第50話 ラストスパート
主人公目線に戻ります。
僕は一定の速さで走っている。みんなが僕を基準に走っていく。真中君は「お前に負けるわけにはいかない!」と叫んで先へ進んでいった。
「ヒラ!スゲーな!足痛くないのか?」
青柳君は走りながらとは思えないテンションで叫ぶ。
「痛いけど、春合宿の最後の方よりはマシかな。あのときは筋肉痛がひどかったから。」
走りながらそう答えた。すると右田川君が僕のとなりに来た。
「今、ここに追い付いたってことはあの坂は一発で上がったってことだよな?」
「うん。一発で上がれたよ。」
「妨害はなかったのか?」
「秀縞君たちが道を作ってくれたよ。」
そう答えるとみんなから「おー!」と歓声が上がった。
「その足であの坂を妨害されそうな中で上がりきれたのはスゲーよ!ユキさんの予想通りではあるけど。」
「それはそうだよ。というよりも、あの坂は春の合宿で上がった坂より傾斜も距離もきつくなかったし。」
「マジで…?」
みんなはさらに驚いている。僕は「ところで…、」と話題を変えた。
「みんなは僕と同じペースで走って大丈夫なの?真中君みたいに走らなくてもいいの?」
「ああ。チーム正々堂々だからな。俺たちはお前に正々堂々挑みたかったんだ。そもそもチーム正々堂々もお前が追い付いてきた時点で解散してるし。だから全員自分の意思でここにいるんだ。ウタも含めて。」
青柳君の言葉に全員がうなずいた。体育会系のみんなが僕に『挑む』と言っていることが僕には驚きだし誇らしいことだった。
「じゃあ、僕も正々堂々で。コースはたぶんあの先で下り坂、それを下りきったらあとは学校まで平坦な道のはず。僕は下り坂でペースを上げることになってるから。」
「下り坂でペースを上げるのか?大丈夫なのか?足は。」
そう聞いたのは右田川君だった。この人は真中君の支配からすでに外れていることがわかる。
「大丈夫。僕は今も春合宿のペースで走ってる感覚だから。この先も決められたペースで走るよ。」
「よし!ここからはヒラと勝負だ!いや、全員が敵同士!」
「オー!」
青柳君の言葉にみんなが応えた。僕を基準にしながらまっすぐの道を走っていく。しばらく走ると道の先が見えなくなった。一気に下まで行く下り坂だ。
「じゃあ、行くよ!」
僕は宣言通りペースを上げた。合宿のイメージ通りに坂を走っていく。みんなは僕のとなりか少し後ろを走る。景色がすごい早さで通りすぎる。足に無駄な負担をかけないようにただただ下る。すると目の前に人、真中君だ。僕たちに気づいてスピードを上げた。でも僕たちの方が速いらしくあっというまに追い付いた。
「ひ、平田!」
真中君が叫ぶ。ただ、辛そうだ。
「残念だけど、ユキさんの勝ちだね。前にユキさんが言ってた。『恵まれた環境に生まれた人は二つのタイプに分けられる。ひとつは自分の恵まれた環境に感謝して最大限利用できるタイプ。もうひとつは恵まれている環境に慣れてしまい向上心が芽生えないタイプ。君は後者だ。他人を手足のように使えるせいで自分を向上させられなかった。だから僕に、ユキさんに勝てなかったんだ。」
僕はさらにスピードを上げた。真中君が一気に視野から消えた。僕の横には青柳君と右田川君。後ろにも何人かいるけど曲がりながら見たら集団はバラけてきていた。
さすが…。
そうつぶやき、先へ先へ走る。坂が終わりまっすぐの道になった。僕のとなりは変わらない。すると後ろからひとり追い抜いた。
「体育科の早坂だ。お前がすごいのはよくわかった。だけど勝負は俺が勝たせてもらう。」
早坂君はペースを上げた。その後ろを体育科二人が追いかけていく。三人は段々小さくなっていく。
「ヒラ!限界か?」
青柳君がこっちを見た。僕は首を横に振る。
「感覚的にまだ早いと思って。スパートをかけるならもう少し先。次の次の交差点から。それに…、」
「『今スパートをかけたら最後まで持たないから。』だろ?」
右田川君もこっちを見た。さすがにするどい。僕はうなずく。
「正解。だからあとはあの三人次第かな。最後まであのペースなら勝てないけど、そんなにもたない気がする。」
そう答えたとき、二つ目の交差点に入った。
「じゃあ、ラストスパート。いきます!」
そう言って僕はペースを最大まで上げた。全速力とはいかないけど、中距離走くらいの速さ。しばらく走ると三人の背中が近づいてきた。そのまま追い付く。
「みんな!勝負だよ!」
そう叫んで前に出た。すると早坂君がとなりに来た。その前に青柳君と右田川君。僕と早坂君も二人に並ぶ。もう言葉はいらない。誰が一番か、それだけだ。
四人で走る。他の人はたぶんいない。
どんどん走る。遠くに見えた学校がどんどん近くなってきた。
「あー、ダメだ!無理!」
そう叫んで青柳君が消えた。あとの三人で学校の敷地内に入った。歓声の中、校庭に入りトラックをまわる。ゴールテープが見えた。
「キンちゃん!」
マミの声が聞こえた気がした。その直後、早坂君が僕の前に出てそのままゴール。僕と右田川君は倒れ込むようにして二位でゴールした。
「ハァ…、ハァ…。」
さすがに辛い…。さすがに疲れた…。ただ『この場所はあとから来る人の邪魔かな。』とからだが判断、駆け寄ってきたマミとユキさんに引っ張られながら移動した。
「ごめんなさい。一位は無理でした…。」
座った状態でユキさんに謝る。ユキさんはあきれている。
「無茶するとは思ったけど、ここまでするとは思わなかったわ。二位にいるだけでも十分に異常よ。」
「いや、完全にお前が一位だ。」
ユキさんの横に早坂君と右田川君が立っていた。僕はまだ立ち上がれず見上げたまま。
「ケガと妨害がありながら最後の最後まで首位争いをしただけですごい。俺は昨日野球だったから体力に余裕もあった。その差を考えても一位はお前だよ。」
早坂君は笑った。
「俺もお前に勝つ自信はあったんだ。ハンデもあったし。同着だったんだから俺は完全に負けた。さすがに笑うしかない。」
右田川君も笑っていた。
「くそ!やっと着いた!まさかヒラに勝てないなんて…。やっぱユキさんの力はデケー…。」
青柳君がふらふらしながら僕の横に座った。
「青柳君はサッカーで活躍したからだよ。」
やっと落ち着いてきた僕はそうつぶやく。
「まあな。ヤギはサッカーで俺に勝ったんだから、こっちは俺が勝たせてもらった感じだな。」
右田川君が青柳君を見下ろして笑った。
みんなが笑顔だ。特に青柳君と右田川君の笑顔を見れたことが、一位以上の価値を感じた。
「とにかく!あなたはまずはその傷の治療!」
ユキさんがそう叫ぶと係りの人が担架を持ってきた。僕は転がるように乗った。首位を争ったみんなに見送られ、僕は保健室へ運ばれた。
「さて、二時間半あるわ。」
保健室でユキさんが言った。僕は時計を見た。すぐにユキさんの言う時間を理解した。
「一応聞くけど、午後のマラソンは…」
「出ます。」
「でしょうね…。」
ユキさんはわかっていたからこそのため息。マミはとなりで笑った。
「ここまで競えたのはユキさんのおかげ。ただ、最後のマラソンを立候補したからこその結果でもある。サッカーの結果があるのはマラソンを『やります。』って言ったから。だからクラスの代表として走る義務があるよ。」
決意を伝えた。ユキさんは何もかもわかったように僕の足を治療していく。
「キンちゃん、とりあえず寝なよ。お昼くらいに起こしてあげるから。」
マミが母親みたいな顔で僕にそっと言った。僕はうなずき目を閉じて…、眠りの世界に入っていった。




