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夢×少女×青春  作者: ぷんぷん
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潮騒の記憶

その先が永遠に広がっているようにも感じる真っ赤な海は静寂な波音を立てている。

もう少しで黄昏が来るようだ。

告白には最高のシチュエーションである。

優一はぐっと息をこらえながら、頭をフル回転させて気の利いた言葉を考える。

この沈黙の間にも、海鳥は声高らかに鳴き続け、沈みそうな夕陽の僅かな光が彼女を色っぽく演出している。


「...ゆう君............だ、だめかな...?」


沈黙を破ったのは優一の返事を求める言葉だった。

この場に立ったときから何も喋っていない優一だが、流石にもう黙っているわけにはいかない。

彼女はその感極まりそうな潤んだ瞳でこちらを見つめたままでいる。


「.............えと................その、ごめん。」


優一は裏返りそうな声を必死に抑えて素っ気無く答えた。

彼女は優一を見つめていた目をそらし、平然を取り繕っている。

明らかに目が泳いでるが見て見ぬ振りをする。


「...そ、そぉだよね。うん...分かった。ごめんね...。」


「あ、いや...」と優一が理由(わけ)を話す前に彼女はこちらに背を向け、走り去ってしまった。

しまった。と思ったときには辺りは暗くなっており、呆然と立ち尽くしていることしかできない。

突然、雷に打たれたかのような焦燥に駆られた。

「まずい‼︎ ここで行かなきゃ...」

行動に出ようとしたその瞬間、目の前が真っ暗になった。



「おい!おいってば!起きろよ。」


「...ん。んん?」


「いーつまで寝てんだよ。授業終わってるから早く飯食おうぜ。」


意識が朦朧とする中、優一の目には制服姿の男が映っていた。

どうやらクラスメイトの圭太が机に突っ伏している優一を昼食のために起こしたようだ。


「...あ、あぁ。」

俺は生気のない声で返事を返した。


ったく。また同じ夢か。何回見させんだよ。

このところ同じ夢を何度も見てしまう。理由はわからない。

ただ、何かしなければならないという使命感だけは毎回のように襲って来る。


「...くそっ」と小さく嘆息を漏らすと、弁当を片手に教室を出て行く圭太の背を追って屋上へ向かった。


屋上へ着くと既に圭太は自分の弁当を広げ、大都会の摩天楼を眺めながら唐揚げを頬張っていた。


「やっと来たか。おせぇよ、優一。」


「あぁ。わりぃ。ちょっと寝過ぎた。」


頭を掻きむしりながら合流した優一に少々呆れていた。


「そんなことよりさ、慣れたか? 都会。」


「...うーん、そうでもないかなぁ。」


そう、帆志優一(ほしゆういち)は親の都合で離島から都会に引っ越してきた正真正銘の田舎者であり、エセシティボーイなのである。

年は17の高2で学力はそこそこだが、ルックス、運動能力においては平凡もしくはそれ以下である。

この佐々木圭太(ささきけいた)は優一が都会に慣れず独りでぼーっとしていた時に声を掛けてくれた友達であり、都会での生活とか様々な事を教えてくれた恩人でもある。

ちなみにクラスでのあだ名は『ささっち』でムードメーカー的な役割を担っている。

優一自身ここに越してきたのは既に一年も前の話だが中々慣れるものではない。

何か考え事でもしているかのような優一の顔見て、不意打ちを食らったかのような表情を浮かべた圭太が質問をしてきた。


「そういえばさっき、優一の寝言が凄かったんだけどどんな夢見てたの?」


優一はふと先ほどまで見ていた夢を思い出した。


「え?あ、あぁ。……島での思い出…かな。」


「な、なるほどぉ...やっぱ恋しいの?」


「...まぁね。友達も沢山いたし。」


「だよなぁ。友達大事だよなぁ。」


圭太は俺の寂しげな言葉に白米を食べながら頷いた。


「…でも、本当は忘れたい。友達との思い出以上に忘れたいことがあるんだ。」


「そ、そっか。そうだよな色々あるよな人生。」


優一が何か思い出した事を悟ったのかこれ以上の詮索はしなかった。

圭太はこういう奴だ。しっかりと人の事を考えて発言が出来るまともな人間である。

だからこそ人が集まるんだが…。


キーコーンカーコーン♪


この気まずい雰囲気を破ったのは昼休み終了の予鈴だった。


「もうそんな時間か。チャイムなったし教室戻ろうぜ、優一!」


「お、おう…。」


いつも通りなんとなく時間が過ぎて午後の授業が終わると、優一はすぐに図書室へと向かった。

もちろん定期考査対策のためのテスト勉強をするためである。

優一にとって、何が何でも次のテストは上位に組み込まなければならなかった。


「...まぁ、その前にちょっとだけ見るか。」


そう小さく呟くと、優一はある本棚へと向かった。


「え、えーと...あ、あった。」


手に取ったのは18世紀のヨーロッパを彷彿とさせる建築物の写真集だった。

自習席に戻ると、ペラペラとめくりはじめ、まるで昆虫を観察する少年のような顔をしながら建築物の写真を貪るように眺めていたが、ふと、あるページでその手が止まった。


「おぉ、やっぱすげぇな。いつか行きたいなぁ...。」


優一は、ベルリン郊外にあるサンスーシ宮殿の写真を見ながら憧れの言葉を漏らした。

サンスーシ宮殿とは18世紀ドイツのベルリンに建てられた、フリードリヒ二世のロココ式建築であるが、そんな説明文を知識としてすでに蓄えていた優一は得意げな顔をしてその言葉の羅列を眺めていた。

すると突然、背後から声がした。


「おーい、優一。」


声の主は制服をラフな格好で着こなしている放課後スタイルの圭太だった。


「あ?まーた変な本読んでるのかよ。そんなことより遊びいこーぜ!」


「ほっとけ!...今日はいかないからな。」


圭太は座っている優一に目線を合わせ、顔の前で掌を合わせた。


「おーねーがーいー!今日の一生のお願い!お願いお願いお願い!」


そんな理不尽なお願いがあってたまるかと思った優一だったが、これ以上図書室で騒ぐわけにもいかないので本を元の棚に戻し、渋々着いていくことにした。


下駄箱にたどり着くと圭太は少し待っててくれという合図を出し、どこかへ行ってしまった。

その間にSNSのタイムラインを確認したがしょうも無い投稿しかなく、優一は呆れてため息をついた。

数分後、圭太はようやく戻って来たが、後ろに誰かを連れている。

その茶に染めたショートヘアの風貌は明らかに天音(あまね)だった。


「やっほー!ゆういっちー、行こ行こ。」


「は?天音が来るなんて聞いてないんだけど。」


相変わらず訳のわからないアレンジあだ名で読んでくるが、優一はもはや気にしていない。

天音こと青山天音(あおやまあまね)は同じクラスのイケイケ女子であり、当然のことながらボッチの俺が知り合いになれたのは圭太のおかげである。

たまにご飯を食べることもあるのだが、女の子らしく流行ファッションのことを話すときもあれば、ミステリー小説の醍醐味を語ることもあるという中々つかみどころのない女子である。

普段はイケイケ女子集団とつるんでいるため、あまり関わりがないのだが.........。


「まぁ、さっき決まったことだし仲良く行こうぜ。」

「そだよ!そだよ!」

天音と圭太はそう言いながら靴を履き替えたが優一はあることがずっと気になっていた。


「ってか、どこ行くんだよ。」

優一は納得のいかない顔で質問した。


「あぁ、言ってなかったか。駅前のハンバーガーショップだよ。南口にできただろ、ちょっとオシャレな店。あ、オシャンティな店。」


なぜ言い直したのかは不明だが、優一はその店を知っていた。新宿駅南口から徒歩数分の所にある、少し値段の張るお店だ。圭太の情報量のおかげで、ある程度の流行にはついていけるようになった。

その点においては感謝している。

都会ではある程度最新の情報を持っていないと、まるで異言語で話されているかのような気分になることはこの一年で身を以て体験している。


「んじゃ、レッツゴー!」

靴を履き替えた天音が声高らかに叫んだ。





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