19=『シンシア様』との最初の出会い
☆ ★ ☆ (34)
二人で話しているとバルソンは突然私たちの前に現れ、彼が左右どちらから来たのか分からない。バルソンは左の方へ何ごともなかったように向かったから、私も同じ方向に歩くことにする。
私たちがここに来た馬車置き場がある方角であり、ここは雨が降ると商売にならないよな、と思いながらも、売っている人は小さい子連れの母親が多い。
赤い実はゴードンが作った竹のかごの中にそのまま入れて売っているけど、私たちは直に体育座りみたいに座っている。座布団が欲しくて、この辺りは皆が地べたに布などを敷いて、売り手の人間が中心に位置して、その前面に色んな野菜などが置かれている。
私はバルソンが気になり人の顔ばかりを見ているようだ。日本でいうところの外国人と呼ばれる人たちばかりである。私は元から南国系の顔立ちだが、東洋系の顔つきの人はいなさそうだ。半分くらいはここの人たちに違和感を与えないような気がする。私をじろじろ見る人はいない。
私は横道を抜け馬置き場に向かったが、それらしき人物は捜しきれず、馬置き場は西門を入ると右側で、馬車置き場は左側になる。
馬を案内している人に布を売っている場所を聞くと、馬車置き場の先に店がたくさんあると教えてくれ、そこは西門から入ると左側の奥になるらしく、今度は逆側に歩き始める。
この一角は一応屋根がありその中で売られている。私の歩いているこの辺りは露店販売みたいで、移動式の馬車の荷台のような、屋根付きリヤカーのやや拡大版と言ってもいいような、場所によって売り方が違う。赤い実を売っている一角は、一般の人たちに開放されているみたいで、それで場所取りが必要なのだろう。
奥に進んでいくと、屋根がありしっかりと造られた家が通りをはさんで並び、中に入らないと分からないような入り口が閉ざされた場所もあり、ほかにも古着屋らしき店もあり、表に日常雑貨と呼ばれる品物が並べられたりして、ゴードンは横道から入ってベンブロスの古着屋に案内してくれたようだ。
☆ ★ ☆
『ソーシャル、この店はお金持ちの人が来る店ね。先ほどの通りの店とは雰囲気がまったく違うのよ。ちょっと入ってみるね』
『分かりました』
☆ ★ ☆
「何かお探しですか」 と、しばらくすると店の人が声をかけてくる。
「部屋を仕切ろうと思い布を探しています。広めの布はありますか」
「こちらの布はいかがですか。ここの所で二つ合わせてあるので広くなっています」
「広げてもいいですか」
「私が広げましょう」
彼女はそう言って布を広げてくれるけど、一メートルほどの正方形で風呂敷みたいでテーブルクロス向きだと思う。
「もう少し大きな布はありますか」
「それではあちらにある大きな布を見てください」
「えっ、あるのですか」
私はそう言ったけど、自分で手縫いでつなげなくてはいけないと思っていたから、彼女からその言葉を聞いたときに嬉しくなる。
「こちらへどうぞ」
彼女がそう言ったから、私は後を着いていく。
「ここに並んでいるのはすべてこの大きさです」
彼女はそう言って、一枚の布を広げ見せてくれる。
さきほどの布が二枚つなげてあるような、長さが二メートルほどの正方形の布で、単色だけではなく格子の色合いがカラフルで、その格子の幅も様々であり、私が手にした布は長方形をしている。ドアを仕切る帳にちょうどよさそうだ。
「二枚いるのですが銀で何十粒ですか」
私はゴードンから聞いたようにそう尋ねると、
「二枚ですと銀が五粒になります」
「なるほど。三枚買っても銀が五粒ですか」
私は値札がついてないのでそう尋ねると、
「えっ、どういう意味ですか」
「銀が五粒でこの二枚とほかの布も少しは買えると思います」
私は彼女の商売ありっけのような顔を見ながらそう言うと、
「なるほど。確かに買えますね」
「まさかこれを四枚は買えませんよね」
「それはちょっと厳しいですね」
「色は前もって考えていたのでこれとこれをお願いします。先ほどの布を二枚追加できますか? あの大きさだと台の上に置くにはちょうどいい大きさです」
「……分かりました。それではあちらで選んでください」
彼女はそう言ったけど、客を逃がさないように妥協してくれるのだろうか。
この店は布の専門店みたいでカラフルな明るい布もたくさんあり、大きい方の布はケルトンに深い草色の単色と、自分には渋めの紫色の単色の布を選ぶ。
「ありがとうございます」
私はそう言ったけど、銀五粒ではもっとほかの物も買えそうな気がするけど、彼女の顔付きからしてぎりぎりの交渉なのかもしれない。要するに、ここでの金銭感覚が分からない。
昨日の服は向こうの言い値で買ったけど、この店は何だか高級感がありリピーターになりそうな気がして、周りの客を見ていても、それなりの服装で立場のある人たちのような気がする。
ゴードンにテーブルを作ってもらうからその上に被せようと思い、小さい布は明るい紺色の生地の中に、ベージュのような白い線が二本入り、その横に水色の太めのラインの中に赤い色が一本入って、それが交互に織り込まれた布を二枚選らび、ケルトンとお揃いにする。銀を五粒渡してから、背中のリュックの中に布を入れる。
西の門をはさんで左側に向かってくるたびに、歩いている人の服装が色とりどりで、清潔感がありきらびやかになっていくような気がして、周りにいる人たちも何となく雰囲気が違うような気がする、とは言っても左右で比較しているだけで、朝市や青空市は右側にあり、こちらの人々は単色系の服を着ている。
『リリア、左側の女性を見て。周りで一度だけシンシア様と呼んだから』
『えっ、ほんとうに、確認してみる』と、私は早口にそう言ってしまう。
「もう少し店の中を見てもいいですか」
「何かありましたら私に声をかけてください」
「分かりました。ありがとうございます」
私の視線は一瞬左側にそっと向けてそう言ったけど、ケルトンの年齢を考えてあの女性だと思う。
上着が薄い単色の紫色で合わせが深くなくて、首を一周している同色の襟の延長上のような細い紐が、胸を隠すように前面で結ばれ短めに垂らしてあり、上着はお尻を隠すような感じで、太ももの半分くらいの長さで、私は紫色が好きだが彼女もそうなのだろうか。
ゆとりのある明るい紺色のストレートのズボンのようなものをはいて、絹のような柔らかそうな生地の雰囲気みたいだ。
剣こそ持っていないが二人の女性が左右にいて、彼女たちは合わせの深いベージュ色の上着を羽織り、同色の動きやすそうなゆとりのある、ストレートのようなズボンをはいているが、先ほど見たバルソンの服は紺色だ。
ほんとうに甚平みたいな格好をしているが、この時代はこの格好が一般人の定番なのだろうか。ほんとうにシンシア様なのだろうか。今日はお忍びでここに来たのだろうか。バルソンは近くに来たから急に寄ったのだと考えられる。
最初は遠回りに彼女の方に視線をやりながら、別の布を手に取ったりしてその距離を縮めているが、彼女の近くでマーリストンの言葉を口にしてみようか。
『ソーシャル、マーリストンの名前を彼女のそばでこそっと言ってもいいと思う? お忍びで来ているバルソンも近くにいると思う。さっき赤い実を買いに来たからね。私はそう考えたのよ。どう思う?』
『そうですね。その可能性はありますね』
彼女がそう言ったので、私は彼女の周りにほかの人がいないことを確認する。
バルソンは瞳の色が薄い茶色で黒ではない。
私の好きな二重まぶたでまつげも長い。
髭がなくて顎が少し尖っている。
後ろ姿も見たが、髪を短めに後ろで結んでいる。
色んな好みがあると思うが、大人の男だと思う。
長い剣を右手に持ち、柄の先端に赤い紐がついている。
さっきから、彼の顔が私の頭の中から消えていない。
マーリストンではなく『バルソン』と口から出てしまう。
自分でも気づかずにこっちの言葉が飛び出す。
「えっ?」
彼女は小さな声でそう言ったときに、私はそこにある紺色の中に黄色の線が織り込まれた布を手にしている。
「これも素敵な色ね。こっちも買おうかしら?」
「きれいな配色ですね。何に使うおつもりですか」と、彼女は私に話しかけてくる。
「部屋に衝立てを作りたいので、その仕切りに使おうと思いのす。さっき弟の分も一緒に買ったけど、私のは少し地味だったのかしら?」
私は何を話していいのか迷いながらそう言うと、
「気分によって取り替えてみるとどうですか」
「……そうですよね。同じものばかり見ていると飽きてしまいますね」
「私はこの店にたまに来るけど、ここで布を買って子供の服を作ってもらうのよ」
彼女がそう話すと、そばの二人が少し離れていく。
「私たちの服は親が買ってくれます。いつも少し大きめでした」
彼女が子供の話しをしてくるから、その話しに合わせるためにそう言う。
「子供はすぐ大きくなるから服も困るのよね」
「ここは色んな大きさの布が売ってますね。この店が好きになりました。マーリストン」
私は左右を確認して、最後の言葉は蚊の鳴くような小さな声で言う。
「えっ?」
「マーリストン」と、私は周りを素早く見回しもう一度繰り返す。
「……私もこの店は好きですよ。私はいつでも来られないから困ってしまいます」
「お忙しいのですね。私は初めて来ましたが、ほんとうにこの店を好きになりました」
この店で二人の出会いを印象づけるためにそう言ってしまう。
「……私もです。私は出かけるといつもまとめて買うのよ」
「私はたまにしか市場には来ませんから、私もまとめて買かうようにしています」
私が言葉を合わせそう言うと、
「同じですね。もう少し見ると一緒に外に出ませんか」
「……分かりました。たくさん見ていると何でも欲しくなりますね」
私は彼女の会話に合わせようと努め、彼女も同じことを考えていると思う。
私たちは一緒に外に出ると、入り口で彼女は立ち止まり、右の方からバルソンが歩いてきて、私たちの前を通りすぎたので、彼女は私をバルソンに合わせたいのだ、と咄嗟に思ってしまう。
「私は弟に頼まれたものがありますので、ここで失礼します」
「分かりました。またお会いしたいですね」
彼女はそう言ってくれたので、私はほんわりとした気持ちになり、バルソンが進んだ道とは反対方面へと歩き出す。
彼女の話し方は慌てることもなく冷静だと思う。さすがケルトンの母親である。ケルトンを見ているとそういう気がする。心の中まで見えないのが残念だ。いつかお会いする日が必ず来ると思う。
私はまた時計を見るのを忘れている。ずいぶん奥の方まで来てしまったようだ。このまま馬車置き場に戻った方がよさそうだ。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
バルソンと、リリアとシンシア様との『軽い』三角関係になるのか??
他にも、三角関係ができるかも??




