第63話 幼馴染みの変化
マミは…、何でセイカさんを…?
わからない一面がまた増えた。頭がごちゃごちゃする。
「マミちゃん…。いつぶり…?」
「もう、ずいぶん前…です…。ユキさんのことがあって以来、会えてなかった…ですね…。」
「敬語じゃなくていいのに。昔みたいに普通に話してほしい。」
セイカさんが敬語じゃない状態で話しかけている。二人の関係は…。悩んでいるとユキさんが僕を見た。
「マミさんが通っていたのは高嶺馬術クラブ。そこにいたのが、私とセイカ。私たちはその頃からの知り合いよ。」
あ…、そうか…。ユキさんのところってことはセイカさんのところだった…。
セイカさんとマミの会話をただ見つめていた。
「ヒトシさん。話を進めてください。」
セイカさんが僕に言った。その言葉で我に返った。
「では、僕たちの推薦図書をそれぞれ発表します。」
そこからはみんなが自分の推薦する本を説明。セイカさんは全部の説明を興味深そうに聞いて、最終的に僕たちそれぞれの推薦する本からひとつずつ選んだ。
「では、お借りします。必ず読んで感想を伝えに来ます。」
セイカさんは笑顔でそう言うと階段を降りていった。見送った僕たちはそれぞれ自分のイスに崩れるように座った。
「いやー、すごい経験だ。」
「そうですね。一生の思い出です。」
タイ君とトシ君は中空を見上げながらそんなことを話していた。ただ、マミは普通にみんなにお茶を配っている。マミと目が合う。お互いに何か言いたい感じ、だけどここでは…。
「みなさん、お疲れさま。」
ユキさんがセイカさんを送り届けて戻ってきた。みんなが頭を下げた。
「セイカの評価をお楽しみに、ということで平田さんは課題をやりなさい。」
「うん。今行きます。」
「あと、この部屋の鍵は古部さんでいいかしら?」
「はい!俺が責任もって!」
見たこともないタイ君の返事にみんなで笑った。
その後は解散となり。僕は課題をやりにユキさんのところへ向かった。その日の課題はさすがに終わらず、家へ持ち帰ることにした。帰り道、マミと二人でバスに乗った。
「キンちゃんと帰るの久しぶりだね。」
「うん。体育祭が終わったから自転車通学じゃなくなったから。」
そんな他愛もないことを話していた。ただ、一番聞きたいことをついに切り出してみた。
「マミ…。何でセイカさんと友達だってこと、話してくれなかったの?」
「私、昔話したよ。キンちゃんが興味を持ってくれなかっただけ…。」
「そうだったの…。ごめん…。」
お互い気まずい感じになり話が進まなくなった。
「キンちゃん…。」
マミに呼ばれた。目が合う。
「キンちゃん、私のことちゃんと見てる?」
「え?うん。」
マミはしばらく僕を見てから顔をそむけた。バスは最寄りのバス停に着いたけど、僕は聞かれた意味がわからないままだった。
翌日、ユキさんの部屋に着くとすでに来客が来ていた。
「おはようございます。」
「おはよう。平田さん。」
「おはよう。キンちゃん。」
挨拶の声で気づいた。
「マミ?どうしたの?その格好。」
たぶん他の人なら気づかない。ほとんど別人だった。眼鏡をはずし、髪をほどいていた。それだけで全然違う人になっていた。
「どう?キンちゃん。」
「かわいいよ。見違えたよ。」
マミはいつもの穏やかな笑顔で笑った。それを見て少しドキッとした。
「マミちゃん!何があったの?」
教室は大パニックだ。そもそも僕は昔からかわいいと思っていたから騒がなかっただけで、みんなからしてみれば学級委員がモデルに変身したくらいの変化だ。男女混ざりあった人だかり。他のクラスからも見に来るレベルだった。
昼休みと同時にユキさんの部屋に逃げ込んでみた。さすがにここまでは追ってこられないから。
「すごいね。マミの人気。」
「変化に驚いただけだよ。すぐに落ち着くよ。」
マミは弁当を出しながら笑った。その笑顔はいつものマミでほっとする。
「ちなみにキンちゃんも人気なんだよ?」
急にマミが切り出した。
「え?そんなことないよ。」
慌てて否定してみた。マミは首を横に振る。
「あるよ。ラブレターを書いた友達もいるんだから。」
「そうなの?もらったことないけど。」
そう答えてみるとマミは少し表情を変えて言った。
「みんな、わかってるから。キンちゃんの意中の人がセイカさんだって。だから何も言えないんだよ。」
目が真剣。答えに困る。マミは続けた。
「キンちゃんの眩しさをみんなが尊敬してる。みんな、何かやらなきゃって思ったんだよ。私もそう思ったの。だから変わってみたの。」
言葉から真剣な何かを感じた。
「マミは…、何で変わったの?」
マミは少しうつむいて、それから言った。
「好きな人に…、気づいてほしくて…。」
「え?好きな人?」
衝撃的だった。マミのそばにいて知らないことが次々出てきたけど、これが一番だった。
「マミの好きな人って誰なの?僕の知ってる人?」
「うん。知ってる人。」
「誰なの?」
「それはご想像にお任せします。」
教えたくない意思が伝わってくる。でも知りたい。だから…、
「どんな人?」
「上を目指してどんどん進んでいく人。」
微妙なヒント…。さすがにわからない。でも、これ以上はしつこいと思われそうだからやめた。みんながゾロゾロ入ってきたことも理由だけど。みんなもマミの変化には驚いていた。
授業が始まるタイミングで教室に戻るとマミの机には紙の束。どうやらラブレターだったらしく、マミは一枚ずつ丁寧に見つめていた。
意中の人のはあるのだろうか…。自慢の幼馴染みだから、幸せになってほしい…。
そんなことを考えつつユキさんの課題をこなしていく。最近は家に持ち帰ることが増えたから授業を使ってでも終わらせたい。放課後までの授業中、マミと時々目があった気がした。
放課後、教室の外にマミに手紙を出した人が並んでいた。誰だかわからない人も多いけど、有名な人もいた。
「みなさん。お気持ちは大変うれしいです。でも、私には好きな人がいます。だからごめんなさい。」
マミは全員に深々と礼。その後、ユキさんの部屋の方へ歩いていく。僕はその姿にかっこよさを感じながらセイカさんに会いにS塔へ向かった。
「キンちゃん、今日の放課後はユキさんのところ行く?」
そうマミから聞かれたのは、マミが変身してからニ週間くらい過ぎた頃だった。その日も朝早くから下駄箱には大量のラブレターが入っていたらしく、僕が着いたときにはマミはユキさんの部屋でそれに目を通していた。もはや毎日の日課になっているらしい。
「うん。行くと思う。」
そう答えたのは前日にセイカさんに呼ばれてS塔に行っていたから。セイカさんからの呼び出しが二日連続はほとんどない。呼ばれない日は呼ばれた日のためにも課題をなるべく進めておきたいから、ユキさんの部屋へ必ず行く。
「よかった。放課後、ちょっとだけ話を聞いてほしくて。」
マミがそう言って僕を見た。いつもと違う真剣な眼差し。
「うん。いいよ。今でもいいよ?」
そう答えるとマミは首を横に振った。
「今は課題をこなして。私もやることあるし。」
マミは笑顔で手紙の山に視線を移した。僕はいつもの部屋で課題を黙々と続けた。
放課後、マミと一緒にユキさんの部屋に向かった。マミが時々僕の方を見ていた気がしたけど、僕と目が合うと目をそらした。ユキさんの部屋には誰もいない。ただ、一応僕が使っている部屋に入った。
「マミ。話って何?」
マミは少し俯いて、それから顔をあげた。
「あ、あのね…?」
マミと目が合う。マミの口が何かを言おうと動く。そのとき、
ピリリリ……。
僕の携帯が鳴った。切るかマナーにすべきだったと後悔しながら画面を見ると、セイカさんからの着信だった。
「マミ、ごめん。セイカさんから。」
マミはうなずく。僕は電話に出た。
『ヒトシさん。すいません。お時間ありますか?大至急来ていただきたいのですが?』
「はい。わかりました。すぐ行きます。」
『お願いします。』
電話を切ってマミを見る。マミは戸惑った表情だ。
「マミ、話の続き。」
マミは首を横に振った。
「いいよ。やっぱり。大した話じゃないから。それよりセイカさんが呼んでるよ。急いであげて。」
それが嘘だとすぐにわかったのは幼馴染みだから。話はあるし重要なんだと思う。
「大事な話なんでしょ?」
マミの肩をつかんで聞いた。マミは一歩近づいてから僕の背中に手をまわし、思いっきり叩いた。
「セイカさんは最優先!早く行きなさい!」
マミらしくない声。痛すぎて涙が出そうだった。
「じゃあ、あとで聞くから。いってきます。」
荷物を持ってS塔へ急いだ。その途中、マミからメールが来た。
『話、やっぱりいいから。セイカさんとの時間を大切にして。』
『うん。わかった。でも大事な話なら教えてね。夜でも家に行くし、メールもちゃんと返すから。』
そう返信するのと同時にS塔に到着。中に入りながら携帯をちらちら見ていたけど、マミからの返信はなかった。
マミ…、話って何だったの?
豪華なS塔内部が少しだけ暗く見えたのは、マミのことが心残りだからなんだと思えた。




