表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/72

第42話 打倒Sクラス

「来るぞ!」


 試合開始と同時に秀縞君が叫んだ。Sクラスが攻めてくる。真中君が前線へパス、右田川君がドリブルで突破してくる。青柳君との1対1になった。右田川君が何度も抜こうとするが、青柳君は抜かせない。右田川君がサイドにパスを出す。秀縞君が適切な指示を出しボールを奪った。


「行くぞ!」


 ボールは大きく蹴り出されそれを僕が受けた。僕のマークは真中君。


「おい!抜けるなら抜いてみろ!」


 真中君が叫ぶ。みんなに聞こえるように。僕は右に左にドリブルで抜きにかかる。だけど抜けない。というより抜けそうにない。


「カットー!」


 ボールをとられた。真中君から前線へパス。


「どうした。平田!ドクゼツ課題の成果、見せてみろ!」


 わかりやすいほどの挑発、僕は気にせず守備に戻る。ボールは敵味方を交互に移動。近郊状態はしばらく続いた。僕は何度か真中君と勝負をしたけど、そのたびにカットされていた。


 試合が動いたのは前半残り5分。真中君がボールを持ったときだった。


「そろそろ点取るぞ!」


 そう叫ぶと真中君がドリブルを開始、あっという間に僕を抜き去った。追いかける僕よりも速いドリブルでディフェンスを二人抜きゴール前へ。秀縞君が立ちはだかる。真中君はボールを右前へ高く蹴り上げた。それに合わせた後島君がヘディングシュート!鮮やかに点を決められてしまった。


「所詮は一般棟の連中だ。Sクラスには勝てないんだよ。」


 吐き捨てるようにそう叫び、真中君は戻っていった。


「ごめん。後島君があんなに上手いなんて。」


 必死に謝るのは菅井君だ。ただ、みんなそんなに慌てていない。


「気にするな!あと何分かある!取り返すぞ!」


 秀縞君は菅井君の頭をポンッと叩くとボールを前に蹴った。青柳君がボールを受ける。僕も配置についた。


「前半終わるまでに追い付くぞ!」


 そう叫ぶと青柳君は反撃を開始。Sクラスを次々ドリブルで抜いていく。僕は青柳君と逆のサイドをかけ上がる。当然マークは真中君だ。


「平田!お前には何もさせないからな!」


 僕に負けるはずがないという確かな自信が顔を見てわかる。


「うん。そうなると思う。ただ、さっき言ったことは間違ってると思う。」


「なんだと?」


 真中君の表情が曇る。僕は何度かフェイントを入れながら話を続けた。


「『所詮一般棟』、真中君はそう言ったね。確かにSクラスに入れるのはごく一部。一般棟に比べれば限りなく上だと思う。でもSクラスがそこから努力をしなければ、一般棟の人だって追い付ける。」


「追い付けるわけないだろ!今、お前が俺に何もできないみたいにな!」


「うん。僕がここにいることは作戦だからね。」


「なに?」


 真中君がボールを見た。青柳君がドリブルからパス。そこにいるのは菅井君。


「進学科の菅井にSクラスをどうにかできるわけないだろ!」


 真中君が叫びながら僕の方へ視線を戻す。そのわずかなタイミングで僕は真中君の裏へ走った。菅井君は足先でボールの軌道を変えて僕へパス。僕はそのボールをトラップしてゴールへ。


「させるわけないだろ!」


 僕の前に真中君。さすがに上手い。真中君の後ろにも何人かのディフェンス。シュートコースはない。でも、


「僕だけで勝とうなんて思ってない!」


 右へパス。そこには菅井君。真中君以外のディフェンスが菅井君の方へ引っ張られた。


 その瞬間!


「こっちだ!」


 右から青柳君が走り込む。ディフェンスは青柳君を警戒。菅井君は青柳君の方へ体を向けてパス、と見せかけて逆サイドへ。僕の横を守備の要のはずだった秀縞君が駆け抜けて、ボールをダイレクトシュート。ゴールに叩き込んだ。


「イヨッシャー!」


「ナイッシュー!」


「ナイスアシスト!」


 秀縞君、菅井君、青柳君が三人で喜びながら走って戻っていく。唖然、呆然、立ち尽くすSクラス。僕の方を見た真中君。


「真中君、このチームを甘く見ない方がいいよ。僕だけじゃなく、チーム全体がユキさんの意思を継いでいるんだから。」


 僕はチームのところに戻る。


「あと少しだ!前半守りきるぞ!」


 秀縞君の声が響く。


「いや、もう1点取りにいこう!」


 そう叫んだのは青柳君だ。みんながうなずく。


「よし!ボールを奪ってもう1点だ!」



 Sクラスが攻めてくる。秀縞君が的確に指示、後島君にはチームで一番背の高い人がマークについた。Sクラスの猛攻を凌ぎきり、反撃に転じようとしたとき前半が終わった。



「いやー、さすがに攻める時間はなかったか。惜しかった。」


「しかしスガのパスはすごいな!ヒデへのパスは完璧だった!」


「平田君が真中君を引き付けてくれたからだよ。真中君の動きがディフェンスの陣形を乱したから。」


「でも、あの状態で適切に的確にパスを出せるのはすごいよ。」


 菅井君の能力というべき視野の広さ、それをユキさんが見いだした。合宿で菅井君はその訓練だけをひたすらこなした。Sクラスが進学科の菅井君を侮った結果が僕たちの貴重な1点になった。


「集合!後半の作戦会議をするわ!」


 ユキさんの声で全員が集まった。マミはみんなに飲み物を配っていく。無駄のない動きだ。


「前半は予定通り。後半も昨日話した作戦通りでいくわ。」


「はい!」


 全員の声がぴったり揃う。チーム一丸といった感じだ。


 ガシャーン!


 突然の音。その原因はSクラス。誰が何をしたかは見ていないけど、どこかへ歩いていく真中君を全員が見ている。原因は真中君だろう。


「荒れてるな~。真中のやつ。」


「失点しない予定だったんだろ。」


「僕たちの作戦が成功した証拠だと思うしかないよ。」


 僕たちは意識を作戦会議に戻した。後半のSクラスの攻撃を想定した守備とカウンター、相手の守備を崩す方法など。ユキさんの作戦はことごとく当たる。むしろ当たりすぎている。何しろ1点取られることまで予定通り。だからこそみんなが無条件で従える。一通り確認を終えるとみんなはそれぞれ準備運動。僕はSクラスを見ていた。何か不穏な空気を感じたから。


「平田さん。」


 突然名前を呼ばれ、その声の方を見る。声だけでユキさんだとわかってはいたけど。


「後半、タイミングを見て仕掛けなさい。あれをやれるのは一度だけ。失敗は許されないわ。」


「うん。わかってます。」


「あと…、」


 さらに何かを言いかけたユキさん。僕が聞き返そうとしたとき、


「後半を開始します。」


 アナウンスが入った。


「ヒラ、行くぞ!」


 青柳君が僕を呼んだ。


「うん。今行く。」


 そう答えてユキさんを見た。何かを言えずにいる。ユキさんらしくない。


「キンちゃん!頑張ってね!キンちゃんならできるよ!」


 ユキさんの隣からマミが現れて僕の背中を叩いた。僕はうなずく。


「うん。行ってきます。絶対勝つよ。」


 グッと拳を握って見せてからみんなのもとへ走った。配置につく。目の前にはSクラス、やっぱり何か不穏な感じがある。ただ、僕には勝たなきゃいけない理由がある。


「みんな!勝とう!」


 叫んでみた。らしくないことをした気がした。


「オウ!勝とう!」


「勝つぞ!」


 みんなから返事がきた。それが余計に僕に気合いを入れた。ホイッスルが鳴って後半が始まった。




 ただ、このときの僕は知らなかった。不穏な空気を正体を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ