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第62話 魔窟への招待

「久しぶりだな!キン!」


「お久しぶりです!キンくん!」


「久しぶりだね。みんなで集まるの。」


 この三人とこの場所で集まるのは約半年ぶり。僕がユキさんの相談所に通う前日以来。みんなが笑顔、僕も笑顔だ。


「二人とも久しぶり。」


 夏休みが終わって二学期が始まった日。僕は懐かしい部室、レア漫画小説発掘研究会、通称『魔窟』に来ていた。


「では、会議を始めます!」


 休部していたけど一応部長、仕切ってみることにした。


「マミには以前から、二人には夏休み前に連絡したことですが…、高嶺聖華さんがうちの部活を見学に来ることになりました!」


「おー!」


 パチパチパチ!


 この暗い部室にはありえないほどの歓声と拍手。みんな興奮気味だ。


「まさか、あのセイカ様に会えるなんてな~。夢のようだ。」


「そうですね。しかも僕たち底辺の部活を見に来られるとは。キンくん様様ですね。」


 二人は笑顔、テンションも高い。それに比べて…、


「マミは…、嬉しくないの?」


「そんなことないよ。」


 笑顔は笑顔。ただ興奮とかはない。自然すぎる笑顔だ。それが気になる。ただ、先に進もう。


「とりあえず、事前にお願いしたリストを見せ合おうと思います。」


 みんながそれぞれメモを机に出した。この部活のマンガや小説でセイカさんに推薦できるものをみんなに考えてもらった。それをみんなでまわして確認していく。


「うーん。これ、大丈夫か?人が死ぬぞ?」


「それならこれも難しいでしょう。主人公が犯罪者ですから。」


「それを言っちゃうと私が選んだ少女マンガしか残らないよ。」


「そうだね。ダークヒーローやダークファンタジーを全部除かないといけないからね。」


 みんなで悩む。このままだと推薦できる本がほとんどない。


「キン。セイカ様ってどんな人なんだ?」


 ふいにタイ君が聞いた。少し考えてから答えた。


「高嶺家っていう肩書きを聞かなければ意外と普通の人だよ。思いやりがあってやさしい。ユキさんのことを話すと冗談も言うし。」


 みんなが「へ~。」と声を揃えた。


「タイ君、その質問の意図は?」


 聞いてみるとタイ君は腕を組みながら答えた。


「もう少し、幅を広げてみようってことだよ。というよりどこまで大丈夫かを教えてくれる人がほしい。」


「そうですね。タイ君の言う通りです。今のグレーゾーンの本もさらに分けてみるべきです。」


 確かにみんなの言う通りだ。セイカさんがどんな本を読みたいのかも知りたい。


「アドバイザー、呼んでみる。」


 僕は部室のドアを開けた。


「うわー。」


 ドアの外に人がいた。僕たちの部室は一番奥だから人がいる可能性は極めて低い。その人は僕を見下ろしながらため息をついた。


「相変わらずの無計画ね。どうせ私を呼ぼうとしたんでしょ?」


 ユキさんは僕を引っ張って起こすと部室の中に入った。机の上のリストを見る。


「このくらいのグレーゾーンならセイカに見せても大丈夫。人が死にすぎる話と描写が残酷な話はやめてほしいわ。」


 ユキさんはメモに×印をつけていく。意外とどれもセーフらしい。


「とりあえず×印のつきそうな本以外は私に見せなさい。分別するわ。で、合格した本からとなりに運んで。」


「となり?」


 僕たち全員の声が揃った。


「となりにあった部活には上の階に移動してもらって、空いた部屋をセイカ専用図書を並べる部屋にしたわ。この部室に案内したら×印をつけた本をセイカが見てしまう可能性があるでしょ?だからよ。」


 一同絶句。まあとなりの部活からしたら上の階に移動できたことはプラスだろうけど。


「さて、とりあえず移動しましょう。私が良しとしたその本をとなりへ持ってきて。」


「はい。」


 僕たちは棚から本を取り出し、抱えてとなりに移動した。


「うわ…。」


 再度唖然。本来同じ造りだったはずの部屋が大改造されていた。四方に本棚、真ん中にはなぜか地下へ続く階段。


「な、なにこれ?」


「本はあなたたちの在庫で足りなければ私の家からも提供するつもり。だからこの数の本棚。」


「いや、そっちじゃなくて階段!」


 みんなの声が揃う。ユキさんは「ああ。」とつぶやいた。


「セイカを一般棟の廊下を歩かせたら事件になるでしょ?だから地下通路を造らせたの。私の部屋の前にある渡り廊下と同じで向こうからしか開けられないドアを用意したわ。」


 みんなで納得。ただ、セイカさんのためだけにこれができてしまうのはやっぱりすごい。


「さて、テキパキ並べなさい。棚もジャンル別にして。」


 とても僕たちの部室に呼ぶとはいえない状況。それでもセイカさんに来てもらえるのは事実。僕たちは選別と運搬を繰り返した。作業は三日間の放課後と土日の空いた時間を全部費やした。僕もできる限り参加して、ユキさんの課題は夜にこなした。そのせいか、さすがに昼間は眠い日が続いた。




「だいたいこんな感じだね。」


「ああ。あとのはさすがに高嶺家にはNGだからな。」


「ですね。」


 準備が全部完了したのは月曜日の昼休み。みんな満足した様子だ。


「お疲れさま。部屋の内装も問題ないわね。」


 ユキさんも本の選別の他に電気や水道の整備をしてくれた。おかげで飲み物も出せる。


「じゃあ、セイカと予定を合わせましょう。」


「あ、僕がやるよ。今ちょうどメールが来たから。」


 セイカさんからの内容を確認する。


『明日の放課後、来ていただけますか?』


 僕は返信ついでに連絡してみた。


『はい。行けます。あと、こちらの準備もユキさんのおかげで終わりました。推薦図書も決まりました。来ていただける日を教えてください。』


『本当ですか?では、今日の放課後でもかまいませんか?』



「みんな!今日の放課後だって!大丈夫?」


「ああ。」


「OKです。」


「うん。」


 みんなからの返事を聞いてから返信。


『大丈夫です。部員全員でお待ちしています。』


『ありがとうございます。では放課後に。』



「放課後。授業終わり次第ここに集合。」


 みんながうなずいた。



 放課後、僕とマミが魔窟のとなりに着いたときタイ君とトシ君は来ていた。


「早いね。二人とも。」


「そりゃそうだろ!」


「そうですよ!時々会えるキン君とは違います!」


 確かにそうか…。納得しつつ、みんなで最終チェック。身だしなみも確認した。


「そろそろかな?」


「そろそろだろ。」


 僕たちはイスに座ったまま部屋の真ん中にある階段を見つめていた。ユキさんが連れてきてくれることになっている。しばらくすると、ドアの開く音がして足音が聞こえてきた。足音はどんどん近づき、階段を上った。そして…、


「連れてきたわ。」


 ユキさんが出てきたあと、僕にとってはあの日以来。みんなには憧れのセイカさんが現れた。


「ヒトシさん、みなさん。お招きいただきありがとうございます。」


 セイカさんは深々と頭を下げた。僕たちも頭を下げた。ユキさんが用意したソファーにセイカさんが座った。


「では、『レア漫画小説発掘研究会』、通称『魔窟』のメンバーを紹介します。」


 僕がそう言うとセイカさんは拍手。パッと見でマミはともかく二人は緊張しているから僕が紹介することにした。


「古部帯土、タイ君です。僕たちの中では一番冒険物や格闘物を読んでいる人です。テレビゲームの腕は一流で世界大会の優勝経験もあります。」


 タイ君は深々と礼。セイカさんは拍手した。


「細賀利樹、トシ君です。推理物などの難しい話が好きで、学力ならSクラスに入れる実力があります。Sクラスの後島君の友達でユキさんのところに通う菅井君の友達になります。」


 トシ君も礼、セイカさんはまた拍手。


「緋色真実、マミです。紅一点で少女マンガと恋愛物を読んでいます。以前話しましたが僕にとっては姉のような妹のような人です。」


 マミが礼、ただセイカさんから拍手がない。見ると驚いた顔でマミを見ていた。僕が何かを言おうとしたとき、セイカさんが口を開いた。


「マミちゃん…よね?」


 セイカさんの声にマミは小さくうなずいた。


「お久しぶり…です。セイカさん。」


 マミが、セイカさんと知り合い?驚いてマミを見た。まっすぐセイカさんを見ているマミ。また知らない人に見えた。


 時間が止まった気がした。

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