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第67話 セイカさんの話

 文化祭が終わり、ほとんどはいつもの生活に戻った。唯一違うのは僕たちの部活、レア漫画小説発掘研究会、通称魔窟。今日も大混雑だ。


「借りる方はこちらです。返す方はそっちです。」


 ユキさんが自動化の設備を整えてはくれた。ただやり方を説明する人が必要で、常に誰かがいて対応するシステムにした。僕は課題をやりながら対応させてもらった。Sクラスの人にも知り合いができた。また、タイ君の『高嶺家には絶対おすすめできない本コーナー』やトシ君の『知識が深まるマンガコーナー』も人気で、魔窟本来の部室にも人が来るようになった。


 魔窟が人気になってよかった…。


 と、思いながらも課題をこなす。ちなみにユキさんの『ドクゼツ相談所』はもっと人気で人が途絶えることがない。チームドクゼツのメンバーが課題を出したりチェックしたり相談に乗ったり。S塔にも『ドクゼツ出張相談所』ができて、主に左川君や菅井君が対応しているらしい。


「キンちゃん。そろそろ交代でいいよ。セイカさんのところに行くでしょ?」


「あ、うん。ありがとう。」


 マミと交代してS塔へ向かう。最近はガードマンもあいさつで通してくれるようになった。


「ヒトシさん、お待ちしてました。」


 相変わらず待っていてくれるセイカさん。うれしい反面、少し申し訳ない。そう伝えるとセイカさんは笑った。


「ヒトシさんは大切な友達ですし、大切なお客様ですから。」


 その言葉が本当にうれしい。セイカさんはエレベーターに向かう。僕はとなりを歩いていく。エレベーターに乗るとセイカさんは屋上のボタンを押した。


「もしかして、セイカさんのお父さんが?」


「はい。ヒトシさんに来てほしいみたいです。」


「そうですか。光栄です。」



 前回は緊張で頭が真っ白だったけど、今回は二回目なのもあり心は少し落ち着いていた。セイカさんとヘリコプターに乗って高嶺家へ向かった。



「ヒトシ君、すまないね。」


 セイカさんのお父さんがいたのは前回の部屋ではなく中庭みたいなところだった。


「いえ。招待していただけるだけで光栄です。」


 緊張してないわけじゃないから、敬語は不安定だ。そんな僕を見てセイカさんのお父さんは笑った。


「ヒトシ君、ユキちゃんから話は聞いたよ。頑張りすぎて倒れたらしいね。」


 そんな情報わざわざあげなくても…。ただ、知られてしまったのなら隠す必要はない。素直に話させてもらおう。


「すいません…。期待に応えようと頑張りすぎたみたいで…。」


「ヒトシ君、そもそも私は君に頑張ってほしいわけではないんだよ。いや、頑張ってくれるのはありがたい。ただ、君に求めているのは変化なんだ。」


「変化…、ですか?」


「ああ。変化だよ。」


 変化…、その意味がわかるようでわからない…。セイカさんのお父さんが話を進めた。


「君は『現状維持』という単語にどんな意味を感じる?」


「……。よく言えば『変化せずに保てる。』、悪く言えば『時代の流れについていけない。』でしょうか。」


「そうだ。高嶺グループの状態は悪い方の現状維持なんだ。君は見て実際に体験したはずだ。」


 確かに真中君のことや馬術の会のこと、ユキさんの話の内容を考えればそうなんだろう。


「その状態は僕が入ったくらいで変わるのでしょうか?」


「変わります!」


 問いかけの返事がとなりから来た。セイカさんだ。目を輝かせている。


「ヒトシさんの体育祭のこと、ヒトシさんにS塔に来ていただくようになってからS塔もSクラスも変わりました。すごい変化です。だから、ヒトシさんが入ってくだされば確実にグループは良くなります。」


 そこまで言われるほどすごい人間ではない…と自分は思う。ただ、セイカさんの気持ちが熱いほど感じる。


「セイカがここまで評価した人はそんなにいない。私たちは君の能力ではなく、君という人間がほしいんだ。だからほどほどに頑張ってほしい。いいね?」


「はい…。わかりました。」


 やさしい言葉にそう返事をした。時間が少し止まった気がした。




「なかなかやるね。」


「いえ。それほどでもないはずです。」


 なぜか将棋をすることになった。セイカさんのお父さんも僕も駒の動きを知っているくらいのレベル。ある意味でいい勝負になった。


「ヒトシさん、夕食もご一緒していただけますか?」


 セイカさんの声がした。


「は、はい。ご迷惑でなければ…。家に連絡すれば大丈夫かと。」


「迷惑なら誘いませんよ。」


 セイカさんはそう言って部屋を出ていった。何となく普通に話してくれた気がした。静かな部屋で将棋盤にパチッという音が響いた。それを見て僕は次の手を考えていた。


「ヒトシ君。」


 ふいに呼ばれた。顔をあげるとセイカさんのお父さんは変わらない笑顔で僕を見ていた。


「君の目にはセイカはどう映っているのかな?」


「素晴らしい人だと思います。高嶺家の名にふさわしい人です。」


「いや、一人の女性としてだよ。」


「え…?」


 さすがに動揺した。セイカさんをどう思っているか。素直に、ただ僕の心が入らないように答えた。


「一人の女性として魅力的です。容姿は言うまでもありませんし、勉強もスポーツも完璧にこなしています。それに、高嶺家という肩書きを一切使おうとしないばかりか、僕みたいな普通の人にも優しく接してくれました。本当に素晴らしい人です。」


 セイカさんのお父さんは小さくうなずいた。


「セイカは高嶺の家に生まれたこともあって、自分に自信が持てないでいる。高嶺家の娘を悪く言える人間はいないし、むしろ必要以上に誉めちぎる人間の方が多い。親類からは『できて当然』を突きつけられる。セイカは自分というものがわからず、だんだんと追い詰められている気がした。だから、私はセイカが君の話をしているとき嬉しかったんだ。」


 パチリと駒を進め、セイカさんのお父さんは笑った。寂しそうでもあり嬉しそうでもある。その表情が今話していたことが嘘偽りないことを表していた。


「だとしたら、やっぱりセイカさんは素晴らしいです。僕だったらきっと潰れたり曲がったりしたはずですから。それに、セイカさんは僕がリュウセイ号のそばで泣いていたとき、一緒に泣いてくれたんです。やさしい人です。心がきれいな人です。そのセイカさんがあるのは、この高嶺家のみなさんが正しかったから。家族の教えが正しかったからです。自信を持ってください。やさしいセイカさんを育てたことに。」


 そこまで言ってから、気づいた。


『やばい!偉そうなことを言った!』


 慌てた僕にセイカさんのお父さんは言った。


「ありがとう。君の言葉に救われたよ。」


 ああ…。だからセイカさんは謙虚なんだ。


 心からそう思えた。僕みたいな普通の人の言葉をちゃんと聞いた。だから『救われた』と言ったんだから。


 僕は何も言えずただ頭を下げた。



 夕食をご馳走になったとき、初めてセイカさんのお母さんに会った。セイカさんはお母さん似だとわかった。料理はフルコースみたいなものではなく、家庭料理だった。それがまたやさしく感じた。



「いろいろありがとうございました。」


 帰りの車に乗るとき頭を下げた。セイカさんの家族がみんなで見送ってくれた。その家族の中心にセイカさんがいた。その幸せそうな顔を見て、また思った。


 この人を好きになってよかった。

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