10=〈金貨の隠し場所〉
少し長文です。
☆ ★ ☆ (16)
「リズ、リリアです。遅くにすみません」
私はリズと最初に二人で話した枝よりも上方の位置に潜り込み、彼女に話しかける。
『えっ、リリアなの? 何かあったの?』
「リズにお願いがあって来ました。ゴードンとはたくさん話せましたか?」
下いるゴードンはすでに寝ているとは思うけど、彼に聞こえないような小さな声で尋ねる。
『あれから暗くなってからもたくさん話したから楽しかったわよ。その間にフォールから風の音が届いてね。名前をつけてもらったと喜んでいたわよ』
リズが嬉しそうな声の響きでそう言う。
「突然言葉が閃いて伝えました。フォールから滝の言い伝えを聞きました。ありがとうございました。ゴードンは言い伝えの内容を知っているのですか」
ゴードンが言い伝えの内容を知らないことを願いながら、金貨のことを内緒にするようにケルトンに話したからそう尋ねる。
『二人でその話しはしなかったからね。彼は内容まで知らないと思うわよ。さっきも言わなかったでしょう。まさかほんとうに財宝が見つかったの?』
そう言ったリズの声の響きは驚いているように聞こえる。
「見つかりました。壺の中に金貨がたくさん入っていました」
『えっ、金貨だったの? これも信じられない話しね』
リズがまた驚いたようにそう言ったから、彼女もはっきりとした事実は把握してなかったようだと思う。
「私たちがソードに乗ってずっと奥の方に行くと、突き当たりが空間になり天井に小さな穴が開いていました。そこにある大きな石を二人で退かして少し掘るとありました。それで、その穴から金貨と一緒に洞窟へ戻って来ました」
私は細かい状況までは話さないけど、リズに金貨のことを話すとよけいに現実味が増してきて、この時代でもお金の存在は必要なのだ、とまた強く思う。
『あの言い伝えは真実だったのね。でも……やはり信じられないわね』
「ほんとうの話しなんです。それでお願いがあるのですが、金貨のことはゴードンには内緒でお願いできますか。それ私たちはあそこの洞窟にいつ戻れるか分からないので、金貨をリズに預かってもらいたいです」
『えっ、私が預かるの。どうやって預かるのよ』
「丈夫な袋に入れ太い枝の上に紐で縛ってもよろしいですか」
『紐が切れたりしないの? そこまで面倒はみられないわよ』
「頑丈な袋で紐も切れにくい物にします。それは心配ないです」
この時代の動植物の繊維は知らないし、袋と紐の状態を説明しきれないと思う。
『なるほどね。この樹は下から登ったりはできないからね。まして、下から赤い実も見えないくらい葉が茂っているからね。隠すには最高の場所だと思うわよ』
「私もそう考えました。リズに守ってもらいたいです。私はこの金貨をケルトンのために使おうと思います。彼が南の城に戻れると彼の財力として、この金貨は力強い味方になると思います。さっき十枚だけケルトンに渡しました」
私はそう言ったけど、この金貨一枚がどれほどの価値があるのだろうか、リズに聞いても分からないだろうな、と思ったから聞かない。
『私はその使い方に賛成ね。人間が生きるためには財力が必要みたいね。私たちには関係がないから見つけた二人の物よ。ケルトンはまだ子供だからリリアが好きにすればいいと思うわよ』
「ありがとうございます。ゴードンには内緒でお願いします。ケルトンにも内緒にすることを話しました。この洞窟探検でケルトンの城での話しを少し聞きました。剣は練習したそうです。ほんとうの名前は教えてくれませんでしたが、ケルトンの名前はやはり違うと思いますね。多くを語ってはいけないと指導されたみたいです。その指導をした人の名前を教えてもらったので、探し出して連絡を取ろうと思います」
私はそう言って金貨からケルトンの話題に変えたけど、リズにも彼の状況を知らせた方がいいと思うからだ。
『やはりね。その人に連絡を取ってこれからのことを相談した方がいいわね。その人も彼が生きていることを知ると驚くわね』
「はい。ケルトンにも彼の教え方がよかったと話しました。そのために私も金貨を少しもらいました。それで、彼に会えると今後のために金貨を渡そうと思います」
私は自分の考えをそう説明する。
いつの時代でも人の心よりもお金の存在は偉大だと思う。相手の性格はすぐには理解できないし、第一印象としての自分の第六感を信じて行動を起こそうとも思っている。
『すでにリリアのものなのだから、必要ならバンバン使っちゃいなさい。ケルトンの仲間を作らなくてはね。仲間は大事よ』
リズが仲間の話をしてくれたから、リズにもあちこちに高樹齢として長い年月を生き延びた仲間がたくさんいそうな気がする。
「リズも、リズの仲間もゴードンもすべてケルトンの仲間です。これからはよろしくお願いします。リズの仲間に王子様の話しは風の音で知らせていませんよね。そのことも確認しようと思いました」
『大丈夫よ。心配しないでね。名前と孫の話しと、私と三人で会話ができたことだけね。それと……リリアが鳥のように飛べることよ。彼は大人になるまで身分を隠した方がいいでしょう。そのことは私も理解しているからね。ゴードンも同じことを話していたけど、お屋敷の生活はゴードンに任せればいいと思う。あなたたちが家族として住むことに賛成しているのよ。ゴードンは友達がいたとしても、ずっとひとりだったみたいだからね』
リズはゴードンのことをそう説明してくれる。
実際にゴードンとリズが何を話したのか知らないが、二人はケルトンが身分を隠すことを承知しているし、ゴードンはあの歳まで結婚をしていないのだ。
「ありがとうございます。もう一つリズにお願いがあるのですが、私のソードの名前はソーシャルと言います。彼女もリズと話しができるのか試したいのですが、よろしいでしょうか」
私はソーシャルとリズが話すことができれば最高だと思いそう聞く。
『いいわよ。ソーシャルから話しかけてみて?』
「そのことを伝えます。少しお待ちください」
『ソーシャル、リズに何か話しかけてみてよ。遠くからでも会話が可能であれば最高だけどね。話せればその距離も調べてくれる? 私は今後のケルトンのためだと思っているからね。話せなければ近くにある大きな樹にお願いするからね』
『分かりました』
☆ ★ ☆
『初めまして、リズ。私はソーシャルです。聞こえますか』
『聞こえるわよ、ソーシャル。初めまして、リズです』
『私も聞こえます。あなたとリリアが話せることは、私たちが話しができることと同じことだと思います。ほかの人間には分からないことです。私がリリアと出会ったことを話しても、ほかの人間と同じでリズにも理解できないと思います。それで……あえて私は話しません。リリアのことはよろしくお願いします』
『分かりました。ゴードンもリリアもケルトンのこともよろしくお願いしますね。私はここから動けないからね。今度はいつ直接話せるのか分からないしね』
『私がそばにいても話ししかできません』
『すぐに話せることはいいことよ。風の音だとしばらく時間がかかるから、そう思うと……そばでしっかり話しを聞けることは素晴らしい。三人ともよろしくお願いします』
『分かりました。私は話しをすることと聞くことしかできません。これからどうなるか分かりませんが、リリアはリズの仲間と話せますね。何かあれは仲間が助けてくれると信じています。そのこともよろしくお願いします。リズからお互いに話せたことを伝えてください』
『リリア、ソーシャルの言葉が聞こえたからね』
リズがそう言ったからよかったと思い、でも、私には二人の会話が聞こえない。
「二人で話せるのですね。そうすればトントンもリズとも話せますね。ケルトンには内緒で明日リズから話しかけてみてください。よろしくお願いします。私が話している言葉はソーシャルには聞こえますが、私に対してリズが話している内容は、ソーシャルには聞こえるのでしょうか」
私は心配だからそう聞いてみる。
ソーシャルには私が頭の中で話しかけている言葉と、私の口から発した言葉は聞こえている。二人の会話が私には聞こえない。リズが私だけに話した内容はソーシャルには聞こえないような気がするが、リズに聞くよりもソーシャルに聞いた方が早いと思うけど、今後のことを考えるとソーシャルに聞いてもいいのだろうか。
『それは分からないわね』
「……分かりました。彼にはトントンだけと話せると思わせないと、自分のほんとうの気持ちを隠す場合がありますね」
『リリアもいろいろ大変ね。今夜は早く帰って寝た方がいいわよ。明日は三人で拾えば早く済むから、最初は葉を落として馬車の荷台に詰め込むのよ。赤い実が傷つかないようにね。そこまではゴードンにひとりでやってもらうから、明るくなってから来てもいいわよ。ゴードンに朝いちばんでそう伝えるからね』
「ありがとうございます。急な話しで洞窟の中もまだ片づけ終わってないです」
『それで遅くなったと言えばいいわよ』
「分かりました。それでは帰ります。金貨のことはよろしくお願いします」
私はそう言ってからソーシャルに洞窟に戻ってもらう。
☆ ★ ☆
『ソーシャル、今からトントンに連絡が取れるのかしら? 寝ているとは言え、ケルトンとこんなに離れるのは初めてだから少し心配なのよね』
リズの樹から少し離れたのを確認してからそう言うと、
『分かりました。すぐ連絡してみます』
『リズと話しができてよかった。お願いね』
『リリア、何も聞こえません。ケルトンがトントンと話しをする状態にしなくては無理のようです』
『分かりました。ソーシャルには視覚がないような気がするけど、どうやって判断しているの?』
私はここで思い切って聞いてみる。
『それはリリアの周りのすべての音です。それで判断します』
『この状態にしなければ聞こえないの?』
『二回ブレスを触れ合わせた状態にしないと聞こえません』
彼女がそう言ったけど、話すときは二回触れ合わせていたけど、話し終われば一回触れ合わせていつも切っている。
『私がずっとこの状態にしていても負担はかからないの?』
『かかりません。三回触れ合わせてソードに乗るときには話せますが、剣にすると会話はできません。覚えておいてください。一回触れ合わせてソードを消すと会話も停止します。すぐ二回触れ合わせてください』
彼女はまた説明をしてくれたから、一回触れ合わせるとすべての行為が停止してしまうのだと理解する。
『分かりました。明日からケルトンには二十四時間この状態にさせるからね』
『私からもトントンに話しておきます』
『ここと違い、向こうでは日中でも夜中でも危険が潜んでいるような気がする。もちろん私もそうするからよろしくお願いします。ゴードンの近辺もお願いできるの?』
『ゴードンのネックレスで……今でも周りの音が分かります』
『……なるほどね。これはゴードンにはずっと内緒ね。これからはソーシャルが判断してください。特にケルトンに関することは私に知らせてほしいけど、あくまでもソーシャルの判断でいいからね。そういうことができること自体が不思議だと思う。遅くなったから急いで帰りましょう』
『分かりました。今からスピードをあげます』
☆ ★ ☆
私たちはいつも道があればその上を移動する低空飛行だった。木の間をジグザグにすり抜ける練習もした。私の視覚で判断して体を微妙に傾けるとその方向に移動する。そうすると、明かりがなくてもソーシャルは音で判断できるのだ。
私たちは滅多に夜は出たことがないが、夜間飛行はソーシャルに任せようと思い、私がソーシャルに伝えるとスピードが速かったり遅かったりと変化するけど、スピードの言葉はこの時代にはないような気がする。ソーシャルと私の時代は同じような気がした。
私たちの洞窟は入り口が狭いからドアみたいな柵が作ってあり、それでほかの動物も入ってこられない。ここは最初にケルトンを寝かせた洞窟とは違うし、入り口から入って左側の隅に水が流れて、右側の奥にはこのソードが垂直に出入りできる少し大きな穴がある。
私たちがいつも食事をしたり会話をしたりするこの場所は、石ころもあったが取り除いてほとんど砂地状態にしてあり、ビニールシートを下に敷いて、小さな座布団を置いて座っていた。
四隅に少し大きめの石を置き素足でその上に乗るようにして、移動のたびに周りから砂が徐々に入り取り除くのが大変だが、障子紙を貼るときに使うような柄の短いはけを『ミーバ』にお願いして、柄を長く改良して掃除をするときに使っていた。
大きな石や小振りの石を円形に組み立て、焼き肉用の網を取りだし火も起こせて料理もできて、鍋やフライパンや食器もすべて『ミーバ』にお願いして生活をしていたのだ。
この洞窟自体が雨風を妨げる巨大なテントみたいであり、ここの生活はキャンプそのものである。最初は戸惑ったが慣れとは恐ろしいもので、この洞窟は色んな面で快適な空間であった。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




