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第53話 S塔で待つ人

 この日をどれだけ待ち望んでいたか…、むしろこの日が来るとは思わなかった。あのとき初めて出会ってから、僕の人生は変わった。あり得ないほどの努力を重ね、あり得ないほどの課題をこなし、あり得ないほど濃密な時間を過ごした。


 体育祭の振り替え休日は半分寝ていたから休日感はなかった。次の日、学校に行くと景色がまた変わっていた。


「おー!平田だ!」


「キャー!平田さーん!」


 有名になったつもりはないけど、思った以上に有名になっていた。それよりも気になるのは今の時間だった。朝6時半、にも関わらずすごい人数がユキさんの部屋の前にいた。しかも行列。


 どうしよう…。並ぶべきかな…。


 悩んでいると奥から声がした。


「ヒラ~!お前は並ばなくていい!この列は違うから!」


 呼び方から青柳君だとわかる。列の横を歩いていくと、確かに列は相談所のとなりの部屋に続いていた。中には青柳君や秀縞君、チームメイトだったみんながいる。


「平田君、こっちだよ。」


 相談所から呼ぶのは菅井君だ。呼ばれる方へ進み、相談所に入った。


「おはよう。平田さん。足はどう?」


「まだ痛いけど歩くのには問題ないかな。ところで、これは何事?」


「体育祭の結果よ。」


 当然の質問にユキさんは答えを決めていたかのように即答した。ただ、僕がそれで全部を理解できるはずもない。だからさらに話を続けた。


「あなたの神がかりな成果を目の当たりにして、次から次へと依頼者が来ているの。ただ、それを全部受けるのは時間的にも無理で悩んでいたときに彼らが来てくれたの。だから依頼を聞いて内容別に整理券を配ったり、体育会系の依頼は青柳さんに聞いてもらったりしているの。とりあえずあなたのおかげで大盛況ってことよ。」


「なるほど…。」


 納得した。でも大盛況過ぎる気もした。


「ちなみにとなりの部屋も空けてもらったわ。この部屋だけじゃとても足りないから。」


 さらっと空けてもらえるユキさんがすごい…。しかも昨日の今日で。


「平田さん、とりあえず課題どうする?クリアしたからやらないって選択肢もあるけど。」


「まさか。やるよ。もう習慣みたいなものだし。次の依頼をするかもしれないから。」


 即答した僕を見てユキさんはうなずく。僕はいつものようにとなりの部屋に移動した。やがて依頼者がひとりずつ部屋に呼ばれ…、


「あなたは依頼をする前に身の程を知りなさい!青柳さんにも言われたでしょ?青柳さんに言われた課題をまずやりなさい!それをこなすこともできずに、平田さんのレベルを求めるなんて百年早いわ!」


 いつもの日常に戻った。ユキさんの部屋に呼ばれた人はどんな基準で選ばれているのかはわからないけど、毒舌で一蹴されていく。僕はそれを聞きながら課題をこなしていった。


「平田!」


「平田さん!」


 呼び方は違っても僕が呼ばれていることは確かだ。次から次へと声をかこられなかなか教室にたどり着けない。教室に着いたら着いたで質問攻め。なかなか落ちつけない。この状況が毎日続いた。


 そしてついにこの日を迎えた。水曜日、朝からの人だかりも気にならない。というより気にする余裕もない。前日はユキさんのところに泊まり服装から言葉遣いまでありとあらゆるチェックを受けた。今朝も髪型などの最終チェックを受けた。授業も緊張のあまり頭に入ってこなかった。


 そしていよいよ放課後になった。ユキさんと中庭のS塔近くで待ち合わせ。


「平田さん、行くわよ。」


「はい。」


 ユキさんに連れられて僕はS塔の前に立つ。ガードマンと思われる方にユキさんは生徒手帳を見せた。その後、書類を見せて説明。僕も生徒手帳を見せた。ガードマンは横に避け、ユキさんはドアの方へ歩いていく。


「平田さん、間違っても私から離れないこと。ここからは『迷子』も言い訳にはならないわ。」


「はい。」


 僕は遅れないようにあとを追った。ドアが自動で開くとその先には手荷物のチェックなど空港にあるような様々な検査を受けた。それが終わり奥のドアが開くと、そこには全く別の世界が広がっていた。


「すごい…。」


 思わず息をのむ。最上級のホテルのようだ。床にはカーペット、ソファーも見える。


「さっさと行くわよ。上に行くに従って複雑なセキュリティーがあるから。」


「うん。高嶺さんを待たせるわけにもいかないし。」


 ユキさんは堂々と進む。周囲がざわつく。僕は挙動不審についていく。その僕を見てさらにざわつく。


「おーい!平田!」


 いきなり呼ばれて驚く。奥で手を振っているのは右田川君と後島君だ。僕は小さく手を振り返す。知り合いがいると心がほっとした。するとユキさんは二人の前で止まった。


「助かるわ。全部のセキュリティー通過するのはさすがに時間がかかるから。」


「いえいえ。迎えに行くようにと会長からの指示なので。それに俺たちからしたら恩人二人だし。当然です。」


 話が全くわからない。ユキさんはあきれた顔で笑った。


「真中と左川、あとこの二人がSクラス生徒会よ。Sクラスの生徒会は二年生がやることになっていて、選挙も二年生だけでやるの。だからセイカとその取り巻きがそのまま生徒会になったの。」


「あ、そうだったんだ。」


「ついでにSクラス生徒会は専用エレベーターがあって、チェックを受けずに各階どこでも自由に行ける。だから彼らがいればさっさとセイカの待つ生徒会室へ行けるの。」


「なるほど…。」


 内容には納得。ただ、気になることがある。


「とりあえず行こうぜ。エレベーターで話をしよう。ここだといろいろ面倒だ。」


 右田川君がそう行って歩き出した。僕たちもついていく。エレベーターは何本もあり、それがS塔の真ん中に柱のように見える。右田川君が専用のパスワードを入力してドアを開き、僕たちは中に入った。ドアが閉まりエレベーターが動き出した。ガラス張りだから外が見える。エレベーターを教室が囲むイメージ。いくつものドアが見えるけど、人はそんなに見えない。授業が終わって部活の時間なのだろうと思う。


「真中は退学、左川はSクラス追放になった。」


「え?」


 突然、右田川君が告げた。驚く僕を見て静かに続けた。


「お前がトライアスロンに勝ったことで勝敗は決まった。今までは勝てば官軍だったけど、負けたから完全に賊軍に変わった。お前を妨害したことを後悔してたやつらや、そもそも真中を嫌いなやつの不満が爆発。さらに俺と後島が生徒会を辞職してからSクラス理事会に事実を公表。あっというまに転落したよ。まあ自業自得だ。」


「そうなんだ…。」


「俺たちは感謝してるよ。ようやく一般棟にいる友達と大っぴらに遊べるんだから。しがらみが消えたんだ。」


 右田川君はさわやかな笑顔だ。後島君もうなずく。


「今度スガと遊ぶ約束をしたよ。スガの家に泊まっていっぱい謝っていっぱい話したい。本当にありがとう。」


 後島君がうれしそうに笑った。僕は何度もうなずく。


「左川君は…、大丈夫なのかな?」


 僕はつぶやいた。左川君は少なからず本気で僕を潰そうとしていた。ただ、あれがある意味洗脳によるものだったようにも思えた。「お人好しだな…。」とつぶやいたのは右田川君だ。遠い目をしながら口を開いた。


「左川も真中と離れてすっきりしたと思う。実際後島やクラスメイトには謝ったから。普通科でどうなるかはわからないけど大丈夫な気がする。」


「彼なら大丈夫よ。」


 突然ユキさんが言った。みんながユキさんを見る。


「左川は月曜日の朝一番に相談所に来たわ。深々と謝罪されたわ。以前に相談所で無礼な態度を取ったことと、体育祭での平田さんへの悪質な行動を。そして『どんなことでもするから、Sクラス編入試験を受けられるようにしてくれ。』という依頼をされたわ。試しに平田さんに初期に出した課題をやらせたら次の日完璧にやって来たから。見違えるほどやる気に満ち溢れていたわ。」


「そっか。よかった。」


 そう言ったとき、エレベーターが上るのを止め、ドアが開いた。右田川君が降りて歩いていく。僕たちもついていく。すると目の前に大きなドアがあった。右田川君がノック、中から「どうぞ。」と返事が来た。右田川君がドアを開けた。



「お待ちしてました。」


 暖かな声だった。あの日からずっと憧れていた人がそこに立っていた。

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