第40話 対戦と成果
僕たちの前でSクラスの試合が始まった。羽生田さんと一緒に練習するようになってから、動きを見れば上手いかどうかはわかるようになった。全員当然上手い。特に目を引くのは…、
「右田川君、上手いね。」
「ああ。当たり前だけど、上手いな。でも、真中も上手い。あいつも地域では名の知れたやつだから。」
青柳君と意見が一致。少なくともあの二人は他の人とはひとつレベルが違う。
「後島君はそこまでじゃないように見えるね。中学は部活入ってなかったから。」
隣から菅井君の声。確かにそうだと思う。
「で、左川はキーパー。あいつもそれなりに上手いな。サッカーはやってなかったにしろ部活はやってた動きだ。」
秀縞君も参加してきた。みんなで相手の動きを観察。ただ、言えることがひとつ。
「本気、出さないね。」
「ああ。遊んでるな。完全に。」
あえて普通のシュートを打たず、ロングシュートやオーバーヘッドなどで点を決める遊びをやっているように見える。相手も『さっさと決めろよ』と言いたそうだ。
「このまま負けたら笑う。」
「確かに。」
そんなことを話しながら試合を見ていると、何やら会場がざわついた。みんなが見ている方を見ると…、
「高嶺さん!」
声を出すつもりはなかったけど、声が出てしまった。Sクラス生徒会の席に高嶺さんの姿があった。
「はい!試合に集中!」
僕たちの後ろから声。聞かなくても誰だかわかる。毒舌モードのユキさんだ。その声の力で体が勝手に動く。僕たちの視線の先、Sクラスの動きが変わった。右田川君がドリブル突破して一人でゴールを決めて見せれば、真中君のセンタリングに他の選手がオーバーヘッド。瞬く間に点が入っていく。
「彼らは待っていたのよ。セイカが来るのを。」
「高嶺さんを?」
ユキさんはうなずく。
「セイカの評価は高嶺家の評価。野心を持っている人なら一番気にすることよ。高嶺家からの評価が高ければ高嶺家関連の大学進学、グループ企業などへの就職が有利。だからセイカの目の前で活躍できるように時間を潰したというわけ。」
「わかりやすいね。」
「ええ。わかりやすいわ。だから今からが彼らのプレイ。当たり前だけど…、」
「うん。Sクラス。上手いね。」
気づくと4点目。最後のシュートはキーパーの左川君がロングシュートを決めた。
「腐ってもSクラスよ。強者との競争で勝ち上がったことに変わりはないわ。」
みんながうなずく。僕もうなずく。ただ、恐怖はなかった。今までの課題をこなした経験、羽生田さんとの練習、すべてを出しきればいいと素直に思えた。
「さあ、次はあなたたちよ!体育科を倒してきなさい!」
「はい!」
みんなの声がそろった。みんなの意思がそろっ気がした。僕たちは練習を開始。相手は体育科。普通科が体育科に勝つことは今までほとんど無く、決勝は常にSクラス対体育科だったらしい。その勝率もSクラスの方が高い。その理由は体育科は野球に強者が集まり、Sクラスはサッカーに強者が集まる傾向にあるかららしい。どちらにしろ、ここで負けるわけにはいかない。
「よし!いくぞ!」
「オー!」
僕たちと体育科の試合が始まった。開始と同時に体育科の攻撃。一番上手い人に青柳君、パスの起点になりそうな人に僕がマーク。秀縞君から常に的確な指示がでる。
「よし!カット!反撃だ!」
秀縞君がボールを前線へ。青柳君がドリブルを仕掛ける。ディフェンス二人を引き付けて僕にパス。
「いけ!ヒラ!」
青柳君が叫ぶ。ただ僕はボールをスルー。ボールを受けたのは対体育科の秘密兵器、菅井君だ。最初の試合、菅井君はずっと前線にいた。だけど一度もパスがなかった。体育科はそれを見ていたから、菅井君はただいるだけ、または下手だからパスがこないのどちらかだと思うはず。結果、進学科だというあなどりもあり、菅井君にマークは付かなかった。菅井君はノーマークからキーパーのいない方へ思いっきりシュート。見事先制点を決めた。
「ナイス!スガ!」
菅井君は嬉しそうに跳び跳ねて僕たちとハイタッチ。ただ、それ以上に盛り上がっていたのは各チームに散っていた進学科だった。大歓声とスガイコール。菅井君はうれしそうに手を振った。
「よし!次、いくぞ!」
「オー!」
秀縞君の声に全員が応じる。体育科の攻撃を守り、青柳君にパスがまわる。青柳君が僕と菅井君の方を見た。僕たちへの警戒でディフェンスが見せた一瞬の隙で青柳君はドリブル突破、キーパーの前で僕たちの方をチラッと見て自分でシュートを決めた。
「どんどんいくぞ!走れ!走れ!」
秀縞君が叫ぶ。僕たちは走る。気づけば前半残り1分、点差は4点。
「ヒラ!最後の1点決めろ!」
青柳君からパスが来た。ボールをダイレクトでシュート。キーパーの手に当たって転がる。それをシュートして決めたのは秀縞君だった。
「俺も見せ場が欲しかった!サンキュー!」
秀縞君とハイタッチ、見事に体育科に勝利した。
「スガが機能したな。完璧だった。」
「そうだね。菅井君の力が大きかった。」
みんなに誉められ、菅井君は嬉しそうだ。菅井君はその後進学科の仲間のところへ走った。遠くで歓声が聞こえ、僕は同じチームの仲間としてそれがすごく嬉しかった。
試合後、青柳君は体育科のところへ走っていった。しばらくして帰ってくると今度はユキさんのところへ。青柳君に聞くとユキさんにサッカー部の合宿をお願いしたらしく、「結果を出すなら。」と念を押されたらしい。青柳君は「絶対結果を出すぞ!」と叫んでいた。
みんながどこかしらで喜びあったあと、チームのところへ戻ってきた。表情は真剣、視線はコート。Sクラスの試合だ。
「さて、どう圧勝してくれるか見ものだ。」
青柳君は右田川君を見ている。他のみんなもそれぞれ自分が戦うべき相手を見ている。
「さあ、始まるわ。」
ユキさんの声で僕たちはより集中する。Sクラスは圧倒的な力を見せる。相手チームに戦意がないにしても、力の差は歴然だ。ただ、試合中にひとつだけ気になることが起きた。一度だけ真中君からのパスを味方が取れず相手にゴール前まで走られた。僕から見たら真中君のパスミスに見えた。ただ、謝ったのは相手で烈火のごとく怒るのは真中君だった。それ以降、他のみんなの態度を見ていても真中君には気を遣っているように見える。
「ユキさん、真中君って何か偉いの?」
試合が終わると同時に僕は聞いた。ユキさんはうなずく。
「真中はある意味でモンスター。Sクラスを改善するには、あれを倒すしかないの。」
「モンスター…。」
試合後のSクラス、一人だけ明らかに僕たちの方を見ていた。それは紛れもなく真中君だ。見ているよりも睨んでいるが正しい。そしてそれは僕たちのチーム全体ではなく僕たちを、僕たちをというよりもユキさんをだった。
「もしかして、過去の話とつながる?」
真中君をじっと見返しながらユキさんに聞いてみた。
「ええ。あれを作ってしまったのは私だから。」
静かな声、ユキさんを見るとまっすぐに真中君を見ていた。その目は悲しそうに見えた。




