第41話 ユキさんと真中
「あー!昼飯ウマイ!」
「ヤギ~!落ち着いて食えよ!誰も他の人の分まで食わないから!」
「秀縞君、青柳君におかず取られてるよ?」
「え?ヤギ!何食ってんだ!」
二人の漫才を見てみんなで笑いつつ、みんなが自分のおかずを確認。それを見て二人が笑い、僕たちも笑った。僕たちの学年のサッカー決勝は午後から。各自自由と言われてはいたけど、午後の試合のことも考えてみんなで食べることになった。
マミは空いたコップに飲み物を注いだりしている。ここ数ヵ月で知らないマミをたくさん見たけど、少なくとも今目の前にいるマミは昔から知っているマミだ。
ユキさんは見学に来ていたチームメイトの家族に挨拶してまわっている。ユキさんが頭を下げると、僕の家族も含めみんながユキさんの倍の角度で頭を下げる。最近は見慣れていて忘れそうになるけど、ユキさん自体が雲の上のような存在だとこういうときに思い知らされる。
「そろそろ食べ終わったかしら?」
ユキさんが戻ってきたとき、みんな大体食べ終わっていた。ユキさんは見回すようにそれを確認する。
「じゃあ、いよいよ本番だから作戦の確認をするわ。」
「あ、その前に…。」
ユキさんの話が始まる前に僕が割り込む。ユキさんは不思議そうな顔で僕を見た。
「真中君のこと、聞いておきたい。重要なことだと思うから。」
ユキさんは少し悩む。
「聞いても試合には関係ないと思うけど…。作戦会議の時間も減るわ。」
ユキさんらしい判断。ただ、僕はそうは思わない。
「ユキさん!話してくれ!」
そう言ったのは青柳君だ。勇気を振り絞った顔をしているけど、それは『ユキさん』と呼べたことなのか、『話してくれ』と言ったことなのかはわからない。
「そうだよ。僕たちには聞く権利も義務もあるよ。」
菅井君が落ち着いた声でそう言った。みんながうなずく。ユキさんはため息をついてからうなずいて話し始めた。
「私とトウ君の婚約の話はしたわね。ただ、私たちの婚約は私たちの両親だからできた話だった。もともとは私には別の婚約者ができるはずだったの。」
いきなりとんでもない話が飛び出した。みんなが息を飲む。ユキさんはゆっくりと話を続けた。
「私の毒島家は代々ナンバー2。その力の半分はずっと影で支えてきた実績。ただ、もう半分は血筋。毒島家の人間のほとんどは多かれ少なかれ高嶺家の親類と結婚することが多かったの。だから私も高嶺家の親類との縁談が組まれるはずだった。」
「まさか、それが…?」
僕もそこまでしか言えなかった。他のみんなも固まっている。ユキさんはうなずく。
「真中は高嶺家の親類よ。本家のセイカとは遠いけど同じ一族には変わりはないわ。」
みんなが言葉を失った。僕もさすがに何も言えない。
「真中は私の婚約者になるはずだった。ただ、真中家はあまり評判が良くなかったの。高嶺の家の名を使って強引に取引を進めたり、高嶺家の資産を自分の事業に利用したり。だから高嶺家から私の父に『真中家との縁談は無理にすることはない』という話があった。私の父も真中家との縁談は高嶺家にマイナスと考えていたし、私もあの人があまり好きではなかった。だから父は幼馴染みで信頼できる友人だった羽生田家との縁談を進め、私はトウ君と婚約することになったの。ただ、それを知った真中家は相当怒ったみたい。表向きには何もなかったけど、裏ではことあるごとに嫌がらせをしてきた。その最終段階が私の誘拐といじめだったの。」
「え?ええ~?」
「マジか?」
言葉を失ったはずの僕たちが言葉を発した。しがも全員で。それほど衝撃的だった。
「私の誘拐事件をたどっていくと、あの犯人たちだけでは無理なことが多々あったの。特に私が住む高嶺家ホテルの襲撃。あれだけの規模を動かすのは高嶺家の許可は不可欠。あとから調べたら高嶺家からの出動許可は確かに出ていたわ。誰が出したかはわからないようになっていたみたいだけど。」
ユキさんの話が核心に近づく。僕たちは驚きのあまりまた口を開けなくなった。
「私のいじめを止められなかった中学の校長が真中の父親だった。息子に頼まれていじめを見逃したのか、息子の縁談を白紙にされたことに対する嫌がらせだったのかはわからない。私の件が高嶺家に知られたことでその地位は失われたわ。ただ、真中の祖父がこの高校の副理事をしているからまだ真中家の力はそれなりには残っている。」
「真中君は副理事長の孫…。だからSクラスでもあんなに偉そうなんだ…。」
「ええ。そうね。ただ、真中は私たちが誘拐といじめ問題をほぼ自力で解決したことで危機感は持ったみたい。いざとなったら私と戦えるくらいの準備はしてると思うし、私にSクラスを潰させないためにありとあらゆる策を考えていた。だからトウ君は編入ではなく、ひとつ下の学年に転校という形になった。それと引き換えに私はS塔から私の相談所へ続く渡り廊下を造らせた。S塔内での真中の動向を探らせるために。お互いに相手を探って機会をうかがっていた。良くも悪くもそのきっかけが平田さんだったの。」
ユキさんはじっと僕を見た。
「平田さん、あなたの異常な努力のおかげで向こうから仕掛けてきた。ある意味対決という構図になってしまったのは私の責任。それは申し訳なく思っているわ。ただ、あなたの進む先でいずれぶつかる壁ではあるわ。」
「高嶺さんの周りの親衛隊ってことでしょ?」
「ええ。真中は高嶺の親類だからそばにいられることを悪用しているの。周囲へ悪い影響を与えているのもあいつ。だから、平田さん。」
ユキさんの声に力がこもる。真剣な声に僕は自然とうなずく。
「うん。真中君を倒すよ。その先に僕の目指すものがあるから。それに…、」
僕はチームのみんなを見回す。みんながうなずく。
「もう、僕だけの問題じゃないから。僕だけの目的じゃないから。」
「そうだ。俺たちの戦いだ。」
「うん。友達を取り戻したい。」
「ユキさんの話だって許せない。」
みんなが叫ぶ。ユキさんは驚いた顔のままうなずいた。
「じゃあ、勝ちにいきましょう。」
「オー!」
その後、僕たちは作戦会議を時間までやって試合前の練習に入った。となりではSクラスが練習している。お互いにたまに目が合うと緊張感が走る。しばらく練習をしていると放送が流れた。
「まもなく2年、サッカー決勝を行います。」
みんなが集合、整列する。目の前にはSクラス。
「これよりサッカーの決勝を行います。礼。」
「よろしくお願いします。」
顔をあげると真中君がいた。目が合う。冷たいものを感じた。
「平田!集合だ!」
「うん。」
秀縞君から呼ばれチームのもとへ。円陣を組んだ。
「ヒラ!一言!」
青柳君から無茶ぶり。ただ僕はうなずく。それだけの覚悟がある。信念がある。
「勝とう!先へ進むために!取り戻そう!大切な仲間を!」
そこまで言ってから大きく息を吸って、
「絶対勝つぞー!」
「オー!」
僕の、僕たちの戦いが始まった。




