15=『バミス』との最初の出会い (2)
やや長文です。
9月から朝6時ではなく、予約投稿時間を7時に変更します。
10月に入ると、8時にしようかな??
☆ ★ ☆
『ソーシャル、バミスはどっちに行ったの?』
『右側の方にいます。リリアたちを見ているのでしょう。クーリスは馬を取りに行っています』
『分かった。私が通りすがりに合い言葉を二回言ってみるからね』
『分かりました』
☆ ★ ☆
私は知らない振りをして、けるとんとんの言葉を二回繰り返し彼のそばを通りすぎる。
「おい、待て、そこの女。なぜその言葉を知っているのだ」
「……あなたはバミスなの?」
私は立ち止まって振り返り、彼の顔を見てからそう言う。
「えっ、なぜ俺の名前を知っているのだ」
そう言った彼の顔をよく見ると、二重まぶたで色が少し浅黒いが驚きの表情を隠しきれてないようだ。
「私はシンシア様とバルソンの名前も知っています」
「その名前も知っているのか」
「先に質問してもいいですか」
「分かった。先に話しを聞こう」
そう言った彼の左手には長めの剣の鞘が握られているが、その手に力が入ったように感じるけど、私は手に何も持っているわけではない。
「あなたたちは内緒で王子様を捜しているのですか」
私はバミスを正面にして小声でそう言う。
「……お前は誰だ。リリアと呼ばれていたが、なぜそのことを知っているのだ」
「私たちは今から馬車で出発します。人のいないところでお話ししましょうか」
私が彼の顔を真剣に見つめてそう言うと、
「分かった。ここではまずいな……俺が馬車の後をつけよう」
彼の二重まぶたの眼がやや大きく見開き、首を動かし周りを確認してそう言ったけど、私より五センチほど背が高いようだ。
☆ ★ ☆ (26)
「ゴードン、馬車を出してください。人通りが少なくなると馬車を止めてください。後ろの二人と話しがしたいです。私が話すからケルトンは馬車で待っていてね」
「分かりました」
「ケルトン、バルソンはシンシア様に頼まれて、バミスはバルソンに頼まれて王子様を捜していたのね。もうじき半年になるそうよ。こんなに長く探していたのよ。後から会ってご挨拶をしなさい。クーリスの名前は知っているの?」
「いえ、知りません」
「会うのはバミスだけの方がいいわね。最初は私がひとりで話すからね。ゴードン、話しの成り行きでお屋敷のことを話してもよろしいですか」
「俺の孫たちが一緒に住むのだから話しもいいぞ」
ゴードンがそう言ってくれ馬車を出発させた。
☆ ★ ☆
しばらく進んでゴードンは馬車を脇道に入れて止めたので、私は馬車を降りて後ろの馬に近づき、バミスだけを呼びだして話すことにする。
「私の話しを先に聞いてください。王子様はなぜ命を狙われたのですか」
「そのことはバルソン様に聞いてください。私は詳しくは知らないです。私はシンシア様とバルソン様に探すように頼まれました。このことは私たちの仲間は数人しかしりません。私はクーリスと組んで王子様を探しています。さっきの年寄りがケルトンと呼んでいましたがほんとうに王子様なのですか。私は正直に話しました。その答えを聞く方が先です」
彼は馬車が止まるまでに考えていたことを、立て続けに話したようだ。
「……そうです、と言ったらどうしますか」
「私が王子様を確認できれば、まずクーリスからバルソン様に連絡をさせます。そして私が王子様をお守りします」
「分かりました。ケルトンがバミスの顔と名前を覚えていて、さっき教えてくれました。今のケルトンは私の弟でゴードンの孫ですから、そこをよろしくお願いします」
「……分かりました。私が直接確認したいです」
私がケルトンに手招きをすると近づいて来るので、二人で何も話さずに、バミスの視線はケルトンに向けられているようだ。
「バミス、私の顔をよく見てくれ。私はマーリストンだ。覚えているか」
彼がそう言ったので、彼は初めて自分の名前を口にしたのだ。
私は初めてほんとうの名前を聞いて嬉しかったけど、ケルトンが私の方を見てにっこり笑ってくれた顔は、子供ながらに大人びたような顔つきになり、バミスを目の前にすると家臣という言葉が浮かび上がり、城での態度に変わって行くのかと思う。
「間違いありません王子様。ご無事で何よりでした。私は嬉しいです」
「半年もの間私のことを探してくれたそうだな、ありがとう。私はリリアに命を助けてもらった。バミスにも礼を言ってもらいたい。私はリリアに感謝している」
ケルトンはそう言ったけど、半年間の言葉は使ってほしくなかったけど、彼はこういう口の利き方をしなくてはいけないのかなとか思う。
「リリア様、王子様を助けていただき、ほんとうにありがとうございました」
彼は深々と頭を下げてそう言ったけど、半年間の言葉がスルーされているので助かる。
「詳しくは話せないけど偶然だったのよ。マーリストンという名前は初めて知ったのね。とても素敵な名前ね」
「ありがとうございます。私はリリアに初めて名前を伝えました。前に教えようかと思いましたが……どうしても言えませんでした」
彼は申し訳なさそうな顔付きでそう言っている。
「いいわよ。バルソンに口止めされていたのでしょうね。分かっているからね」
「ありがとうございます」
「バミス、ケルトンは私の弟ですからよろしくお願いします」
彼に直球に弟の言葉を使ったけど、私たちの立場を説明したつもりだ。
「……私は王子様とは呼べないので助かります。私はバルソン様のそばにいましたから、顔と名前を覚えていただき光栄に思います。バルソン様に一刻も早く知らせたいのでクーリスに話してきます。少しお待ちください」
「分かりました。すべては極秘でお願いします」
「こちらも望むところです」
そう言った彼は足早に走りクーリスのそばに行くけど、バミスの言動すべてがバルソンに早くこの事実を知らせることを優先していると思う。
私もそう望むことが現実だと思いながら彼の後ろ姿を見ていたが、私たちはその間に馬車に戻り、その間にもバミスをちらちら見ている私の視覚は話しを聞き終えたのかクーリスが素早く馬で走り去ったのを確認した。その後バミスは馬を引いて馬車のそばに来る。
「初めまして、私はバミスと申します。どういう経緯でこうなったのかは分かりませんが、王子様を助けていただき、ほんとうにありがとうございました」
バミスが馬車の上に座っているゴードンに対してそう言うと、
「初めまして、私がゴードンです。私の孫は王子様ですね。私が助けたのではありません。リリアが助けたのです。ひょんなことで私たちは家族になりました。残念ながらそのことはお話しできませんが、私は南の城の近くに屋敷があります。今から三人でそこへ行ってしばらく家族として暮らす予定です」
ゴードンが一気にバミスを見てそう説明すると、
「分かりました。私がその屋敷で王子様のそばにいてもよろしいのですか」
「ケルトンと呼んだ方がいいですね。そばにいるのは困りますかな」
ゴードンがそう言ったけど、バミスの気持ちは分かるけど私も困るのよね。
「……ゴードン、バミスをケルトンの剣の先生としてお迎えしてはどうでしょうか」
私は突然閃き二人の顔を交互に見てそう言うと、
「なるほど、それは名案だな。俺たちが捜す必要がなくなったな」
ゴードンはそう言って賛成してくれるみたいで、彼はバミスが持っている左手の剣に視線が向いていることに気付く。
ゴードンはバミスの顔と彼の持っている剣を馬車の上から見ているようで、ケルトンは私の少し左斜め後ろにいるが、ソーシャルが近くに人の気配がないと教えてくれる。
「はい。私も一緒に習いたいです。よろしくお願いします」
「それも名案だ。一緒に練習すればいい。リリアも上手かもしれないぞ」
「私はバミスにも教えてもらったことがあります」
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。私は王子様を見つけられなかった責任として、城での仕事を辞退します。しばらくして剣を教える仕事が見つかったことにします。クーリスにはバルソン様だけに話すように頼みました。城の近くになれば馬をゆっくり走らせるようにと伝えました」
バミスはそう説明しているが、バルソンはいつも城の中にいるのだろうか。
「バミス、私は屋敷に落ち着くとケルトンのために、バルソンをいちばんに捜そうと思っていたのよ。ケルトンはずっと城のことは話さなかったからね」
私がバミスの顔を見てそう言うと、
「ありがとうございます。私が必ず連絡を取ります」
彼は私の顔を見ながらそう言っているけど、その視線はすぐケルトンに移動している。
半年もの間、生きているのか死んでいるのかも分からずに探し回っていた二人の気持ちを考えると、私たちも色んなことがあったけど当事者であり、そのことを知らずに申し訳なかった。ケルトンが何も話さなかったからな。
私が強く聞けばよかったのだ。自分のことも分からなくて月日の経つのも深く考えず、私はいったい何を考え何をしていたのだろうか。でも、ひとりではなくて楽しかった。それだけははっきりと言える。
「バミス、私はリリアに命を助けてもらい色んなことを教えてもらいました。今まで洞窟でリリアと生活していたんだ。城とは違ってとても楽しかった。自由に行動ができたからね。自分の好きなことができてとても嬉しくて、ここでは今までのバルソンの教えが役に立ちました。バルソンに会うとありがとうございましたと伝えてください」
「はい、分かりました。そのことは必ず伝えします」
「そうだ、バルソンにお礼としてこの赤い実を渡してください。バミスにも一つあげます。甘くてとてもおいしいから今食べてみて、私は大好きですよ」
ケルトンはそう言いながら、背中の袋から赤い実を二つ取りだす。
「ありがとうございます。いただきます」
彼はそう言って受け取り赤い実を見ている。
「私たちは明日からこの赤い実を市場で売ります。バルソンにさり気なく見にくるように伝えてください」
「分かりました。これはおいしいですね。私はこういう赤い実は今まで食べたことがありません」
バミスは一口食べてそう感想を述べる。
「ゴードン、売る場所は決まっているのですか」
「そうだな。いつも西の門の近くで売ることにしているが、昼まではいるから私たちを探してみてください」
ゴードンはバミスの方を見てそう言う。
「分かりました。必ずバルソン様にこの赤い実を渡して伝えることを約束します」
「バミス、私は命令してもいいですか」
「えっ、はい、何でしょうか」
「ここは城とは違います。バミスが友だちに話すように私にも話してください。私が王子だと分かっても、ゴードンもリリアも話し方は変わりませんでしたよ」
ケルトンはバミスの心構えを伝えるためにそういうのだろうか。
「分かりました。ありがとうございます。以後気をつけます」
「もーっ、その言葉自体が違うのよ。私であれば分かった、ありがとう、となるのよ」
私が砕けた言葉でそう言い直すけど、ケルトンの気持ちを考えてのことである。
「ゆくゆくはこの南の城の王になる方です。私はさっき出会ったばかりでそのように簡単には変われません。王子様が生きているだけで私のここはバクバクです。もう信じられない話しです。私たちは生きていると信じて半年も探したのです。私の気持ちも理解してください。マーリストン様は南の城の王子様です」
バミスは右手で左胸を触りながら、一気に自分の気持ちを爆発させたようにそう話す。
「……ごめんなさい。分かりました。今のバミスの言葉を聞いて安心しました。私もケルトンが王になることに協力したいと思っています。そのことも伝えてください」
私はバミスの顔をぐっと見つめて自分の考えをそう伝える。
「バミス、リリアはすごいですよ。私はとても頼りにしています。私の仲間はすごいとしか説明ができません。ほんとうに驚きますよ」
ケルトンは私を庇ってくれるのか、バミスの方を見てそう話すから驚いたけど、彼の言葉は私にしか理解できないので、ごめんなさいね、と心の中で呟いてしまう。
「分かりました。ケルトンの言葉をそのままバルソン様に伝えます」
「ケルトンと言ってくれてありがとう。名前の練習をした方がいいですよ」
「分かりました。一度口すればずっと言えそうな気がします」
バミスはそう言って苦笑いをするけど、これから先のことを考え、この場でケルトンと呼び捨てにした方がいいと思うのだろうか。
「そうですよ。私なんかもう呼び捨てですからね。怒ったこともあるしね。私の弟です。屋敷の周りや市場の人たちにも普通にしなくてはね」
その現状も分かってないのに、私は偉そうに言ってしまう。
「バミス、私は今の王様と違う力を手に入れました。仲間という言葉です」
彼の口から『家臣』という言葉ではなく『仲間』という言葉が飛び出すから、私は驚いたと同時に、バルソンの教えなのだろうかとも思ってしまう。
王の下では家族であっても『家臣』、何かの本で読んだような言葉だけど、私たちのことを『仲間』だと思いその言葉を使ってくれたのだ。私としては姉という言葉よりも王子様の友達の方がいいんだけどな、とか思ってしまう。
「私はお二人の過去の話しを詳しく聞けないのが残念ですが、ケルトンがお二人を信じていることはよく理解できました。そのこともバルソン様に必ず伝えます」
「ありがとう。よろしくお願いします」
ケルトンはそう言ったが、彼の話し方は少し王子としての言葉遣いを思い出しているようだな、とか勝手に思う。
「私たちは彼が大人になるまで隠れていた方がいいと思います」
「ありがとうございます。私は詳しくその状況が理解できませんが、バルソン様を尊敬しているので彼の指示に従いたいと思います。まずは剣と馬の練習をしながら物事を理解していただきたいと思います。ずっと私がそばにいてお守りします」
「分かりました。私はバルソンと二人で話しをしたいです。その都合を聞いてもらえますか」
「分かりました。そのことも伝えます。私はゴードン様のお屋敷を確認するとバルソン様に直接会って必ず伝えます」
彼は私の方を見てそう言ったけど、ケルトンの方にも視線が向いている。
「それでは出発することにしましょう」
ゴードンがそう言う。
「私は馬で後をつけます。ほんとうにありがとうございました」
バミスはそう言って一礼をして、馬に乗って馬車の後方へ移動する。
☆ ★ ☆
「ゴードン、私たちの着るものはどうしましょうか。買いそびれましたね」
「ほんとうですね。もう大きな市場はないのですか」
ケルトンも気になっているのかそう言ってくれたようだ。
「……遠回りになるからな。このまま屋敷に行った方がいいような気がするが」
「バミスに屋敷だけ教え、そのまま買いに行ってもいいですか」
「屋敷に行っても今夜の飯はないだろう。服を買って何か食べるか」
「はい、楽しみです。鹿肉はおいしかったです」
ケルトンの顔の表情は鹿肉に気持ちが飛んだようで、にこやかに笑みを浮かべてそう言ってくれたように感じでしまう。
「私もとてもおいしかったです」
私もそう言ったけど、鹿肉のスープだけではなく、甘くなく塩加減がほどよく効いてパンもおいしかったのだ。
バミスは私たちの馬車の後ろで距離を保ちながら着いてきたから、私たちはソードには乗れない。彼の前でケルトンを歩かせるわけにはいかず、ずっと私たちが馬車に乗っていたから馬の負担は大きいと思い、途中から中心に座っているゴードンは右側により、私たちは左側でソードを浮かせてその上に二人で座わり、お互いの体重を減らして馬の負担を軽減した。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
リリアとバミスは、相思相愛の運命かも……??




