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☆★ リリアと『ソードの伝承』 ★☆  作者: Jupi・mama
第一章 『色んな人との出会い』
16/165

16=〈ゴードンの屋敷〉 (1)

    ☆ ★ ☆ (27)


 ゴードンが屋敷の前でいったん止まってバミスに合図をすると、バミスは馬を走らせて私たちの馬車を追い抜き、彼の顔が屋敷の方を向いているから、その門構えを確認しているかのようだった。


「ゴードン、ここですか」

「立派な屋敷だろう。この門構えを気に入った。この馬車はいつも裏門から入るからな」

「後からゆっくり見たいです。私は驚きました」

「私もです」

 ケルトンはそう言った後で私の顔を見る。


「裏庭と中庭もあるし馬屋も広い。前の持ち主は城の近くに移ったそうだ。この先で回って今来た道を戻る。西の門から少し離れているが今の状況を考えるとよかったな。塀も高いし、以前この屋敷を見せてもらって感じるものがあったからな」

 彼はこの屋敷との出会いそう説明してくれたけど、何でも買うときは自分の閃きを信じた方がいいのかなーと、彼の言葉で感じてしまう。


「ゴードン、城の周りや市場の略図とかあるのですか。私は位置関係が分かりません。どこかで手に入りますか」

 私はこの近辺は何も分からないから、そういう場合は地図があるととても便利だと思ってそう尋ねる。


「分かった。手に入れてやろう」

「城の中の見取り図なんかはありませんよね」

「それはちょっと無理だな」

 彼から即座にそう言って断られたけど、大まかな地図があれば上空から建物の雰囲気がつかめるのに、と思ってしまう。


「バルソンに聞くと手に入るかもしれません。城には書物がたくさん置いてある部屋があります。わた……俺はバルソンに案内してもらって何回か入ったことがあります」

 彼が俺と言い直しながらそう言ったから、頑張ってね、と心の中で呟く。


「その建物が城のどこにあるのか知っているの?」

「西の屋敷にいつもいたからほかの場所はよく分かりません」

 ケルトンが申し訳なさそうにそう言ったから、

「今度二人で上から見てみようか」

 私は彼の気持ちを察してこういう言葉を使ってしまう。


「よろしくお願いします」

 彼はそう言ったけど、ほかにも何か言いたいような素振りである。


「最初は私がひとりで行ってくるからね」

「その方がいいな。見張りもいるから気をつけろよ。上を見る奴はいないと思うが俺でもたまに空を見ることもある。満月の夜は明るいからな。何か感じるものがある」

「分かりました。気をつけます。新月の夜に行くようにします」

 私はそう言ったけど、新月の夜はほんとうに真っ暗で、天気がいいと空気が澄んでいて、満点の星だけはよく見える。


    ☆ ★ ☆ (28)


 西の門から入った左側に大小様々な馬車が並んでいるが、私の時代の言葉でいうと『駐車場』みたいな場所だと思い、ここは銅を五粒で馬車を預ける場所があり、預けた人は合い札をもらうそうだ。


 私はベンブロスという服屋を教えてもらい、ゴードンも前にここで買ったことがあるそうで、私たちだけで入るようにと言われたので、買い終わると店の前で待っているようにとも言われた。


 私はほかの人が着ている服を観察すると、上下お揃いの生地で作られた服を着ている人が多いと思ったけど、上下が別々の人もいる。普通の人たちはこういう服装なのだ。


 彼には生地のしっかりした大きめで新しそうな服を選び、上下お揃いの服を私の分も含めて三着ずつ買い、寒くなりそうなので膝辺りまでの上着も一枚ずつ買って、銀の粒を二十粒支払い、大きめの布の切れ端も合わせて買った。


 寒くなると大きめの服だと『ミーバ』から取りだし中に隠すように着れば、暖かくなるし目立たないと思うけど、ズボンのウエストは紐で縛るようになり、ベルト通しがついてないので不便だ。


 私は『リサイクルショップ』という言葉が閃き『古着販売』という言葉も思いだして、ここでの服のイメージがおおかた把握できたようで、何を着せてもいいような気がするけど、目立たないようにするのがいちばんだと思いながら、食事を済ませてゴードンの屋敷へ向かった。


     ☆ ★ ☆


「ホーリーいるか、ゴードンだ。裏門を開けてくれ」

 彼は馬車を降りて門をたたいてそう言う。


「……お待ちください。ただ今お開けします」

 中から返事が聞こえたけど辺りは暗くなりかけている。


 ホーリーが門を開けてくれ、ゴードンは馬車を進めて中に入り、私たちは馬車から降りているので、そのまま歩いて馬車の後ろに続いて入ると、ゴードンが馬車から降りてくる。


「ホーリー、俺の孫のリリアとケルトンだ。この屋敷に今夜から住むことになった。急な話しで悪いな。よろしく頼む」

 ゴードンがそう説明すると、

「初めまして、私はホーリーと申します。よろしくお願いします」

 彼はそう言ったけど、歳は四十を過ぎていそうな感じだが、肩幅があって体格はいいが背丈が私と同じようで、バミスは百七十センチほどあって背が高いような気がしたけど、ほかの市場でも断トツに背が高い人を見かけない。


「私はリリアです。弟のケルトンです。お世話になります」

「今夜から馬屋の奥の続き部屋を使ってもらう」

「はい。かしこまりました」

 少し四角くい顔が大きくて、左右の目が少し離れて鼻下も長く、顔のパーツが全体的に離れているホーリーだが、私やバミスは二重まぶたで顔の作りが鼻を中心に集約されている。


「飯は食べてきたから明日の朝からは頼んだぞ」

「はい。旦那様」

「俺が連れて行くから馬車を頼む」

「はい。分かりました」

 ホーリーはそう言って、馬の手綱を持って軽く馬の腹をたたいて前に進める。


「この部屋で食事を作る。この左側に井戸がある。ここは湯桶だ」

 ゴードンはそう言って右手で示しながら歩いていて説明してくれる。


「はい、分かりました」

「それから、ここはホーリーの部屋だ。左側のこの部屋で食事をする」

「はい、分かりました」

「さっきのは裏庭と呼んでいるが……ここが中庭だな」

「はい、分かりました」


「これが表の道から見えた正門だ。こっちは俺の仕事部屋と部屋が続き部屋になっているよ」

 彼がそう言って、右側の建物を指して次づきに説明してくれる。


「ほんとうにお屋敷ですね。こんなに広いとは想像もしてなかったです」

 私はそう言ったけど、こんなに広いとは信じられないし、驚いてしまいやっとまともな会話ができる。


「こっちの左側はまだできあがってない。門を開けると中が見えないようにお願いした。門を開けることはほとんどないと思うがな。だいたい裏門から出入りする。山の家から本格的にここに来ることになれば荷物が増えるからな。それを入れようかと考えているがどうなるかな?」

 彼は一旦立ち止まってからそう説明してくれる。


「中庭も広いですね。こんなに広いとは言葉がありません。ほんとうに私たちがお世話になってもよろしいですか」

 何だかお貴族様の屋敷のようで、私たちがここにいてもいいのだろうか。逆に心配になりそう尋ねてしまう。


「ホーリーにも孫だと説明したから今さら変更はできないぞ。リズからもよろしく頼まれたからな。これから先はどうなるか分からないがここでの生活には困らない」

 彼は奢ることもなくそう言ってくれる。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 私はそう言ったけど、もうどうなっているのだろうか、と頭の中の思考回路が自分のいた時代の映像の世界に飛び込んでいるようだ。


「この道沿いでは普通の屋敷だ。こっちがケルトンの部屋で奥がリリアの部屋にしよう。続き部屋だから中からお互いの部屋に入れる。この長屋は両親と子供のための部屋だったみたいだな。中庭の正面は客間で裏門の方は使用人の部屋だと思うがな」

 彼はそう言って、また説明をしてくれる。


「……全部で何部屋あるのですか」

「十部屋ある。明日明るくなるとよく見てくれ。朝は食事ができたら連絡してくれる」

「ほんとうにありがとうございます」

 私はそう言ったけど、ケルトンは何も話さずに私の顔をちらちら見ていて、私の会話を聞いて自分は話さない方がいいと思うのだろうか。


「こんなに部屋があるとは思いませんでした」

 私はそう言ったけど、この並びの屋敷の中は分からないが、あの辺りではトーリスの家はしっかりした造りだと思ったけど、こことは比べものにならない。さすが城の近くだけあると思う。


「今日は長旅で疲れたろう。俺もあそこから戻ってくると疲れるからな。若いと言え同じだと思う。すぐ暗くなる。もう自分の部屋に入って休みなさい。一応はどの部屋でも眠れるようにしてある。明日ゆっくり見ればいい」

「ありがとうございます。おやすみなさい」と、私。

「おやすみなさい」と、ケルトン。


 こんなに大きな屋敷だとは想像もしてなくて、入り口の正面にはベッドの上に布団が片方に折り曲げてあり、私の部屋もケルトンの部屋も続き部屋の入り口もすべて引き戸になり、入り口の引き戸を開けると中が丸見えだから衝立てで仕切りたいと思った。


 戸を閉めると真っ暗になってしまい、ランタンの灯りを落とし私の部屋でケルトンと少し立ち話しをしたけど、今日は朝も早くて道中にも色んなことが起こり、疲れたからもう寝ることにしたが、今までは毛布だけだが、この布団は上下とも毛布よりは柔らかくて寝心地がよく、明日はこの布団を外に乾そうと思った。


     ☆ ★ ☆ (29)


 一方では、バミスは直接バルソン様の屋敷へ行き、彼の帰りを待っている。


「お待ちしていました」 と、バミスがそう言うと、

「あいつから合図をもらったがほんとうか」

「はい。間違いありません。屋敷も確認してきました」

「それはよかった。あいつにはあそこに行けと合図した。バミスもこのまま行け」

「はい。日頃のお礼にとこれを預かって来ました。私もいただきその場で食べました」

「何だ、これは?」

「甘くておいしいです。食べてください」

「分かった。私は朝いちばんで出かける用事がある。ご苦労だったな。ゆっくり休め」


 バミスはバルソン様の合図通りにシーダラスの屋敷へ向い、私朝いちばんで出かける用事があるとは、朝いちばんで待ち合わせの場所に来い、という合図である。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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