初恋は実らないとか言うけれど
─君を見つけた瞬間。
君は私のものだって。
そう、思ったんだ。
遊び相手を選べと言われて父上に呼び出されたあの日。
貼り付けた笑顔で、褒め言葉しか言わない彼等を部屋に残して、こっそりと抜け出した。
昼寝でもしようかと、母上が好きな薔薇園へと足を運んだら。
そこには、見た事がない、女の子がいた。
取り揃えられた遊び相手たちよりも、小さいその女の子は。
お日様のような金色の髪を、ふわふわと靡かせて。
母上の薔薇に負けないくらい色鮮やかに。
瞳を輝かせてはしゃいでいた。
その風景は今でも鮮明に覚えている。
一枚の切り取られた絵画のように。
あの時から私の心は─。
ただ、その後の行動が、マズかった。
その風景でひとつだけ、気に入らないところがあったのだ。
君のリボン。
そう、リボンの色。
金色に輝くふわふわの髪に巻かれた鮮やかな青色に、銀色の刺繍が入ったリボン。
それは、兄上の、色。
兄上の、瞳と髪の、色。
ダメだよ、その色は。
─君によく似合っているけど。
できるなら。
─私の色を身に付けて。
咄嗟に伸ばした手。
突然出てきた私に驚く君。
そのまま何も言わずにリボンに手を伸ばして解こうとしたら。
一緒に髪を引っ張ってしまった。
結果。
知らない男にいきなり髪を引っ張られたと思った君は。
瞳にいっぱい涙を浮かべて。
そのまま、走り去ってしまった。
手元に残った、兄上の色のリボン。
と、一緒に絡んで抜けてしまった、君の髪が数本。
髪だけ、手元に残して。
リボンは風が吹いたら手を離して飛ばしてしまおう。
次に会えた時、私の色のリボンを贈るから。
だから、逃げないで。
そう、言いたかっただけなのに。
それ以来、君は私の姿をみると、怯えるようになって。
泣かせたいわけではないのに、たちまち瞳に涙を浮かべるから。
でも、その姿も可愛らしくて。
つい、憎まれ口をたたいてしまう。
君の感情を私が動かしていると思うと、嬉しくて。
君の声が聞きたくて。
君の瞳に私を写したくて。
君に触りたくて。
─君を、私の色に染めたくて。
そして、また、明日も、会いに行く。
まだ、渡せていない私の色のリボンを持って。
リボンと一緒に、私の宝物のヘビの抜け殻でも渡そうかなぁと思案していると。
兄上から声がかかった。
2番目の兄上。
君のリボンの色と同じ色合いの兄。
チクリと胸がいたんだが、気付かない振りをする。
「やあ、リュカ。ちょっといいかい?」
「ええ、どうぞ。」
「…何をしていたのか、聞いても良いかい?」
私の部屋に入るなり、兄上がテーブルの上に並べた私の宝物をみて、怪訝そうな顔をした。
「私の宝物を、セレネにプレゼントしようと思って、選んでいたところです。」
これなんか、なかなか大きくて、綺麗に脱皮してるから、カッコいいと思うのだけれど。
兄上どう思います?
「あぁ、うん。カッコいいと思うけど…。女の子に渡すプレゼントには、向かないんじゃないかなぁ…。」
そう言いながらも、兄上は「すごいいっぱい集めたねぇ。」と私の宝物を手に取り、光に透かしてみたりと興味深そうに眺めていた。
兄上は女の子には向かないとか言ったけど、私の宝物で、兄上をこんなに釘付けにするんだ。
やはり、明日プレゼントしよう。
いそいそと、宝物の中でも、選りすぐりのものをいくつか避けて、片付けはじめながら、兄上にわざわざ部屋を訪ねてきた理由を聞いてみた。
すると、「あ、うーん…。それなんだけどね。」と、兄上らしくない、歯切れの悪さで話しはじめる。
「リュカは、セレネちゃんと、婚約結ぼうとは、思わないの?」
「………は?」
「リュカは、セレネちゃんのこと、好きなんでしょう?父上にお願いして、囲おうとは、思わないの?」
「いや、だって、私はまだ10歳ですし、セレネなんて4歳で…。」
「ふぅん、なるほど。余裕があるんだね。」
「え?いや、そんな事は…。と、と言うか!何故兄上がそんな事聞くのですか?」
「ん?確認したかったから、だよ。リュカの気持ちを、ね。」
「…は?」
「うん、邪魔して悪かったね。じゃ、おやすみ。」
そう言うと、兄上はあっさりと手を振りながら私の部屋を後にした。
…一体、何だったのだろう?
2番目の兄上は、ちょっと変わった人で。
父上の、国王の跡継ぎは、優秀な1番上の兄上があるし、皇太子のスペアには、3番目の私がいるからと、早々に跡継ぎ争いから離脱していて。
魔法を極めたいからと、変装をして身分を偽り、セレネの姉上も通っている魔法学園へ入学し、今では生徒会長まで務めているらしい。
兄上は隠しているけど。
きっと、2番目の兄上は兄弟の中で1番優秀で。
1番強くて。
1番美人な母上に似た綺麗な人で。
1番、敵に回してはいけない人。
そんな兄上が、何故セレネのことを?
なんだか、すごく嫌な予感がしたけれど。
きっと気のせいだと。
私がセレネのことを好きなの知ってるから、揶揄っただけだと。
─そうですよね?兄上…。
セレネちゃん、明日はヘビの抜け殻くるよー
泣かずに頑張れー。