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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第一章 『色んな人との出会い』
17/165

17=〈ゴードンの屋敷〉 (2)

少し長文です。

     ☆ ★ ☆ (30)


 翌朝になり、バミスは待ち合わせの場所に行き、バルソン様を待っている。


「待たせたな」

「いえ」

「ほんとうに王子様だったのか」

「間違いありません。王子様が私の顔と名前を覚えていました」

「連絡がないから諦めかけていたぞ。ほんとうによかった」

「私がクーリスと鹿肉のうまい店があったので食べに行きました。その三人は私たちより先に来て、クーリスが私の名前を言って食事を頼みに行くと、近くに座っていた子供が馬車に忘れ物をしたと席を立ったのです。家の中に頼みに行った年寄りが戻って来たようで、その子を『ケルトン』と呼んだから驚きました。しかし、話しを聞いているとその年寄りが店の主人に孫たちと紹介したので、同じ名前の子供もいるものだと思いました」

「確かに」

「私たちが先に食べ終わりクーリスにそのことを話して、少し調べてみるかと話し合いクーリスに馬を取りに行かせると、私が隠れて馬車を見ている場所で、その娘が私のそばを通りざまにケルトントンの言葉を二回言ったから驚きました。それでその娘を呼び止めて聞くと、私の名前を言って、シンシア様とバルソン様の名前を言ったのです」

「私たちの名前を言ったのか」

「はい。それから内緒で王子様を捜しているのですかと言って、馬車の後をつけてくれというからそうしました」


「……なるほど」

「人がいない道で馬車を停めて、その娘が私だけに『王子様はなぜ命を狙われたのですか』と聞きました。私は詳しく知らないといい、数人で王子様を探していると正直に話しました。するとさっきの子供が近くに来て、『バミス、私はマーリストンだ。覚えているか』とおっしゃいました。間違いなく王子様でした。その娘も王子様の名前を初めて聞くと言っていました」

「間違いないな。でかしたぞ、バミス。シンシア様に吉報が伝えられる」

「はい。私が王子様のそばでお守りすると話すと、その娘が王子様の剣の先生としてお迎えしてはどうですか、とその年寄りに言いました。娘の名前はリリアです。その年寄りはゴードンといいます。私は考えたのですが、王子様を見つけられなかった責任を取って城での仕事を辞退し、私が単独で王子様を捜す旅に出て身を隠したいと思います。それで王子様に剣を教えてもよろしいでしょうか」

「そうなれば私も安心できるが、屋敷もしっかりと確認したのだな?」

「はい。ゴードン様の身なりは貧相でしたがりっぱな門構えでした。最初に、私の孫は王子様ですね、とおっしゃいました。今から三人でそこへ行き家族として暮らす予定です、とも話されました。二人とも王子様の存在を知り、今は隠した方がいいと話されました。王子様はリリアはすごいとおっしゃっていました」


「……なるほど」

「それと、私は今の王様と違った力を手に入れた。仲間という言葉です、とおっしゃいました。リリア様がバルソン様と二人で話したいので都合を聞いてもらいたいと言われました」

「分かった。早い方がいい。詳しい話しを聞いてシンシア様にご告しなくてはいけない。その時にバミスも一緒に行き、ひとりで捜すことを報告しろ。そうすると、私は引き止めるが、ほんとうに城での仕事を辞めることに悔いはないな。そのことを確認したい」


「……はい、ありません。私が王子様のそばでお守りして剣をお教えします」

「分かった。赤の編み紐はそのまま屋敷で使えるようにする。王子様は五年もすれば立派になられる。その時は私が責任を持って城に戻れることを約束しよう」

「ありがとうございます。言い忘れましたが、リリア様が王子様の命を助けたそうです。今までリリアと洞窟で生活したけど、城と違って自由でとても楽しかった、と笑っておっしゃいました。ここでは今までのバルソン様の教えが役に立ちました。バルソン様に会うとありがとうございましたと伝えてください、ともおっしゃいました」

「そうか分かった。私は王子様が笑った顔は見たことがないような気がするが……笑って言われたのか、そのことも直にリリアに聞いてみよう」

「はい。私が話した限りでは、お二人とも普通でしたけど、どこがすごいのでしょうか」

「分からんな。その普通がいいのかもしれん。王子様を隠すには最高の場所だと思う。私がリリアに会ってその経緯を聞いてみよう」

「肝心なことをまた忘れていました。昨日渡した赤い実は食べていただけましたか。私は王子様から直接渡されました。今日から西の門の近くで三人で売るそうです。リリア様からさり気なく見にくるように、伝えてくださいとも言われました」

「あれはうまかったぞ。何気なく買いに行って確認してみよう。今夜は仕事で遅くなるし、私がその屋敷に出向くわけにはいかない。明日暗くなると私の屋敷に連れてきてもらえないか。話し終わるとひとりでは帰せないなからな。悪いがその屋敷まで送ってくれ」

「かしこまりました。馬に乗れるかどうか分かりません。私は小さな馬車を借ります」

「銀を十粒渡すからこれを使ってくれ」

「はい、ありがとうございます。いただきます」

「シンシア様もお喜びになる。よく見つけ出してくれたな。私はバミスに感謝するぞ」

「もったいないお言葉でありがとうございます」

「ご苦労だったな。それでは私は帰る」

「お気をつけて」


   ☆ ★ ☆ (31)


 一方では、ゴードンの屋敷でも朝を迎えている。


「食事のご用意ができました」

「ありがとうございます」

 私はそう言ったけど、ドアをたたく音で目覚めたと言っても過言ではないとか思うのよね。


 それほど、私は久しぶりの布団でぐっすり眠ったのだ。

 ぐっすり眠ったからよけいにボーッとしてしまう。


「食事のご用意ができました」

「ありがとうございます」

 ケルトンの声は私の声よりもしっかりしている。


「ケルトン、起きたの? 入るわよ」

 私はそう言って引き戸をたたいて部屋の中に入る。


「寝心地のいい布団でぐっすり眠れました」

「私もよ。ここに来れてよかったね。このお布団には感謝ね」

「はい。俺はシンシア様と一緒にいる夢を見ました」

「彼女もケルトンの正夢を見たと思うよ」

「その正夢の意味が分かりません」

「自分が見た夢が現実に起こるということよ。シンシア様もケルトンと一緒にいる夢を見たということよ」

 私がそう言うと、一瞬私たちの会話が途切れがちになり、ケルトンは彼女に会いたいのだ。城の近くに来ているから当然だと思い、早く会わせてやりたいな。


「近いうちにお城の探険に行くけど、彼女は西の屋敷にいらっしゃるのよね」

「はい。俺はそこしか知りません」

「大雑把でもいいから見取り図がほしいわね。バミスは知っているのかしら?」

「バミスはバルソンと一緒にいるから、西の屋敷は詳しいと思います」

「二人とも起きたか」と、突然ゴードンの声がする。


「おはようございます」

「おはようございます」と、ケルトンも返事をしている。


「引き戸の前の桶の中に水がある。顔を洗ってさっぱりしろ」

「えっ、そうなの?」

 私はそう言って、彼の部屋の引き戸を開けてみると、太陽の光が眩しい。


「昨日はいうのを忘れた。俺は朝いちばんで食事を作る前に用意してもらう」

「ありがとうございます」

「俺じゃなくてホーリーにお願いしてある。これで拭きなさい。持ってないと思ってな」

「ありがとうございます。私たちの分も用意してもらって、後でお礼をいいます」

「分かった。ホーリーは使用人だから、そこをわきまえて行動してほしい」

 ゴードンは使用人と言ったけど、私には馴染みのない言葉なので、何だか難しそうだな。


「分かりました」

「もう少しするとまた声をかける」

 彼はそう言って仕事部屋の方へ行くようだ。


     ☆ ★ ☆


 私たちは三人で食事をしたが、木のお椀の中に野菜がたくさん入って味噌仕立てであり、それを竹のスプーンですくって食べるが、鹿肉が入ってないだけで昨日と同じような感じだけどおいしくて、今朝は大きな丸いパンと赤い実が一つずつ添えてあるが、このパンは焼いたパンというよりも蒸しパンに近い。


「今日から赤い実を売りに行くからな。西の門の前にもう一つ門があり城の鐘の音で開く。その音を聞くと出かけよう。ゆっくり行けばいい。昨日服を買っている間に場所取りをお願いした。それを専門に請け負っている知り合いがいる。朝いちばんで並んでいるやつもいるが俺はそいつにいつも頼む。その辺のガキどもを集めて場所取りをしているからな」

 ゴードンは食後にそう説明してくれる。


「なるほど、売るための場所取りですか。毎日同じ場所じゃないのですね」

「ほとんど同じ場所だがな。中には寝坊したり用事があったりと出遅れるやつもいるだろう? 野菜を売っている連中は昼前には売り切れて帰ってしまう。午後からは翌朝の分を用意すると思うが、俺たちも昼前には戻る。その後は仕事部屋に入るから、それからは好きにしていいぞ。二、三日は一緒に帰った方がいいかな? 道が分かれば歩いて帰ってこられるぞ」

 ゴードンは赤い実を売る場所の説明もしてくれたので、横一列に並んだような朝一で開催されるようで、露店販売みたいな場所になるのかと想像する。


「分かりました。ゴードン、引き戸を開けると部屋の中が丸見えなので、門と同じように中を隠したいのですが、少し部屋の中を工夫してもいいですか」

「構わんよ。好きにしたらいい。必要なものがあれば用意するが」

 ゴードンそう言ってくれたから嬉しいけど、屋敷のイメージがとてつもなくよす良すぎてしまい、一日目にして、すっかりこの屋敷の虜になったような気がする。


「ありがとうございます。市場から帰る前に少し買い物をしてもいいですか」

「分かった」

「市場で布を買いたいのですがどこか教えてください」

「昨日の店があった一角はずっとあそこにある。そこの近くで買えるぞ。金持ちはそこの人間を屋敷に呼びつけて服を作る。昨日の店はそういう金持ちの使い古しだ。特に子供の服は着られなくなれば売るそうだ。それを買う人間もいるが売る人間もいる。俺には関係のない話しだったが、ここに住むとなると少しはまともな服も必要だと思うな。買おうと思えば何でも売っているぞ。俺は自分で工夫して作るがな」

 ゴードンはそう説明してくれたから、洋服は作れないとしても、何でも手作りするのだと思う。


「分かりました。私も工夫して作ろうと思います」

「誰かが見たら驚くようなものは作らんでくれよ。俺に教えてくれると俺が作るけどな」

「はい。市場を見学して考えます。布団の置き場所は移動してもいいですか」

「構わんよ。何でも好きにしたらいい」

「ありがとうございます。お昼からケルトンに手伝ってもらい動かします」


     ☆ ★ ☆


 バミスは馬に乗っていたけどケルトンも馬に乗れると思う。バルソンに会うと馬を用意してもらおう。私は乗れるかどうか分からないのでケルトンの前か後ろに乗ればいい。


 ゴードンにも話して後から馬屋を確認しなくてはいけない。この時代は馬と剣が必要だ。馬の世話はバミスにお願いして、その中からケルトンに色んな状況を学んでもらわなくてはいけないと思う。


 ケルトンはゴードン様の仕事部屋に一緒に行ったので、私は自分の部屋に戻り考えごとをしていた。


「リリア、馬屋で赤い実をかごに入れ替える。一緒にやるか」

 私が部屋にいると声をかけられたので、

「はい。お手伝いします」

 私はそう言いながら表に出ると、ケルトンが話しかけてくる。


「リリア、ゴードンの仕事部屋には竹がたくさんありました」

「えっ、その竹で何か作っているの?」

 私はゴードンの方を向いてそう尋ねると、

「俺は山の家に落ち着くまでは色んな場所を旅して回っていたぞ。そこで竹に出会い作り方を教えてもらった。そこの人たちは色んなものを作り、家中が竹だらけだったぞ。山の家の近くにも竹がたくさん生えている。それでその場所を選んだが、二人にかごを作ってやるよ。俺は自分のを作ったしほかの物を作って売ったりしていたぞ」

「かご中に布を敷くと色んなものが入れられますね。ふたもあるのですか」


「……ふたはないがなるほどな、布を敷くとは考えてもなかった。そうすると隙間があってもその布で中身が隠せるな。その方がすぐに作れる」

 ゴードンは一瞬考えたような素振りでそう言ってくれる。


「ふたがなければ上から布を被せればふたになりますね」

 私はそう言ったけど、この時代にはふたの存在はないのだろうかとも思う。


「……なるほど、その手もあるな。赤い実は俺の作ったかごに入れる。トーリスが話したように二つで銅を二十粒にするかな? そうすると今日は六十個持って行こうか」

 彼は私を見ながらそう言ったけど、一回につきそれくらいの個数を考えているのかと思うが、毎回それくらいの個数なのだと思ってしまう。


「お屋敷の方にはいつ持って行くのですか」

 私はこの城の近辺をより知りたいと思い、一緒について行きたい気分でそう言ってしまうが、昨夜は馬車の中から、道の周りの屋敷だと思うが、がっちりと作られた塀が存在する外回りしか見てないので、屋敷の中はどうなっているのか興味がある。


「昼過ぎにここに帰ったら持っていこう。そこには俺ひとりで行くから二人で好きなようにすればいい」

「ありがとうございます」と私が返事をすると、『俺はリリアの手伝いをします』と、ケルトンがそう言ってくれるけど、一緒に行けずに残念だ。


 この馬屋は外の壁に沿って裏庭の中心部分に細長く存在しているけど、中を見ると広かったが馬車用の馬が一頭しかないけど、この屋敷の前の持ち主は何頭か馬を飼っていたに違いない。


 小さな馬車の荷台がもう一つあり、その荷台にリズの葉を敷いたかごを三つ入れて、前には二人しか座れないから私は荷台の方に座り、私たちは売り場に出かける。


 私には市場の現状が分からないが、明日は鐘の音の時間を調べようと思い、朝に鳴れば夕方にも鳴ると思うが暗くなるのは八時頃であり、洞窟では感じなかったが出かける場合は時計がないと不便だと思い、たまに内緒で見ないといけない。


 私はゴードンの竹やかごの話しを聞いると『竹細工』という言葉を思い出したが、屋敷に戻ると本を『ミーバ』にお願いしようと思い、彼は私の過去は聞かないけど、この時代にないものは作らないようにと(ほの)めかしたようだと思い、やはり、彼もこの時代の人間ではないのかしら? ソードの存在でそう思ったのかしら? と私は荷台の上でそういうことを考えているのだ。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。


今後は、バミスに続き、ゴードンとのコネクションも大事。

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