第42話 打倒Sクラス
「来るぞ!」
試合開始と同時に秀縞君が叫んだ。Sクラスが攻めてくる。真中君が前線へパス、右田川君がドリブルで突破してくる。青柳君との1対1になった。右田川君が何度も抜こうとするが、青柳君は抜かせない。右田川君がサイドにパスを出す。秀縞君が適切な指示を出しボールを奪った。
「行くぞ!」
ボールは大きく蹴り出されそれを僕が受けた。僕のマークは真中君。
「おい!抜けるなら抜いてみろ!」
真中君が叫ぶ。みんなに聞こえるように。僕は右に左にドリブルで抜きにかかる。だけど抜けない。というより抜けそうにない。
「カットー!」
ボールをとられた。真中君から前線へパス。
「どうした。平田!ドクゼツ課題の成果、見せてみろ!」
わかりやすいほどの挑発、僕は気にせず守備に戻る。ボールは敵味方を交互に移動。近郊状態はしばらく続いた。僕は何度か真中君と勝負をしたけど、そのたびにカットされていた。
試合が動いたのは前半残り5分。真中君がボールを持ったときだった。
「そろそろ点取るぞ!」
そう叫ぶと真中君がドリブルを開始、あっという間に僕を抜き去った。追いかける僕よりも速いドリブルでディフェンスを二人抜きゴール前へ。秀縞君が立ちはだかる。真中君はボールを右前へ高く蹴り上げた。それに合わせた後島君がヘディングシュート!鮮やかに点を決められてしまった。
「所詮は一般棟の連中だ。Sクラスには勝てないんだよ。」
吐き捨てるようにそう叫び、真中君は戻っていった。
「ごめん。後島君があんなに上手いなんて。」
必死に謝るのは菅井君だ。ただ、みんなそんなに慌てていない。
「気にするな!あと何分かある!取り返すぞ!」
秀縞君は菅井君の頭をポンッと叩くとボールを前に蹴った。青柳君がボールを受ける。僕も配置についた。
「前半終わるまでに追い付くぞ!」
そう叫ぶと青柳君は反撃を開始。Sクラスを次々ドリブルで抜いていく。僕は青柳君と逆のサイドをかけ上がる。当然マークは真中君だ。
「平田!お前には何もさせないからな!」
僕に負けるはずがないという確かな自信が顔を見てわかる。
「うん。そうなると思う。ただ、さっき言ったことは間違ってると思う。」
「なんだと?」
真中君の表情が曇る。僕は何度かフェイントを入れながら話を続けた。
「『所詮一般棟』、真中君はそう言ったね。確かにSクラスに入れるのはごく一部。一般棟に比べれば限りなく上だと思う。でもSクラスがそこから努力をしなければ、一般棟の人だって追い付ける。」
「追い付けるわけないだろ!今、お前が俺に何もできないみたいにな!」
「うん。僕がここにいることは作戦だからね。」
「なに?」
真中君がボールを見た。青柳君がドリブルからパス。そこにいるのは菅井君。
「進学科の菅井にSクラスをどうにかできるわけないだろ!」
真中君が叫びながら僕の方へ視線を戻す。そのわずかなタイミングで僕は真中君の裏へ走った。菅井君は足先でボールの軌道を変えて僕へパス。僕はそのボールをトラップしてゴールへ。
「させるわけないだろ!」
僕の前に真中君。さすがに上手い。真中君の後ろにも何人かのディフェンス。シュートコースはない。でも、
「僕だけで勝とうなんて思ってない!」
右へパス。そこには菅井君。真中君以外のディフェンスが菅井君の方へ引っ張られた。
その瞬間!
「こっちだ!」
右から青柳君が走り込む。ディフェンスは青柳君を警戒。菅井君は青柳君の方へ体を向けてパス、と見せかけて逆サイドへ。僕の横を守備の要のはずだった秀縞君が駆け抜けて、ボールをダイレクトシュート。ゴールに叩き込んだ。
「イヨッシャー!」
「ナイッシュー!」
「ナイスアシスト!」
秀縞君、菅井君、青柳君が三人で喜びながら走って戻っていく。唖然、呆然、立ち尽くすSクラス。僕の方を見た真中君。
「真中君、このチームを甘く見ない方がいいよ。僕だけじゃなく、チーム全体がユキさんの意思を継いでいるんだから。」
僕はチームのところに戻る。
「あと少しだ!前半守りきるぞ!」
秀縞君の声が響く。
「いや、もう1点取りにいこう!」
そう叫んだのは青柳君だ。みんながうなずく。
「よし!ボールを奪ってもう1点だ!」
Sクラスが攻めてくる。秀縞君が的確に指示、後島君にはチームで一番背の高い人がマークについた。Sクラスの猛攻を凌ぎきり、反撃に転じようとしたとき前半が終わった。
「いやー、さすがに攻める時間はなかったか。惜しかった。」
「しかしスガのパスはすごいな!ヒデへのパスは完璧だった!」
「平田君が真中君を引き付けてくれたからだよ。真中君の動きがディフェンスの陣形を乱したから。」
「でも、あの状態で適切に的確にパスを出せるのはすごいよ。」
菅井君の能力というべき視野の広さ、それをユキさんが見いだした。合宿で菅井君はその訓練だけをひたすらこなした。Sクラスが進学科の菅井君を侮った結果が僕たちの貴重な1点になった。
「集合!後半の作戦会議をするわ!」
ユキさんの声で全員が集まった。マミはみんなに飲み物を配っていく。無駄のない動きだ。
「前半は予定通り。後半も昨日話した作戦通りでいくわ。」
「はい!」
全員の声がぴったり揃う。チーム一丸といった感じだ。
ガシャーン!
突然の音。その原因はSクラス。誰が何をしたかは見ていないけど、どこかへ歩いていく真中君を全員が見ている。原因は真中君だろう。
「荒れてるな~。真中のやつ。」
「失点しない予定だったんだろ。」
「僕たちの作戦が成功した証拠だと思うしかないよ。」
僕たちは意識を作戦会議に戻した。後半のSクラスの攻撃を想定した守備とカウンター、相手の守備を崩す方法など。ユキさんの作戦はことごとく当たる。むしろ当たりすぎている。何しろ1点取られることまで予定通り。だからこそみんなが無条件で従える。一通り確認を終えるとみんなはそれぞれ準備運動。僕はSクラスを見ていた。何か不穏な空気を感じたから。
「平田さん。」
突然名前を呼ばれ、その声の方を見る。声だけでユキさんだとわかってはいたけど。
「後半、タイミングを見て仕掛けなさい。あれをやれるのは一度だけ。失敗は許されないわ。」
「うん。わかってます。」
「あと…、」
さらに何かを言いかけたユキさん。僕が聞き返そうとしたとき、
「後半を開始します。」
アナウンスが入った。
「ヒラ、行くぞ!」
青柳君が僕を呼んだ。
「うん。今行く。」
そう答えてユキさんを見た。何かを言えずにいる。ユキさんらしくない。
「キンちゃん!頑張ってね!キンちゃんならできるよ!」
ユキさんの隣からマミが現れて僕の背中を叩いた。僕はうなずく。
「うん。行ってきます。絶対勝つよ。」
グッと拳を握って見せてからみんなのもとへ走った。配置につく。目の前にはSクラス、やっぱり何か不穏な感じがある。ただ、僕には勝たなきゃいけない理由がある。
「みんな!勝とう!」
叫んでみた。らしくないことをした気がした。
「オウ!勝とう!」
「勝つぞ!」
みんなから返事がきた。それが余計に僕に気合いを入れた。ホイッスルが鳴って後半が始まった。
ただ、このときの僕は知らなかった。不穏な空気を正体を。




