14=『バミス』との最初の出会い (1)
やや長文です。
今後は、六千文字以上、八千文字未満は、やや長文という言葉を、
前書きに書こうと思います。
☆ ★ ☆ (23)
馬車の上で考えごとをしていたが、ふとトーリスの家を見ると、ゴードンが右手に何かを持って歩いてくる。
「この布を赤い実にかけるから手伝ってくれ。今日はこんなにたくさん赤い実が拾えるとは思ってもなかったからな。さっきトーリスに譲ってもらった」
ゴードンは馬車に近づいてからそう言う。
少々汚れていたが灰色の大きな布を二枚持ってきたので、私たちは馬車の中の赤い実を隠すためにカバーをかぶせたけど、ここに来るまでの街道沿いは午前中で太陽の光が森の木々に邪魔されて、馬車には直射日光は当たっていなかったような気がしたけど、それとも、これから先の盗難防止の理由からだろうか。
それから私たちは馬車に乗って出発したけど、彼はしばらく馬車を走らせてから突然馬を止める。
「この袋をリリアに渡すからな。この中には銅の粒が五十個と銀の粒が五十個入れてあるから受け取りなさい。今朝もたくさん手伝ってもらったからな。ケルトンは知らないと思うが銅の粒が百個で銀が一つだ。銀の粒が百個で金貨を一枚に換えられる。必要なものを買うときは、最初に銅や銀が何粒いるかを聞いてから必ず買うようにしなさい」
彼がそう言って私にその袋を渡してくれる。
「ありがとうございます。助かります」
私はそう言って受け取ったけど、信じられない話しである。私が何も持ってないと最初に言ったのでくれたのだろうか。それともリズと話しができたことのお礼なのだろうか。そのこともリズと話し合ったのだろうか。
「逆に金貨を一枚持っていると、銅や銀にも取り替えられるのですか」
私が自分の持っている金貨のことを思いそう聞くと、
「取り替える場所があるとは聞いたが俺は行ったことがない。俺はトーリスに頼んで銅や銀に取り替える」
彼がそう説明したから、彼は両替商の仕事もしているのかと思う。
「トーリスの家はその辺の家とは作りが違いますね」
私が道沿いの家や先ほどの周りにあった建物を思いだしてそう言うと、
「まーな、人を頼んで畑をやっているそうだが詳しいことはよく知らない」
「それを市場で売るのですか」
「城の近くの人間が買いに来るそうだ。彼は親の代からずっとここに住んでいると言っていたぞ。俺も泊まったことがあるが知り合いがたくさんいそうだな。ケルトンも仲間をたくさん作らなきゃな」
彼が馬車を走らせながらそう言うと、
「はい。よく覚えておきます」
ケルトンはそう言ったけど、彼は仲間作りの意味合いを感じとれるのだろうか。
「トーリスはここの市場では、赤い実を二個で銅を十五粒で売ると言っていたが、向こうでは赤い実が二個で銅を二十粒にした方がいいと話していたぞ。自分のほしいものがあれば赤い実で取り替えられるが、俺は今までやったことがないな」
「お屋敷の方ではどれくらいで買ってもらえるのですか」
「冬場はひと月に二、三回リズに合いに行っているからな。出かける度に百個ほど渡して、全部で金貨を一枚もらっている。 まとめて買ってくれるから助かるよ」
「そこのお屋敷で、ほかのお屋敷を紹介してもらえるといいですね」
「今年は聞いてみるかな? まとめて売ると市場で売る分が少なくなるけどな。市場で買ってくれる顔ぶれは毎年決まっているが、皆は楽しみに待ってくれるそうだぞ」
彼がそう言ったから、この赤い実が市場の人たちに定着していることを話しているのだろうと思うけど、どこまで彼の言ったことが真実かどうか理解できないのよね。
「この実は瑞々しくて甘くておいしいですから、私は初めての食べたときは驚きました」
私が最初に食べたときの感想を含めてそう言うと、
「私もです。今まで食べたことがなかったです」
ケルトンもそう言う。
「今年は俺たちも柔らかく煮詰めて少しずつ食べるか」
「ゴードンが煮るのですか」
ケルトンは煮たり焼いたりと、私の手伝いで経験したことがあるので、そう尋ねたような気がする。
「俺じゃないよ」
「えっ、私がやるの?」
驚いてそう言ってしまう。
「違う。俺の屋敷では使用人を頼んである。二人に出会う前の話しじゃないか」
「そうですよね」
私はホッとしてそう言う。
「二人とも家のことは心配しなくていい。自分の部屋ぐらいは片付けてもらいたいが、俺は自分の部屋に人が入るのは嫌いだから錠をお願いした。リリアもケルトンも別々の部屋があるから心配はいらない。あとで錠を頼んでやろう。隅の隣り合わせの部屋にするかな……ソードのことを考えるとあそこがいいかな」
彼は部屋の状況を頭で考えているように、私たちにも説明しているかのようにそう言っているようだ。
☆ ★ ☆
「私たちは荷物が少ないですけど、お屋敷に行って変に思われないでしようか。ケルトンに着る物を買いたいです」
私は自分の服も買いたいけど、彼の名前を出してそう言う。
「俺も少ないけど屋敷には着る物は置いてある。屋敷の様子を見に行ったときに着る物は買っといた。次の森を抜けると大きな市場がある。馬車を預けて少し着る物でも買うか。そこで飯でも食べよう」
「分かりました。よろしくお願いします」
私はそう言ったけど、服を買うよりも食事ができる方が嬉しい。
「ほかの人が着ている服を見るのはどうだ。市場では色んな人間がいるぞ。俺は人を見るのは好きだな。俺はこんなみすぼらしい格好をしているが、意外に金貨をたくさん持っているから心配はいらない。俺の屋敷を見ると分かる。服は同じ店で買えば銀を十粒出すと言えば二人分で何枚かは買えると思うぞ。今回は先に言った方がよさそうだな。馬車を預けて俺の知り合いの店に行くか」
「はい。ケルトン、市場に着くまでにお腹すけば赤い実を食べてね」
「はい、分かりました」
「これからしばらくは森の中に入る。降りるか」
「はい、そうします」
私はそう言って、私たちは一緒にソードに乗りゴードンの左側を進む。
ケルトンと一緒にビーフジャーキーの袋を開けて、私もお腹が空いていたからケルトンも空腹だと思い、ゴードンには見えないようにするために、視覚的に馬車の後方にソードをずらして食べた。
それからペットボトルを出して水を飲ませ、これを布袋から出さないようにと説明をして、これからは人のいない場所で隠れて飲むようにとも話すと、彼が『出かけるときに便利ですね』と言ったが、これも見せてはいけない物だが仕方がない。
ゴードンが馬車をゆっくり走らせるとソードを降りて歩くようにと言われているから、私たちは馬車の後ろを歩くことにして、ゴードンの屋敷に着いて落ち着いけば、私は金貨を銀に取り替えようと思うけど、私がひとりで取り替えてもいいのだろうか。
☆ ★ ☆
私たちは馬車を預けて先に食事をすることにする。
「この店の鹿肉はうまいぞ。ここで食べよう。ここに座ってなさい。俺が三人分頼んでくる」
そう言ってゴードンは家の中へ入って行く。
「私も前に鹿肉は食べたことはありますがおいしかったです」
「……ここでは普通に食べるのね。私は覚えがないけど……食べたことがあるかしらね?」
私は記憶を全開にして考えてからそう言ってしまうが、よく思い出せないのが現実だ。
「向こうにもあるのですか」
「……それも分からない。何か違う肉のような気がするけどね」
私がまた考えながらそう言うと、
「バミス、ここで待っていてください。俺が頼んできます」
「分かった。大盛りで頼むよ」
この会話が聞こえた途端に彼が横を振り向くと、彼の顔つきが急変する。
「リリア、俺は馬車に忘れ物をしたから取ってくる」
「……いいわよ」
私はそう返事をしたけど、自分のことを『俺』と言ったので驚いてしまい、少ししてゴードンが戻ってきた。
「リリア、ケルトンはどうした?」
「馬車に忘れ物をしたから取りに行くって、見つけられないといけないから私も行ってきますね。食事はまだこないですよね」
「……もう少しは時間がかかると言っていたぞ。見てきなさい」
ゴードンがそう言ったから、私が説明した意味を理解していると思う。
「分かりました」
そう言ってから席を立ち、ちらりとその男を見ると向こうも見ているのだ。
☆ ★ ☆
『ソーシャル、ケルトンが馬車の近くにいないの、調べてくれる?』
『分かりました』
『トントンと話せるの?』
『連絡します。少し待ってください』
『ゴードンのそばにいる二人の男の会話を調べてね』
『分かりました』
☆ ★ ☆
『リリア、ケルトンが城での知り合いを見つけたそうです』
『えっ、さっきの名前で顔色が変わったのよ。突然俺と言ったからビックリしたのね。だから席を外したのね。ゴードンがケルトンの名前を言ったのよ。私が席を立つときにその男と目があったのよ。どうする?』
『席に戻った方がいいですね。ケルトンを馬車に戻します。俺という言葉はトントンと練習したそうです。屋敷に行けば使うと話していました』
『分かった。名前や話し方の練習もしていたのね』
☆ ★ ☆
「ケルトン、さっきはビックリしたのよ。どうしたの?」
「いつもバルソンのそばにいる……バミスがいました」
「えーっ、ゴードンがケルトンの名前を言ったのよ。私も目が合っちゃったのよ」
「どうしましょうか。ケルトンの名前を知っているかどうか分かりません」
「とりあえず戻ろう。向こうが声をかければその場で考えるから私に任せておいて、ケルトンは何も話さないでよ。ゴードンにはあそこでは話せない。何か感じていると思うから大丈夫よ」
「はい、分かりました」
☆ ★ ☆ (24)
私たちは何ごともなかったように先ほどの席に戻り、ケルトンは彼らとは背中合わせに座らせる。
「忘れ物は見つかったのか」
「はい」
ケルトンは何ごともなかったように返事をしている。
「野菜と一緒に煮込んであるからここの鹿肉はうまいぞ。固くもないし臭くもない。この辺りは鹿が多くて干し肉にもする。薄く削いで干したやつは手間がかかるそうだ。俺も食べたがうまかったぞ」
「俺も食べてみたいです」
「……そうか、よく分かった。鹿狩りをしているやつにも知り合いがいる。その場で血抜きをして持って帰るそうだ。大きい場合は一頭だけしか狩らなくてな、その鹿の角で色んなもの作るそうだぞ。今度は鹿の干し肉を頼んでおこう」
「何だかおいしそうね。日持ちもよさそうだしね」
「ほんとうですね」
ケルトンがそう相槌を打ってくれる。
「来たみたいよ」
私は家の方を見てそう言ったけど、彼はお盆みたいな台の上に丼みたいな木の器を四つ載せている。
「待たせたな。よーく温めたからうまいぞ。このパンも一緒に食べてくれ」
彼はそう言ってパンの皿は真ん中に置いてくれた、こんがりときつね色に焼けたコッペパンみたいな形をした、シンプルなパンが三つ入っているけど、ここには小麦粉の存在があるのだろうか。
「いつも悪いな、フィーサス。俺の孫たちだ。気に入ればまた連れて来るよ」
「俺はいつでも待っているからまた寄ってくれ」
彼はそう言ってお盆を右手に持ち部屋の方へ向かう。
「熱そうね。今度はかっちんにも食べさせたいわね」
「ほんとうだね。弟たちにも食べさせたいよ。来るのは暖かくなってからかな?」
「そうね、また連れてきてもらおうね」
私たちは意味不明の会話をしている。
「家に帰るときにここに寄って干し肉を持って帰るか」
「はい、お願いします」
私はゴードンを見てからわざとらしく、彼らに悟られないようにそう言うと、
「後でフィーサスに頼んでおこう。熱いから気をつけろよ。食べるときは静かにな」
「「はい」」
私たちは同時にそう返事をしたけど、ゴードンもこの会話の意味が理解できていると思う。
☆ ★ ☆ (25)
一方では、バミスとクーリスの会話。
「クーリス、俺はさっき驚いたぞ」
「どうしたのですか」
「向こうに座っていた子供だ。ケルトンと呼ばれていたぞ」
「えっ?」
「話しをよく聞いていたが、そばにいる男の孫だと話していたぞ。顔が正面ではないからよく見えなかった」
「同じ名前の子供もいるものですね」
「そうだな。もうそろそろ城に戻らなくては……もう時期半年になる。シンシア様は残念がるだろうな。俺はお知らせするのが辛いよ。バルソン様にも連絡しなくてはいけないし、こんなに探したのに噂話すら耳にしない。俺は報告する言葉が考えられないな」
「それともさっきの子供を調べてみますか」
「これでだめだったら城に戻ろうか」
「分かりました。馬を連れてきます」
「俺は見張っているから頼んだぞ」
☆ ★ ☆
『リリア、ケルトンにシンシア様とバルソンの名前を知っているかどうか聞いてください。内緒でケルトンのことを探しているみたいですね』
『バルソンの名前は聞いたことがある。待って』
「ケルトン、シンシア様という名前は知っているの?」
「えっ、なぜその名前を……」
ケルトンはそう言って驚いた表情になる。
「これは話したくなかったけど、ソーシャルがバミスたちの会話を聞いたのよ」
「えっ、ソーシャルが会話を聞いたの? シンシア様は私の母の名前ですよ」
ケルトンがそう言ったから、今度は私が驚いてしまう。
ソーシャルもトントンも私たちの周りの音を拾うことができる。聞こえる範囲は知らないが、そのことをケルトンには話していない。今の彼はシンシア様に意識が飛んでいるみたいだ。
「……バルソンとバミスは内緒でケルトンのことを探しているみたいよ」
「……分かりました。バミスの近くで『けるとんとん』の言葉を二回続けて言ってください。意味が分かると思います」
「分かった。馬車で待っていてね。ゴードン、私が話してきます」
「分かった。気をつけろよ」
「はい」
私が返事をしてから二手に分かれて動き出す。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




