表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/47

Interlude ~池崎馨の予知夢 Ⅱ~

今日の僕はルシアナ国の王宮の自室で編み物をしている。

 愛しのアイナ姫にプレゼントするセーターを編んでいるんだ。

 彼女は紫がとてもよく似合う、上品で大人びた女性だ。

 繊細な模様編みを施したこのラベンダー色のセーターを、彼女はきっと喜んでくれるだろう。


 コンコン。

 硬くて分厚いチークの扉をノックする音。

 続いて「紅茶をお持ちいたしました」の声とともに、給仕がワゴンを運んできた。


 あれ――?

 この子……


「君、たしか以前に会ったことが……」


 僕が言いかけると、カフェオレ色のトイプードルは嬉しそうに尻尾を振って顔を上げた。


「カヲル王子! 憶えていてくださったのですか!

 そうです! 王子の豊かな胸毛にもふもふさせていただきましたココです!」


 僕の白い胸元にまたしても飛びつかれそうになって、僕は慌てて席を立った。


「なっ! なんで君がここにいるんだ!?」

「あのもふもふが忘れられなくて、王宮の給仕のアルバイト面接を受けたのです。おかげさまで一発採用されました~!」


 ココとかいう娘は両手を顎の下で組んで、目を輝かせながらじりじりと僕に近づいてくる。


「ちょ、王宮で僕にもふもふするのはやめ……」

「大丈夫です、王子。今は王子にお仕えする身。いきなりそんな無礼ははたらきません。

 ただ……」

「ただ……?」


 ココは両手を組んだまま、僕のすぐ目の前でひざまずき、懇願するような眼差しを僕に向けた。


「これから私は王子のおそばにお仕えして、精一杯ご奉仕いたします。

 もし…もしも……それで王子がこのココに 、ご自分の胸をもふらせてやってもいいと思ってくださったときには…どうぞ私の願いを叶えていただけたら」


「う……。君の望みはわかった。だが、僕が君の願いを叶えてあげられる日は来ないかもしれないよ? それでもいいのかい?」


 なんたって、僕はアイナ姫一筋なんだ。

 好きでもない女の子にもふもふさせて、期待を持たせるようなことはしたくない。


 ウェーブのゆるくかかった白い胸毛を守るように腕組みして彼女を見下ろすと、彼女は跪いたままで満面の笑みをたたえた。


「はい! それでも構いません! ココは精一杯カヲル王子のために働きます!」


 その健気さは可愛いけれど、彼女の願いを叶えるつもりはない。

 そのうち彼女も諦めて仕事を辞めることになるだろう。


 僕が椅子に座りなおすと、彼女はニコニコしながら紅茶とスコーンをテーブルに置いた。

 僕は小さなため息を一つついて、セーターの続きを編み始めた。


 ────


 ──…


 ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ