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第47話 想像以上の異常

この話は秀縞君の目線になります。

「秀縞さん、頼みたいことがあるの。」


 ユキさんが俺に電話してきたのはサッカーが終わったあとだった。平田がケガさせられたことで俺たちチーム全員が怒りと悲しみに浸っていた。平田がユキさんの車で運ばれたあと、チーム全員で集まって話していたときだった。


「平田の件でしょ?チーム全員がここにいる。何でも言って。」


「そう。ありがとう。」


 俺たちとは違い、ユキさんは落ち着いていた。ユキさんは事細かな作戦を電話で俺たちに伝えた。俺たちはそれぞれその内容をメモし、行動に移した。



 クロスカントリー開始直後、Sクラスの予定通りの妨害と平田の予想外の行動。ユキさんからの指示は『水泳はその場の流れに任せて。』だったから、平田の行動を気にしながら進めた。


 水泳から自転車になって、ユキさんの悪い予想が的中した。


『平田さんが道路から落とされるかもしれない。秀縞さん、あなたは体力も運動能力も高い。だからあなたはそれを確実に見て把握して。』


 その通りになった。本当なら平田を助けに行きたかったし、怒りに任せて左川を殴りたかった。ただ、ユキさんからの指示があった。


『それを確認したら、あなたはチームの誰かにその事実と次の作戦を伝えて。』


 俺はチームのメンバーに伝え、最後尾の菅井に作戦の伝言を頼んだ。急いで自転車をこぐ。左川の指示で壁が作られようとしていた。


「いくぞ!一般棟!力を貸せるやつは貸してくれ!」


 そう叫んで人の壁が作られる右端に割り込んだ。一般棟の生徒が次々と俺のあとに列を作っていく。前日に俺たちチーム全員で取れる連絡手段全てを使って一般棟同学年に連絡した。


『もしもSクラスが水泳のときに妨害行為をして、さらに平田に妨害行為をしたという事態が起きたとき、俺たちを助けてほしい。自転車競技でSクラスは人の壁を作ることが予想される。そのときは一般棟の生徒全員で壁の右端に通路を作りたい。平田が通れるように。平田が間に合わなくても、みんながSクラスに妨害されないために。』


 ユキさんの作戦勝ちだ。一般棟の人間が行列を作り、Sクラスの人の壁に穴を開けた。Sクラスは俺たちの方へ自転車を近づけてくる。


「Sクラス!まさか俺たちも蹴り落とすのか?」


 Sクラスの動きが止まる。左川たちがいかに権力を振りかざしても、それに全員が従えるはずもない。それぞれが人なんだから。


「みんな!このままを維持!坂が近づいたら…、」


 坂が近づいたらどうする?上がれる人から行かせるか?それ以前に、平田は来るのか?大丈夫なのか?


 そんな不安を感じたとき、後ろから声が聞こえた。


「平田だ!平田が来たぞ!」


 チームメイトの声だ。後ろから確かに平田が追い上げてきている。


「行けそうな人は坂を上れ!相手からすればそれが壁になるはずだ!行けなさそうな人はこのまま壁になってくれ!」


 みんなが俺の声にうなずき行動を開始。俺は平田に向けて叫んだ。


「そのまま来い!」


 平田が右端へ走ってくる。みんなが右端に道を作り、平田がその道を通っていく。


 みんなが動く。俺の指示通りに。ユキさんの言う通りに。


 俺は平田より先に坂を上り壁を維持する。羽生田さんが坂の途中で監視しているから妨害はないと思うけど、油断大敵だ。平田と並んで上っていると、となりに左川が来た。


「平田!お前だけは行かせない!」


 左川が叫ぶ。


「それはこっちの台詞だ!左川!」


 俺も叫ぶ。ただ、段々辛くなってきていた。坂が急になったのか、それとも俺の足が限界なのか…。となりにいる平田の足からは血が流れているのが見える。


 あの足で、坂を上りきれるのか?無理じゃないか?


 俺がそう思ったときだった。平田が何かをつぶやき、その後速度を上げた。左川と俺は少し遅れた形になった。


 マジか…?


 驚く俺は必死にペダルをこいだ。でも、差が縮まらない。左川が平田の横で何かを叫んだ。俺には聞き取れない。ただ、そのあとの平田の言葉、その最後だけは正しく聞き取れた。


「この程度の坂、僕には全然辛くない!」


 この程度…。


 俺はそこで自転車から降りた。左川も諦めて立ち尽くしていた。平田だけがただただ坂を上っていく。足からは血が流れ坂に点点と落ちている。


 痛くないはずない。辛くないはずない。昨日のサッカーであんなに走ったのに。あんなラフプレーをされたのに。さっきだって道から蹴り落とされたのに。


 そんなことを考えていた俺の頭にユキさんの声が響いた。


『彼がもし、坂までたどり着いたなら、絶対に一回で上がるわ。彼の努力は異常だから。』


 ああ…、異常か…。


 確かに今回の合宿もそうだった。きっと春休みもそうだったのだろう。普通の人が泣いて逃げ出すドクゼツ相談所に毎日通い、そのユキさんに認められたくらいだ。しかも成績も運動も強化のレベルではない。進化のレベルだ。


 俺にできるのか?俺にはできたか?


 平田が上っていく姿を見ながら自問自答していた。ただ、その答えは前に平田が言っていた。


『ユキさんを信じて。』


 ああ…。俺もやってみるかな…。


 俺が見上げた坂の先に平田が立った。誰も上りきれなかった坂を上りきった証だ。


「みんなー!ありがとう!」


 平田が叫び手を振っていた。俺も手を振る。みんなも手を振っている。


「いいから行け!礼は順位で示せ!」


 俺は叫ぶ。平田は自転車に乗って、すぐに見えなくなった。



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