくれない?』
彼女がそう言ったから、私のことを人間とは思っていなかったのだ。
「……はい。私もそうした方がいいと思いました」
私は彼女を手伝うことをはっきりと伝えたつもりだ。
『ありがとう。よろしくお願いします』
彼女がそう言ったので、私の声がゴードンに大きく響き渡るように、先ほどの枝まで下に移動した。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
ストーリーは進みまますが、第一章は、
人間や??との出会い、のサブタイトルばかりです。
この出会いが……今後に影響を……。