第66話 文化祭
「おはようございます!」
必要以上に元気にユキさんの部屋に入ってみた。課題もせずに寝てしまったけど、そのおかげで力がみなぎっていた。
「元気そうで安心したわ。」
ユキさんはほっとした顔で笑った。僕も笑ってとなりへ行こうとした。そのとき、ユキさんが僕を呼び止めた。
「あなたの課題のうち、私に対する課題は保留にするわ。」
「え?」
驚いた。戸惑った。諦められてしまったのかと。それを聞く前にユキさんが言った。
「あなたの覚悟に免じて保留にしてあげるの。あとで必ずやってもらうわ。だから今は、セイカのとなりにいる努力だけやりなさい。」
「はい!ありがとうございます!」
そう返事をしてやるべき課題にとりかかった。一般教養も含め必要な知識を手にすること、授業態度などを悪くしないこと。ただひたすらこなした。
「キンちゃん、そろそろ授業だよ?」
外からマミの声。荷物をまとめて部屋から出て…。
「マミ!?髪…、いつから?」
マミは長かった髪を短めに切っていた。さらにメガネもかけていた。元に戻ったといえばそれまでだけど…。
「キンちゃんだけだよ。今さら驚いてるの。もう一週間くらいになるよ。」
「そう…。でも…、」
今さらかもしれないけど聞きたい。それを聞こうとしたときユキさんの声が響いた。
「早くしないと遅刻するわ!」
「はい!」
二人で部屋を出た。急ぎながらマミを見る。
マミがこんなに変化したことに僕は気づかないほどとは…。
頭の中で反省してはみた。ただ、今の状況で聞ける勇気もなかった。クラスに入って席に着いたけどまわりからは何の反応もない。どうやらマミが髪を切ったのは本当に一週間前のことらしい。授業を真面目に受けながらも悩む。するとマミから手紙がきた。
『お昼休みに答えてあげる。だから授業に集中!』
適切な指摘。僕はうなずいて授業に集中した。
そして昼休み。マミとユキさんの部屋へ、と思ったけどあえて部室へ。そこの方が人が来ないから。部屋に入ってマミを見た。マミはいつもの感じでお茶を用意してくれた。
「マミ。何で髪を切ったの?メガネも…。」
「失恋したから。」
抑揚が全くない声でマミは僕に告げた。
「え?告白したの?」
「してないよ。私が諦めたの。」
「何で?マミはあんなにモテてたし、成績もいいし性格もいいのに。告白すればいいのに。」
「だって…、相手に好きな人がいたから。」
その言葉で反論できなくなった。そんな僕を見てマミは続けた。
「私はキンちゃんみたいに頑張れなかった。いくら頑張っても私を見てくれることはないって気づいちゃったの。」
「マミ…。」
何も言えない。マミは笑顔で僕を見た。
「キンちゃんは頑張ってね!」
そう言ってマミは部室を出ていった。あとを追えなかった、追う資格もなかった。残された僕はお茶を飲みながら、しばらく座っていた。
それからはまた毎日課題をこなす日々が続いた。セイカさんは週に一度会うたびに、僕たちが選んだマンガや小説の感想を伝えてくれて次のリクエストも教えてくれた。そのたびに僕は魔窟メンバーを集め、会議を開き次のマンガや小説を選んだ。マミはいつもの笑顔でいつものように過ごしていた。過ごしているように見えた。
二学期中間テストも無事終わり、Sクラス編入試験があった。左川君と菅井君は無事編入試験を突破。その日だけは課題を忘れてチームドクゼツとSクラス生徒会メンバーでユキさんのところに集まってお祝いをした。後島君は菅井君のSクラス編入を心から喜んでいたし、セイカさんは左川君のSクラス復帰を心から祝福していた。左川君も菅井君も僕に感謝していたけど、僕は「二人の努力の結果だよ。」と伝えた。本当にそうだと思う。
テスト終了後、しばらくしてセイカさんに呼ばれた。珍しく生徒会メンバーが一緒にいた。議題は『覇櫻祭』つまり文化祭の話だった。
「今年はS塔見学会を企画してみました。」
セイカさんのプランは一般棟の生徒をS塔生徒会が案内するもの。素晴らしい企画だ。その案を現実にするため、僕は走り回った。ユキさんとチームドクゼツのみんな、菅井君のつてで進学科の頭脳、青柳君のつてで体育科の力も借りた。僕のクラスにも頼み、結果クラスの企画自体が『S塔見学事務局』になってしまった。クラスのみんなは他のクラスの人より先にS塔見学ができて喜んで、S塔マップなどをみんなで作り展示してくれた。
そして当日。当然僕のクラスは大人気だった。見学ツアーチケットを求める行列が校舎の外まで続いたため、学年単位やクラス単位でグループにまとめて対応した。Sクラス側に常に連絡を取って、案内人も増やしてもらった。見学できた人からの感想は用紙にかいてもらいS塔の前に出してもらうシステムにした。それも一瞬で溢れ、箱の数を四倍にして対応した。
「キン!こっちも人がほしいぞ!」
そう叫ぶタイ君。というのも僕たちの魔窟も大行列だった。S塔に『セイカさん推薦図書』を貼り出したため、S塔から人が押し掛ける事態になった。『ワンドリンク5分』という超ぼったくり価格にしたにも関わらず、人が絶えず押し寄せてきた。ユキさんが事前に予想して本の在庫を増やしてはくれたけど、それでも全く追い付かない。行列が他の部活に迷惑をかけないように、二日目からはセイカさん専用地下通路を入り口にしてもらった。
「忙しい…。」
絶えず鳴る電話。クラスとS塔と魔窟をウロウロ。最終日までにS塔ツアーは捌ききれたけど、魔窟図書は行列が途絶えることはなかった。セイカさんは『地下通路』を『魔窟図書館通路』にしてくれて、平日も本を借りれるようにしたおかげで何とか納得してもらえた。
「ヒトシさん。ありがとうございました。」
文化祭終了後、セイカさんのところに呼ばれた。セイカさんは子供のように喜んでいた。
「セイカさんの案が素晴らしかっただけです。」
「いいえ。ヒトシさんがみんなに頼んでくださったおかげです。今回の文化祭でSクラスと一般クラスの壁がまた少しなくなった気がしました。」
セイカさんは僕をS塔に呼ぶたびに一般棟とS塔との壁をなくす努力をしていた。実際にS塔体育会と一般棟体育会は合併した。他にも科学部や吹奏楽部は週に一度交流するようになった。
「セイカさんの努力が実った結果ですよ。僕はその手伝いをしただけです。」
すると、セイカさんが僕の前に来て僕の手を握った。
「ヒトシさん、これからも私を支えてくださいますか?」
手が熱い。顔も熱い。ドキドキして死にそうだ。でも、伝えるべきことを伝えた。
「はい。もちろんです。」
僕のドキドキがセイカさんに届いてしまいそうだった。でも、届いてほしいとも思えた。




